このまま10000まで…!止まるんじゃねぇぞ……!
「……ぁ、あ………」
ゆっくりと剣を上げる《アーサー》。そこに既に彼女達の姿はなく、二人が装備していた武器が転がっているだけだった。
「………ぁぁぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
キリトの絶叫が木霊する。涙は止め処なく流れ、今にも枯れそうな声で叫ぶ彼に、最早戦う気力など残されていなかった。
そんなキリトに近付く、ガシャッガシャッという足音。
「ゲームシステムを超えて行動するとは……全く驚いたものだ。愛の力とやらも案外侮れないな」
彼の側にまで来たヒースクリフは、今度こそ息の根を止めるべくキリトの首目掛けて剣を振り下ろした。
「キィリトおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「しっかりしろ!まだ戦いは終わってねーんだぞ!!」
「もう、終わりだ……。アスナも、サチもいなくなった。二人を、守れなかった──────」
「てめぇ、死にたいのか!!」
「俺が生きる価値なんて─────」
「それであいつらが浮かばれるのか!?」
「……」
項垂れたままのキリト。それを脇に抱え、《アーサー》からの攻撃を躱していくリュウ。
「あいつらはお前が死ぬために犠牲になったんじゃねぇ。あいつらが望んだのは、お前がこのゲームを終わらせ、みんなと生還する未来だ!!」
「……俺は────」
「それになぁ、お前が守るべきはあの二人だけじゃねぇだろ!! お前が今まで歩んで来た中で、ほんの一瞬だろうと、てめぇが本当に一人だった時があるのか!?」
「……!」
キリトはハッとなった。
彼の視線の先には、クラインやエギルがいた。彼らは彼ららしくもない、情けない表情でこちらを見つめていた。
「お、れは………」
「戦えねぇなら休んでろ。お前の分まで戦ってやる」
そう言って、リュウはキリトをギャラリーの方へぶん投げた。
「ほう?一人で向かって来るのか」
「どうやらSAN値がイッちまったらしい」
「そうか、残念だ。では暫くは君と戯れるとしよう」
《アーサー》が剣で横に薙ぎ払う。リュウはそれを踏み台に中央からの突破を図るが、突き出された盾が彼を吹き飛ばした。
壁に衝突するも怯む間なく再び
ヒースクリフと同じ動きで繰り出される巨大な剣。それをギリギリ躱し、もう一度正面を狙う。
しかし再び迫り来る盾。それはまたしてもリュウの鳩尾に直撃した。
「ンガ……うおおッ!!」
だが彼は吹き飛ばされなかった。全身を使い、何とか盾にしがみついている。
そのまま盾を伝い、腕から肩、そして《アーサー》の頭上へと跳躍する。
素早くコンソール操作。ストレージから白銀の大型メイスを取り出した。キリトを拾うついでに回収していたのだ。
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして《アーサー》を頭から叩き割るべく急降下する。全力の込もった必殺の一撃、命中すれば一溜りもない。
ヒースクリフは体を反らせてこれを回避、リュウの渾身の一撃は空を切った。
「甘い!」
《アーサー》はリュウをまるで羽虫を払うように叩き落とした。彼が落下した場所から土煙エフェクトが発生する。
流石に沈黙したかと思われた刹那、その地点から飛び出してくるリュウ。文字通り一瞬、その速さには誰の目にも追いつけなかった。
先程の一撃は陽動、真の狙いは叩きつけ直後のヒースクリフ本体。
「せぇらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
気合いの入った声と共に振り下ろされるメイス。それは先程陽動に使った一撃を超える威力を秘めていた。
しかし。
「………くそ、たれがぁ………」
完璧に、そして余裕といった風にしっかりと防がれていた。
「あれが
────私を仕留めるには至らなかった様だが」
そのまま盾で押し返し、よろめいた所へ剣を振りぬくヒースクリフ。リュウは何とかギリギリで回避するも、メイスの柄を両断されてしまう。
