?「フハハハ!絶望するがいい桐ヶ谷和人ォ!!」
キリト「諦めてたま───」
リュウ「サァプラァァァァイズ!!」チュドーン
キリト・?『(゜ロ゜)』
要はこんなお話。
Into the next stage
「巧磨殿。桐ヶ谷殿がお見えになっております」
「通してくれ」
劉崎ワールドクリエイション本社、その社長室にて。巧磨は次の企業計画を纏めるため、右手でキーボードを叩いていた。
SAO事件から早二ヵ月、彼らの環境は目まぐるしく変わっていった。中でも巧磨は一大企業のトップである事から取材だの会見だのをさせられる羽目になったのだが、彼は懸命なリハビリ(という名の筋トレ)によって瞬く間に回復、目覚めた直後から通常業務に復帰したどころか他の被害者への支援を直ちに開始し、劉崎巧磨という人間の何たるかを世界中に知らしめる事となった。
「よう、リュウ」
磯野に案内され、桐ヶ谷和人───SAOにおいてのキリトが中へ入って来る。彼もSAOをクリアした『解放の英雄』として様々な所から一目置かれる様になった。特に国からは、VRゲームのスペシャリストとして次にこういった事件が起きた際の切り札として見られているフシがある。
「よく来たなキリト。ちょい待って、あと少しで…」
「何してんのお前」
和人は目をぱちくりさせた。何故なら、目の前の男はノートPCを床に置き、その前で片腕立て伏せをしているのだから。
「見て解らんか、指立て伏せと企画書作成だ」
「よく一緒に出来るな。器用か」
「マルチタスクせんと追い付かん」
「何も筋トレまでしなくてもいいだろ」
和人は半ば呆れながら、巧磨の前へと移動する。その巧磨はキリのいい所まで終わらせたのか、指立ての体勢からパッと跳び上がると、空中で一回転して後方に着地した。
「こんな貧弱な体だと落ち着かねぇんだ」
「そんな挙動が出来る身体を貧弱とは言わねーよ」
「そんな事より座れよ。ブラックでいいか?」
「ああ。サンキュ」
和人は促された通りにソファに腰掛け、巧磨から手渡されたコーヒーを一口あおった。
「で、今日は嫁の見舞いのついでか?」
「ま、そんなとこだ」
キリトの嫁───つまりアスナは今もまだ眠っている。彼女だけではない。SAO生還者の内、未だ約三百人ものプレイヤーが目覚めていないのである。
SAO事件は、まだ続いているのだ。
「じゃ、始めようか」
こくりと頷き、和人はスマートフォンをテーブルの上の小さなマシンに接続する。すると、そこから青い光が灯され、それは徐々に小さい人の形を成していく。その姿は、白いワンピースを纏うロングの黒髪を垂らした小さな少女。
「よ。元気だったか?ユイ」
「はい!ご無沙汰してます、リュウさん」
元SAOカウンセリングAI、ユイである。起動状態でSAOを終えた彼女はプログラム通り和人のナーヴギアにデータを送られ、そこから自力で彼のPCへと移動、こうして活動出来ているのだ。今は和人のPCを拠点に、クラウド経由でどこの機械にも出没する事が出来る。
「んじゃ、先ずは情報の整理からだ。『三百人』の件についてだが、この前も話した通り、俺は晶彦がやらかしたとは全く考えていない」
「そこは俺も同意する。あいつは約束を破るような奴じゃない。SAOからログアウト出来ないようには創らないし、仮に出来なかったとしてもその時点であいつは何かしらの対策をする筈だ」
「しかしそうなってはいない。つまり、三百人はSAOからのログアウトには成功しているんだ。恐らく、晶彦が監視出来たのはSAOサーバ内部のみ。そこから先がどうなっていようが、あいつが知る事は出来なかったんだろう」
「という事は、ナーヴギア自体に何らかの問題が起きているか、もしくはサーバからナーヴギアまでの間に第三者からの細工が施されたか……。もし後者だとすると、茅場が言ってたボスモンスターに第二形態を加えた奴の仕業と考えるのが自然か?」
「だろうな。三百人なんて少ない数字になったのは、俺達が七十五層でゲームを終わらせたのが予想外だったからだろう。第二形態も倒せない程理不尽なモンじゃなかったし、ありゃ多分プログラム構築のための時間稼ぎだ。そうなるとその細工した奴が誰かって話になるが───ユイ、そっちはどうだった?」
巧磨は
「はい、SAOサーバ周辺はくまなく調べたのですが、そこへアクセスしたサーバ情報は念入りに削除されており、完全修復は不可能でした。ナーヴギアの方も同様です」
それを聞いた二人は眉をピクリと動かした。
「……て事は、
───そういう事だな?」
「仰る通りです。サーバからナーヴギアに送られる信号に、極小ですが何らかの介入プログラムが働いた跡が…。断片からの分析では恐らく、意識データをSAOから別のサーバへと転送させる物と思われます」
