紅蓮の皇   作:Skullheart

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リーファ「あ、ありのまま今起こった事を話すわ!"追い詰められたと思ったらいつの間にか自分の存在感が消えていた""出てきた伏兵がライダーキックされた"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。あ、頭がどうにかなりそうだった……。夢オチとか幻覚とか、そんなチャチな物じゃあ断じてないわ。もっと恐ろしい物の片鱗を味わった気分よ……」

:追記 予定変更によりサーチ機能関連の修正をしました


Encounter

「お前……リュウ、か?」

 

俺の質問に、その男は満面の笑みで応えた。

 

「パパ!!」

 

すると、リュウの後ろから黒髪の闇妖精族(インプ)と思われる少女が飛び出し、抱き着いてくる。ランダムなキャラクターデザインのせいで見た目からは判別できないが、俺にとって自分の事を『パパ』と呼ぶ存在は一人しかいない。

 

「ユイ……ユイか?」

 

「はい!」

 

「どうして俺の居場所が?」

 

「リュウさんが連れて来てくれました!何でも、フレンドのサーチ機能が残ってたとか…」

 

それは盲点だった。俺のSAOのセーブデータがここでも使用出来るなら、ユイやリュウのデータがあってもおかしくはない。フレンド設定がそのままなら、二人のサーチは可能になる訳だ。

 

俺はこの時、アスナの居場所もサーチで分からないかと考えたが、残念ながらここからでは《世界樹》は遠く、サーチ圏外であった。無論、あの写真がアスナであるとするなら、の話だが。

 

「……で?そちらの君はどうするのかな?」

 

その時、リュウの言葉で俺は今の状況を思い出した。

───が、俺とリュウの乱入でやたらカオスになっていた。

 

本来なら、サラマンダーの部隊が孤立したシルフを追い詰めた場面の筈だった。そこに俺が現れ、何故か俺に全てのヘイトが向き、仕方なく迎撃……。

 

ここまでならまだ分かる。だがさらにサラマンダーのリュウが現れ、普通なら同士である筈の伏兵サラマンダーを蹴り殺したのだ。俺はともかく、サラマンダー部隊を率いていたリーダーや追われていたシルフの子にとっては───

 

「い、いや。すまないがここは撤退させて頂こう……」

 

「許す」

 

………あれ?

案外すんなり、てか寧ろ怯えてるような────

 

「……リュウさん?なんでここにいるの?」

 

「おうリーファ、実は俺こいつらと知り合いでな」

 

───は?

この二人、知り合い?あれ、俺がログインしてそんなに時間経ってないよな?俺との電話の直後にログインしたなら、知り合うタイミングなんてない筈……。

 

「……おい、まさかお前────知ってたのかあああ!?」

 

俺は驚きと怒りの余り、リュウに思いっ切り掴みかかった。

そのリュウは申し訳なさそうな表情で俺の目線を逸らしている。

 

「い、いやぁ……スマンカッタ」

 

「スマンで済んだら警察はいらねえぇぇぇぇぇ!!」

 

一際大きな殴打の音が、暗い森に木霊した───

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

「───で、俺がログインする二ヶ月前に既にお前はこの世界を堪能していたと」

 

「………」コクリ

 

パンパンに腫れた顔で頷くリュウを見て、俺は大きくため息をついた。コイツが俺に隠していた理由は大体想像がつくので深く責める事は出来ないが、やはり何処か煮え切らない。

それでも、もう一発殴りたい思いを抑えるため聞く相手を変える事にした。

 

「リーファさん、だっけ?コイツ(リュウ)は今風妖精族(シルフ)が預かっている……って事でいいか?」

 

「リーファでいいわよ。キリト君…でいいのよね?あなたと同じ様に彼も道に迷ったらしくて、この森の方からシルフ領に来ちゃったのよ。あれは大変だったわ、シルフとサラマンダーは敵対状態だし、領地侵略の斥候だと思ったから全力で迎撃したわね」

 

「あー……」

 

何故だか想像出来た。恐らくリュウとしては道を尋ねたかっただけなのだろうが、聞く相手が悪い。

 

