紅蓮の皇   作:Skullheart

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いやぁ遅れた遅れた。俺方向音痴だからな!

……はい、投稿遅くてすみません。
だって一万字近く書いたんだもの…筆が進んだり止まったり大変だった…

え?普通はそれぐらい余裕でやるって?

ぐぅの音も出ないです、はい。

追記:サブタイトル変更しました。


PARTNER

「…マジっすか。キリトの野郎、デリカシーがないとは薄々感じてたけど、まさかそこまでとは…」

 

「そうなのよ、ダッカー君。女の子に対する発言だとは思えないわよね?サっちゃんも、そう思わない?」

 

「ふふっ。でも、そういう所がキリトらしいね」

 

「………」

 

うるさいな、と言いたげにキリトは紅茶のカップを傾ける。

 

ここは《月夜の黒猫団》ギルドハウス。

キリト達が結婚して四日後、リュウ達は二人を招き、談笑を楽しんでいた。

彼らが二十二層の新居に引っ越してから、前線の近況報告も兼ねてこうしてちょくちょく遊びに行ったり招いたりしている。たまにクラインやリズも誘って。

 

「…あ、おやつ無くなっちゃったね。クッキーまた焼いてくるから、ちょっと待ってて」

 

「あ、ああ。悪いな、サチ」

 

そう言って、サチはキッチンへ向かった。

サチが席を外すのを確認すると、アスナがリュウの方へ近付いてくる。

 

「…ねぇ。多分だけど、サっちゃんってキリト君の事、その………好き、だったんだよね?」

 

「……ああ。それがどうした?」

 

「それにしてはえらくサッパリしてるというか……私とキリト君の結婚だって、真っ先に反対されると思ってたのにあっさり認めちゃったし、目の敵にされるかと思ってたのにすっごく仲良くしてくれるし…」

 

その疑問に、リュウは返答に困った様子でポリポリと頭を掻いた。

 

「……それには紆余曲折二転三転暗中模索その他諸々……ま、とにかく色々あったんだよ」

 

「その色々を教えてほしいんだけど」

 

深く追及してくるアスナにたじろぐリュウ。するとリュウは、観念した様に深く溜め息を吐いた。

 

「…ちと長くなるぞ。それでもいいか?」

 

「構わないわ」

 

「そうか。……確か、最前線が五十一層に到達した辺りだったかな?」

 

 


 

 

《月夜の黒猫団》ギルドハウスのリビング。

この日はリュウ達の他にもう一人、アルゴが彼らを訪ねて来ていた。大まかなゴールとして、『キリトに追いつく』という事を目標にしていたため、リュウ達はキリト周りの情報は定期的に仕入れていたのだ。

 

「で、アルゴ。あいつはどうしてた?」

 

「それに関してだガ……サッチー、お前に良いニュースと悪いニュースがあるゾ」

 

その言葉に、皆がサチの方を向く。突然のご指名に、サチは面食らった様子だった。きっとこの時、どんなニュースか気が気でなかったに違いない。

 

「…まずは良いニュースからで」

 

「キー坊が五十層ボスのLAボーナスを取っタ。ボーナス内容は《エリュシデータ》。詳しい事は分からなイが、黒い片手直剣だそうダ」

 

おお、と全員の口から感嘆の声が漏れる。ボスからのドロップ、しかもLAボーナスとなれば、性能は折り紙つきだろう。

 

「これはサッチーにっていうよりお前たち全員にとっての朗報だナ。問題は悪いニュースの方ダ」

 

「………」

 

サチだけでなく、全員が固唾を飲んで次の言葉を待つ。

 

「…キー坊に彼女が出来タ」

 

「………へ?」

 

予想の遥か斜め下、いや斜め上の報告に全員耳を疑った。

 

「いやいやそんな事、あるはずが……」

 

リュウ達は、恐る恐るサチの方を見た。

 

「……キリトに…彼女…かのじょ…カノジョ…」

 

ダメだった。彼女は完全に固まって、壊れたテープレコーダーの如く同じ言葉を繰り返していた。

 

「……ドンマイ」

 

