『な…何!?』
クラディールとゴドフリー、二人の声がシンクロする。
「クク…何を言い出すかと思えば…貴様に何の権限があって私を拘束する!?」
「こういう権限だよ」
そう言って、リュウは二枚の紙をオブジェクト化する。
「《アインクラッド解放軍》からの捜査依頼書、及びヒースクリフ血盟騎士団団長の潜入捜査承諾書だ。つまり今の俺の言葉は、アインクラッド解放軍総帥ディアベルと血盟騎士団団長ヒースクリフの言葉と同じだと思え」
それを聞いた俺は唖然とした。ひょっとしてヒースクリフはクラディールの全てを見抜いた上で、この訓練を許可したのではないだろうか?
「ぐ…!しかし私がラフコフであるという証拠は…」
「ンな事しなくても既に現行犯だろが。それに、昨日墜としたアジトの奴らにハッタリかけたんだ。 『お前たちの仲間に血盟騎士団の団員がいるだろ』ってな。流石に日が浅すぎて名前を覚えてるやつはいない…いや、捕まりづらいようにわざと覚えないようにしてんのかもな。とにかく反応があったのさ。そこで絞られたのがお前だ、クラディール」
「何だと…」
「というかそのハッタリ自体ここから生まれたんだけどな… ウチの
「な…」
「さぁ、テメェの逃げ場は無いぞ。大人しくお縄に就け」
「クソッ!」
すると、クラディールは転移結晶を取り出し、空に掲げる。敵わないと判断したのだろう、ここから逃げるつもりだ。
「転移―――」
言い切るより前に、結晶が砕けた。
効果が発動したわけではない。物理的なものだ。
「――――何のために直接止めずわざわざ蘇生アイテムまで使ったと思う?極めて単純だ。『時間稼ぎ』」
クラディールの前を塞ぐように、迷宮区つまり五十六層側から五人のプレイヤーが現れる。
ケイタをはじめとする《月夜の黒猫団》だ。
「チィッ!!」
行く手を阻まれたクラディールは悔しそうに舌打ちする。
再び転移結晶を使おうにも、サチの槍から放たれる雷は先程と同じように正確無比に結晶を貫いてしまうだろう。
だが、こちらの方を見るや否や、その表情は一変した。
「だが…こいつを盾にすれば!」
「ぐぁっ!!」
クラディールは、未だ麻痺の残る俺の体を持ち上げてリュウ達の前に突き出す。
「へへ… これで貴様らは手も足も出せまい…」
しまった、と俺は思った。
まだ麻痺は一分程続く。今脱出されて新たに麻痺を加えられれば、確実に俺の命は終わる。
しかし、リュウ達の顔は曇るどころか呆れてさえいた。
「あ~あ、それやっちゃうか… だからお前は三流なんだ」
「ハ、何を言って…」
シュパアァァン!!!
その音と共に、途轍もない衝撃が加わった。
クラディールが後ろから攻撃された様だった。そのお陰で、俺はクラディールから何とか脱出することに成功した。
「な、何だ一体…」
「旦那を人質になんか取ったら、嫁がキレるのは当然だろ?」
クラディールの後ろには、レイピアを突き出したアスナが静かに睨みつけていた。
どう見ても怒りが天元突破している。
「ア…アスナ様…どうしてここに…」
「サっちゃんから連絡があったの。キリト君の居場所はずっとマーキングしてたから、すぐにここまで来られたわ。…それよりクラディール、これはどういうこと?」
「え、どういうって…え、えっと…そうだ、『訓練』! 訓練ですよ!」
どう考えても無理がある。
アスナの顔見知りしかいないこの状況、モンスターもいないこの場所で俺とゴドフリーが麻痺している。これが訓練である筈がない。何より、クラディールの頭上で点滅するオレンジカーソルが動かぬ証拠である。
アスナは俺、リュウ、ゴドフリーを順に見た。俺は頷き、リュウは肩を竦め、ゴドフリーに至ってはようやく理解が追いついたのか、
「副団長!そいつは最早KoBではありませぬ!厳重な処罰を!」
と声を張り上げている。最も、アスナの一睨みですぐに押し黙ってしまったが。
それでもクラディールは無理な弁明を続ける。
「アスナ様!信じてください!これは――――」
その言葉は続かなかった。目に見えぬほどのスピードで繰り出された最上位細剣スキル《フラッシング・ペネトレイター》がクラディールの口に命中したのだ。
「アガッ!ガッ…!グッ… このアマぁ…調子nァギャアッ!?」
サチの【紫電】最上位槍スキル《グローリー・ボルテックス》が容赦なくクラディールを貫く。
リュウに止められていたのだろう、今まで直接攻撃はしなかったが、ここで渾身の一撃である。最早怒気が可視化してすらいるようだ。
二人の大技を食らったクラディールはすでにHPが
力無く倒れ伏すクラディールに、アスナが近付く。
「…クラディール。命が惜しければ、二度と私たちの前に現れないで」
そう言って剣を収め、背を向ける。
