紅蓮の皇   作:Skullheart

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FLOOR BOSS on 75th 《Ⅱ》

「!くそ!」

 

何とか弾くキリト達だったが、周りはそうはいかなかった。思わぬ奇襲にHPが二割程減ってしまう。

 

「!!」

 

それだけではない。弾いた筈の脚部だった刃が旋回し、さらに追尾してくるではないか。

 

「ウワァァァァァァ!!」

 

突如響く断末魔。キリト達が振り返ると、そこには浮遊する刃に集中攻撃されているプレイヤーがいた。

 

「く、来るな!来るなッ!!」

 

悲痛に叫ぶ彼のHPは既に危険域(レッドゾーン)に突入している。

しかしそんな事はお構い無しに刃は舞い、彼の残り少ないHPを削っていく。

 

「チッ!」

 

救援に向かいたいが、キリト達にも刃は向けられている。それを防ぎ続けるのに精一杯だ。

 

「やっ止めろ!! 止めてくれ!!」

 

別の方向からも悲鳴が聞こえる。

気付けば今この戦場は阿鼻叫喚極まる地獄と化していた。四方八方どこからも助けを求める声がする。

 

「ギャアアアァァァァァァァ!!」

 

遂に最悪の事態が起こってしまう。

縦横無尽に飛び回る刃で動きを封じられていた先程のプレイヤーに、本体が大鎌を振り下ろしたのだ。

彼にはひとたまりもなく、途轍もないスピードでHPを減らしていく。

そして…

 

パリィィィィン……!!

 

甲高い音を立てて、プレイヤー「だった」モノ達はポリゴンと化し、砕け散った。

 

「!! ッ…!!」

 

それは死というには、あまりにも残酷過ぎた。飛行する刃に手も足も出ず、巨大な鎌に叩き潰される。なんと惨たらしい事か。さらにその恐怖は伝染し、徐々に動きを鈍らせる要因となる。

自分一人を守る事で精一杯な程混乱している状況、その間に一人、また一人と儚くその命を散らしていく。

 

この状況を打開しなければ。誰もがそう感じた。

しかしそれにはまずこの刃の嵐に対処しなければならないという事である。

質の悪い事に高速で飛び回り、しかも数が多い。

全方位から迫る攻撃。一体どうやって戦えというのか、と何処からか焦燥が広がり始めた時。

 

「SAOでソードビット相手にするとは思わなかった」

 

一見呑気に聞こえるリュウの一言。しかしそれは彼が冷静である事を意味していた。

 

「行けるか、ケイタ?」

 

「任せろ」

 

互いに頷き合う二人。強固な信頼がそこにはある。

それ故に、彼らには余計な言葉など必要ないのだ。

 

「指揮系統を二つに分けます!一つは本体への攻撃、こっちは俺がやります!もう一つはビットへの対応!アスナ、頼む!!」

 

「わ、私!?」

 

突然の指示に、アスナは素っ頓狂な声を上げる。そこにすかさずリュウが補足を加える。

 

「ソードビットのスピードについていけて且つ頭回る奴ぁ、お前意外いないだろ!」

 

「りょ、了解!」

 

納得したようにアスナは頷く。

 

「速さに自信のある人はアスナの指揮下!それ以外は本体の攻撃に回って!壁戦士(タンク)も攻撃に参加!ゴドフリーさん、重攻撃系プレイヤーの指揮、お願いします!リュウ、サチ!頼む!!」

 

『了解!!』

 

すっかり指揮官が板についてしまったケイタ。それに対し、誰も疑問を呈する事なくそれぞれ与えられた役目を務めんとする。

バラバラだった統率は、瞬く間にして纏められていった。

 

「さあ行くぜ!!

