紅蓮の皇   作:Skullheart

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追記:サブタイトル変更しました。ボス戦て言っといてそこまでいかないのはやっぱりね…


Stairs to the truth

七十五層、コリニア市ゲート前。

 

「よう、キリの字。お前、ようやく復活か」

 

ヒースクリフからボス戦への参加を求められたキリトとアスナ。

待機場所となっているここに到着した彼らを、相も変わらず無精髭を生やしたクラインが呼び止めた。

 

「クラインさん、お久しぶりです。あなた方もボス戦に?」

 

何やら考え事をしているキリトに代わり、アスナが返事をする。

 

「おうさ!ここで引いたら、今まで攻略組としてやってきた《風林火山(おれたち)》の名が廃るってもんよ!」

 

「おーおー、立派だねぇ。何やら苦戦するって聞いたから参上したが、このロクデナシがやるってんなら俺は無用だったかな?」

 

クラインの後ろから大斧を担いだ色黒の大男、エギルが姿を現す。

 

「エギルさん、ユイちゃんの事、急に頼んですみません」

 

「いいって事よ。コペルなら店を見ながら子守も出来るだろうし、問題ない」

 

ユイは念のため、エギルの雑貨屋に預けてある。

そのエギルが今回攻略に参加するという事だったので、実際に面倒を見るのはコペルであるが。

 

因みにその頃その雑貨屋が幼女効果で大繁盛し、更にユイが手伝いをテキパキとこなすので、店の売り上げが急激に上昇しているのを彼らは知る由もなかった。

 

「でよキリの字、休暇はどうだったんだ?」

 

「…………」

 

クラインがキリトに話しかけるが、相も変わらずキリトは顔を伏せ、何やら思い悩んだ表情をしていた。

 

「おいキリの字?」

 

「あぁ、悪いクライン。で、何の話だっけ?」

 

「おいおい、大丈夫か?お前にしちゃ、らしくねぇな」

 

「そうなんですよ。さっきからずっとこんな調子で………」

 

「具合でも悪いのか?」

 

「大丈夫、ちょっと考え事してただけだ」

 

そう言いつつ、また考え込むキリト。

彼の視線の先には、既に到着してケイタ達と始まりの合図を待っているリュウの姿があった。

 

 


 

 

sideキリト

 

少し遡って、二時間前。

 

ヒースクリフとの話し合いを終えた俺は一人、コリニアの裏路地にある一軒の家に入った。

そこにはリュウが一人、腕を組んで待ち構えていた。

 

「こんな所に呼び出して何の用だ?それに、アスナにも秘密で来いって………」

 

「────自分とのレベル差10以下、もしくは自分より高いレベルの敵Mobを三十分以内に800体倒す。

自分とのレベル差5以下、もしくは自分より高いレベルの敵Mob500体とボスクラスモンスター一体を四十分以内で倒す。

この二つ、何の条件だと思う?」

 

「?」

 

突然の質問に首を傾げる。

これまで数多の条件をクリアしてきた俺でさえ見当もつかない。

しかし、どこかで耳にしている────自分の本能はそう叫んでいた。

 

「途轍もなく厳しい条件だな………。クエスト発生条件にしてはキツすぎるし、ボスが絡んだ条件のクエストなんて聞いた事がない。だとするとスキル、それもエクストラ………」

 

俺はハッとした。

ここまで条件が厳しいエクストラスキル。俺には一つだけ思い当たる節があった。

 

「気付いたようだな。そう、一つ目は【紅蓮】、二つ目が【紫電】の出現条件だ」

 

ユニークスキル。

このゲームにおいて、他とは一線を画す絶対的なアドバンテージをもたらすもの。

彼らはその出現条件を、こうもあっさりと話してしまったのである。

だがその時、俺の中に不可解な疑問が生じた。

 

「ちょっと待て。習得方法がはっきり表示されないエクストラスキルの条件を、お前はなんで知ってる?それにそれが解ってるなら、どうしてみんなに広めなかった?もしかしたら、他の誰かが習得できたかもしれないのに………」

 

「まずなんで知ってるかってトコだが、俺らの場合それが()()()()()()()。『条件達成』っていうメッセージに書かれてな。こっからは俺の推測だが、本来なるはずだったSAO、そこでのユニークスキルってのは、その条件が使われるのは最初の一回だけって設計なんだと思う」

 

「最初の…一回だけ?」

 

「ああ。このアインクラッドを攻略する、その中心となる人物。それの証として一つずつ与えられる筈だったんだ。ある種の称号みたいなもんだ」

 