それでも、とリュウは正拳突きを繰り出す。だがそれも軽々と受け止められ、突き出された盾に吹き飛ばされてしまった。
_ _ _ _ _ _ _
「がっ…ああ……!」
ふらつきながらも未だリュウはヒースクリフと対峙する。既にHPは三桁を下回っている。言わずもがな
「────なんで、まだ立てるんだ」
あの凄惨な力の差を前にしても尚、立ち上がるリュウにクラインはそう呟いた。
「命が惜しくないのかよ。あんなに叩きのめされて、心は折れないのかよ。こんな状況、もう奇跡でも起きない限り─────」
「それは違うよ、クラインさん」
その言葉をケイタが否定する。
「あいつは最後の一瞬まで絶対に諦めたりしない。諦める暇があるなら、その状況を打開する方法を探すのがリュウって男だ。だからこそ、俺達はあの背中を追いかけた」
「あの人がいなければ俺達は死んでいた。リュウはいつもそうやって、救える命を救ってきたんだ」
ケイタの言葉を、ササマルが繋ぐ。
「クラインさん、さっき奇跡でも起きない限り勝てないって言いましたが────リュウはいつもこう言っていました。『奇跡はいつも起こるべくして起こる。本当に自分の出来る事が無くなった時だからこそ、それが奇跡と呼ばれるんだ』────クラインさん、俺達に出来る事はまだあるでしょう?」
「………おう!」
_ _ _ _ _ _ _
「もう、終わりかね?」
「………………」
リュウは答えない。足は今にも崩れそうな程震え、腕は力なく垂れ下がっている。
「さぁ、次はどんな悪足搔きを見せてくれる?どうやって私を驚かせてくれる?君はいつも私の想像を超えてくる。どんな策にも全力で相対しよう」
「……『今の俺』にやれる事は全力でやった。可能性も全て探しきった」
それは敵わないという悟りか、命を諦めた放心か。何であれ、彼が今から死ぬことに変わりはない。そう思ってヒースクリフは彼に近づいていく。
「……これが君の最期か。どこか名残惜しく、そして君らしくもある」
そう呟き、剣を構えるヒースクリフ。
と、その時。
「動け!リュウ!! お前ならやれる!!」
「負けるんじゃねえ!勝ってこのゲームを終わらせろ!」
ケイタやクライン達が叫んだ。ヒースクリフは驚いたようにピクリと少し眉を動かした。
(今俺達に出来るのは、リュウを信じてやる事。アイツの心がボロボロだったなら、それを支えてやる事)
(俺達の未来、お前に託すぜ、リュウ!)
彼らだけではない。気付けば攻略参加者全てが彼に声援を送っていた。
「生きて戻って来い!死んだらはっ倒すぞ!!」
「信じてるぞ、リュウ!」
「死ぬな!お前に礼を言いたい奴が山ほどいるんだ!そいつらの為にも絶対────」
『勝て!! リュウ!!!』
ヒースクリフ───茅場晶彦は感じた。リュウという存在を媒体に、ここにいる者全員の心が一つになっている事を。
「……いいのか?このままこの声援を無駄にする気なのか?」
ヒースクリフは問いかけた。もしかしたら、本当に最後に何かを見せてくれるかもしれないと思って。
─────しかし、返ってきたのは。
「………後は野と成れ、山と成れ………」
まるで独り言のような、そんな言葉だった。
ヒースクリフは目を落胆と失望の色に染め上げ、紅蓮の戦士を見下した。いや、本当はそれは憤怒だったのかもしれない。まるで楽しみにしていたイベントをぶち壊された子供のような、そんな表情とよく似ていたのだから。
「………今度こそ本当にお別れだ、リュウ君。君との戦いは本当に心が躍ったよ」
そう言うと、ヒースクリフは剣を逆手に振り下ろした。同時に、《アーサー》の巨大な剣がリュウの頭上へと迫る。
次の瞬間、リュウの体が消し飛ぶのは間違いない。それでも誰も彼への声援を止めなかった。
────その時、リュウの胸にポッ、と何かが光った。
To be continued…
藻掻き足掻き万策尽きて、本当にどうしようもなくなった時、奇跡ってのは起こるらしい。
────さぁ、反撃の狼煙を上げろ。