「流石。有能」
巧磨はひゅう、と口笛を鳴らした。和人も確信した様に口角を上げる。
「人の意識データ、それも三百人なんて量を一気に受信出来るサーバなんて限られてるよな」
「そんなでけぇサーバを使うんだ、それを覆う『ガワ』は必要だろう」
「そして、それを保有し扱っても怪しまれない『場所』……!間違いありません。ママが囚われているのは……」
『────仮想世界』
重なった声に思わずニヤける三人。そして若干ぬるくなったコーヒーをあおると、巧磨は和人に尋ねた。
「で、そっちには思い当たるフシがあるんだろう?あいつの見舞いで何があった?」
「何でわかんだよ」
「ここに来た時から浮かない顔してたろが」
自分の表情はそんなに読まれやすいのか、それともこいつが鋭すぎるのか。答えが出そうもない問を一先ず放置し、和人は質問に答えた。
「……アーガスが解散した後の、SAOサーバの維持を委託された部署は知ってるか?」
「確か、レクトだっけ?そういえばその一番上はアスナの家が運営してたな」
「そ。で、その委託された部署のトップが須郷伸之って奴なんだけど……」
そこまで言って、巧磨は苦虫を噛み潰した表情になる
「……まーさか」
和人はこくりと頷く。
「───そいつ、アスナが目覚めないのをいい事に承諾無しで結婚の話を立てていやがった。自分がアスナに嫌われてるのを承知で」
「……うっへぇ。ロクな奴じゃねぇな」
汚物を見る様な目になり、明らかにドン引きしている巧磨。この様子だと、須郷という男についてのあれこれは大体察してしまったのだろう。
「───で、そいつがサーバ管理部署のトップだってか?はは、真っ黒にも程があんぞ」
そう、サーバを管理しているという事は、それを弄れる機会は幾らでもあったという事。生還者の一部を奴の掌中に収める事など造作もないだろう。
改めて和人は、この状況を整理する。
「つまり、アスナを捕らえるためだけにシステムを構築したって事で、三百人はカモフラージュ?いや、それにしてはやる事が大掛かりな気が……」
「違うな。恐らくメインは三百人の方だろう」
しかし、巧磨はきっぱりと言い切ってみせた。
「考えてみろ、本来生還者は七千人近くいたんだ。その内帰って来ないのが三百人、その中にアスナが入る確率は何%だ?そっちのがメインなら、そんな無謀な賭けは普通はしない。リスクが大きすぎる」
「あ、成程。もし特定の人物だけ必ず捕らえられる術があるなら、俺やリュウを逃がす筈はないしな」
「そゆ事。つまり三百人捕らえてまでしたい『何か』があるって事で───ユイ、須郷伸之という男が統括する、レクトの部署の詳細について調べてくれ」
「分かりました!」
ユイは考え込む様な仕草を取り、検索を開始する。ユイの検索はネットを通じ、そこそこの物ならあらゆるセキュリティ突破も可能なため、こういった裏の部分を知る事においては力強い味方となる。
「完了しました!人物『須郷伸之』が指揮するのは『レクト・フルダイブ技術研究部門』、主にフルダイブ型VRに関する技術を研究している所ですね」
「フルダイブ研究……仮想世界のサーバの一つや二つあってもおかしくないな」
「はい。ですがここ最近、アメリカのどこかと頻繁に接触が行なわれている様です。内容や相手の詳しい情報は、高度なロックと暗号化がかけられていてこちらでは解読不可能でした…」
「サンキュ、充分だ」
そう言うと、巧磨はタブレットを取り出し、ある画面を和人に見せた。ユイと和人は、訝しげにそれを覗き込む。
「アメリカの脳科学系の最近の研究レポートだ。これを見てどう思う?」
「どうって……普通に脳についての研究じゃ……
───!?」
「こ、これは!?」
二人は目を見開き、そして巧磨の方を見た。
「気付いたか?」
「……レポートの内容が、どれもフルダイブ技術を使った脳の研究……!それだけじゃない、多少言い方は丸めてあるけど、全部行き着く先は───」
「人間の脳への干渉」
巧磨の言葉に和人とユイは息を飲んだ。須郷がこれに関わっているなら、
いや────
「……奴の部署がフルダイブ技術研究部門、アメリカへの密接なコンタクト、そのアメリカのレポート内容、そこに三百人の
……偶然にしちゃ、都合が良すぎないかい?」
和人は頭を抱え、黙り込んだ。
「……つまりあれか、一部のSAO生還者を自分の管理する仮想世界サーバに移動、倫理的に難しい人間への実験をフルダイブ中の彼らを材料にして裏で行ない、貴重なその成果をアメリカに高く売り込む……。これは真っ黒確定待ったなしだな」
「ですね……」
和人とユイ、SAOを経験した流石の彼らも話の突拍子の無さに苦笑いせざるを得ない。実際行なわれている内容を考えれば、笑い話では済まないのだが。