「だがMMORPGで、そんな他人と格差を生むものがあっていい筈が………」

 

「そ。もしかしたら他にそれを持つに相応しい奴がいるかもしれないし、何より不平等だ。だが考えてみろ。()()()()()()()()()()()()()()S()A()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…!」

 

忘れていた。このゲームは本来ならばデスゲームではなく、アーガスによる大人気VRMMORPGになる筈だったという事を。

これが普通のゲームだったら。

 

「殺して、奪う」

 

それが最も平等で、プレイ意欲の向上に繋がる手っ取り早い方法。

同時に、今のSAOでは殆ど誰もしないであろう方法。

 

「正解だ。なら一回ぽっちしか使われない最初の条件は隠しても意味ねーし、むしろ表示してユニークスキルだってはっきりさせた方が良い。つまりはそういう事だ。

で、次にどうしてこの情報を拡散しなかったかだが、結論から言おう。拡散はした」

 

「………へ?」

 

余りに意外な答えに、俺は素っ頓狂な声を上げた。

 

「【紅蓮】を取得した時にな、この情報は一度匿名で流させてある。だが結果、同じものを習得できたって話は聞かなかったし、一週間ぐらいでデマだって片付けられたな」

 

そういえば、と自分もその噂を耳にしたことを思い出した。

結局その通りにしても出てこなかったので俺もデマだと思っていたが、まさか本当にユニークスキルだったとは。

先程どこか心当たりがあると思ったのは、こういう事だったのだ。

 

「さて、ここからが本題だ。お前も持ってるだろ、ユニークスキル。まずはそれについてだ」

 

「…!」

 

本題と言われ、自然と喉が鳴る。

 

「さっき言ったように、俺達のユニークスキルは習得した時習得条件が記されたメッセージが届いた。だがお前のはどうだ?」

 

またしても俺はハッとなった。

そういえば、【二刀流】にはそんなメッセージも、厳しい条件を満たすような事をした覚えも無いのである。

 

「そう。極めて異例なんだよ、お前のは。朝いきなりスロットに入ってました、なんて考えらんねぇ」

 

改めて、自分のスキルの特異さに気付いた。

暫し頭を捻らせていると、リュウが自身の考えを語り始めた。

 

「考えられるのは二つ。一つは、あるパラメータが一番高いプレイヤーに贈られるパターン。これならそもそも達成する条件がないから、条件が分からないって所には頷ける。だが通知がないっていうのはまだ少し引っ掛かるし、何よりお前が一番鍛えてるであろうスピードで言えば、既にユニークスキルを持ってる俺とサチを除けば一番高いお前とアスナは拮抗状態にある。そんなタイミングでお前だけにユニークスキルが行くとは考えにくい」

 

考えてみれば確かにそうだ。

俺は攻撃力と機動力を両立させるため、筋力と敏捷力に極端な差を設けていない。

だからレベルは違えども、速さはスピード特化のアスナの方が高い時があるのだ。

 

「なら、もう一つは………」

 

「────直接的贈与。このゲームの支配者、茅場晶彦がお前をこのスキルの所持者に相応しいと判断し、管理者権限でお前に与えた、というパターンだ」

 

「………」

 

薄々気付いてはいたのだろうか、あまり驚きはしなかった。

 

「俺はこの線が一番可能性が高いと思ってる。何故なら、これが本当ならお前のスキルの特別性、特異性の辻褄がピッタリ合うんだからな」

 

「────だったら聞くが、どうして茅場がそんな事をするんだ?奴がそうしなきゃいけない理由がどこにある?」

 

「お前なら、大体想像ついてんじゃねぇの?」

 

う、図星。

やはりこちらの心は読まれているらしい。

 

「………【二刀流】が、アインクラッド攻略の最大の鍵だから、か」

 

茅場は俺達に、命を懸けたゲームをさせている。

そう、ゲームなのだ。

ゲームとは面白くなくてはならない。

たとえそれで攻略が早まったとして、ゲームとして面白くなればそれを是とする。

これまでプレイしてきて分かった。奴はそういう男だと。

 

「────【二刀流】についての話は分かった。だがそれが何だって言うんだ?まさかこの話だけのために、俺を一人呼び出したんじゃないだろ?」

 

「勿論だ。次のステップへ移ろう。

お前の【二刀流】が茅場から直接与えられた物だとして、何故お前が選ばれたと思う?」

 

