申し訳ない! 本ッ当に申し訳ない……!
お詫びに何でm
「よーす、邪魔すんぞー」ガチャ
「ノックぐらいしろ!!」
キリト達を招いた三日後、リュウ達は二十二層の彼らの家を訪ねた。
理由は何でもない、ただ遊びに行くだけだ。
だが、そこで彼らは驚くべきものを見た。
「……何だよそれ。まさかお前ら……」
子ども。
十歳前後と思われる、小さな女の子だった。
可愛らしくアスナの横で寝息を立てている。
「……やる事やれば出来るモンなんだな」
「やったとは言ってないだろ!!」
「ついにこいつも童貞卒業か…。ここまで長かった…」
「話を聞けぃ!!」
「もう、ユイちゃん起きちゃうでしょ!!」ゴゴンッ
「「サーセン……」」
「うぅ~、マ、マ……?」
「あ、ユイちゃん起きちゃった?ごめんね、うるさくて」
((アスナが一番うるさかったと思うけど………))
「ん?何か言ったかしら?」
『いえ、なんでも』
静かになった所で、本題に入る。
ユイはサチとササマルに相手をさせた。
理由は、あの二人の女子力が高いというだけだが。
「で、誰なんだそいつ」
「分からない…。そこの森で倒れたのを抱えて来たんだ」
「さっきユイって言ったよな。それが名前か?」
「ええ…。名前だけは覚えてたのよ」
「"だけ"って事は記憶喪失か」
「ああ。どこから来たのか誰といたのかも分からないらしい」
「なぁ、それって変じゃないか?」
ケイタがキリトが挙げた事実に異を示した。
「どういうこと?」
「ここまで連れて来てクエスト発生フラグなしって事はプレイヤーだろ?てことは絶対にはじまりの街からスタートするはず。つまり、ここに来るには自分ないし他人の意思が不可欠なんだ。だが
「成程…。普通ならここは、記憶喪失になってから来る意味も、記憶喪失の原因と成り得る精神的ショックもないって訳か」
よくよく考えてみれば、保護されたのがこの近くだというのは妙な話であった。
「だが記憶喪失ってのは突然起きる時もあるんだろう?」
「テツオ、そのタイプの記憶喪失の原因にどんなものがあると思う?」
「えっと…確か、脳梗塞とかの脳に直接ダメージを与えられたからのと、うつ病とかの心因性の………とかじゃなかったか?」
「ああ。だがあの子を見てくれ。これをどう思う?」
「すごく………可愛いです………」
「違う、そうじゃない。確かに可愛いけどそうじゃない。このユイって子は
「確かに…。それに鬱とかにも見えないから、ある日突然記憶喪失、って説は消していいわけね」
「………なぁ、いいか?」
今まで静かだったダッカーが口を開いた。
「ん?どうした?」
「いかに時代が進んでもさ、こんな小さな子が一人でVRMMOなんてしないと思うんだ。ましてやあそこまで明るい性格なのにさ。親もさせるとは思えないし、一緒にログインもしないと思う」
「確かにそうだ」
「つまり、友達や兄弟とかと一緒にプレイしてた可能性が高いって事だろ?じゃあ記憶喪失になれば、そういうのが世話なり何なりするんじゃないのか?」
「しかしそうはなっていない…」
「で、だ」
ダッカーが一拍置く。
「これは推測だけどさ、もしかして、この子のパーティは全滅して、この子だけ転移結晶か何かで助かったとかじゃないか?そしてそのショックで記憶喪失…」
「確かに理には適ってる。だけどな、ダッカー」
キリトが遮った。
「ユイはな、あの格好のまま見つかったんだ。カーソルも出ない異様な状態でな」
「………そうか」
武装していなかった以上、戦闘から命からがら脱出という説も否定された。
自分の推論を一言でぶち壊されたダッカーは、少し恥ずかしそうに項垂れた。
「……考えれば考える程謎だな」
「だろ?それに、さっきパラメータを見ようとしたんだが…」
「……?」
「名前の後ろに、確か……MHCP001?だっけか。そんな数字があった」
(MHCP001?……どこか引っ掛かる……)
「それに、HPバー、EXPバー、レベル表示がないばかりか、コマンドがアイテム欄とオプション欄しか存在しない」
「…成程、確かに普通じゃあねぇな。
―――!おい、キリト。そう言えば
『?』
全員が頭に疑問符を浮かべる。
「ハラスメント防止警告メッセージだ」
「え?NPCじゃないから、それは出ないんじゃないの?」
「ナーヴギアの年齢制限にはもう一つ意味がある。何だか分かるか?
