【改稿版】ユグドラシルのNPCに転生しました。 作:政田正彦
あれから何ヶ月しただろうか、私のステータスやスキルはもう殆ど完成に向かっていたのだが、ここに来て、新たな問題が発生しました。
「1500名ですか」
「クックック……所詮は烏合の衆、いくら集まったとて、我らがアインズ・ウール・ゴウンに敵う道理は無い」
そう、ついに、この時が来てしまった。
アインズ・ウール・ゴウンを標的とした、プレイヤー、傭兵NPCを合わせ、1500人以上の討伐隊が結成されたのだ。
1500vs41(配下を入れてもそこまで多くない)、はっきり言って勝機は薄いように見える……だが……。
「まぁ大丈夫でしょ」
「ぶっちゃけ負ける気がしない」
「3000は必要だよね~……」
「おいおい盛りすぎだろ、せめて4500」
この余裕っぷりである。
彼らはモモンガなどのロールプレイを重視したキャラも多く在籍しているけれど、ぷにっと萌えさんを代表とする策士の緻密な考えの上で行動しており、強豪のPKギルド。
そもそもの話、彼らに数をぶつけたところで焼け石に水。
より大きな力で返されるだけだ。
「今回はエレティカも戦闘に出てもらいましょうか? 丁度あと少しレベルアップすれば、完成するんですよ」
「おー、いいですね、じゃあ他のNPCにも参加させちゃいますか」
と、こんな軽いノリで私達の参戦は決まった。
まぁいいけどね、結局、不意打ち以外ではプレイヤーあんまり戦ったこと無かったし……あったとしてもPK(プレイヤーキラー)の相手ばっかりでなんかあれだし。
モンスターとの戦いはずいぶん前から味気ないと感じ始めていた所。
ここらで人狩りしましょうか!
あ、誤字じゃないですよ。
「じゃあ……行こうか。……存分にもてなしてやろうじゃないか」
ナザリック地下大墳墓《表層》
既にギルドのメンバーは戦闘配置に付き、斥候部隊であるメンバーが彼らの姿を捉える。
「……おっ、きましたよゾロゾロと」
「バカ正直に正面からご苦労なことだ」
目線の遥か先には、ゾロゾロと、統一感のない、様々な装備を着込んだ冒険者の者達。
何も口にしない、そして表情すらない、だが分かる。
彼らは真剣そのものであると。
「彼らもまた、このゲームを愛しているのだなぁ」
「ですね、でも、このゲームへの愛に関しちゃ俺も負けてませんよ。エレティカがそのいい証拠です」
「何度見ても、それが野良のNPCだったなんて思えないよねぇ」
周りのメンバーが口々にそう言う。
いやまぁ中に人入ってるからほんとはNPCじゃないんですけどね……。
「エレティカちゃんを真っ先に前線に投入するなんて、本当にいいんですか?」
「いいんですよ……俺、これは勝手なイメージっつーか、妄想なんですけど……最近エレティカを見ていると思うんですよ。「早く私に戦わせろ」そう言っているような気がするんです」
…………突然何を言い出すんですかねこの人は……。
しかしあながち間違ってはいないのが悔しい。
だがこれだけは言っておきたい!!私は戦闘狂ではないと!!
「NPCに感情なんて無いって、分かってるんですけどね、なんか、こう……良く分かんないんですけど」
「う〜ん、まぁ、せっかく作ったガチビルドのNPCですし、戦わせてあげたいっていうのは分かりますよ」
「あぁ……折角のいい舞台が揃っているしな」
「そうそう、だって、1500人ですよ?もう、滅多にないじゃないですか?こんな数を相手に…………無双が出来るのは」
ギルドメンバーの誰かが放ったそのセリフに、その場の全員の悪役ロールに火が、いや、炎が灯る。
「くっ……クックックックック、違いない」
「わざわざこれだけの数を集めてくれたんだ……気持ちよく散らせてあげなきゃあなぁ?」
「たくさん蹴散らせて気持ちいいの間違いでは?」
あぁ、ダメだ、この人達、完全にハイって奴だよ。
こうなったら誰にも止められない。
「そろそろ、予定地点まで到着しますよっと」
「じゃあペロロンチーノさん……お願いします」
「了解、ギルド長……エレティカ=ブラッドフォールン……《出撃》」
<
<
瞬間、私の体がバンッ!と大きな音を立てながら跳ねるように駆ける。
目標、先の標的。
もはや自分でも、流れていく視界を追いきれない程の超スピード。
凄まじいスピードで目標までの距離が縮まっていき、私の後を追うように暴風が巻き起こり、煙のエフェクトが遅れて発生する。
視界に標的を捉えると同時に、ハルバードを構え……
切っ先が標的と接触する。
一瞬の抵抗感と、スピードの減退を感じつつ、その場に到着。
素早さと攻撃力が直接ダメージになるスキル。
今ので何人か、モロに入ったやつが死亡した。
着地時に、地面にクレーターが発生し、クモの巣状にひび割れる。
このゲーム、良く出来てるなぁ、ほんと。
「なっ!!?」
先頭にいた奴が驚きの声を上げるが、驚く前に行動してください。
もう戦闘は始まっているんですよ。
私は、ハルバードを振り回しながら駆ける。
スキルを使いながら飛び回る。
魔法を使いながら走り回る。
あぁ、素晴らしい。
これが、私の力……!