「これは警察には────」
「証拠が足らん」
「ですよねー」
どうしたものかと頭を捻らせる和人。ユイも同様の体勢でネットワークを漁っているため、その様子はまさに親子と言えた。
巧磨はそんな光景を微笑ましく眺め、和人の空になったコーヒーカップを回収する。
「とりあえず、俺から話せるのはここまでだ。今日はここで解散、でいいか?」
和人は時計を見て、答える。
「そうだな。ありがとう、色々参考になったよ」
「はい!こちらも順次調査を進めていきます。今日はありがとうございました!」
そう言ってユイは和人のスマートフォンに戻り、和人は磯野に案内され社長室を後にした。
残された室内で、巧磨は一人呟く。
「───レクト、須郷伸之、か。やはりそういう事だな」
_ _ _ _ _ _ _
劉崎ワールドクリエイションを去った和人は、先日やっと獲得したバイクで家へと戻った。
「お帰り、お兄ちゃん」
帰宅してすぐ、妹の直葉が出迎える。
「ただいま、スグ」
和人はにこやかにそれに返す。
和人と直葉は実際は兄妹ではない。血縁で言えば従兄妹が正しい。幼い頃に両親を亡くした和人を直葉の両親が引き取ったため、戸籍上兄妹となったのである。最も、和人が十歳の頃、彼は住基ネットの抹消記録から自分と両親の本当の関係を看破したが。
祖父から叩き込まれた剣道を和人が辞め、逆に直葉がメキメキ腕を上げて以来、彼はコンピュータの世界へのめり込んでいったのだが、その頃から仲の良かった妹との口数も少なくなり、SAO事件直前まで連絡のような僅かな言葉を交わすのみであった。
しかし二年間のSAO事件を経て関係は改善、今では昔の様に親しく会話するまでに回復した。
「お見舞いにしては遅かったね。何かあったの?」
今日は母親の帰りが遅くなるため、夕飯の調理を任された直葉がエプロンの紐を結びながら尋ねる。匂いからして、今晩はカレーのようだ。
「いや、ちょいと友達の所に寄り道してきただけさ」
「ふぅん、ならいいや。でも、遅くなるならちゃんと連絡ちょうだいよー」
「ああ、ごめん。わかったよ」
気をつけてよねー、と台所の方へ戻っていく直葉。
和人は彼女にSAO関係の詳細を伝えていない。
さっき言った『友達』が劉崎 巧磨である事や、自分にAIの娘であるユイがいる事───これは隠している訳ではなくユイが普段ネットに潜って情報を探しているため、紹介出来ていないだけだが───そして自分がヒースクリフに止めを刺した《キリト》である事は、自分に情報をくれた総務省の意向もあり伏せている。
こちらからは何の情報も与えてはいないのに文句一つ言わず納得してくれた家族に感謝しつつ、和人は二階の自分の部屋へ向かった。
思ったより疲れが溜まっているのか、ドカッとベッドに腰を下ろす和人。巧磨との話し合いで多少気は紛れたが、それでも須郷の存在とその思惑は和人にとって簡単に収まり切る物ではなく、その上そいつがとんでもない事をしている可能性が高いとなれば、彼がため息をつくのも仕方のない事であった。
しかし、SAOの時と違って今回彼が出来る事は何もない。自分にあるのは、ゲームの技術と少しばかりの機械の知識のみ。現状、誰かに状況を任せるしかないのだ。
「───クソッ!」
やり場のない悔しさが和人の胸を苦しめる。やるせなさが彼の心を渦巻いている。今すぐレクトに赴いて、須郷の顔面をぶん殴りに行こうかと思う程に。
無力感に打ちひしがれ呆然とする和人だったが、その時彼に一通のメールが届いた。
そのメールは、彼を懐かしの、そして新たなる舞台へと導く狼煙であった………
_ _ _ _ _ _ _
「───よろしかったのですか?」
「? 何がだ?」
右手でダンベルを動かしつつ、左手でキーボードを叩く巧磨に磯野が尋ねた。
「桐ヶ谷殿と協力なされば、今回の件はよりスムーズに進められたのでは?」
「………」
巧磨の手が止まる。
彼は今、秘密裏にある"調査"を行なっている。それはSAO関連の物であり、和人にも無関係とは言えない物だった。
「……確かに、この件にあいつがいれば頼もしい味方になるだろう」
「では───」
「だがこの件には百%嫁が絡んでくる。そうなりゃあいつは絶対暴走するだろう。手綱の取れない馬程面倒なものはない」
和人はキリトだった時から、アスナがトラブルに巻き込まれれば良くも悪くも驚異的な行動力を発揮する。一途と言うか子どもっぽいと言うかは人それぞれだが、ともかく巧磨や他の仲間が振り回された事は数知れない。
「……しかし、これでは彼が巧磨殿と同じ場所に行き着くのも時間の問題では?」
「その時はその時さ。というより、最適なタイミングで辿り着く様に───」
Prrrrrrrr...