【紅蓮】!!」

 

「【紫電】!!」

 

『《スキルバースト》!!』

 

「紅く燃え滾る焔よ、散りゆく命に捧ぐ、怒りの雄叫びを上げよ!!」

 

「雷鳴、大空に轟く。気高き女神よ!! 聖なる槍で裁きの雷を下せ!!」

 

『《解放(リベレーション)》!!』

 

「現れろ、《アレス》!!」

 

「降臨せよ、《アテナ》!!」

 

二つの大いなる力《スキルバースト》を使い、骨の怪物に対峙するリュウとサチ。

その姿は何よりも頼もしく、誰もがそこに勝利への希望を見出だしていた。

 

「フルパワーだ!! 劫火(ゴウカ)鉄拳(テッケン)!!」

 

「テンペスト・ノヴァ!!」

 

_ _ _ _ _ _ _ _ _

 

 

ソードビット対処の指揮を任されたアスナは、混迷極まるフィールドを駆けていた。

 

(私の指揮下(した)にはスピード特化の人ばかり……。要は『防げ』じゃなく『打ち落とせ』って事ね)

「単独行動は危険よ、二人一組で互いの死角をフォローして!そこ、止まっちゃダメ!常に動かないと的になるわ!撃墜最優先は本体周りのビット!攻撃陣の露払いをお願い!」

 

『了解!!』

 

「アスナ!」

 

彼女を呼ぶ、聞き慣れた声。

自らの周りのソードビットを二刀で叩き落としながら、キリトが駆け寄って来る。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ。キリト君、私の背中、お願い出来る?」

 

「当たり前だ!」

 

互いに背中を合わせ、共に駆け出す。

その様はまさしく彗星。群がるソードビットを巻き込みながら、戦場を巡る白と黒の光。どんどん加速してその勢いを増していく。

 

「左翼、防衛薄いわ!そこのペアお願い!」

 

(アスナ!)

 

(!!)

 

死角ギリギリからの攻撃を打ち落とす。彼らの心は極限まで同調し、最早言葉を介さずとも通じ合い瞬時に分かり合っていた。

カシャン!カシャカシャン!!

彼らの周囲にはビットの落ちる音が途切れず響いていた。

 

「すごい……。完全に息ピッタリだ」

 

「俺らも負けてらんねーな!ササマル、ギアもっと上げろ!」

 

「あいよ、ダッカー!」

 

ダッカーとササマルのペアも負けじと加速する。

ダッカーの不規則な軌道でビットを誘い込み、ササマルが一網打尽に仕上げる。

 

「ぐっ!」

 

「あがぁっ!」

 

それでもそこかしこから聞こえる悲鳴。着々とその数を減らしているとはいえ、数的不利は続いているのだ。

だがその時。

 

『!!』

 

急にビットが四人の周りに集まりだした。どうやら彼らの撃墜数が飛び抜けて多いため、攻撃を集中させて一気に倒そうという腹のようだ。

普通ならこれをピンチと取るだろう。いずれ始まる、高速で飛行するビットによる集中攻撃。見ていた者は誰もがこの光景を想像し、彼らの死を悟った。

 

が、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラッキー☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが漏らしたその言葉と共に、《ダブルサーキュラー》《スター・スプラッシュ》《旋車(ツムジグルマ)》《バーチカル・スクエア》が同時に繰り出される。

 

二刀(キリト)細剣(アスナ)

(ダッカー)(ササマル)

 

それぞれから放たれたソードスキルは、周囲のソードビットを一つ残らず叩き落した。

 

「いやー助かった。あんな綺麗に纏まってくれるとは思わなかった」

 

「なんか最近活躍なかったからなぁ。すごくスッキリ」

 

彼ら少数精鋭にとっては包囲される事など日常茶飯事、集中攻撃の対処など造作もない。

寧ろ対象が他のプレイヤーに散り、それを庇いながら戦う方が煩わしかったのだ。

 

「これでもう全滅かな?」

 

見る限り彼らが先程墜とした分でほぼ終わりであり、残った数基も程無くして全滅した。

それを確認し、自分達のHPをチェックする。

 

「結構削られたけど…まだ抑えられた方か」

 

「ひぃふぅみぃ……。さっきより三人少ない」

 

「そうか……」

 

三人死んだ。その事実に二人はもう少しの動揺も見せない。

ここで戦っている以上、死ぬ可能性は0ではないのだ。ここにいる誰もがその覚悟をして来ている。そこで余計な気の迷いを見せ更なる犠牲者を出したとなれば、亡くなった人たちに失礼というものだ。

 

「さて、あっちはどうなってるかな……」

 

 

振り向いたダッカーは目を疑った。

そんなバカな、幻じゃないのか。

しかしどんなに瞬きをしても、目の前の光景は変わらない。

 

「そんな、嘘だろ……?」

 

今まで無敵とも言える強さを誇っていた《アレス》が、まるで屈するかのように跪いていたのだ。

 