「NPCの癖に! あまり調子に、乗るな!!」
腹の辺りに衝撃が走る。
ハンマー使いか……このスピードの私をこんな重い武器で捉えるとは。
なるほど腐ってもアインズ・ウール・ゴウンに喧嘩を売るだけのことはある。
私はここに来て初めてのダメージを負う……だが……。
「ぐあっ! くそ、だが、一撃入れてやった……? ……っ!!?」
その傷は、既に回復している。
これは私の持つ武器、相棒のハルバードである『血で血を洗う』の効果。
『相手のレベルに関わらず、敵を倒した際、HPMPが全快する』というもの。
つまり、スキルは回数制限があるので無理だが……HPMPという点において、私にガス欠は起こり得ない。
「散れ! 散らばれ! コイツの武器、敵を倒すと自身のHPを回復する効果を持っている!! ダメージを受けるな!! 盾役で囲め!!」
そうバカ正直に作戦を立てられちゃあ抵抗せざるを得ないじゃないですか……。
いや、NPCだと思って油断しているのか?
「くそ!!速過ぎる!!」
「ガチすぎるだろ!!」
「糞がああああああああああ!!!」
「こんな奴情報になかっただろ!!?」
そういえばこうやって表立って戦うのは初めてのことであった。
情報がない、というのも仕方のないことかもしれない。
だったら、覚えておいてください。
私はナザリックNPCにおいて、『1対多の殲滅戦において最強』の座を持つ者。
エレティカ=ブラッドフォールン。
あぁ、こういう時ロール出来ないのも、NPCの辛いところですね……。
こうして、私は1500人に及ぶ討伐隊に突っ込み、一人で奮闘。
287人キルという成績を叩き出した。
本当ならもう少し倒せたかもしれないが、防御力の高い壁役に囲まれ、最大まで強化された範囲の広い魔法を連打されては、流石の私も打つ手がなかった。
まぁ、その後モモンガさんがワールドアイテムを使って凄まじい数を滅ぼしたのだが……、私が突っ込んだのに便乗して遠くからご主人様が弓矢……というかほぼ爆撃をしたり、他の魔法職の方によって、大分数が減らされた。
結果なんて、途中から火を見るより明らかで。
「これではせっかく攻めてきてくれたのにあんまりだろう」と途中から敢えて手を抜いて、ナザリック地下大墳墓内で決戦を行い、悠々と勝利を収めたという。
私は勝利を収めた後で蘇生されました。
ちゃんと蘇生が効いて本当に良かった……一応懸念事項の一つでしたから。
--------------------------------
こうして、アインズ・ウール・ゴウンに攻め込んできた1500名の討伐隊の撃退はあっさりと終わった。
本当にこれの倍でもわりとなんとかなりそうで怖い。
そして、勝利を収め、メンバーがほくほく顔の中、私のステータスを見ながらプルプル震えるバードマンが一人。
「ついに……ついに完成した……」
私が、この世界へ転生……転移?してから、一体どれほどの月日が経っただろうか。
いや、もうこの際何ヶ月なんて、時間なんてなんの意味も持たない。
今のこの感動に、「このガチビルドを完成までこぎつけるのに何ヶ月掛かったんですよ~」なんてのは無粋だ。
そう、今回の戦いで私のビルドが完成を迎えたのである。
まぁ当然といえば当然である。
あとはレベルアップして100レベルにさえなれれば完成といったところでの侵攻であったので、280体以上の高レベルプレイヤーをキルしていたらレベルくらい上がって当然というもの。
死んでから蘇生する時のデスペナルティのような物も、蘇生の魔法そのものが、それを緩和する為にあるらしく、レベルの低下等はなかった。
そもそもレベル自体はそこまで上げるのに苦労するものでもなかったし。
「最高だ!エレティカ!お前とシャルティアは俺の自慢の娘だよ!」
ありがとう、ありがとうご主人様。
なんならハグしてもいいのよ。
あっ、それはR18コードに引っかかるからダメか。
「お疲れ様です、ペロロンチーノさん!」
「ありがとう!ありがとう!」
「いやほんと頑張ったわこれは……よくもまぁこんな難易度難しいのばっかで固めましたよね」
「これがもしプレイヤーだったらと思うとゾッとするわ、しかも二人」
「っていうかこれもうぶっちゃけギルドメンバーの大半はこの子に単騎で勝てないんじゃない?」
「ロール重視なんだからそれを言っちゃあいけねぇよおめー」
ともかくめでたいね。
私はようやく完成し、100レベルとなったので、晴れてナザリック階層守護者、シャルティアと同じ第一、第二、第三階層の守護者となった。
まぁ拠点NPCではないので、シャルティアと同じ場所で待機状態にされているだけなのだが。
ちなみに、姉妹、という事で、生まれた順番的に私が妹かと思ったら、「なんとなく顔がエレティカの方が姉っぽいよなぁ」という理由で私がシャルティアのお姉ちゃんになった。
てっきり私が妹になるかと思ったんだが、まぁこれはこれで転移後に動きやすくなるから有難い。
しっかり者の姉になれるように頑張らなくちゃね。
そうでなくてもシャルティアは色々とやらかすから……。
「よぉし!!エレティカ完成祝いに今度オフ会しましょうか!」
「おっ、いいですね~やりましょうやりましょう!」
「私も今回は仕事を早く切り上げられるように本気出しますわ」
「えっ、それじゃあ私も頑張ってみようかな……」
……私も行きたい……ちくしょう……。
――――――――――――――――――――――――――――――――
それからしばらくというもの、平和な日々が続きました。
ゴーレムクリエイターの人がまた問題を起こしたり……
悪を掲げる人と正義を掲げる人が相変わらず喧嘩していたり……
ご主人様とその姉が喧嘩?していたり。
「エレティカ~聞いてくれよ~今日さ~……」
はいはい、なんですか?