巧磨の携帯が鳴る。和人からだ。巧磨は素早く端末を取り出し、それに応じる。
「どうした?」
『お前のPCにメール送った。先ずはそれ見てくれ』
少し目を離した瞬間、メールが届いていたらしい。巧磨は資料作成用のWordを閉じ、そのメールを開く。
それはすぐに転送された物で、題名は"Look at this"とだけ。本文は一文字も存在せず、ただ一枚の画像が添付されているのみだった。
その画像を見た巧磨は言葉を失った。画像は拡大された物らしく、解像度が大分粗い不鮮明なものだったが、それが鳥籠のような
「こりゃあ……」
『アスナ、だろ?』
「こんなんどこで───って、転送なんだからエギルの奴か」
『ああ。さっきあいつの所に行ってきたけど、この写真はフルダイブ型VRMMORPGの中で撮られた物らしい』
まさか、と巧磨は一気に苦虫を噛み潰したような顔になる。
「で、そのゲームってのは───」
『そのゲームは───』
和人の呼吸を整える音が聞こえる。彼自身、この棚ぼた的な展開に興奮しているのだろう。和人は一拍おいてそのゲームソフトの名前を告げた。
『
それを聞いた巧磨は頭を抱えた。
「……マジかよ」
『? 何か言ったか?』
「いや……」
『? ……まぁ何でもいいや。とりあえず俺とユイは今からそのALOにダイブするから、お前も一緒にダイブしてくれ』
「あー……分かった」
巧磨は歯切れ悪そうに返事する。和人はそれを不審に思ったが、あの巧磨の事なのであまり深くは詮索しようとはしなかった。
『じゃ、また後でよろしく』
通話が切れる。それと同時に、巧磨は大きくため息をついた。
「ご苦労様です、巧磨殿。それとも、ここはドンマイとでも申し上げた方が適切でしょうか?」
「ヤメテツライ」
「それにしても、まさかその様なルートから情報が回るとは。些か盲点でありました」
「クッソエギルの野郎、やっぱ根回ししときゃ良かった」
「たらればでは状況は進みませんぞ」
「わーってるよ」
巧磨は立ち上がり、社長室を後にする。
彼らが向かうのは、フルダイブ専用ルームだ。巧磨はそこに備え付けられているハード、
そして、その中に入っているソフトは───アルヴヘイム・オンライン。先程和人が言っていた代物だ。
「桐ヶ谷殿はどういう顔をするでしょうな?巧磨殿が自分には秘密でALOにダイブし、調査を行なっていたと聞けば」
「殺されはしないだろうが殴られはするだろうな」
「御愁傷様です」
やれやれといった風に巧磨は横になり、アミュスフィアのスイッチを入れる。
「では、行ってらっしゃいませ」
「ああ。それじゃ、後は任せる」
「御意に」
一礼すると、磯野は部屋を去って行った。それを見届け、巧磨は瞼を閉じる。
(徐々にファクターは揃いつつある。レクト、須郷、そしてアスナ……。全く、晶彦も面倒な事を残してくれたもんだ)
アミュスフィアの起動準備が完了し、誰もいなくなったダイブルームで、巧磨はもう一つの世界の扉を開く言葉をポツリと呟く。
「リンク・スタート」
To be continued…
ここでの主人公はALOの違和感に気付き、キリトよりも前にログインを終えている状況です。
巧磨はリアルでも超人。曰く、「三つの仕事を並行してやれば、三日かかる仕事も一日で終わる」との事。