紅蓮の皇   作:Skullheart

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FLOOR BOSS on 75th 《Ⅰ》

ごごぉぉぉぉぉ……

 

重厚な音と共に、巨大な扉が開く。

その瞬間、プレイヤー達は一斉に散開し、最もボスの現れる可能性が高い部屋の中心を取り囲むように移動した。

 

──四分前──

 

「諸君、ここで彼から話があるらしい」

 

ヒースクリフの言葉で出てきたのは、今やすっかり実力者の仲間入りとなったケイタだった。

 

「皆さん、ギルド《月夜の黒猫団》でリーダーをしています、ケイタです。

早速ですが、これから始まるボス討伐で注意して貰いたい事が二つあります。

一つは、ボスの攻撃についてです。皆さん、先の偵察隊が部屋に入った後、次に部屋が開くまでどのくらいかかったかご存知でしょうか?」

 

「確か、五分以上かかったと聞いているが」

 

答えたのは、DDAのシュミットだった。

 

「その通りです、シュミットさん。しかし考えてください、()()()()()()()()()()?彼らは攻略組の中でも精鋭と呼んで差支えない実力を持っていました。装備も最新鋭の物を揃えていました。そんな彼らが、たった五分と少々で全滅するでしょうか?いくら扉が閉まり脱出不可能になったからと言って、パニックになって本来の実力を発揮できなくなる程彼らは脆くありませんでした。結晶無効空間の可能性も把握していました。そんな彼らが、一人当たりたったの三十秒とちょっとで全滅したのです。ここから導かれる結論は何でしょうか?」

 

「…………」

 

その瞬間、周りの空気が一瞬にして凍り付いた。その言葉の意味を理解してしまったからだ。

 

「つまりボスは即死級の攻撃を持っている可能性が高い、という事だね?ケイタ君」

 

その静寂を破ったのはヒースクリフだった。

まともに食らうだけで死ぬ────それはこのゲームにおいては、絶望に等しい事実だった。

 

「はい。防御の方は"作戦"の範疇に入っているので問題はないと思われます。以前俺達が戦った即死攻撃持ちの敵は大振りの攻撃が多く、避けるのはそれほど難しくありませんでしたので。今回はクォーターポイントでそれより厳しくなっているかもですが、絶対に避けられない程理不尽なものではないと思われます」

 

「了解した」

 

シュミットが頷く。

ケイタは話を続ける。

 

「もう一つは、倒した後も油断しないで欲しいという事です。

七十四層でもそうでしたが、今回も第二形態がある可能性が極めて高いです。百パーセントと言っても過言ではないでしょう。しかも、間違いなく初めよりも強化されます」

 

「………」

 

また暫くの沈黙が流れた。

一撃が命取りとなるボスが強化されて復活するなど、気が滅入るどころの問題ではない。

 

「その時は、《スキルバースト》を持つ彼らが正面戦闘を請け負います。皆さんはそれを掻い潜って攻撃してください」

 

ケイタの視線の先、サチとリュウに全員が注目する。

 

「任せろ、威力がデカイやつは俺が抑える」

 

「私も、精一杯頑張ります!」

 

二人の実力には懐疑的な者もいる。

しかし、彼ら以上に頼れるプレイヤーがいない事もまた事実だった。

 

「俺からは以上です────」

 

 


 

 

時は戻り、ボス部屋内。

全員が移動を終了し、所定の位置につく。

彼らの後ろでズズゥゥウウン、と扉が閉まる音が鳴った。

 

「………」

 

そして暫しの沈黙。

いつ即死級の攻撃が来るか分からないのだ、警戒を怠る訳がない。

 

すると突然キリト達が、ばっと上を見上げた。

 

「────おいでなすったな」

 

リュウのその声が合図だったかのように、上から巨大なモンスターが落ちてきた。

白い骨のようなムカデの体に、人ならざる形の頭蓋骨。その脇には骨鎌となった腕が生えている。

《The Skullreaper》────それがこのボスの名称だった。

 