「え?そりゃあ、自分で言うのは何だけど、奴がそれに適任だって思った人間に────」

 

「それをどうやって見分ける?」

 

「どうやってって………。そうだな、俺ならパラメータを見て判断するか、もしくは────」

 

俺はもう一度ハッとした。

 

「まさか………!?」

 

そうだ。茅場(アイツ)なら。

このゲームの存亡を左右する代物を、画面を通した情報だけで選んだ人物に渡す筈がない。

 

「そのまさかだ。俺の推測が全て真実なら、茅場晶彦はこのゲームにログインしている可能性が極めて高い」

 

「そんな………!」

 

バカな、と思ったが、そう考えるとすとんと腑に落ちた事があった。

そうだ。あれ程の男が、デスゲームを作っただけで満足する訳がない。

必ず自分もそこに加わり、プレイヤー側の視点も味わいたいに違いない。

自分が作り出したこのSAO、そのゲームとしての面白さに俺達がどんな反応をしているか。それを間近で見たいに違いない。

そうなると、茅場がSAOにログインしていても何ら不思議はないのだ。

 

「だが仮にそうだったとして、それを特定するのは………!今このアインクラッドには全部で六千人以上のプレイヤーが────」

 

そこまで言いかけた時、俺は【二刀流】が直接与えられたという仮説を思い出した。

もし【二刀流】が攻略の鍵だったなら、半端な中層プレイヤーに渡したりしないだろう。少なくともトップレベルの実力は持っている必要はある。

つまり、茅場が【二刀流】を与える人物の選定、その前提条件は。

 

「攻略組………!」

 

そう、攻略組である。

そして、攻略組の人材から【二刀流】に適任な者を探すなら、自分も攻略組に加わればいい。

 

「そう、お前もそこまで辿り着いたと思うが、茅場は攻略組の中にいると思われる。

さてここで質問だが、お前は誰が茅場だと思う?」

 

この問題に俺は頭を抱えた。

攻略組が精鋭の集まりだと言っても、そこには三百人以上が含まれる。

それを一人一人検証していくのは実に骨が折れる。

 

「ん…?あれ…?」

 

ふと、頭の中を何かがよぎった。

しっくり来そうで来ない感覚。

思い出したくない、思い出してはならないような事。

 

「────実は攻略組にたった一人だけ、全ての条件にピタリと当て嵌まる人物がいる」

 

………あ。

俺は理解した。その人物が誰であるかを。

もしそうなら、どうやって【二刀流】適任者の選別をしたのかも、何故思い出したくなかったのかも、その人物の不可解な言動も、全てに説明がつく。

成程、だからアスナにも秘密にしろって訳だったのか。確かにこれは絶対言えない。

 

「『聖騎士』ヒースクリフ。アイツが茅場晶彦だと、俺はそう睨んでる」

 

リュウの口から告げられたその男の顔、そして言動を俺は何度も頭の中で反芻させていた。

奴が徹底してクエスト参加に消極的だったのは、その全てを知っていたから。

奴が時折見せる人を慈しむような表情は、文字通りこの世界の神だったから。

俺が思い出したくなかった理由は、それが本当ならもう一度奴と対峙しなくてはならないから。

次々に埋まっていく、俺のヒースクリフに対する回答欄。

しかも、とリュウは話を続けた。

 

「俺は実際には見ていないが、サチ達がしっかり記憶していたよ、奴の反応の異常さを。人間の動きじゃあないってな」

 

忘れもしない、二週間前の決闘。

俺の渾身のスターバースト・ストリームの最後の一撃、防御が絶対に間に合うはずのないタイミングの攻撃を、異常な速度で盾を動かし防いだのだ。

 

「オーバーアシスト………」

 

俺は無意識にそう呟いていた。

それに同意するように、リュウもこくりと頷く。

 

「そして奴がそれを使えるのなら、あの伝説もイカサマである可能性が高い」

 

オーバーアシストが使えるという事は、他の管理者権限も持っている事も十分に考えられる。

例えば────不死属性化。

自身のHPが注意域に入る瞬間にそうなるように仕向ければ、鉄壁の守りを持った無敵の騎士の誕生である。

同時にあの反応速度も、皆の目が集中する決闘でそれを公開したくないがため、オーバーアシストを使ってしまったと解釈できる。

 

「成程、そうまでして『最強の味方』を印象付けしたのは、その最強の味方が最悪のラスボスになるどんでん返しのための演出って訳か」

 

