紅蓮の皇   作:Skullheart

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第2話、投稿致します。
少々日本語が怪しい部分やツッコミどころがありますが、大目に見て頂ければ……w


Tiny courage and huge decision

 リュウがキリトと再会するのは、割と早かった。それまでもボス戦などで見かけたりしていたのだが、会話らしき会話をしたのは第一層以来である。

 

 彼は野暮用で最前線より十層程下の第十一層、タフトという町に来ていた。そこでたまたまキリトを見かけたのだが、どういう訳か彼の後ろには五人のパーティと思しき集団が見受けられた。

 

(……あいつソロ貫くって言ってなかったっけ?)

 

 リュウはそんなツッコミ精神を抑えつつ、冷やかし気味に声をかける。

 

「おーいキリト!久しぶりダナー」

 

 その瞬間、キリトの表情が固まった。それはもう、確実にゲッって言ったなと解る顔で。「誰?」「キリトの知り合い?」という声が聞こえる中、無視すると逆に怪しまれると思ったのだろう、キリトが返答してくる。

 

「お、おう。久しぶり……」

 

 大根なのは相変わらずだなと心で嗤い、リュウはキリトに近付いて行く。

 

「あの、あなたは?」

 

 すると、リーダーらしき少年が彼に尋ねてくる。いきなり知らない人物が馴れ馴れしく近付いて来るのだ、その質問は当然だろう。

リュウはその少年に対し、至ってフレンドリーな口調で自分の名を述べた。

 

「俺はリュウ。そこのキリトの知り合いだ」

 

「リュウ……リュウ!? リュウってあの『爆焔』の!?」

 

『爆焔』

 

 それがリュウの頂戴した二つ名である。

 

 第一層の攻略後、キリトが必要悪を演じた事で生じる彼個人への弊害を懸念したリュウは、キリトには内緒でディアベルにキバオウ達反βテスターの手綱を握ってもらうよう頼んでいだ。彼はあの時、状況の変化についていけずにキバオウを制することが出来なかった事を悔やんでおり、助けてもらった恩返しも兼ねて、と快く引き受けてくれた。

 

 そのお陰でチート疑惑のβテスター、つまりビーターが存在しているという事だけはアインクラッド全土に広まったが、それがキリトであると知る者はごく少数しかいない。しかしその反動で、リュウがユニークスキル持ちである事が知られてしまい、こんな二つ名を頂戴する羽目になってしまった、という訳である。

 

 因みにリュウが発見したパラメータ強化法については、情報屋にタカられる前に自分で逆に売り飛ばしてしまった。早速試してみた者もいた様だが、層の攻略が進み狩場が増えた今の状況では、レベル上げそっちのけでトレーニングしても時間対効果を考えれば何のアドバンテージにもならず、逆にレベルで置いてけぼりを食らったらしい。実際、リュウも現在はレベリングに重点を置いている。

 

「で、お前さんは?」

 

「あっ、すみません… ケイタっていいます。このギルド《月夜の黒猫団》のリーダーをやってます。……おいキリト、あの人とどういう知り合いだよ!?

 

 ケイタと名乗る少年の後ろでキリトが口元に人差し指を立てている。それを見てリュウは全てを察した。

 

(コイツ、レベル誤魔化してやがるな?まぁ気持ちは分からなくもないが………)

 

彼の芝居にそのまま乗るのは面白くない。そう考えたリュウは、少々ひねくれた回答を寄越した。

 

「前に一度助けてやってな、その時からこいつはカワイイ弟分さ……w

 

(こ、こいつ……!俺が下手に立ち回れないのをいい事に……!)

 

 そんな内心が垣間見える表情のキリトを嘲笑いつつ、リュウはそのパーティを一瞥した。

 

 はっきり言って、お世辞にもバランスが良いメンバーとは言えなかった。装備の点だけで見ても盾役が一人しかいない為、回復に下がる間に時間を稼ぐ事が難しいだろう。武器も中距離タイプに偏っており、これでは盾が突破された時にひとたまりもない。

 

 しかし、それは初対面の人物であるリュウがいきなり口を出す事ではない。寧ろ、慣れたスタイルを下手に崩すと逆効果になる可能性がある。これは彼らと行動を共にしているキリトが、ゆっくりと修正してやるべきだ。