さらに追い討ちを掛ける様に、ダッカーの容赦ない言葉が彼女の心を抉った。

 

「何が……ドンマイって?」

 

……失敬。追い討ちではなく手の込んだ自殺だった様だ。その殺気にダッカーは戦慄する。

しかし時すでに遅し。認識する暇すら与えずサチはインベントリから槍を取り出し、今にもダッカーに突き刺そうとしていた。

 

「お、おおお落ち着けサチ!取り敢えず話を聞こう!そんな物騒なの置いてさ、な!」

 

リュウ達全員で、サチを必死に落ち着かせる。暴れ馬の様に突き進む彼女は、これまでのどのモンスターよりも強力だったそうな。最終的に六人の『説得』コマンドによって気は鎮まってくれたらしく、サチも渋々槍をしまう。

 

「っはぁ………」

 

全員が溜め息を吐き、肩を撫で下ろした。

 

圏内ではデュエル以外ダメージは発生しないが、それはつまりいくらでも攻撃出来るという事である。

相手を殺したり物を奪ったりする訳ではないので、犯罪防止(アンチクリミナル)コードも働かない。

死ぬ事もないまま致死量の攻撃を受け続けるなど、トラウマレベルの発狂モノだろう。

 

「……んで、詳細は?」

 

リュウは中断されていたニュースの続きを聞くべく、アルゴの方を向き直った。

 

「あア、プレイヤーネームは《アスナ》。血盟騎士団新副団長と言えば分かるカ?まぁ、"彼女"って言ったガ、交際にまでは発展していないようダ。他の奴より話す事が多いぐらいらしイ」

 

「ふぅん、アイツか…」

 

確かに、他人に関わる事が少なかったキリトが女性と話しているとなれば、端から見れば彼女が出来たと思うのも無理はない。

 

ましてや相手が、五十層ボス戦で戦死した前副団長の後釜を務めるアスナだ。引継ぎや挨拶でキリトと話す機会が多くなるのも頷ける。

 

サチもホッとしたように表情が和らいだ。

 

「たダ…」

 

「?」

 

アルゴが言いにくそうに続ける。

 

「仲は結構良好だそうダ」

「!!?」

 

その一言が決定打となった。サチが膝から崩れ落ちる。

 

「………アハッ」

 

見間違いだろうか、リュウ達は彼女の顔に一瞬、背筋が凍りそうな程の狂った笑顔が見えた様な気がした。

そしてすぐに立ち上がり、彼女は静かにリビングを後にした。

 

「お、おいサチ!?」

 

ケイタが心配して声を掛ける。しかし返事はなかった。

彼女の様子は心配であったが、その時は夜も遅かった。なので、今は一晩様子を見る事にして、リュウ達も横になる事にしたのだ。

 

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _

 

 

そして翌朝。

 

起床したリュウ達は、いつもリビングに集合する。しかし今日は、普段であれば誰よりも早く起きている筈のサチがいなかった。

 

どうしたのだろうかと考えていると───本当はすっごく心当たりがある───サチの部屋の方から足音が聞こえた。

 

しかし…

 

「…おはよ~…」

 

『(゜ロ゜)』

 

声では表せない衝撃。

 

目には大きな隈、髪は何処ぞの蟹様の如く逆立っている。

 

こんなサチを未だかつて見たことがあっただろうか。

一晩中悩んで眠れなかったことが容易に想像できる。

 

「…だ、大丈夫かサチ」

 

「だ~いじょ~ぶだよ~……」

 

足元がふらついている。これでどこが大丈夫だと言えるのか。

 

「…今日、休んどくか?」

 

ササマルが進言する。

それでもサチは首を横に振った。

 

「言い出したのは私なんだから、私の都合で自分だけ休みたくないの。それに、もう気にしてないから。明日からは大丈夫だから!」

 

嘘だ。

リュウ達はそう確信していた。

 

SAOの感情表現プログラムは、その時の感情に最も相応しい表情を、幾億通りの人間の筋肉・皮膚の動きを分析して作り上げている。

 

サチは見かけこそしっかりと笑っていた。

それでも、目の奥に未だ哀しみが渦巻いているのは、俺達から見ても明らかだった。

 

