小林ベース   作:アイツ

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アンニュイな女の子が好きです


ドラムのささかわとギターの清水

ドラムのささかわくん

 

 

 

「バンド名だけど、そろそろ決めなきゃね」

 

練習中、笹川良は目元の汗をTシャツで拭いながら言う

 

小林はオレに背中を見せたままコクリとうなずく

首の力を抜いたような頷きに合わせて、小林の襟足あたりから二つに分けられたおさげが少し跳ねる

 

 

「こばやしささかわ」

 

それバンド名? と笹川は今日何度目かわからない彼女への疑問を心の中で浮かべる

小林……そのセンスはどうなんだ? ダサくてまんまなのが逆オシャレだったりするのか? 最近のバンド名は変なものが多いし……逆にあり?

……なわけないか

笹川は真面目くさった顔をして

 

「ささがわこばやしの方が語呂良くない?」

 

と、精一杯ボケてみる。

マイペースな小林にノると会話着地が怪しくなることは、今までの経験から十分知っている。でも俺がセンス無いって言ったら小林はきっと怒ってスネると思う。

 

「ささかわくん、そういう奇をてらったバンド名はうまい人だから逆にカッコよくみえると思うんだけど、だいじょうぶ?」

 

 

「………………コロス」

 

あと、オレの苗字"ささかわ"じゃなくて"ささがわ"なんだけど

 

小林は一年の初期からサークルにいたメンバーの一人で、オレを含めた同期は割と早い時期から彼女のキャラクターを理解していた。いや、一年経った今でもまだわからない部分は多い。とにかく、彼女は変な奴だ。

 

彼女の見た目はかなり良い。長いまつげと、陶器のように白く綺麗な顔で、いつも上のほうをボーと見ている。体をだるそうに脱力させて、黒い長めのスカートから、折れてしまいそうなほど細い足投げ出して、手はまっすぐにして太ももの内側で組む。これをバカな清水が合宿で解説を交えながら小林のモノマネとしてやった時は確かに似ていた。清水がやってもただのバカにしか見えないが、これを彼女がやると、とてもサマになっているというか、触るとすぐに壊れてしまうような、同じ空間で呼吸することすら躊躇われてしまう。壊れやすく美しい大切なものを見ている気分になる。

 

油断しきった姿勢でも、端整な顔は引き締まっていて何処か一点を見つめている。彼女は何も考えていないように見えて、実は本当に何も考えていない。だから話しかければちゃんと返事を返してくれる。だけどほとんど寝起きみたいなものだから、けっこうたまによく意味の分からない返事を返す。それを深読みして、世界平和だとか宇宙の真理だとか立派そうな哲学に無理矢理解釈して大袈裟に小林を崇めるのが最近のサークルメンバーのブームになっている。その遊びをすると、小林はいつも誇らしげに口元をニヤけさせる。おい、ニヤけてるぞ、と指摘すると、慌ててやめる。口元を引き締めてから、指摘してきたやつに刑を言い渡す。懲役刑とか絞首刑とか、市中引き回しとか

 

 

練習帰り、隣で小林が右側の毛束の先を弄りながらつぶやく

 

「ねぇささかわちゃん」

 

その呼び名、……なんか少しかわいいな

オレは負けまいと小林の脇腹をつつく。抉るように、強く、刺すように、ショベルカーのようにつつく

 

「ふんっ」

 

「ぐはー………………」

 

「……」

 

「…………」

 

あ、怒った。

小林は怒った時が分かりづらい。顔は変わらないし、棒読みみたいに喋るのも変わりない。声も少し大きくなるだけで、よく聞いてみないとわからない。だけど、目がなんか怒ったカンジになる。あと、怒り始めた瞬間だけちょっと黙る

まぁ、小林が怒ってもあまり怖くないけど

 

「オレ、ささかわじゃなくてささがわだから」

 

あ、しまったという顔

 

「ささかわの方がかわいい……………ささかわいい」

 

「……」

 

ギャグがつまらなくて、イラっとさせられるのが、小林の唯一の欠点だ。

 

 

 

 

……………

ギターの清水くん

……………

 

 

 

「一ノ瀬さん!!!」

 

気持ちよさそうに両手の人さし指で机を叩く、一ノ瀬の大きな後ろ姿がビクっとする

 

「なになにいきなり」

 

一ノ瀬さんが肩をすぼめながら振り返って俺を見る

そういう何気ない仕草もイケメンですわー。さすが部長

 

「清水うっさいぞー」

 

井上が笑いながら俺にガヤを飛ばす。いつもつまんなさそ〜うに携帯弄ってるくせに俺がなんかやろうとすると一緒に乗ってくる可愛いやつ

 