「ただ斥候にしては……っていうか逆にあたし達の防衛線が全滅しかける位に無茶苦茶強かったから、これで斥候はないだろうって事になって……。話してみたら本当にただの初心者(ビギナー)みたいだったし、骨折り損とはまさにこの事ね」

 

どうやら相手が悪いのはお互い様だったらしい。シルフ諸君は『こんな初心者がいてたまるか』とか思っていそうだが。

 

「結局、領内ではあたしが彼を監視する事になってるんだけど……そういえばリュウさん、代わりに付けた監視役はどうしたの?」

 

徐々に腫れが収まりだしたリュウにリーファが尋ねる。

 

「急いでたから置いてきた」

 

悪びれもせず答えるリュウに、リーファは頭を抱えた。この分ではシルフ領内は大騒ぎになっているだろう。

 

「ああもう……サクヤになんて報告すればいいんだろ……」

 

「大丈夫だろ。知り合いを拾いに行くってのは言ってあるし、それにお前と合流出来たしな」

 

「だと良いんだけど……」

 

リーファは大きくため息をついた。リュウにはSAOの頃から良くも悪くも引っ張られっ放しだったため、彼女には心底同情せざるを得ない。

 

「えーと取り敢えず、二人共シルフ領(ウチ)に来る?行く場所無いんでしょ?」

 

「え、いいのか?」

 

確かに、このまま解散してしまえば俺達は途方に暮れる事になる。その好意は有難いが、なんだか申し訳ない気分だ。

 

「別に構わないわ。似たような立場の人がそこにいる訳だし、それに助けてもらったお礼もしたいし」

 

似たような立場の人、とはリュウの事だろう。当の本人は何も感じていない様だが。

まぁとにかく、折角のお誘いを頂いているので。

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」

 

「決まりだな。んじゃ、俺達が先導するから───ってキリト、お前随意飛行は出来んのか?」

 

リュウの言葉に、俺は首を横に振る。

 

「ならそこから始めるか。スティック飛行は出来るんだな?」

 

「ああ」

 

「その時の翅の動きと広背筋・肩甲骨の動きを覚えて再現しろ。上昇下降加速停止離陸着陸、基本の動作はそれで何とかなる」

 

「分かった」

 

俺は先ずスティックを使って、離陸から着陸までの一連の飛行動作を行なう。そしてその後、先程の翅のイメージを反芻しながら、背中の筋肉及びその先の翅を動かした。

 

「お、おおおっ!?」

 

すると、ぎこちないながらも自分の体が徐々に浮遊していく。成程、確かにこれはコツが要るが、システムに最適化されたスティック飛行より自由度が遥かに高い。適応すれば中々に便利で快適なものになりそうだ。

 

「よっ、はっ、うおぉ!?」

 

旋回、急上昇、垂直降下と色々試しつつ、飛行の感覚を身に染み込ませる。リーファに細かなコツを教えて貰いながら、俺はすっかり随意飛行の虜になっていた。

 

「どう?気持ち良いでしょ?」

 

「ああ……。なんていうか、感動的だな。ずっと飛んでいたいよ……」

 

「でしょ~?」

 

「パパ、上手です!」

 

リーファとユイが頷く。因みに、ユイは元がAIであるため仮想の骨や筋肉など複雑な事を考える必要なく随意飛行が出来るようだ。

 

「そんじゃ、スイルベーンまで飛ぶぞ。付いて来いよ?」

 

そう言うと、リュウとリーファはそれなりの加速をつけて先導し始める。俺とユイはそれに追随し、シルフ領の首都だというスイルベーンを目指す。

 

「もうちょい飛ばしていいぜ、お二人さん?」

 

「あっ、言ったわね?置いてかれても知らないんだから!」

 

リーファが速度を上げる。予想よりも速かったため少々面食らったが、ひとまず俺も試しに加速してみたら案外速さが出たため、すぐに彼女に追いついてしまった。

 

「むっ……。やるわね。それじゃ、これならどう?」

 

リーファがさらにスピードを上げる。俺も触発されてさらにギアを入れ、再び彼女の後ろに付いた。すると頬を膨らませたリーファがまた加速して、俺も負けじと彼女の隣にぴたりと並ぶ。そんなイタチごっこを続けていると、いつの間にか俺もリーファもトップスピードに達していた。