彼女は頑固だ。一度決めた事は決して曲げない。

尚も気丈に振る舞うサチに、リュウ達はある種の危うさを感じていた。

 

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _

 

 

戦闘でサチに異変が無かったかと言えば嘘になる。

彼女は、まるで憂さ晴らしをするかのように槍や剣を振るい、これでもかというほどオーバーキルを繰り返していた。

 

戦闘(そこ)に影響はなかった。しかしその分他に負荷がかかってくる。

 

サチは毎朝派手な寝ぐせと、だんだん濃くなる大きな隈を抱えてくるようになった。

最近では頭痛まで追加されたらしく、今も頭を押さえている。

 

「……フフフ…キリト……この痛みも君の愛なんだね……」

 

ヤバい。サチがユベり出した。

ここらで手を打たなければ非常に面倒臭いことになる。

 

そこで。

 

「よし、今日は上の方に出るぞ」

 

気分転換の名目(あながち間違いでもない)で、五十層《アルゲード》に足を運ぶ事にした。

五十層はキリトが最近拠点にしたという層で、もしかしたら彼に会う事があるかもしれない。

 

しかし今回の目的はそれではない。

 

「いた…」

 

アスナを、そしてキリトとの関係を見定める事。

出来れば穏便に済ませたい所だが、さっきからサチの殺気が溢れだしている。

 

「落ち着け落ち着け、どうどう」

 

今にも飛び出して決闘を挑みそうなサチを宥め、アスナを観察する。

 

アルゲードの複雑な路を利用しているため、向こうがこちらに気付く気配はない。

だが。

 

「…もしかして奴さん、迷ったのか?」

 

さっきから同じ所を右往左往している。

確かにアルゲードは複雑だ。ここから出れずに遭難しかけたという噂もちらほら聞く。

 

「……」

 

どうするべきだろうか。

 

ここで道案内をすればキリトと接触する可能性が高くなる。

こちらがしたいのはあくまでも『観察』であって『邂逅』ではない。そんな事になれば修羅場は免れないだろう。

 

そんな考えを巡らせていた時。

 

「なかなか来ないと思ったら、こんな所で何してんだアスナ」

 

キリトの方から迎えに来た。

 

やれやれといった顔をする彼に対し、アスナの方は助かったというような今にも泣きそうな表情を必死に隠しているようだ。バレバレだけど。

 

「…こっちに良さそうなアクセ「迷ったんだろ」ふぇっ!?」

 

…身も蓋もねぇな。

ちょっとは察してやれよ、可哀相だろ。

 

「毎回エギルの店集合にするのは良いけどさ、結局迷ったら意味無いだろ」

 

「…五回行っただけで道なんか覚えられないわよ」

 

「覚えなくてもフレンドのサーチ使えば良いだろ」

 

「…あ」

 

忘れてたな、これ。

 

さて、確かアルゴの情報だとこの後KoBや他の攻略組ギルドと合同でクエストボス《The Ancient Golem》討伐だったな。

じっくりと見物させてもらおう。二人の間柄という奴をな。

 

こうして、俺達はアスナ率いるKoB、それに随伴するキリト達を追って圏外へ出た。

 

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

 

 

「ブレス来るわよ!散開!」

 

団員とキリトが指示の通り動く。

 

「アスナ!上!」

 

「!!」

 

キリトの声により、すんでの所で不意討ちを躱すアスナ。

ボス戦は危なげなく進んでいた。

 

「…なかなか良い連携するじゃねーか」

 

近くの物陰に隠れ、《隠蔽》で他のモンスターとの接触を避けながら観戦する俺達。

 

こちらの《隠蔽》はキリト達の索敵には見破られてしまうが、ボスクラスの相手にマップサーチする余裕などない。

 

戦闘に入ったところでフレンドサーチから場所を特定し、こっそり見守っている。

 

「互いの信頼が見て取れるね。死角を上手くカバーし合ってる」

 

ササマルが評する。

 

彼の他人に合わせる能力は突出していた。

人のクセを感じ取り、時に補い、時に支え、時に高め合う。

故に連携に関しては彼の右に出る者はいない。

 