「一ノ瀬さん!!一ノ瀬さん!!」

 

「うるせぇうるせぇわかったよ! なんなんだよ!」

 

「ホクロから毛ぇ生えてますよ!!」

 

「えーうっそー」

 

「マジマジ! 乳首んとこ! ってか俺こういう事で嘘とかつかねぇじゃん。一ノ瀬さん、井上に見せてやって下さいよ〜。ババーンと」

 

「いや、清水お前この流れ何回……」

 

ってか井上お前すっげえ嬉しそうだなぁ〜。ヨダレ垂れてるし

 

「早く早く!」

 

「早く早く!」

 

 

 

「…………いやでも女子の前で脱ぐのはなぁ」

 

 

お、あと一押しで落ちるわこの人。以外といけるもんだなぁ。さすが俺。あれ?俺ホモっぽくね?アホか

 

「そういうのいいんで早くして下さい」

 

「……」

 

これいける流れ!雰囲気でごり押し感すげぇけど行ける流れですよ井上さん!! ……うひゃ。井上さん目怖えぇ

 

「……」

 

「…………マジで見たいのかよ」

 

あ、脱ぎだした。ノリ良いよなー。普通こんな簡単に脱ぐ人いないよ? 部長

 

「……」パシャッ

 

「……あ」

 

井上が脱ぎかけの部長の写真を撮る。

ナイス井上!

 

「お、おい……」

 

「ナイス井上! じゃあ行こうぜぇ〜」

 

「いえーい! ナイスあたし! うひひ」

 

わかりやすく調子に乗る井上

 

「え、え!? は?え?なんで写真?? なんっ…どこ行くんだよ!??」

 

「一ノ瀬さん……明日なんの日か知ってます?」

 

「新歓だろ? だからなんだよ!? なんなんだよ、意味わかんないって!」

 

混乱する部長に井上が口元を緩めながら答える

 

「写真売るんですよ〜、ねぇ相棒」

 

「明日のライブ楽しみっす! 頑張って下さい!」

 

「売れるわけねぇって! おいバカ共ふざ」

 

井上が踊りながら一ノ瀬さんを躱して俺と部室を出る。部室のドアが閉じて、一ノ瀬さんの声が途中で遮られた。

 

先輩をイジって遊ぶのは笹川に言わせると"舐め過ぎ"なのだろうが、一ノ瀬さんだってあれで楽しんでるし、俺たちが所属してる音楽サークル『ブレーメン』は先輩後輩の上下関係が厳しくない。飲み会では一年と絡めるきっかけが掴めなかった先輩から感謝もされたことだってあるのだ。

 

笹川は心配し過ぎだと思う。あいつは井上を見習えばいいのにと、隣で機嫌よくしている井上を見る。

 

「あははー作戦成功〜みたいな?」

 

「スパイスパイ!」

 

「いや、スパイじゃないでしょ。…うふっ」

 

真顔で俺にツッコミを入れて、笑う

井上は一ノ瀬さんが好きらしい。イケメンだし優しいし頼りになるし、気持ちはわかる。アプローチなのか何なのかよく分からないが、最近井上からこんな感じの作戦をよく持ち掛けられる。本人が嬉しそうだし、俺も楽しいから協力してやってる。でもこんなことしてたら嫌われはしても好かれはしないだろ。普通。

 

「じゃあ俺帰るわー、練習しねぇと」

 

「あーちょっと待って、 現像だしたらあたしも帰るから」

 

こいつ、さっきの写真まじで売るの!?

 

「マジで売るの!? 極悪野郎じゃん」

 

「なわけないじゃん、課題の写真。じゃ、行ってくる。先帰ってたらコロスからー」

 

あーあれか。報道写真論のやつか、忘れてた

戻ってきたあいつを撮るか。丁度いい具合の逆光だし、空の色も良い。題をつけるなら『夕暮れと2人』とか? 清水公太の、撮影者を登場人物として解釈する閃きとセンスの鋭さが垣間見える一枚。世界的な写真家として知られる彼の最も有名な作品である。

こんな感じか。こりゃ評価Sだね参ったわ。

 

そんなことを考えながらしばらく待っていると、ズボンの中の携帯が震える。誰かからメッセージが来た合図だ。携帯を取り出して見てみると井上からの、用事が出来たから一緒に帰れない、という意味の文章。

 

俺には先に帰ったら殺すと言っておいてコレだ。俺の扱い雑すぎないか?

 

……俺はなんであんな女を好きになってしまったのだろう

 




小林は明るめの茶髪です
部室で1人になると替え歌を作ってニヤニヤします
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