 

「……ま、頑張んなさいな」

 

 その一言だけ残し、リュウはこのまま彼等と別れ宿に向かった。そんな彼の真意に気付いたか否か、キリトは去るリュウの背中をずっと見つめていた。

 

 


 

 

 俺がギルド《月夜の黒猫団》に参加して、数日が過ぎた。

 

 今日、『ギルドハウスの購入』というこのギルドの夢が遂に叶えられる。リーダーであるケイタはその手続きをしに、第一層《はじまりの街》へと向かった。

 

「なぁ、家買ったらさ。家具とか必要だよな。だったらさ、俺達でもう少し稼いで、ケイタをビックリさせてやろうぜ!」

 

 雑談をしている内に飛び出した、ダッカーの何気無い提案。黒猫団の皆の反応は、それ程悪くはなかった。

 

「……そうだな。あいつには苦労を掛けたし、プレゼントにも丁度良いだろ」

 

「プレゼントか……良いね」

 

「ケイタにも楽させてあげないとね」

 

 俺もその提案に賛成だった。ケイタが人知れず頑張っていたのは自分も知っている。それに見ず知らずの俺に親しく接してくれた上、快くギルドに入れてくれた恩もある。ギルドの皆への感謝も合わせて、ここは俺も一肌脱ぐべきだろう。しかし。

 

「……俺達強くなったよな。ならいつもより上の迷宮区行っても問題ないんじゃないか?」

 

 ダッカーのこの提案には、俺は反対だった。いつも行くダンジョンは二十五層、そこまでは彼らの実力でも問題無いのだが、そこから先は難しさが格段にハネ上がる。今はリーダーのケイタがいない状態、ここは危険を冒さずいつものダンジョンにすべきだ。

 

「ここはいつものダンジョンにした方が良いんじゃないか?」

 

「? なんで?」

 

ササマルの質問に、俺は言葉を詰まらせた。彼らにはまだ未知のダンジョン、その彼らと同程度のレベルを名乗っている自分では、下手に具体的な理由を言う事は出来なかった。

 

「……ほら、今はケイタがいないし───」

「大丈夫大丈夫、今の俺達ならケイタがいなくてもいけるって」

 

「それにこっちには転移結晶がある。万が一があっても何とかなるさ」

 

 彼らになまじ自信がついてしまったために、反論出来ず言いくるめられてしまった。まぁ、いざとなったら俺がさりげなくフォローしてやればいい───そんな考えもあった俺は、無理に止めようとはしなかった。

こうして俺は、一抹の不安を抱えながら彼らと共に二十七層迷宮区へと向かった。

 

 

 

 ダンジョン内はえらく順調だった。

まだ最前線には程遠いが、確実に力をつけている。ここにパーティ単位での戦術を組み立てる人間がいれば、戦力はもっと向上するかもしれない。このギルドは可能性に満ちている。これからも、どんどん強くなっていくだろう。先程の不安は杞憂だったのかもしれない。

 

そんなことを考えているうちに、ダッカーが隠し扉を発見した。その中には、豪華な装飾が施された宝箱が一つ。

 

「へへっ、これは儲け………」

 

ブーッ!!

ブーッ!!

 

 しかしダッカーがそれを開けた途端、けたたましい警告音が鳴り響いた。すぐさま出口が閉じ、おびただしい量のモンスターが湧出(ポップ)する。

 

「トラップ・エリアだ!早く転移結晶を!」

 

 俺の指示で、タッカーが転移結晶を掲げ、「転移、タフト!」と叫ぶ。

しかし、反応は無かった。クリスタル無効エリアという不吉な単語が頭を過る。

 

「くそっ!くそっ!!」

 

そこからは文字通りのパニック状態。雪崩れ込む敵に分断され、陣形が意味をなさなくなる。

先程力をつけているとは言ったが、それはあくまでチームの話。それぞれが一人で発揮出来る実力はたかが知れている。ましてやこの混乱の中だ。結末など───考えたくもない。

 

「おおおおおおおッ!!」

 

《レイジ・スパイク》から《バーチカル・スクエア》。出し惜しみはしない。している余裕などない。

自分の周囲に群がる敵を塵にするも、また次の波が押し寄せてくる。これではキリがない。

 

───速く。もっと速く!! さもないと、取り返しのつかない事に───!