落ちてきた骨ムカデはそのまま大鎌を振り回す。

いつもなら部屋の真ん中あたりに陣取って迎え撃つため、避けられずにまともに食らう人が何名かいただろう。

しかし中心を()けて取り囲むように散開していたため、回避の余裕が生まれた。

全員が強攻撃を警戒していたため、誰もまともに食らう事はなかった。

 

「よっし、出だしは順調!このまま反撃に出るぞ!!」

 

攻撃を避け切ったリュウ達は、一斉にボスの方へ………

 

ではなく、一斉に自分の左方向へとダッシュした。

ボスの周りをぐるりと囲むプレイヤー達は、高速で時計回りにローテーションすることになる。

 

これぞケイタ考案の──伝達はヒースクリフが行なったが──"メイルシュトローム作戦"である。

ぐるぐると高速でローテーションすることでボスのターゲットを惑わし、翻弄する作戦。小回りが効かないタイプのボスを想定したものだ。

 

今回のボス部屋の面積から、この作戦が通用する可能性が高いと判断したケイタが具申したのだが、これがなかなかに上手くはまっている。ターゲットが次々に入れ替わるせいで骨ムカデが単体攻撃するのを妨げられ、後ろに回ったプレイヤーは安定した攻撃が出来るのだ。

 

ただ、常に走り続けなければならない関係上硬直が生じるソードスキルは使えない。なので通常攻撃でじわじわと削っていく。

 

「キシャアアアアアアア!!」

 

とうとう痺れを切らして範囲攻撃を仕掛けてきた。が、彼らに焦る様子は全くない。

 

「よし、想定通りだ!ネモ、リック!行くぞ!」

 

輪から飛び出したのはシュミット達三人の壁戦士(タンク)

彼らは輪の内側に出て、全体攻撃を三人がかりで弾き切った。余波ダメージは食らうものの、元々壁役である彼らには些細なダメージである。

 

このように輪の中に均等に壁戦士を挟む事で、どのタイミングで強力な全体攻撃が来ても対応を可能にしている。

 

そしてそれだけではない。

 

「テツオ、どうだ?」

 

「今の攻撃なら十三秒前から予測可能だ」

 

「流石」

 

"メイルシュトローム作戦"第一フェーズ。

テツオの観測で攻撃時の動作パターンを解析。骨ムカデの行動を丸裸にする。

 

どんな時だろうと情報は重要である。しかし、今回のボス戦は事前情報が少なくならざるを得なかった。第一フェーズは、言わばそれを取得するための時間稼ぎなのだ。

違うパターンの攻撃が来ても安定した防御で抑え込み、解析される。

こうして一つ、また一つと情報を増やしていき、同時に骨ムカデの体力があと三分の二まで削られた時。

 

作戦は第二フェーズを迎える。

 

「十秒後に叩きつけだ」

 

「サチとシュミットさん!クラインさんとヒースクリフさん!エギルさんとアスナ!チェンジ!」

 

ケイタに名を呼ばれた者達が、それぞれ場所を入れ替えた。

近い距離同士で入れ替わるため、隙が生じにくくスムーズに移動することが出来る。

そしてテツオの予想通り叩きつけが繰り出される。

 

「ぬん!」

 

シュミット、ヒースクリフを中心とした五枚もの盾が攻撃を防ぐ。

余波ダメージ及び衝撃波も最小限に留め、逆に骨ムカデには大きな隙が出来た。

 

「Go!」

 

ケイタの合図で、先程防御した五人を除く全員が一斉に単発系ソードスキルを繰り出す。

硬直の短い単発系(これ)なら、敵の攻撃するタイミングとそれで生じる空白を計算すればギリギリ間に合わせることが出来る。これでダメージ効率がさらに上がった。

 

「八秒後に薙ぎ払い!」

 

「ナムさんとシャロンさん!キリトとレドさん!ジャックさんとゴドフリーさん!チェンジ!速度一段下げ!」

 

次々指示を飛ばしていくケイタ。

壁の位置を上手く調整し、防御を構築させていく。

 

「! 新しいパターンだ!」

 

「位置そのまま、速度二段上げ!」

 

勿論情報の解析にも抜かりはない。どんどん手を狭めさせていく。

 

それをさらに続けること一時間半。

骨ムカデのHPはついに最終ゲージまで到達する。

 

そして。

 

