紅蓮の皇   作:Skullheart

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※今回ちょっとごり押しな部分があります。ご注意くださいませ。


Departure

「……どうしちゃったんだろ、私」

 

アミュスフィアを外し、桐ヶ谷直葉は暗闇の中で一人ポツリと呟いた。

 

彼女がアミュスフィアを初めて起動したのがALO黎明期である一年前、学校生活と両立させるため夜の一時間程度のみのログインという条件で両親に了承して貰ったのだ。兄・和人が取り憑かれた仮想世界がどういう物なのかを知りたかったのだが、成程それは魅力的な世界だった。現実とは違うもう一人の自分、これが仮想だと思えない程リアルな感覚、何より『飛ぶ』というこれまで経験した事のない未知の体験によって、彼女も瞬く間に電脳の世界に惹き込まれ、すっかりフルダイブ型VRゲームの虜になってしまったのだ。

 

だが今日出会った少年、キリトに対して直葉は言い表せない感情を抱いていた。

毎日ALOにログインする事は楽しみではあった。しかし、次にダイブする事がこれ程楽しみになるのは初めてであった。早くALOに行きたい、行って彼に会いたい。こんな感情は今まで持った事がなかった。

 

いや、初めてではない。彼女のこの感情は、兄が仮想世界に囚われた時の、もう一度会いたいというあの感情に似ている。なぜ彼が兄と重なるのか、そこまでは分からなかったが、とにかく直葉は彼の事が気になって仕方がなかった。

 

彼女が《すずらん亭》で聞いた話では、彼は世界樹に行かなければならないという。理由は上手く言えないとの事だったが、あの様子では急を要するのだろう。しかし、この世界に来て累計してもまだ数時間に満たない時間しか経っていない初心者が、《スイルベーン》から世界樹のある央都《アルン》まで行くのに一筋縄でいくとは思えない。彼とリアルでも知り合いだったリュウがいなければ、自分がついていくと言い出していただろう─────

 

(………いやいや、何を考えているんだ私は)

 

ブンブンと首を横に振る。

それこそ出会って数十分の人物に、どうしてそこまでする義理があるのか。助けて貰ったとはいえ、所詮ゲームは一期一会。一杯奢る程度で借りは返せた筈なのだ。見送りにも行くつもりである。

なのに何故────こんなにも放っておけないのだろうか。

 

(……やっぱり、一緒に行くって言えば良かったかな)

 

そんな逡巡を繰り返し、彼女は一つため息をついた。

 

 


 

 

翌日、十四時半。宿屋となっている、《すずらん亭》の二階のとある一室。この世界では朝日が昇る中、ログインしたキリトは開いた口が塞がらなかった。

彼の視線の先には、昨日共にログアウトしたリュウがいたのだが、問題はその手の平に────

 

「あっ、パパ!おはようございます!と言っても、現実では真っ昼間ですけど!」

 

なんともお手頃サイズとなった、今朝から姿が見えなかったユイがちょこんと乗っているのだ。キリトは状況が呑み込めず暫く目をぱちくりさせたりしていたが、ようやく頭が正常な働きを取り戻すとまず二人に説明を求めた。

 

「ほれ、ALO(ここ)がSAOのコピーベースだってのは解ってるだろ?そこからユイがカウンセリング用AIだった頃のデータを引っ張り出して、ここの《ナビゲーション・ピクシー》ってシステムに適応させたのさ。これでプレイヤーである《YUI》とサポートAIである《Yui》の切り替えが出来るようになったって訳」

 

「因みにログイン・ログアウトのシステム上、プレイヤーモードからサポートモードへの移行はスムーズに行なえるのですが、その逆はプレイヤーとしての私がログアウトした場所からのスタートとなる都合上、上手い具合にはいかない場合があります。例えば、サポートとしての私が移動した結果、プレイヤーとして再ログインした時に合流に時間を要する……とかです」

 

「な、成程ぉ……」

 

なんとなくだが理解したキリトは、呆気にとられたように腑抜けた声で返事した。それでも小さくなったユイに未だ戸惑っている彼は、自分の周りをひらひら飛んでいる彼女を見つめていたり、手に留まっている所を突っついたりしている。

 

「ま、こいつはもしかしたらって事でやってみた所謂オマケって奴だ。サポートして貰うにしても、プレイヤーとしてのユイのログアウトポイントが近くにあった方が良いし、今回は《YUI》での同行が主体になる」

 

「そういう事です……よっと!」

 

すると、キリトの肩に留まっていたユイがフッと消え、代わりに彼の左にあったベッドから本来の人間サイズになったユイが現れた。この一瞬の事に驚くキリトに対して、彼女は眩しいほどの笑顔で応える。

 

「こっちの方では挨拶はまだでしたね。おはようございます、パパ!」

 

「あ、ああ……」

 

これは暫く慣れそうにない。そう悟ったキリトの目は、心なしか少し曇っていた。

 

 


 

 

「あっ……」

 

俺達が階段を下り、《すずらん亭》のカフェに出るとそこにはリーファの姿があった。見た所こちらを待っていた様子だが────────

 

「ね、ねぇ。おねg「よう、リーファ!これからこいつの装備を見繕いに行くんだが、お前も一緒に来るか?」

 

「え、あ、うん、けど、それより聞いt「サンキュ!ここじゃお前が一番長くいるからな、いい店を頼む」

 

「……むぅ~」

 

話をさせて貰えない。何かを頼もうとしているようだが、それより先にリュウが話を逸らしてしまう。

見かねた俺は、リュウにさりげなく話しかけた。

 