 

「驚いたわ、あたしの全力についてこられるなんて」

 

「速さにはそれなりに自信があるんだ」

 

「へぇ。なら今度空中戦闘(エアレイド)でも───」

 

その時、隣にいた筈のリーファの姿が一瞬で視界から消え去った。

何事か、と思って視線を前方へ向けると────

 

「──────ファッ!?」

 

目の前に、巨大な塔があった。このスピードでは、回避もブレーキも間に合わ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────あれ?」

 

いつの間にか、俺の身体は地面で静止していた。

しかも、倒れているとか突き刺さっているとかではなく、完璧な形で着地しているのだ。

 

「ちょっとキリト君~?大丈夫~?」

 

直前で急停止していたリーファが遅れてやってくる。

 

「ああ、俺は何とか」

 

「ホントに?すごい勢いで跳ね返ってたけど。ちょっと待って、今回復(ヒール)かけるから───ってあれ?HPが減ってない?」

 

「へ?跳ね…返った?」

 

どうやら、俺は無意識の内に塔の壁を蹴り、方向を転換させ着陸したらしい。道理で足がジンジン痛む訳だ。

 

「まぁ無事ならいいわ。何はともあれ、ようこそスイルベーンへ!」

 

「何がようこそだ阿呆」ベシッ

 

『ア()ぁッ!?』

 

どこからともなく現れたリュウが、突然俺とリーファの頭をシバいた。

 

「な、何すんのよ!?」

 

「スピード勝負に夢中になるのは良いが、ユイを置いてくんじゃあないよ」

 

『あっ』

 

よく見ると、リュウの背中には目をぐるぐる回したユイがしがみついていた。俺達に何とか追いつこうとしたものの、疲れ果ててリュウに背負われて来たのだろう。

 

「うぅ~、もうヘトヘトですぅ~」

 

まるでうなされている様に呟く彼女をリュウが下ろしてやる。AIでも疲れたりするんだな、と少し感心していると、こちらに走ってくる人影が目に入った。

 

「お~い、リーファちゃ~ん!」

 

それは小柄で温厚そうな風貌のシルフの少年だった。彼はスプリガンである俺を視界に捉えると一瞬身構えるような動作を取ったが、隣にいたリュウを見て何故か呆れた表情になった。

 

「スプリガンにインプって……。また面倒な事やろうとしてません?」

 

「面倒とは失礼な」

 

「領地に他の二種族連れて来る事を面倒事と言わずして何だと」

 

「確かに」

 

『いや、そこ納得してどうする(んですか)』

 

思わずユイとツッコミを入れてしまう。

 

「あぁ、レコン。今回は違うのよ、今回は。ちょっと助けてもらったから、そのお礼をしたくて」

 

「……リュウさんがいたなら大丈夫だとは思うけど、スパイって可能性は───」

 

「その彼のリアルでの知り合いって言ったら?」

 

「……なんでもない」

 

レコンと呼ぶらしい彼の目が死んでいるのはつまりそういう事なのだろう。

この男は一体どんな事をしでかしているんだ?

 

「強いて言うなら、本当に攻めてきたサラマンダーの軍隊を追い払ったくらいか?」

 

「ナチュラルに心読むな」

 

相変わらずの調子に呆れていると、リーファが思い出したようにこちらに振り返った。

 

「そうそう、紹介が遅れたわ。こいつはレコン。あたしの仲間なんだけど、君達と会う前にやられちゃっててさ」

 

「あ、初めまして、僕はレコン。よろしく」

 

「あ、ああ。俺はキリトだ」

 

「私はユイです!」

 

二人ともに握手を交わすと、レコンはリーファに向き直った。

 

「シグルド達は先に《水仙館》で席取ってるから、分配はそこでやろうって」

 

「あ、そっか。う~ん……」

 

彼女は何か悩んでいる様だったが、『分配』というなら恐らくそれに参加するか否かだろう。こちらの事情で変に縛りたくはないが、このシルフ領でサラマンダー、スプリガン、インプだけで取り残されるのは出来れば避けておきたい。リュウはずっとこの街にいたらしいが、それでも他種族である彼よりここの正当な住人であるリーファがいてくれた方がずっと助かるのだが……