 

俺は死に物狂いで剣を振るった。何度も何度も立ちはだかる(かべ)、前に進んでいるのかさえ分からない感覚。

 

みんな無事でいてくれ。ただそれだけを願った。それが届いたのか───いや、この場合、俺に非情な現実を叩きつけようとしたのだろう。一瞬だけ視界が広がり、皆の状況が目に飛び込んできた。

 

それは、一言で言うなら地獄。阿鼻叫喚の嵐。

パーティが数によって分断されれば、必然的に一人当たりの処理量は多くなる。それは当たり前だし、俺も似たような事は何回か経験していた。

 

しかし、今回は規模(スケール)が違った。元々少人数である黒猫団に対し、剣道場一つ丸々埋め尽くしそうな程の敵Mob。戦力差は圧倒的だった。

 

「……ッ!!」

 

救援に入ろうとするも、新たに出現したモンスターに行く手を阻まれる。倒しても倒しても、皆との距離は一向に縮まらない。

 

「……キリトぉ!!」

 

モンスターの集団に組み伏せられたサチと視線がぶつかった。やめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ。最初に出会ったあの時みたいに俺は君を助けには行けない。自分の目の前にいる壁を一枚一枚剥がす事で精一杯なんだ。非力な俺を許してくれ。いっそ恨んでくれてもいい。

 

ああ神とやらよ、これは俺の責任だ。俺の失態だとも。確かに俺がちっぽけなプライドなんか気にせずに、正体を全て晒して強引に止めていればこんな事態は起こらなかっただろうさ。

 

だけど皆は───サチには何の罪もないじゃないか。罰を受けるのは俺だけでいい。苦しむのは俺一人でいい。自分勝手だと罵ってくれても構わない。サチはこんなどうしようもなくバカな俺を信じてくれただけなんだ。頼む。誰でもいい。

 

「サチを───みんなを、助けてっ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────パシュン

その悲痛な声に応える様に、出口の開く音がした。否、入口と言った方が正しいか。

 

 トラップ・エリアでは、当然一度閉まった扉を内側から開けることはできない。逆に外からなら中に誰かがいようと入る事が出来る。

 つまり、外にいた誰かがこの部屋の隠し扉を開いたのだ。

 

 そしてそちらに気を取られた瞬間、投げ込まれた大きなメイスが俺とテツオの周りのモンスターを吹き飛ばした。

 

「呼ばれて飛び出てジャンジャジャーン!! 助けて下さいってかァ?助けてやるよォ!!」

 

 そこに現れたのは、数日前にタフトで再会した『爆焔』の二つ名を持つ男、リュウ。

彼はぽきぽきと拳を鳴らしながら、部屋の中へと入ってきた。

 

 念のため補足すると、トラップ・エリアには一方通行のバリアが張られており、扉が開いても中にいたプレイヤーは出ることは叶わない。このトラップ自体をクリアしない事には出る事は出来ない仕組みになっている。

 

「さて……絶滅タイムといこうか」

 

 その一言と同時にササマルに群がるモンスターに肉薄したかと思えば、回収したメイスでまとめて引っ剥がし、そのままダッカーの周りのモンスターにぶつけて両方一気に消し飛ばしていた。

 

「さぁ、行くぜッ!!」

 

 その勢いでメイスを手放し、反動を利用してサチのいる方向へ跳び移ると、リュウの拳が炎を纏い始める。

 

「バァァァァニングッ・フィィストォッ!!」

 

 叫ぶ必要があるのかどうか分からない技名を叫び、彼は跳び移った勢いのまま、サチを抑え込んでいたモンスター目掛けて殴りかかった。

 

 そしてその瞬間、俺の目を疑いたくなるような光景が飛び込んでくる。

 それは炎の大砲。リュウの拳から大きな柱の様な炎が、サチの上どころかその後ろに群がっていたモンスター全てを貫通していた。

 

「な、何だよそれ…」

 

 今までの常識が丸ごとひっくり返されそうな俺は、思わずそんな感想を漏らしていた。

 

「【紅蓮】専用のソードスキルみたいなものさ」

 

「みたいな?」

 

「体術スキルとの組み合わせで出来る特殊スキルなんだが……まぁ詳しい事は後々説明させて貰うさ。さて、と!」

 