「それだけじゃないさ。他の団員たちを素早く敵の背後に回して、二人は専ら正面で引きつけてる。反撃するパターンやスイッチするタイミングもバッチリ。綿密に練らないとあそこまで綺麗にはいかないよ」

 

ケイタは本当に伸びた。

サチのユニークスキル取得を除けば、一番成長したのは間違いなく彼だろう。

 

「あの人、まだ本気の速さじゃないな。ステップに余裕がある。敵が認識できて且つ翻弄するスピードに調整するなんて、只者じゃないな…」

 

ダッカーの遊撃はまさに"翻弄"と呼ぶべきものだ。

サチの機動が例えるなら大推力を無理矢理曲げるものに対し、ダッカーのそれはいくつもの小推力で僅かにブレた不規則な機動、まさに変幻自在だった。

 

アスナのステップさえ見切るようになるとは…ついこの間まで地雷を踏みぬきまくったやつと同一人物とはとても思えない。

 

あ、地雷なら今も踏むか(主にサチの)。

 

「だがいやに順調だな…。何かあるんじゃないか?」

 

テツオは勘が良い。

ステータスビルドも武器もパワー寄りなので脳筋に見られがちだが、意外にも洞察力に優れている。

 

あくまで耳にしただけなのだが、その細い目は普段は閉じていて、開けばそれは未来をも見通すとか。

天帝の眼(エンペラーアイ)かな?

 

初めは師弟関係だった彼らも、今では戦友と呼べる存在となった。しみじみとそんな感傷に浸っていると、

 

「よし、行ける!あと一押し!」

 

HPバーがラスト一ゲージに達した。

しかし、ここでテツオの勘が的中してしまう。

 

『<>?!*)!)&!&$R!??_*!O)'!(&'&"`{@]/~^』

 

突然幾何学的音声を発するゴーレムのボス。

すると、

 

『!&%(&$'##:@\p@po@@:p:9(!(^[』

 

『!&$'`:'')('&%$'&;/l;;l'59)=()'』

 

『$(!&$('&p208-09p((*"**P+"{`"9』

 

『))(}"P][\];]\;:]"=)('9_?,@』

 

『]:;[{}P==")=}[p-[][02{』

 

突然小ゴーレムの大群が現れた。

それはこちらにも例外でなく、周囲の物陰、あるいは地下から続々と湧き出ている。

 

「クッソ!どっからでも来るのか!」

 

このタイプのゴーレムは視覚センサーを持たない。よって《隠蔽》は通用しない。

予想外の会敵だった。観察を中断し、戦闘に入る。

 

しかし、ここでキリトに遭遇するわけにはいかない。

残念ではあるがここは後退しつつ……

 

「きゃあっ!!」

 

「!!」

 

横からの不意打ち。当たりはしなかったものの、完全にサチと分断されてしまった。

 

「チィッ!」

 

数が多すぎてフォローに回ることが出来ない。

あまり派手にやると全てが水の泡だ。ここはサチを信じるしかない。

 

「……死ぬなよ……!」

 

 


 

 

「───と、ここまでが俺の知ってる範囲だ。後で合流した時には、もう憑き物が落ちたみたいな顔してた」

 

「…全然紆余曲折してないじゃないか。何も解決してないぜ」

 

いつの間にかキリトもギャラリーに加わっていた。それに気付いた俺達の身体は、一瞬にして凍りついた。

 

「…お前、どこから聞いてた?」

 

「ん?確か…サチが病み始めた辺りかな?原因の方は聞きそびれたけど」

 

「そうか…。なら良かった」

 

「何が?」

 

「いや、何でもない」

 

「はぁ…。で?結局どうなったんだ?」

 

この男、興味津々である。

 

「俺は知らん。だがあそこまでトチ狂ってたのが、突然ケロッとして帰って来たんだ。何か色々な事情があったと考えるべきだろう」

 

「まぁそうだけど…」

 

「誰がトチ狂ったイカレ女だって?」

 

……わぁ、すっごいタイミングで帰ってきた。

 

