お待たせ致しました!! 新年一発目です!!
今年もよろしくお願いします!!
決闘の翌朝、五十五層《グランザム》の血盟騎士団本部にて。
ヒースクリフに敗れた俺は、正式にKoBとして活動することになった。
いつもの黒のぼろコートではなく、慣れない白の新品コート―これでも地味な方らしいが―を身にまとい、本部へ出勤したのだが、ここで意外なことを聞かされる。
「訓練…?」
「そうだ。私を含む団員四人でパーティを組み、ここ五十五層の迷宮区を突破して五十六層の主街区まで到達してもらう」
アスナが副団長の強権を行使したのでてっきり二人パーティになるものと思っていた俺は少々面食らった。
「ちょっとゴドフリー!キリト君はわたしが…」
「副団長と言っても規律を蔑ろにして戴いては困りますな。実際の攻略時のパーティについてはまぁ了承しましょう。ただ、一度はフォワードの指揮を預かるこの私に実力を見せて貰わねば。例えユニークスキル使いと言っても、使えるかどうかはまた別」
「あ、あんたなんか問題にならないくらいキリト君は強いわよ…」
半ギレ気味なアスナを制して言う。
「見たいと言うなら見せるさ。ただ、今更こんな低層の迷宮区で時間を潰すのはごめんだな、一気に突破するけど構わないだろ?」
ゴドフリーは不機嫌そうに口をへの字に曲げ、三十分後に街に西門に集合、とだけ残してのっしのっしと歩いて行った。
「なぁにあれ!」
プンスカとへそを曲げたアスナが傍らの鉄柱を蹴りつける。
「ごめんねキリト君。やっぱり二人で逃げちゃったほうが良かったかなぁ……」
「そんなことしたら、俺がギルメンに呪い殺されちゃうよ」
俺は笑ってアスナの頭にぽん、と手を置いた。
「うう、今日は一緒にいられると思ったのに…。私もついて行こうかな……」
「すぐ帰ってくるさ。ここで待っててくれ」
「うん…気をつけてね…」
寂しそうに頷くアスナに手を振って、俺はギルド本部を出た。
三十分後、集合場所の西門で、俺は更なる驚愕に見舞われた。
そこにはもっとも見たくなかった顔、長髪の両手剣使いクラディールがいたのだ。
「…どういうことだ?」
俺は小声でゴドフリーに尋ねた。
「ウム、君らの間の事情は承知している。だがこれからは同じギルドの仲間、ここらで過去の争いは水に流してはどうかと思ってな!」
ガッハッハ、と大笑するゴドフリーを呆然と眺めていると、クラディールがのっそりと進み出てきた。
「……」
圏内と言えど何をしてくるか分からない。全身を緊張させ、身構える。
しかし、彼は意外なことにぺこりと頭を下げた。
「先日は…ご迷惑をお掛けしまして…」
俺は今度こそ腹の底から驚いて、口をぽかんと開けた。
「二度と無礼な真似はしませんので…許して頂きたい…」
「あ、ああ…」
俺はどうにか頷いた。一体どうしたのかという率直な疑問が浮かぶ。
「よしよし、これで一件落着だな!」
再びゴドフリーがデカい声で笑う。
だがクラディールには、確実に裏があると俺は確信していた。
SAOの感情表現は誇張的な分、微妙なニュアンスを伝えにくい。長髪に隠れて表情が見えないのも相まって、ますます読み取ることが難しい。それでもこの場は納得したことにし、警戒を切らないように注意しておく。
残り一人の団員も到着し、いざ出発という所で、ゴドフリーからストップがかかった。
「今日の訓練は限りなく実戦に近い形式で行う。危機対処能力も見たいので、諸君らの結晶アイテムはすべて預からせてもらおう」
「…転移結晶もか?」
勿論だと言わんばかりに頷かれる。
SAOにおける最後の生命線である転移結晶までも差し出すなど冗談ではない。かなりの抵抗を感じたが、事を荒立ててアスナに迷惑を掛けたくはないし、何よりクラディールともう一人の団員がさっさと寄越したので、俺も従うことにした。念入りにポーチの中まで確認し、何もないことを確かめると、
「ウム、いざ出発!」
ゴドフリーは、号令をかけて歩き出した。
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俺はゴドフリーに迷宮区まで一気に走破することを提案したが、ゴドフリーの腕の一振りに退けられた。
どうせ筋力値ばかり優先して敏捷度を蔑ろにしているのだろう。諦めて歩き続ける。
途中で幾度となくモンスターに出くわしたが、こればかりは奴の指示に従う気になれず、すべて一刀のもとに切り伏せた。
幾つ目かの小高い岩山を越えると、ようやく迷宮区がその姿を現した。
「よし!ここで一時休憩!」
ゴドフリーの野太い声で、パーティは立ち止まる。
一気に迷宮を突破したかったが、異を唱えても聞き入れてもらえまい。手近な岩の上に座り込む。
時刻はそろそろ正午を回ろうとしていた。