「あそっか!ユイちゃんが相手だったからそう見えなかっただけで、実際はあの時に警告メッセージが出る筈だったのね!」
「確かに、それは気付かなかった……」
キリトはユイを発見した時に一度抱え起こしている。
本来ならばそこで警告が出るべきなのだ。
しかしそれはなかった。と、いう事は。
「…………あいつは、ユイは何か特別な人間…? まさか、もしかするとそれですら……?」
「バグとは思わないの?」
「―――あの茅場がこんな重大なバグを放っとくとでも?」
「……確かに」
「とにかく、今は圧倒的に情報が足りん。こんな所で議論しても時間の無駄だろう」
「…だな」
そう言ってリュウ達は立ち上がる。
「さてキリト、いつ出発する?」
「今日の午後は丸々暇だぜ、ケイタ」
「何言ってやがる。お前ら休暇中なんだからずっと暇だろ」
「違いないわ。ちょうどこんな時間だし、まずはお昼にしましょう。あなた達も食べてく?」
「おっ、悪いなアスナ。お言葉に甘えさせて貰おう」
「おいリュウ、まさかこのために昼前に行こうって言ったんじゃあ……」
「いいじゃないか、テツオ。それじゃあ昼食後に出発という事で」
せっせと話が進んでいく。
しかしそんな中、ダッカーは頭に?マークを浮かべていた。
「あのー……出発するって、どこに?」
「決まってるだろ」
口を揃え、言う。
『はじまりの街』
ここでダッカーも納得する。
先程ケイタが言ったように、はじまりの街は全てのプレイヤーがスポーンする場所である。
そこにユイについての情報がある可能性は高い。
「でも、はじまりの街って軍のテリトリーでしょ?あんまり行きたくないな……」
「そこは心配いらん。ケイタ!」
「勿論、さっきディアベルさんに連絡入れておいたよ!」Σdビシッ
「グッジョブ!」Σdビシッ
「仕事が早いわね……」
呆気に取られるアスナ。
手際が良すぎて逆に恐ろしい。
「ママ、出かけるの?」
サチに抱かれたユイが尋ねる。
「うん、お昼ごはん食べたらね」
「そういえば今日は何なんだ?」
「ユイちゃんがいるし、フルーツパイ焼こうかな。
キリト君はいつものでいいでしょ?」
「ああ、マシマシで頼む」
「いつもの?ってなに?」
キリトの特別メニューに興味津々なユイ。
どうやら食べてみたいらしい。
「やめとけユイ。コイツは変態的なまでに辛くするから」
「そうよ、ユイちゃん。ムリに合わせなくていいのよ?」
「変態ってなんだ、変態って」
キリトの舌は辛い物に肥えている。
その強さたるや、劇物と言って差し支えない程の激辛サンドイッチを、リュウやサチがノックアウトする中嬉々として食べ続けたぐらいである。
しかしユイは、余程キリトと一緒がいいのか、
「パパとおんなじのがいい!!」
と言い張る。
そこまで言うのなら無理に止めはしない、と大人しく見守る事にした。
「はむっ、はむっ、はむ……。
もぐもぐ……ごくっ。おいしい!」
が、彼らの心配は必要はなく、むしろ美味そうに頬張っていく姿を見て、ある意味戦慄していた。
「なん……だと……!?」
「嘘だろ……!? あの辛さを……!?」
「化け物かよ……」
「化け物って何よ。ユイちゃんに失礼じゃない」
「やるな、ユイ。よし、今度は激辛フルコースに挑戦だ!」
「キリト君もノせない!!」
キリトとアスナの漫才が飛び交う光景を、リュウ達は微笑ましく眺めていた。
「全く…相変わらずだな」
「うん……。まるで本当の家族みたい」
余ったフルーツパイを片手に、彼らのやり取りを見守っていると、
「おにーちゃん。おにーちゃんとパパ、どっちがつよいの?」
ユイがこんな事を聞いてきた。
リュウとキリトは互いを見つめ……否、睨み合う。
「そーいやぁお前とやり合った事はなかったなァ……」
「そうだったな……。どうだ?ここで白黒はっきりさせないか?」
「悪くないな。お前が
「臨む所だ。表にで(ベシッ!!)らっ!!?」
アスナとサチが、一体何処から取り出したのか、ハリセンでキリトとリュウの頭をシバいた。
「これから出かけるんだからね!! 分かってる!?」
「遊んでる暇ないよ!! 日が暮れちゃう!!」
この時ユイは拙い感情で悟ったという。
一番強いのは、