「あれ?みんな手が震えてるよ?部屋の温度低かった?」

 

表情は柔らかい。しかし目と声が笑ってない。

 

「…キリト?汗びっしょりよ?どうしたの?暑いの?」

 

「い、いえ!! 快適そのものであります!!」

 

「……なら、何か後ろめたいことでも?」

 

「…………!!!」

 

氷のように冷たい声に、キリトの背筋が一気に凍ったのが見て取れた。

哀れキリト。骨は拾ってやろう。

 

「………なぁーんてね。冗談よ、冗談。ちょっとからかってみたかっただけ」

 

いつも通りの穏やかな声に戻り、皆、特にキリトから安堵のため息が零れる。

 

「……そ、それで?その後どうなったんだ?サチ」

 

キリトが訊ねる。

 

「うん。リュウとはぐれた後───」

 

 


 

 

「くっ…!」

 

完全に囲まれてしまった。これではリュウと合流できない。

 

「……一人でやるしかないって事だね……」

 

やるしかない。

腹を括り、ゴーレムの大群に一人突撃した。

 

「はぁぁっ!!」

 

目の前の三体を槍で一気に片付けて、横からの攻撃を取り出した剣で防御。

そのまま勢いを流し、反対の敵にぶつけてまとめて叩く。

 

「たぁぁぁっ!!」

 

三角跳び。時には敵さえ踏み台にし、槍で突き、剣で凪ぎ払う。

 

武器二つ同時持ちはエラーメッセージが出てスキルが発動しない為、本来使われる事はない。勿論、それは私も例外ではない。

 

だけど今回はこれでいい。

威力の低い通常攻撃でも、怯ませて一ヵ所に纏められれば充分だ。

 

敵中を駆け抜け、四つの直線状に並べた所で剣をしまう。

 

「パイルクラスター!!」

 

上位槍スキルの一つ。

放たれた衝撃波が無数の大きな(パイル)となり、ゴーレムの群れを吹き飛ばす。

 

しかし、それでも途切れず現れるゴーレム。

倒しても倒しても減らない数に、私は徐々に焦りを感じていた。

 

_ _ _ _ _ _ _ _ _

 

 

「───ハァ…、ハァ…、ハァ……」

 

気付けば、肩で息を始めていた。

これで何体倒しただろう?そんな事を考えながら槍を振るう。

 

(…仕方ない、あれを…!)

 

ユニークスキル【紫電】。こんな所で出せばキリトと接触してしまうのは必至だ。

それでも背に腹は代えられない。覚悟を決めて発動させようとしたその時。

 

「ぐぅっ!?」

 

意識が逸れたその瞬間、攻撃を受けてしまう。

いつもなら躱しているのだが、これまでの疲労が重なり反応が遅れてしまった。

 

さらに、怯んだ隙に後ろからもう一体が現れる。

 

(……あ)

 

突如フラッシュバックする記憶。

あの時と同じ。絶え間なく攻撃に晒され、何も出来ず立ち尽くすだけだったあの時と。

 

死ぬ事が真に恐ろしくない人間なんていない。

トラウマから蘇った恐怖が私の体を完全に硬直させた。

 

(私ってば………本当に何も変わってない………)

 

タキサイキア現象───ネット記事でふと読んだ、物事がスローモーションに見える感覚───の中、私はまた自分の無力を呪った。

 

 

 

 

 

シュパァァァァン!!!

 

そんな気持ちを吹き飛ばすように、軽快な音が響いた。

 

「大丈夫!?」

 

栗色の髪、白い騎士服、輝きを放つレイピア。私の窮地を救ったのは、今まで一度も会ったことがない、されど因縁は誰よりも深い人物。

 

私の恋敵、アスナさんその人だった。

 

そして恐るべき速さで近くのゴーレムを片付け、こちらに呼びかける。

 

「あなた、攻略パーティにはいなかったわね。中層プレイヤー?」

 

「えっ、あ、はい…。仲間とはぐれてしまって……」

 

「そう…。巻き込んでしまって申し訳ないわ。こっちも分断されちゃって。数が数だからステータス自体は大した事ないけど、ちょっと面倒なのよね」

 