_ _ _ _ _ _ _ _

 

 

時は少し巻き戻る。

 

「な………!?」

 

《劫火の鉄拳》と《テンペスト・ノヴァ》。

放たれたその技はまさに必殺、一瞬にしてボスのHPを大量に削り取る筈だった。

しかし。

 

「バリア………だと………!?」

 

それを防いだのは不可視の壁だった。

《スキルバースト》をも封殺する壁。他のプレイヤーの攻撃が通っている所からして、対《解放》用だと推測する。

 

(クソッ、ここに来て俺達の《スキルバースト》が通用しないとはな………。どうする?解除して普通に戦うか────)

 

逡巡していると、真横からの殺意に気付く。

咄嗟に防御の構えを取り受け止める。それは、脚と同じくビット化した大鎌だった。

 

(チッ、関節が外れたお陰でさらに厄介になってやがる!こんなもん俺らかヒースクリフでないと対処出来ねぇな………!)

「攻撃は任せたぞ。ケイタ、ゴドフリー………!」

 

再び大鎌が突き出される。

が、今度は体を捻り、それを受け流す。

 

「ふん!」

 

そしてそのまま鎌を脇に抱え、しっかりと掴む。

大鎌はグイグイと抵抗するも、《アレス》が抑え込んでいるために離れることは叶わない。

 

「これで片方は封じた。サチ!」

 

「うん!」

 

それを合図に飛び出したサチ。もう片方の鎌を弾き飛ばし、髑髏に襲いかかる。

 

(あのバリアが破れない筈はない。ダメージを与え続ければ必ず壊せる!)

 

先程攻撃を阻まれた際、リュウ達はバリアの近くにゲージらしきものが出たのを見逃さなかった。

あれはバリアの耐久値。そう睨んだリュウの推測が正しかったかどうかはともかく、次に目に入った光景はそれこそ予想だにしていないものだった。

 

キュイイイイン………!

その音と共に、髑髏の顎が開き、光が溜まっていく。

 

これはもしかしなくとも────

脳がそんな思考を始めた途端、光はリュウ達二人に照射された。

 

『!!!』

 

これをサチは類稀なる反射神経で回避、リュウは反応こそしたものの、鎌の抑制に意識を向けていたため行動が遅れ、《アレス》の右腕に直撃させてしまう。

 

「くそ!!」

 

ブレス攻撃もあるのか。そう毒づこうとして《アレス》の右腕を見た時、彼は戦慄した。

 

もっていかれてる。

たった一度の直撃、それだけで【紅蓮】の《スキルバースト》である《アレス》の右腕を抉ったのだ。

 

「マジかよ……!」

 

リュウはすぐさま右腕を修復した。

《解放》は何度でも修復が効くのだが、受けたダメージに応じて稼働時間が削られてしまう。

今回の消費は四十秒。これを毎回行なうとするならとても()つとは思えなかった。

 

(兆候がまだ判りやすいから回避のしようはあるが────)

 

ふと、彼は感じた。おかしい、何かを失念していると。

 

そして気付いた。アレがいない。先程までしっかりと抑え込んでいた大鎌が忽然と消えている。

 

マズい────そう感じた直後、アレスの背後から大きな衝撃が加わる。

 

「ぐぁっ!?」

 

背中からまともに攻撃を食らい、膝をついてしまうリュウ。その衝撃で、彼は数秒の硬直を余儀なくされる。

 

(ブレスで隙を作られるとは……!)

 

「リュウ!!」

 

サチが彼の名を呼ぶ。しかし駆け寄ろうにももう片方の鎌がそれを許さない。

その大きさに見合わない素早い動きで死角に回ろうとするのを防ぐ事で精一杯なのだ。

さらに。

 

キュイイイイン………!

 

再び髑髏がブレスを溜めている。明らかに目標はサチだ。彼女も気付いてはいるが、二本の大鎌がサチを逃がすまいと彼女の動きを封じているのだ。このままではあの威力のブレスが直撃することになる。

 

(間に合えッ!!)

 

リュウは地を蹴り、走った。そして邪魔な大鎌二本を突き飛ばし、サチの前に庇うように前に出る。

 

(もうアレスは()たない。ならせめてサチの《アテナ》だけでも………!)