奴が茅場晶彦だったなら、戦う舞台は当然最終ステージ、第百層。

ただし奴の事だ、突然裏切ったりはしないだろう。一番遅くて九十八層、普通に考えて九十五層辺りで正体をばらし、俺達を底知れぬ絶望の淵に沈めるに違いない。

 

「そういう事だ。ま、さっきも言った通りこれはただの推測、可能性の一つに過ぎない。決定的な証拠が一つもないんだよ。だから、要はお前に『ヒースクリフには警戒しろ』って言いたかっただけだ」

 

「────本当にそれだけか?」

 

まだ何か隠している────そう感じた俺はカマをかけてみた。

リュウは肩を竦め、観念したように話し出した。

 

「さっき『【二刀流】がアインクラッド攻略の鍵』って言ったが────俺は【二刀流】が、ヒースクリフの【神聖剣】に対する切り札だと考えている」

 

「【二刀流】が、【神聖剣】の────!?」

 

「戦略的な理由とかじゃない。俺にも具体的な事が言える訳じゃないが、奴が直接与えたとするなら、お前がそういう役割を命じられたと考えてもおかしくはない」

 

確かに決闘の時、結果的に防がれたとはいえあと一息の所まで追い詰める事は出来た。

そこに何らかの相性があったなら、俺がヒースクリフへの切り札だという事も納得がいく。

 

「今度こそこれで終わりだ。まぁ、まだ全部仮説だからな。念のため言っとくが、早まるんじゃねぇぞ?」

 

「ああ、分かってるよ────」

 

 


 

 

時間は戻り、コリニアゲート前。

 

「キリト君、ちょっとキリト君!?」

 

「!! わ、悪いアスナ。どうした?」

 

「どうしたもこうしたも────」

 

「この私が目の前にいる事にも気付かないとは……。

らしくないのではないか?キリト君」

 

「!!!」

 

反射的に飛び退きそうになるのを理性で必死に抑える。

そこにはいつの間にか、先程警戒しろと言われたばかりの人物である『聖騎士』ヒースクリフが部下を連れて自分の目の前に来ていた。

 

「あ……ああ、すまない」

 

「団長の前で考え事とは………余程深い悩みだと見えるな、少年」

 

彼の後ろからゴドフリーが姿を見せる。

今日も相変わらず鈍重そうな装備である。

 

「ふむ、今は脱退中とはいえ、君は私のパーティメンバーだったのだ。その悩み、この私が聞いてやらん事も無いぞ?」

 

「いや、それには及ばないさ。あんたらが首を突っ込むほどの事じゃない」

 

「むぅ、しかし────」

 

「その辺にしておけ、ゴドフリー。あの時のお詫びをしたいのは解るが、あまりしつこいのも良くないだろう」

 

「だっ団長!?」

 

ヒースクリフに内心を見透かされ、軽く焦るゴドフリー。このオッサン、中々にツンデレである。

オッサンのツンデレとか誰得とは言ってはいけない。

 

「しかし、本当に問題ないのだな?」

 

「ああ、心配ない」

 

「そうか、なら良いのだ。【二刀流】、頼りにしているよ、キリト君」

 

そう言うとヒースクリフは身を翻し、

 

「諸君、来たるべき時は来た。我々の前に立ち塞がる門番を倒し、この世界の終焉への更なる一歩を進めようではないか!!」

 

声高らかに叫んだ。

それに応えるように、周囲から力強い歓声が沸く。

 

「ここにボス部屋前まで続く回廊結晶がある。それで────」

 

ヒースクリフが説明のためその場を離れる。

すると、

 

「キリト君────」

 

アスナが静かに話しかけてきた。

 

「この二週間、本当に楽しかったよね。ユイちゃんと狩りに出かけたり、四層の海に遊びに行ったり────まぁ、あの時はユイちゃんがレアモンスターに襲われて大変だったけど………。あとは、ニシダさんの釣り大会にも出たっけ。キリト君、ユイちゃんに負けてふてくされてたね」

 

「ああ、全部掛け替えのない、いい思い出だ」

 

「みんなで約束したもの。三人ずっと一緒に暮らすって。キリト君、君が何に悩んでいるのかは分からないけど、今は絶対、生きて帰ろうね」

 

「……ああ!」

 

そうだ。今はヒースクリフの正体など関係ない。目の前の事に集中しなければ。

絶対に生き残る。そして、あの家にもう一度集合する。

固く胸に刻み込んで、俺は開かれた光の門をくぐった────。

 

To be continued…

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