「メイルシュトローム作戦、最終フェーズ発動!」

 

ケイタの指示によって、今まで休みなく回り続けていた輪の回転が、ぴたりと止まった。

次の瞬間。

 

『でやぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

全員一斉に骨ムカデに飛び掛かった。

そして放たれるソードスキルの嵐。大きくHPを削る事に成功する。

 

しかもそれだけではない。

前面はシュミットやヒースクリフといった壁戦士に加え、怯みを取りに行くためリュウ、キリト、エギル、ゴドフリーなどの高火力組を。

側面ではアスナ、サチ、クラインを中心とした高機動組が遊撃をかけている。

この配置をケイタは、第二フェーズの内に完成させていたのだ。

 

「さっすがケイタだ。マジで予定通りにしやがった!」

 

常に回り続ける輪を、その場その場での壁を作りつつ即興で狙った配置に組み替えるなど、容易な事ではない。

この場にいた誰もがその頭のキレに舌を巻いた。

 

「ならそれに応えないとな!」

 

そう言うと、リュウは骨ムカデの懐から垂直に真っ直ぐ跳び上がった。

 

「サマー・サンライズ!!」

 

ドゴン!!

まるでプロミネンス、というより炎のエフェクトのせいでまんまプロミネンスなサマーソルトキック。

下顎を思いっきり蹴り上げられた骨ムカデはターゲットを見失い、大きな隙を作った。

 

「行けキリト!!」

 

「ああ!合わせろよ、エギル!」

 

「おう!!」

 

ズガガン!!

前腕の付け根にそれぞれの全力を叩き込む。

反撃する暇もなくバランスを崩す骨ムカデに更なる追撃が迫る。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

スカカカン!!

アスナの正確無比な連撃が節足の隙間を丁寧に打ち抜いていく。

 

「サンダー・ストリーム!!」

 

その反対でサチも攻撃。

シュババババ、と電流走る一閃が関節めがけて放たれる。

 

『おおぉぉぉぉぉ!!』

 

クライン、ダッカーも負けじと攻撃。

二人の刀の軌道は骨ムカデを挟んでまるで鏡のようにぴたりと一致していた。

 

「このタイミング!行くぞ!」

 

『おおぉ!!!』

 

骨ムカデの背後からケイタ達が一斉に突撃&連続スイッチ攻撃。

時々スイッチのタイミングが合わないも、ササマルが自然な形で間隔を埋める。

 

「あれ?俺の活躍これだけ?」

 

これだけ。

 

「さぁ骨ムカデ。第一ラウンドのフィナーレといこうじゃないか」

 

リュウが大きくメイスを振りかぶる。大技の準備だ。

それを察知した骨ムカデも攻撃を仕掛けるも、

 

『ふっ!!』

 

がぎいぃぃぃぃん、と二振りの鎌はヒースクリフ、シュミットという二枚の分厚い壁に阻まれる。

御膳立ては整った。骨ムカデのHPは、残すところあとわずかである。

 

「吹っ飛べ!! 天地開闢(テンチカイビャク)!!」

 

放たれた衝撃波はその顔面に命中、さらにそのまま全身を伝い、宣言通りバラバラに吹っ飛ばした。

残りのHPも消し飛ばしているのは言うまでもない。

 

「………」

 

しかし彼らは油断しなかった。

ここからどう出てくるのか。それを警戒し、未だ戦闘態勢を維持していた。

 

カシャ…

 

『!!!』

 

そして動き出した。

それは、骨ムカデの頭部だったモノ。ゆっくりと浮き上がり、彼らの前に立ちはだからんとする。

 

「何だ……?亡霊のつもりか?」

 

キリトの呟きが木霊する。

がしかし次の瞬間、彼らは驚くべきものを目にする。

 

カシャ…カシャカシャ……ヴヴゥゥゥゥゥン!

 

「んな……!!」

 

二振りの鎌、そして全ての脚部が浮上し、彼らに向けられている。

 

「なぁおい、これってまさか────」

 

ギュン!! ビュビュン!!

クラインの言葉を遮るように、骨ムカデの脚部()()()()()が一斉に彼らに襲いかかった。

 

To be continued…

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