 

そしてエネルギーを溜め切った髑髏の口から《アレス》へと光線が放たれようとした

────────────刹那。

 

「んなっ!?」

 

髑髏はぐるりと方向を変えた。《アレス》の腕をも穿つ破壊のエネルギー、その矛先には戦えなくなって一時避難しているプレイヤー達がいた。盾役が守ってはいるが、そんなものこの破滅の光の前では焼け石に水でしかない。照準となった誰もが死を確信した。

 

 

が、その時。

 

グォン!

 

途轍もない速さで射線に飛び出してきた巨大な影。

サチと《アテナ》である。

リュウが大鎌をどかしたお陰で道が開けた彼女は、【紫電】と鍛え上げたパラメータ総てを以て超高速で駆け抜けたのだ。あれを防げるのは自分しかいない、と。

 

そしてその手には、他の装備と比べればあまりにもお粗末な盾が握られていた。

これはキリトが黒猫団にいた時、一時的に前衛で盾役を任された時の装備(モノ)。『避ける』というスタンスにしてからは不要になり買い替えもしなかったが、何故かストレージから外せずに今まで持ち続けていたのだ。

 

彼女が『避ける』スタンスにした理由は、攻撃を受けるのが怖かったから。

しかし、今後ろにいる人達を守れるのは自分しかいない。ならやるしかない。

そう自分に言い聞かせ、盾を構える。

 

「イージス・プロテクション!!」

 

《アテナ》の力で強化される盾。そして光は放たれ、《アテナ》の、そしてサチの盾に衝突した。

が、やはり装備の性能の問題なのだろう、次第に盾にヒビが生じてくる。

 

「ッ………!お願い、もう少し()って………!」

 

辺りが光に包まれる。皆それに視界を奪われ、全ての動きを止めた。

 

やがて視界が晴れていく。サチは自分が生きていることを確認するように、ゆっくりと目を開ける。

同時に後ろを振り返る。あの光線を防ぎ漏らしていないか、人数を照らし合わせる。

結果は全員健在。誰もHPを減らす事なく、ぐったりと腰を抜かしていた。

アテナは消滅し、盾も全てを使い果たした様に左手から消えていた。

 

(最後に私を守ってくれてありがとう、お疲れ様)

 

役割を全うした盾を労う。

自分、そして負傷者が無事である事に安堵した

 

 

 

────────のも束の間。

ズッ…とサチを覆う影。

 

「──────え?」

 

見上げると、彼女の真上には大鎌が今にも自分を両断せんと構えられていた。

 

「サチ!!」

 

リュウが駆け付けようとするも、如何せん距離がありすぎる。おまけに《アレス》も制限時間を迎え、消滅していた。

 

(万事休すか……!)

 

振り下ろされる凶刃。反動で動けない彼女に最早為す術はない。

 

『うおおぉぉぉぉぉッ!!』

 

そこにケイタ達四人が割って入った。

巨大な鎌を一斉に空中パリィしようとする。

 

『ぐっ…………ぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!』

 

その質量の大きさに全員吹き飛ばされてしまうも、軌道をほんの少し反らす事に成功した。

 

ザン!!

 

「ぐうぅぅっ……!」

 

そのままサチに命中する大鎌。一撃死には至らなかったものの、右の手足を斬り飛ばされてしまった。

 

『迅雷』のサチの戦線離脱、《解放》の消滅。

それは他のプレイヤーを絶望に叩き落とすのに十分な要素だった。徐々に彼らの目から光が消え、戦意を喪失しつつある。

 

そしてとどめと言わんばかりに、立つ事も出来ないサチへと髑髏はもう一度鎌を振り下ろす。

 

今度こそ死を悟るサチ。後悔と未練のこもった瞳は、決して逸らすことなく髑髏へと向けられていた。

 

 

 

だが彼女に刃が突き立てられる事はなかった。

 

「キリ、ト……?」

 

彼女は掠れそうな意識の中その名を呼ぶ。

彼がサチに迫り来る大鎌を切り払ったのだ。

 

「もう二度と君を死なせたりしない」

 

あの日からの誓いを口にするキリト。その言葉からは決意と自信が込もっていた。

 

未だに彼らを狙い続ける髑髏。キリトはそれをくっと睨み付けた。

 

そして次に放たれた言葉に、全員が驚愕する事となる。

 

「【二刀流】、《スキルバースト》!!」

 

To be continued…

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