「では、食料を配布する」
ゴドフリーは四つの革包みをオブジェクト化し、一つをこちらに放ってきた。片手で受け取り、さして期待もせず中を開けると、水の瓶とNPCショップで売っている固焼きパンが入っていた。アスナの手料理に比べあまりに味気ない食事に、大きなため息をついて瓶を一口あおる。
ふと、一人離れた岩脳上に座るクラディールが目に入った。包みにも手を触れず、垂れた前髪の奥から昏い視線をこちらに寄越している。
一体、何を見ているのだろうか。
ふと浮かんだ疑問、その解答に俺は瞬時に辿り着いた。とっさに瓶を投げ捨て、口の中の液体も吐き出そうとする。
しかし遅かった。
体から力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。視界の右隅にHPバーが表示され、普段存在しない緑色に点滅する枠に囲まれている。
麻痺毒。明らかな罠。
同様にゴドフリーともう一人の団員も倒れ伏し、苦しみもがいている。何とか動く左手でポーチを探るも、結晶は全てゴドフリーに預け、ポーションもHP回復用しかない。
まさに絶体絶命である。
「クッ…クックック…クハッ!ヒャッ!ヒャハハハハ!!」
甲高い笑い声。
俺の目には、落ち窪んだ瞳に狂気を宿したクラディールが、腹をよじって笑っている姿が映っていた。
「ど…どういうことだ…この水を用意したのは…クラディール…お前…」
「ゴドフリー!早く解毒結晶を使え!!」
「ッヒャー!!」
もたつきながらポーチを探るゴドフリーの手を、クラディールが蹴り飛ばす。手の中にあった緑色の結晶は遠方に飛んでいき、残った結晶も全て彼の手元に入った。
「クソッ!」
「クラディール…な、何のつもりだ…?これも何かの…訓練なのか?」
「バァーーーーカ!」
「ぐぉっ!?」
未だ見当はずれなことを呟くゴドフリーの口に、クラディールの強烈な蹴りが直撃する。
それと同時に、彼の頭上のカーソルが緑からオレンジへと変わった。
「ゴドフリーさんよぉ…。あんたバカだバカだと散々思っちゃいたがここまでの脳筋だったとはなぁ!」
両手剣を抜きつつ言い放つ。体を大きく反らせ、振りかぶる。
「ま、待てクラディール!お前…何を…言っているんだ…?訓練じゃないのか…?」
「うるせぇ。いいからもう死ねや」
その台詞と同時に、クラディールは容赦なくゴドフリーに剣を突き立てる。
ようやくゴドフリーも事態の深刻さに気付いたようだが、時既に遅しである。
身動きの取れない彼への暴力はそのHPを確実に削ぎ、最早風前の灯火だった。
「ヒャハァァアアア!!」
「ぐわあぁぁぁぁあ!!」
止めと言わんばかりに、逆手に持った剣で思い切り突き刺す。
ゴドフリーの断末魔と共鳴するが如く、クラディールも奇声を上げる。
そして剣は地面に到達し、ゴドフリーの体は砕け散った。彼がいた場所にはゆらゆらと効果光が残るのみである。
一つ目の獲物を狩り終えたクラディールは、首をぐるんともう一人の団員の方へと向けた。
「ひっ…」
逃げようと必死にもがくのも空しく、クラディールはヒョコヒョコと近づいていく。
そして、それを愉しむが如く剣を振りかぶった。
「ひっ…ひぃぃぃぃ!!」
「オメェには何の恨みもねぇがよォ…。シナリオじゃ生存者は俺一人なんだよなぁ…」
そう言って剣を打ち下ろす。
彼もゴドフリーと同じく、何の抵抗も出来ずに死んでいく。
「………なぁ~んちゃって☆」
―――――かに見えた。
よく見ると、振り下ろした両手剣は刺さる寸前で受け止められている。しかも片手で。
「可笑しくって腹痛いわ~www 俺の演技にみんな騙されてやんのwww」
「な…!?」
クラディールが驚愕の表情を見せる。
その隙に男はクラディールを蹴り飛ばし、恐るべき速さでメニューウィンドウを操作する。
すると、目を疑うことが起こった。
ポリゴンとなって飛散したはずのゴドフリーが、再びその姿を現したのだ。当の本人は、状況が全く理解できずに目をぱちくりさせている。
男は、立ち上がって話を続けた。
「《還魂の聖晶石》。聞いたことあるだろ?クリスマスに入手できる蘇生アイテムだ。つっても十秒以内にしか使えないんで、使える時は限られるんだけどな」
「貴様、KoBじゃあねぇな……。
フ…と笑って男は兜を脱ぐ。
「な…!?」
その顔を見て、俺は更なる衝撃に見舞われた。
「俺は【紅蓮】のリュウ。人は俺を『爆焔』と呼ぶ」
「何…!?」
「お前…どうしてここに…?」
リュウは一瞬こちらに笑いかけると、すぐにクラディールに向き直った。
「クラディール!お前を《ラフィン・コフィン》メンバーとして拘束する!」
To be continued…
リュウ「姑息な手を…」(麻痺毒入りの瓶を墓地に落としながら)