第一層、はじまりの街。
ここは全てのプレイヤーのはじまりの場所であり、同時にこのデスゲームがはじまりを告げた場所でもある。
そこに再び足を運んだ俺達は、あの日の事を思い出していた。
「やっぱ良い思い出じゃあないな」
ダッカーが溢す。
同感だ。皆、このゲームを楽しむためにログインしたのだ、それがいきなり生死を賭けたデスゲームになったなど、理解は出来ても納得出来る筈がない。
命はそう簡単に失うべきものではないのだ。
しかし無情にも、このゲームで一人、また一人と死んでいき、あろう事か人間同士で命を奪い合う事もある。
なんと愚かなのだろうか。
だからこそ、ここにいる小さな命は守らなくてはならない。
在るべき所へ還さねばならない。
「確か向こう、東七区に教会がある筈だ。ディアベルさんによると、そこで子どもを世話してる女性がいるらしい」
ケイタが指し示す方へ向かうと、言う通り教会らしき建物があった。
「あら、どちら様ですか?」
ノックすると、ここの主と思しき女性が応対する。
「あの、迷子を見つけたんですけど、この子、記憶を失くしてるみたいで……。ここにこの子の友達とか、保護者の人がいないかと思ったんです」
「まぁ……。分かりました、中へどうぞ。私は、ここで子ども達の面倒をみてます、サーシャといいます」
「アスナです。お邪魔します」
サーシャと名乗る女性に促され、中に入ると、そこには軽く二十人を超える人数の、十四歳以下であろう子どもが集まっていた。
俺達を見るや否や、わらわらとこちらに群がってくる。
「なぁ兄ちゃん!アンタらホントに上の層から来たのか?」「剣見せて!」「かっこい~!どうやったら強くなれるの?」
多方向からの質問攻めに俺達がたじろぐ中、
「こんなにも子どもがいるなんて……」
ササマルは驚く、というより嘆いている様子だった。
考えてみれば当たり前だ。
このデスゲームが始まって直後、殆どの人間は状況を呑み込めず、部屋で絶叫したり、無意味に壁を殴りつけたり、酷い場合には精神に異常をきたして自分から命を絶つ者も現れた。
俺にもその覚えがある。
大人でさえ尋常ではないショックを受けたというのに、こんな小さな子ども達に耐えられる筈がない。
「早く何とかしてやらないとな……」
現実世界へ帰る。
それは誰かがこのゲームをクリアするという事。
そのために、俺達は戦う。
一刻も早く終わらせるため。
ここで待つ人達を解放するため。
死んでいった人達に報いるため。
そのためにまず。
「なぁ、この子について何か知ってることないか? 俺は友達だーとか、あそこで子どもを探してる人がいたーとか、何でもいいんだ」
ユイについての情報を探さなければ。
しかし、
「う~ん、知らねーなー」
「私達、二年間ずっと毎日一エリアずつ全ての建物を見て回って、困ってる子どもがいないか調べてるんです。だからそんな小さな子がいれば、すぐ気付くはずです。残念ですけど、はじまりの街で暮らしてた子じゃあないと思います」
「そうですか……」
俯き、ぎゅっとユイの手を握るアスナ。
気を取り直して、他に情報がありそうな場所を尋ねようとした時。
『!!』
索敵に反応があった。
「誰かがこちらに来る……」
「一、二、三、四……五人!?」
「何だってんだ、こんな所に!?」
「どうする?襲撃に備えて、陣形組んどくか・」
「いや……」
皆が混乱する中、俺とキリト、そしてケイタは冷静だった。
「この並び方……」
「このマーク……」
「間違いない。アイツだ」
同時に、扉がノックされる。
「悪い、俺に行かしてくれ」
サーシャに断りを入れ、扉を開ける。
そこには。
「やぁ。突然すまない。立場上、こういう時にしか直接会えないものだからね」
「やっぱりアンタだったか。直に会うのは久々だな、ディアベル」
アインクラッド統一解放軍総帥、『
To be continued...
この世界、ディアベルがご存命なお陰で軍はそこまでひどい暴走はしていません。
ただ、キバオウの反骨精神は健在ですが。
ディアベルの二つ名は「どうせならナイトにしちまおう」ってことで。
ヒースクリフが自分を守り抜くなら、ディアベルは仲間を守り抜く騎士というイメージです。