 

「あたし、今日の分配は良いわ。スキルに合ったアイテムもなかったし、アンタに預けるから四人で分けて」

 

その返事に、俺は心の中でホッと安堵した。対してレコンは、やれやれと肩を竦めている。

 

「その人達にお礼がしたいんだよね?分かった、シグルド達にはそれなりに誤魔化しておくよ。でも気を付けてね?シグルド、へそ曲げるとメンド臭いから」

 

「ありがと。また今度奢ったげるわ」

 

「楽しみにしてるよ、ローヤルビーの特盛ジャンボパフェ」

 

「うげっ、よりによってそれ……。あんた、誰かさんのお陰で随分と強かになったじゃない?」

 

「やる事の加減はともかく、見習う事は多いよ」

 

会話の外野でも分かる、『誰かさん』の正体。ホントどういう存在感してんだコイツ。

 

「っと、そろそろ行かないと《すずらん亭》が満席になっちゃうわ。それじゃ、あたし達はここらで失礼するよ。またね、レコン!」

 

「いってらっしゃぁ~い」

 

どこか寂しそうな目をしたレコンを尻目に、俺達はリーファに率いられ《すずらん亭》なる場所へと向かった。途中、シルフのプレイヤーが次々にこちらにギョッとした表情を向けたが、大抵はリーファの姿を見て納得するか、もしくはリュウの姿を見て呆れ返っていた。この世界での彼の扱いが伺える。

 

「……平和な世界だなぁ」

 

俺はふとそんな言葉を零していた。()()()は、強いプレイヤーとそうでない者に少なからず壁が出来ていた。あそこはHPが0になれば(死ねば)死ぬ世界、自分よりも強い者を敵に回せば命が保証出来なくなるからだ。その上トッププレイヤーとなれば攻略のために奮闘する言わば勇者的存在、畏敬の念を持って接してくる事もしばしばあった。それは、比較的下層・中層プレイヤーとの交流があったとはいえ、俺やリュウも例外ではない。SAOでは、俺達がこれほどまでに友好的な扱いを受ける事など殆どなかったのだ。

 

SAO───次々に甦って来る、二年間の記憶。時に辛く、絶望に打ちひしがれたりもしたが、かけがえのない仲間と出会い、忘れられない思い出がある。そして何より、俺が一生を捧げても守ると誓った最愛の人と巡り会うことが出来た。そして、その彼女が今度はこの世界に囚われているかもしれない。平和に見えるこのゲームの裏側にアスナがいるのなら、俺が絶対に迎えに行かなくては。

 

──────助けて、キリト君…………

 

「!?」

 

その時、どこからかアスナの声が聞こえた。すぐに周りを見回してみるが、彼女の姿はどこにもない。

あれは果たして気のせいだったのか。募る想いは最早幻聴まで引き起こしてしまったのだろうか。

 

……いや、それでも。それでも俺は信じたい。今度こそアスナと共に、現実世界へと帰還する未来を。

 

「──────待ってろよ、アスナ」

 

彼女と思われる人物が撮られた場所、ここから北にある《世界樹》を見据え、拳を突き出す。

必ず連れ戻す──────そう決意を新たにして、俺はリーファを追いかけた。

 




おまけ。
リュウのサラマンダー侵攻部隊撃退の顛末

「ま、マズい!サラマンダーの大部隊が攻め込んできた!」

「何!? やはりあの男はスパイだったと────」

「今はそんな事はどうでもいい!! 早く迎撃の用意を……」

「い、いや、待って下さい!侵略軍の前に人影!あれは、あのリュウとかいうサラマンダー!?」

『何!?』ガタッ

「あいつ、まさか侵攻軍と合流を───」

リュウ「(詠唱)」

「ま、魔法?」

リュウ「──────────。」スタァト アァップ

『?』

カカカカカァン!!(ポインターマルチロック)

『!?』

どどどどどーん☆

『!!?』

リュウ「何だったんだあいつら」

『( ゚д゚)ポカーン』

因みにこの時リーファは留守だったそうな。

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