「なぁ、比企谷」
「なんだよ?ていうか、なんで俺の名前知ってんの?」
「それは君の事が好きだからに決まってるじゃないか」
「いや、そういうホモなのはいいんで」
「ボク、女ですけど」
「......ええっ!」
こっちがええっ!だよ。え、知りなかったの?クラスの人はほとんど知ってるんだけど。誰とも話さないから情報が入らないのか。
「おい、坂ノ下。告白する気がないと言っていなかったか?」
「言わないとは言ってないからお願いしますボクの右肩にある手を離してください右肩が割れるように痛いですごめんなさい!」
痛い、痛いよ。それ以上やられたらどこかの扉が開いちゃうじゃないか。危ない危ない。
「どうでもいいけど坂ノ下。早く『ドッキリ大成功!』って書いた看板持ってる人は出てこないのか?」
「いや、出てこないから。あと、ボクの気持ちをどうでもいいで片付けないでよ。黒歴史確定しちゃうじゃないか」
さすが比企谷。どんだけ告白にいい思い出ないのかってくらい捻くれてる。予防線張られちゃったよ。
「どうでもいいだろ。あ、先生。俺、教室に入ると死んでしまう病が」
「どこのながっぱな狙撃手だ」
「先生、ボクはあと三分以内に教室に入らないと死んでしまう病が」
「安心しろ。君は死なない」
私が守るもの的な感じかな。平塚先生は零号機操縦者だったのか。じゃあ、ボクは初号機に乗らないと。
「もう着いたからな」
やってまいりましたよ奉仕部!
何の変哲もない教室。何も書かれていないプレート。
遂に会えるんですねあの人に!
先生はノックもせず戸を開けようとする。
「先生、入るときにはノックを三回。いつも言われてるじゃないですか」
「そ、そうだったな」
先生はノックをしてから戸を開ける。
「先生もやっとノックを覚えてくれましたか」
「ああ、もちろんだとも」
胸張って言ってるけど先生ノックする気がまったくなかったじゃないか。
そんなことより雪ノ下さんだ!
まるで本の中から出てきたような位の美しさだ。実際この世界自体が物語だけどね。
凛々しい顔立ちも、艶やかな髪も全て雪ノ下さんだ。
「それでも、そのぬぼーっとした人ともさっとした人は?」
「比企谷と坂ノ下。入部希望者だ」
「二年F組比企谷八幡です」
「同じく二年F組坂ノ下橙乃です」
「で、おい。入部ってなんだよ」
「君たちにはペナルティとしてここで部活動を命じる。異論反論抗議質問口応えは認めない。しばらく頭を冷やせ。反省しろ」
先生よ。残念ながらボクは頭を冷やせない。何故なら比企谷と雪ノ下さんと同じ空間にいるということで頭が沸騰しそうなくらい嬉しい。
「というわけで、彼らは見ればわかると思うが性根が腐っていて生意気だ。そのせいでいつも孤独な憐れむべき奴らだ」
「先生、ボクは孤独じゃないですよ。教室でも話しかけられるから」
「だが、友達はいないのだろう?」
言い返せない。うぅ、この一生独身女性が!
「何か言ったか?」
「......なんでもないです」
掠めた!また頬を掠めたよ!
「人との付き合い方を学ばせてやれば少しはまともになるだろう。こいつらをおいてやってくれるか。彼らの孤独体質の更正が私の依頼だ」
「それなら、先生が殴るなり蹴るなりして躾ればいいと思いますが」
「殴られるなら雪ノ下さんがいいです」
その蔑んだ目もグッドです!
「......んんっ、私だってできることならそうしたいが最近は小うるさくてな。肉体への暴力は許されていないんだ」
あ、無視なんですねわかります。
「お断りします。そこの二人の下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じます」
「安心したまえ、雪ノ下。その男は目と性根が腐っているだけあってリスクリターンの計算と自己保身に関してだけはなかなかのものだ。刑事罰に問われるような真似だけは決してしない。彼の小悪党ぶりは信用してくれていい。......坂ノ下の方はわからんがな」
うわっ、あの人ボソッと言ったよ。ボクのこと信用してねぇ。
「何一つ褒められてねぇ......。違うでしょう?リスクリターンの計算とか自己保身とかじゃなくて、ただ常識的な判断ができるって言ってほしいんですが」
「小悪党......。なるほど......。しかし、坂ノ下君の方は納得できませんね」
「君て......雪ノ下さん大丈夫だよ。相手の合意の上じゃないと手出さないし、ボク女だし」
「えぇっ!」
また、ええっ!って。あれ、雪ノ下さんも知らない?ひょっとしてボクって男だと思われてる?