 リュウが瞬く間にモンスターを倒した為、再湧出(ポップ)までに少し余裕が出来ていた。その間に、リュウはサチ達にポーションを投げ渡す。

 

「それ飲んで退がってな。ここから先は()()()()領域だ」

 

「え?」

 

 リュウの言葉の意味を掴みかねた月夜の黒猫団メンバーを横目に、彼は俺の方に向き直った。

 

「おいキリト!! てめえはもうギブアップか!?」

 

「!」

 

「まだまだこんなもんじゃあねぇよなぁ!! 見せてみろよ………てめえの本当の全力ってヤツをよぉ!!」

 

そうだ。まだ俺は全てを出し切っていない。

みんなを救うため、まだやれる事は残っている。俺がすべき事はプライドを守る事でも、自分の無力を嘆く事でもない。

 

「ああ…………やってやるよ!!」

 

 俺は剣を構え直し、もう一度気合を入れ直した。

 

 リュウが派手に暴れてくれた為、月夜の黒猫団メンバーへのヘイトは殆ど切れた。これで誰かを庇う必要なく存分に戦える。

 そして彼の叱咤によって、自分の正体を知られる事を未だ恐れていた自分に吹っ切れた。迷いなどもう微塵もない。

 

『さぁ、行くぜ!!』

 

 再び湧いたモンスターは、さっきまでの苦戦が嘘のような勢いで倒れていった。

 

 _ _ _ _ _ _ _ _

 

 

 トラップ・エリアを抜け、タフトへと帰還した俺たちを、ケイタが出迎えてくれた。

 

 俺は事の顛末を語り、そして自分がレベルを偽っていた事を話し、詫びた。

 ケイタは終始ポカンとした表情をしていたが、既に出ていく決心はついていた。そのままみんなに別れを告げ、俺は彼らの前から消えた。

 

その夜、俺は宿の寝室で横になって呆けていた。

 

 これまでにあのギルドで味わってきた、あの充実感がなくなってしまった。あの楽しかった日々。この殺伐としたデスゲームでの、俺の唯一の安らぎ。それはもう戻って来ない。

 

(……もっとみんなといたかったなぁ)

 

 そんな事を考えていると、俺の部屋のドアを叩く音──というより、ドアが叩かれる事で送られる通知の音──が鳴った。正直俺の気分はそれどころではなかったのだが、折角の来客である。相手に不快な思いはさせたくない。

 メニューからドアの前にいる人物を確認すると、そこにはリュウが飄々とした様子で立っていた。俺はメニューを操作して、部屋のドアの鍵を開ける。

彼になら、今の自分の様子を見られてもいい気がした。ここで無視するという手段が出てこなかったのは、心のどこかで話し相手を求めていたからかもしれない。

 

「シケたツラしてやがんなぁ」

 

 仰向けになって顔を左手で覆っている俺に開口一番でそんな台詞が出てくるのは、彼のある種の気遣いなのだろうか。

 

「放っとけ。何の用だよ」

 

 発した返事は想像より荒んでいて、自分でも驚いた。しかしリュウはそんな事など気にも留めず、いつも通りの声色でこちらに語りかけて来る。

 

「まぁあいつらからは黙っておいてくれって言われてたんだがな。お前は絶対凹んでるだろと思って一つ報告だ」

 

 あくまで聞いていない風を装い、俺はその話に耳を傾けた。

 

「《月夜の黒猫団》って言ったか?そこのサチって女の子が頼んで来たんだよ。『私達を強くして下さい』ってな。健気な子さ。自分達を騙した事に怒るよりも、何も出来なかった不甲斐なさを悔やんでんだ」

 

 全く泣かせるねェ、と彼が話を続ける間に、俺は瞼が熱くなってくるのを感じた。それを決して悟られぬよう、そっと彼に背を向ける。

 

 一通り話し終えると、リュウは俺に背を向けた。最後に、俺は彼に問い掛けた。

 

「なぁ…」

 

「ん?」

 

「お前…なんであそこにいたんだ?」

 

「───たまたま、だよ」

 

 リュウが部屋を出て、俺は再び一人になった。

 そして俺はベッドの上で、静かに、そして大声で泣いた。

 

To be continued…




ちょっと強引すぎたかなぁ……。反省反省。
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