「……どうして……」

 

「ん?」

 

「…どうして…助けてくれたんですか?」

 

その質問が無意味である事は明らかだった。それが見ず知らずであっても、目の前で死にそうな人間がいれば、誰だって助けようとする。私だってそうする。

 

しかし、それでも訊かずにはいられなかった。恋敵であるはずの自分を、それと知らなくてもどうして助けたのか。

 

「人を助けるのに理由がいるの?」

 

予想通りの答。やっぱりかと落胆した。

しかし、

 

「───なんて、あの頃の私じゃあ絶対に言わなかっただろうなぁ」

 

「……え?」

 

アスナさんの答は終わっていなかった。

 

「その時はね、私、このゲームをクリアする事しか頭になくって。そりゃあもう、ボロボロになってまでレベリング続けるぐらいに。クリア出来なきゃ死んでもいいって感じだったのよ。自分の命さえどーでもいいんだから、他人の命なんて考えもしなかったわ」

 

「じゃあ、なんで…」

 

「……攻略もそこそこに進んだときにね、日なたでのんびりと昼寝してる人がいたのよ。私は、こんな所で暇してるなら攻略のために働いたらどうかって言ったんだけどね?」

 

名を出さずとも、それが誰なのかはすぐに解った。

 

「ソイツ、『今日はアインクラッド史上稀にみる程の良天候だ、こんな時に寝ておかないなんて勿体ない』って。

バカみたいでしょ?私もそう思った。でも気付かされた部分もあったの。あぁ、この世界で生きることを楽しんでいる人もいるんだなぁ…って」

 

………ああ、そうか。同じなんだ。

 

「それで、私も寝転がってみたんだけどね?ちょっとお昼寝するだけだったのが、夕方までぐっすり寝入っちゃって。気持ちよかったなぁ…。久し振りに思いっきり寝たものだから、すごくすっきりしたのよ。

そこからかな、他人の命も気にかけるようになったのは。まぁその誰かさんの、他人をほっとけないおせっかい焼きが移ったってのもあるけど」

 

この人も、子どもみたいに純粋で、呆れるくらい真っ直ぐで、それでいてとっても優しい彼の心に惹かれたんだ。

 

この世界に来て失くした光を、もう一度与えてくれた人。

私がそうであるように、この人も彼を想っている。ただそれだけの話だったんだ。

 

ガシャッ

ガシャッ

ガシャッ

 

残っていたゴーレムが集まりだした。

最初よりは減っているようだが、それでもまだ軽く四十はいる。

 

「……まだ来るか……。ちょっとキツいなぁ……」

 

アスナさんが愚痴っぽくこぼす。

いくら攻略最大手ギルドの副団長と言えど、この数は少々厳しいようだ。

しかしその眼に絶望の色はない。必ず生きるという意思を感じる。

 

ならば。

 

「………一緒に、戦わせてください」

 

私も、私に出来ることをする。

 

「……大丈夫なの?」

 

「はい。心配させてしまってすみません。───それと、ありがとうございました」

 

「礼なんていいわよ。当たり前の事をしただけだもの。それじゃ、行きましょう!!」

 

───ありがとう、アスナさん。あなたのお陰で心の整理が着いた。

 

「スイッチ!!」

 

───本当はごめんなさいも言いたかったけど、今はその時じゃない。

 

「はあぁぁっ!!」

 

「え!? 跳んだ!?」

 

───いつかあなたと、肩を並べられる時が来たら…

 

「パイル…クラスターーッ!!!」

 

──その時は、精一杯感謝と謝罪をしよう───

 

_ _ _ _ _ _ _ 

 

 

「………終わった…?」

 

「みたいね。向こうで親玉も倒されたようだし、また湧いてくることもないでしょう」

 

膨大な量のゴーレムを倒すことが出来た私は、いつの間にかレベルが一気に三も上がっていた。

 

貯まったパラメータポイントをどう振ろうかと考えていると、アスナさんがこちらに近寄ってきた。

 

「ふふっ、助けたつもりが助けられちゃったね」

 

「い、いえ、そんな事…」

 