「ご、ごめんなさい」
「気にしなくていいよ。比企谷にも間違えられたし」
「そう、ありがとう。でも、驚いたわ。比企谷君が間違えるなんて......」
「なぁ、それは俺が一発で性別がわかるくらい女好きって言いたいの?」
「まぁ、先生からの依頼であれば無碍にはできませんし......。承りました」
雪ノ下さんがすっごい嫌そうな顔をしている。だが、先生は満足げだ。
「そうか。なら後のことは頼む」
と言うと、先生はさっさと帰っていった。また、来るんだからいればいいのに。
そして、取り残されたボクたち。
しばらくしてから、比企谷が唸り声をあげた。何これ近くで聞くと気持ち悪い。
「......そんなところで気持ち悪い唸り声をあげてないで座ったら?」
「え、あ、はい。すみません」
「弱っ比企谷弱っ」
「うるせぇよ、二回も言うな」
そして、雪ノ下さん強っ!見られてないのにこっちまでビビったよ。
さて、座れと言われたものの、どうするべきか。雪ノ下さんは窓側で比企谷は壁側だ。どちらの隣も惜しい。だからといって真ん中は由比ヶ浜の席だから座るわけにはいかない。こうなれば、席はそこしかない!
「......そっちは依頼者の方なのだけれど」
「いや、ほら、あれだよ。依頼者が来ても冷たい椅子に座らなくていいようにって」
「草履を暖めていた的なのか」
「豊臣秀吉ね」
「まぁ、席に関しては気にしない気にしない」
すると、雪ノ下さんは読書をしていた。
比企谷がチラッチラッ雪ノ下さんの方を見ている。見過ぎなんだが。
「何か?」
あぁ、ほらあんまり見過ぎてたから雪ノ下さんが眉根を寄せて、見返してくる。
「比企谷が見過ぎてたから」
「えぇ、ごめんなさい」
「坂ノ下さんもよ」
はい、そうですね。すみません。ボクは雪ノ下さんのことをチラッチラッどころか凝視してました。だって綺麗だからさ。つい、見ちゃうじゃないか。
「で、何かしら?」
「ああ、どうしたものかと思ってな」
「いや、だってわけわからん説明しかなくてここへ連れてこられたもんだから」
見るからに不機嫌なんですが。
あ、比企谷が睨まれてる。そしてため息つかれてる。
「......そうね、ではゲームをしましょう」
「ゲーム?」
「比企谷、ゲームっていうのは勝負事や遊びのことだよ」
「いや、知ってるから。ゲーム知らないってどんだけバカなんだよ」
比企谷がバカにすんなって顔で見てくる。
「で、ゲームって?」
「ここが何部か当てるゲーム。さて、ここは何部でしょう?」
比企谷は冷や汗を掻きながら、教室を見渡している。
「他に部員っていないのか?」
「いないわ」
比企谷はしばらく考えてから、得意げな顔で言う。
「文芸部か」
「へぇ...。その心は?」
「特殊な環境、特別な機器を必要とせず、人数がいなくても廃部にならない。つまり、部費なんて必要としない部活だ。加えて、あんた本を読んでいた。答えは最初から示されてたのさ」
言い切ると比企谷はドヤ顔をしている。
雪ノ下さんは小さく息をつく。
「はずれ」
「ぶふぉっ」
ヤバい!あんなに得意げに言ってドヤ顔で締めたのに、はずれるって!
「おい、笑うなよ!つうか、お前はどうなんだ?」
笑われたのが癪なのか、苛立っている。多分、ボクも答えれないと思っているんだろう。そして、はずれたら笑う気だ。だが、残念だったな!ボクは原作を知っている!つまり、比企谷に勝ち目はない!
「そうだね、じゃあここに至るまでの会話を思い出してみよう。まず、職員室から。あのとき平塚先生はボクらに罰として奉仕活動を命じる、といった。次にここに来てからの会話だ。平塚先生と雪ノ下さんの会話で依頼という言葉が出た。これから導きだされるこの部の正体はボランティア系の部活だ」
敢えて奉仕部とは言わなかった。
部のことは平塚先生と雪ノ下さんくらいしかわからないだろうから奉仕部という名をだすと怪しまれるからね。
「正解ね。持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。困っている人には救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」
「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」
全っぜん歓迎されてないや。比企谷涙目になってる。
「平塚先生曰く、優れた人間は憐れな者を救う義務がある、のだそうよ。頼まれた以上、責任は果たすわ。あなたたちの問題を矯正してあげる。感謝なさい」
「それじゃあ、ボクもそっち側じゃないかな。優れたものって言うんだったらボク学年二位だし」
「私は学年一位だからあなたは私よりしたよ。つまり、あなたは救われる側の人間よ」
まるで、一緒にするなと言っているような目をしている。でも、容姿が似てるからそんな変わりはない。
「......俺はな、自分で言うのもなんだが、そこそこ優秀なんだぞ?実力テスト文系コース国語学年四位!」
「でも、数学学年最下位」
「......顔だっていいほうだ!」
「目が腐ってる」
「友達がいないことと彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだよ!チクショー!」
やり過ぎたか。でも、全て事実なので仕方がない。『ボクは悪くない。だって、ボクは悪くないんだから』
「ほとんど欠点しかないじゃない......。そんなこと自信満々に言えるなんてある意味すごいわね......。変な人。もはや気持ち悪い悪くない」
「うるせ、お前に言われたくねぇよ。変な女」
「どっちも変人だね」
「お前は変な男女」
「あなたは変な男女よ」
おお、息ぴったり。
「まったく、仲がよろしいことで」
「「仲良くない」」
とても仲良いじゃないですか。
誤字脱字質問要望酷評待ってます。