「命だけは助けてやるってか…?あぁめえぇぇぇんだよぉぉぉ!!! 副団長様アァァァァァ!!!」
その叫び声に、アスナは咄嗟に後ろを向く。
しかしそこには、既に両手剣を振り下ろすクラディールが…
…いなかった。彼の体は先程と同様、地に伏せたままだった。
「な、何…?ま、麻痺だと…?」
彼の後ろで、サチが地面に槍を突き立てていた。
その槍からは電流が流れ、彼女を中心に魔法陣のようなマークが広がっている。その範囲内にいるのは、クラディール一人だ。
「麻痺はアンタの専売特許じゃねぇ。むしろサチのだ」
※《サークル・スタン》※
【紫電】専用スキル。武器を地面に突き立てている間のみ発動。
その性質上発動者はその間動く事が出来ず範囲もそれほど広い訳ではないが、一度捕まれば最後、逃れられぬ永続麻痺地獄に落ちる。
「さて、これで万策尽きただろ?大人しくお縄に就け」
リュウがクラディールに手錠を嵌める。クラディールは諦めたように項垂れた。
「よし。十二時十三分、被疑者確保っと」
そして、ケイタが回廊結晶を取り出す。
「コリドー・オープン!」
開かれた光の門に、テツオとケイタがクラディールを連れて入る。
「あいつらが軍の然るべき責任者に引き渡してくれる。これで一件落着だ」
「キリト君…」
アスナがこちらに近寄ってくる。その眼には、先程とは打って変わって涙が浮かんでいた。
「私…もうキリト君が危険な目に遭う所を見たくない…」
「…俺もだよ、アスナ…」
「え…」
「俺が不甲斐ないばかりに、君にいつも心配をかけさせている。俺が弱いばかりに、君をいつも大変な目に遭わせてしまう。だから…」
その瞬間、俺の言葉を塞ぐようにアスナが唇を重ねる。
「…!」
「…もう会わない、なんて言わせないよ?私は、君とずっと一緒にいるって決めたんだから」
「ああ、分かったよ。俺の命は君のものだ。君のために使う。最後の瞬間まで君をずっと離さない」
「私も、絶対に君を守る。守り抜いてみせるから…」
俺達は、互いに体をぎゅっと抱き締めた。
「―――いいのか?」
少し離れた所で二人のやり取りを見ていた俺は、サチに問うた。
「うん…私はキリトが幸せなら、それでいい。キリトがそう選んだのなら、それがいい」
「…そうか」
しばらくすると、キリトとアスナがこちらへ近付いてきた。
「リュウさん、サっちゃん、みんな。キリト君を助けてくれて、本当にありがとう」
「…いつも助けてもらってばかりで、本当にすまない」
二人は深々と頭を下げた。
「いいってことよ。それより、今回の事、団長殿にしっかり報告しといてくれ。キッチリボーナス貰っときたいからな」
「…あなたがするんじゃないの?」
「そうしたいのは山々なんだがな、本来KoBにいない人間が本部をうろつくのは出来れば控えてくれって言われてんだよ。どれだけ変装してもバレる奴にはバレるしな」
「あ、なるほど…」
「それじゃ頼んだぜ。気を付けて帰れよ」
「ああ。世話になったな」
そして、二人仲良く並んで歩き出す。
「…そろそろ終わったかね…?」
のっそのっそとゴドフリーが出てくる。
どうやら二人がいちゃついている間ずっと邪魔にならない所で待機していたようだ。
「…おっさん、意外に空気読めるのな」
「恋人同士のやり取りに水を差すほど私は無粋ではない」
「男前だねぇ。あんたからもしっかり頼むぜ。あの二人だけだと他の幹部どもにグルだと思われかねん」
「承知した。…二人の命、そして私自身の命を救ってくれたこと、本当に感謝する」
「…それはKoB幹部として、か?」
「いや、子を持つ一人の大人として、だ」
「…絶対死ぬなよ、アンタ。このゲームが終わった時には、アンタみたいな大人があいつらを支えてやってくれ」
「フム、言われずともだ」
「ちょっとゴドフリー!置いて行くわよ!」
遠くの方でアスナが呼んでいる。
「全く…いくら私が脳筋だとて、お転婆副団長殿に振り回されるのは骨が折れる…」
やれやれと呆れながら、しかし満更でもない表情を浮かべ、ゴドフリーは自らの拠点へ向かう。
それを見送った俺達は、その足で最前線へと向かった。一刻も早くこのゲームを終わらせるため、そのために少しでも強くなるために。
_ _ _ _ _ _ _
その夜、帰還した俺達にアルゴから新たな報せが届いた。
それは、キリトとアスナが結婚した事。
そして、二人がしばらく前線から離れるという事だ。
To be continued...
へ? いつアスナとサチがフレンドになったのかって? いずれ分かるさ、いずれな…。
ゴドフリーさんが子持ちである設定は、原作の「実戦ではアスナとパーティ組んでいいよ」発言で、もしかしたらこの人アスナを娘みたいな感じに見てたのかなぁ…って妄想が膨らんだ結果、こんな感じになってしまいました。後悔はしていない。