実際、数で言えばアスナさんが六割近く倒している。むしろこちらは助けられてばかりだったというのに…

 

「あなたは強いわ。多分、攻略組にも負けないくらい」

 

もしかしたらこの暖かな優しさに、キリトも惹かれたのかもしれない。

 

「…そういえばあなた、まだ名前を訊いてなかったわね」

 

「…サチ。サチです」

 

「じゃあ、サっちゃんね。私は…」

 

「アスナさん、ですよね?」

 

「……あら、私そんなに有名?」

 

「そういうことにしておきます」

 

「? まぁ、いいわ」

 

遅めの自己紹介を終えた時、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。

 

「…じゃあ私、仲間を待たせてるみたいなので、ここで。また会いましょう、アスナさん」

 

「あ!サっちゃん!最後に一つ!」

 

「…? 何ですか?」

 

「フレンド登録しない?」

 

「喜んで!」

 

 


 

 

「───って事があったの」

 

「…そういえばサチ、その辺りから妙に誰かとメッセージ飛ばし合ってたっけ。道理で途中からアスナが大人しくなる訳だ」

 

そう言ってリュウは、しんなりと縮こまっているアスナに目をやった。

 

「…まさかあの時のそれがそういう事だったなんて…」

 

「その時会ってたんなら察しろよ」

 

「だってだって!! まさかサっちゃんとリュウが一緒だなんて思わなかったし、なんかキリト君とも知り合いっぽいし、その上ユニークスキル持ってたなんて、もう情報が多すぎて思考放棄しちゃったんだもの!!」

 

「…まぁ、そうだろうな」

 

「しかもしかも!? その後キリト君は団長と決闘しちゃうし、そのせいでキリト君の入団手続きとか装備の発注とか大変だったし、かと思ったら今度はキリト君が死にそうになってるし!!」

 

「…ドンマイ」

 

「………でも、これでスッキリしたわ。ありがとね、サっちゃん」

 

これで解決───そう思われた時。

 

「ん?何がスッキリしたんだ?」

 

全員がキリトを凝視した。

 

「…お前は幸せ者だな」

 

「おめでたい奴…」

 

「信じらんねぇ…」

 

「朴念仁とはこういう事か」

 

「馬鹿野郎…」

 

「嘘でしょ…?」

 

口々に言い立てる。まぁ仕方ないね。

 

「え?何?何なの?」

 

そう言ってテーブルのクッキーに手を伸ばした。

しかし、サチに取り上げられてしまう。

 

「え、ちょ」

 

「キリトにはあげない♪」

 

「え、何d」ガシッ

 

その後ろには、ケイタ、ダッカー、テツオ、ササマルがキリトを捉えていた。

 

「ちょっと面貸して貰おうか」

 

「根性鍛え直してやる」

 

「全くお前って奴は…」

 

「調教が必要だね」

 

彼らの表情は……お察しである。

 

「ちょ、俺何かした…」

 

『DA☆MA☆RE』

 

「うわぁぁぁ!!」Σ( ̄ロ ̄lll)

 

そのままズルズルと引き摺られていく。

 

「ちょっ!! アスナ、サチ!! 助けっ…ああああ!!」

 

当の二人はやれやれといった顔である。

うん、自業自得だわ。

 

「アスナさん」

 

「ん?」

 

「今はまだ譲っておきますけど、私まだ諦めてませんから」

 

「……ふふ、負けないわよ?」

 

「そちらこそ、後悔しても遅いですからね?」

 

早速火花が散ってるけど、まぁ仲が良さそうで何よりだ。

 

 

 

 

その後、骨抜きにされるまでみっちりしごかれたキリトだったが、結局どういう事か理解出来なかったようだ。

もうどうしようもねぇな。

 

To be continued…




Q.どうしてアスナは七十四層ボス戦でサチに無反応だったの?

A.場面が違います。

Q.場面が違うとはどういう事ですか?

A.後付け設定だという事です(爆)

Q.どうしてこんなにも愛情描写が下手なの?

A.調整中です(向上するとは言ってない)

Q.どうしてタイトルのセンスがないの?

A.調整中(ry
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