「ふむ、メイド服というのもなかなか……いや、やめよう、ホワイトブリムさんに目をつけられるかもしれん……」
それはマジで勘弁してほしいです。
「相性は抜群に良いんだけど、やっぱ『血で血を洗う』は見た目ちょっと怖いよな……外装を変更する事も出来るんだが……生憎俺って武器のデザインは疎いんだよなぁ……」
そんな事はないと思いますけど……。
「やべぇ、エレティカの前だと独りって気分しないから独り言めっちゃ多いわ」
それはまぁ、実際独り言と言っていいのか曖昧ですしね。
「よーぅエレティカ!シャルティアと仲良くヤッてるかー?おっと、運営さん、今のは変な意味じゃなくてですね?」
通報しました。
「うぃっす、今日もお仕事お疲れちゃん俺~っと……はぁ~癒される~~~これで抱きつけたりしたら最高……いや、冗談だから。ちょっと?皆??俺はロリコンじゃな……いやロリコンだけれども!!!!」
おまわりさんこっちです!!
「久しぶり、エレティカ、いやごめんな、最近仕事忙しくってさ……なんて、お前に言っても仕方ないんだけどさ」
気にしてませんよ、お仕事ご苦労様です。
「久しぶり、エレティカ。ハハ、なんかもう懐かしいっていうレベルだな……そうそう、こういう装備だったよな……設定は……そっか、こんなんだっけ」
お久しぶりです、あまり無理をしないでくださいね。
「……ごめんな」
え?
「ペロロンチーノさん、やっぱり、どうしても辞めちゃうんですか?」
「……真面目な話、仕事が最近忙しくってさ、皆には悪いと思うけど」
「でも、だからって辞めなくても」
「実はさ、エレティカを作る前から辞めようとは思ってたんだよ、色々やりきった感があるっていうか……もう、これ以上……ここで俺にできることなんて無いんだよ」
「……そんな事、ないですよ」
「……いや、ごめん、今言ったこと忘れてください。モモンガさん」
「謝らないでください、いいんですよ、そりゃあ、ゲームよりリアルの優先するのは当たり前のことじゃないですか?仕方のない……事です」
「……」
「……何時でも待ってますから」
「……」
「……装備、売ってくれて構わないって言ってましたけど……ここに、残しておきますから」
「……ごめん、今まで、ありがとう……また、どっかで会おうよ、モモンガさん」
そう言って、ご主人様は去っていった。
いつでも帰ってきて下さい、ご主人様。
「いつでも帰ってきて下さいね、ペロロンチーノさん」
起こるとわかっていた事だ。
ご主人様も、リアルを優先すると分かっていた事だ。
だってそれが本来のルートなの……だから……。
だから……ぁ……あぁ……あぁ……どうして。
精神の抑制とはなんだったんだ。
今ほど、涙を流せないこの身体を恨んだことはない……。
結局……また一人になってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
その、数ヵ月後。
運営から、ユグドラシルのサービス停止が、公式に発表されることとなる。
一つの世界が終わりを迎え、新たな世界へと旅立つ日がやってくるのだ。
本編開始まで、あと少し。
いつの間にか、彼女の心の拠り所となっていたペロロンチーノ。
ここからリメイク前との差異が生まれ始めます。
スキル:彗星衝撃斧《すいせいしょうげきふ》
移動中、そして規定の速さ以上で動いている状態でしか発動できないスキル。
通常のスキルと違い、ダメージ計算に能力値の素早さが一部依存しており、
素早さの値が高い程威力が上がる。
その内容は、彗星の如く、敵陣に突っ込んで範囲攻撃をするというもの。
職業:ワルキューレ/ハルバードのスキルの一つである。
また派生スキルも多く、そのいずれもこのスキルと同様一部素早さが依存している。
本来、エレティカのようなスピードは出さなくても発動は可能であるが、
規定の速さは肉眼でも十分認識可能なレベルの速度でしかない為、
エレティカのようなスピード自慢でもなければ絶対に使用しないスキルである。