「あー……リュウ、何でリーファの話を────」

 

ここで俺はリュウの視線が鋭く、他のどこかに向けられている事に気付く。二年も付き合っていて、その表情の意味を理解できない自分ではない。大人しく身を引き、リーファにおすすめの武器屋を案内して貰う。

 

「……う~ん、もっと重いヤツないか?」

 

が、その武器屋の剣を素振りしては返却、素振りしては返却を繰り返し、ついにはその店最大級の大きさだという、最早土妖精族(ノーム)闇妖精族(インプ)に多いという巨人アバターが扱っていそうな代物に行き着いてしまった。

 

「…………うん、これが一番しっくりくるかな」

 

そう言って、この細身な身体に似合わないであろう大剣を購入する。

すると、隣にいたリーファが、大丈夫なのか疑わしいという目で俺の剣を覗き込んでいた。

 

「えぇ~?そんなのホントに振れるのぉ~?」

 

そう彼女に尋ねられ、もう一度軽く振るって確かめる。だがやはりその感触に問題はなく、むしろまだ軽いとさえ思ってしまうぐらいだ。一応、リュウにも試しに振らせてみる。

 

「うん、コイツにはこんくらいの重さは要るな。前のよりは軽めだけど」

 

彼からもこう言われて、リーファも何とか納得したようだ。てかこのサイズの剣より重いとか、エリュシデータとダークリパルサーの比重はどんぐらいあったんだろうか…………

 

そしてついでに防具系の装備も購入して、ポーション類も補充しておく。ユイ用の短剣・防具も忘れず用意し、あとは飛行距離を稼ぐため、この街で最も高度がある《風の塔》に上って出発するのみとなった。

 

しかしその塔の、魔力式と思われるエレベータに乗り込もうとした時。

 

「止まれ」

 

その扉の前を塞ぐように、長身のアバターの男が仲間を引き連れて俺達の前に現れた。

咄嗟に背中の剣に手を伸ばすも、生憎ここは異種族領。こちらからの攻撃は許されない。

 

「……シグルド?」

 

どうやらリーファの知り合いのようだ。だが、目の前の男は彼女ではなく、その隣のリュウに視線を注いでいる。用があるのは彼の方らしい。

 

「貴様、この領を出るらしいな」

 

「それで?情報漏洩防止のために拘束させて頂きますってか?確かに昨日代わりの監視役置いて出てったけどよ」

 

「話が早くて助かるな。では我々と一緒に来てもらおうか。これ以上好きにして貰っては困る。そこのインプとスプリガンもだ」

 

シグルドという男は俺達に同行を促した。

なんという事だ。今そんな命令に従えば、俺達はアスナを助ける事が出来なくなるだろう。焦る俺の頬に汗が伝う。

が、リュウは微塵の躊躇もなく一歩前に出ると、

 

「────他人のプレイスタイルをどうこうする権利が君達にあるのかね?」

 

語気に圧を含み、大胆不敵にもそう言い放った。これにはシグルド達も眉をひそめる。

だがリュウは口調を変えて話を続けた。

 

「まぁ落ち着けって。あんたらのやろうとしてる事は決して間違いじゃあない。ただ、ちょいと堅すぎるのさ」

 

「何だと……?」

 

「考えてみな?『俺達がシルフ領を出てアルンに行くこと』自体はあんたらにとって直接的なデメリットは無い。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから───」

 

「だから?」

 

その質問に答えるように、ポン、とリュウはリーファの肩に手を置いた。

 

「俺達は、こいつを監視役として連れていく」

 

『……!?』

 

その回答に、シグルドはおろかリーファでさえ表情が驚きに染まる。

 

「どっ、どういう事だ!?」

 

今度はシグルドが焦った表情になった。自分達に絶対の正義があると信じていた、さっきまでの余裕は最早どこにも見受けられない。

 

「リーファは俺を監視する事を命じられてる。その俺がアルンに行くと言ってるんだ、こいつも一緒に行くのが道理って奴だろう?これで情報漏洩の心配はない。少しでも怪しい動きがあれば死に戻りなり何なりすればいいだけだからな」

 

「だがそいつは、俺の……」

 

「『俺の』何だ?仲間か?それとも私物か?そんなに連れてかれるのが嫌なら……お前が来るか?」

 

「そっ、それは……」

 

シグルドは言葉に詰まった。その苦々しい表情の裏には、隠し切れない怒りが見て取れる。恐らく、感情的になると頭が回らなくなるのだろう。

 

「この、貴様……ここをどこだと思っている……?我らシルフの首都だぞ……?」

 

案の定実力行使に出ようとする。取り巻き達は止めようとしているが、歯止めが利くかどうかは五分五分だろう。

抵抗できない相手を力で抑えつける。成程、悪くはない手だ。

 

「後悔しても、おそ(ビッ……‼)──────」

 

コイツには悪手以外の何物でもないが。

 

「………へ?」

 

シグルドが剣の柄を握った瞬間、その眼のド真ん前にリュウの貫手が炸裂した。その貫手自体は彼に命中しておらず、多分ターゲット指定もしていないためプログラム的には攻撃とは認定されていないのだが、音も予備動作もなくまさにいきなり目の前に出現する五本の指は、針のように尖ったシグルドの敵意をへし折る威嚇(こうげき)には十分だった。

 

「……やる?」

 

「ひいぃぃぃぃぃっ!!」

 

低くした声のトーンも相まって、シグルドの腰は完全に抜け落ちた。先程の態度はどこへやら、今は尻餅をついて情けない声を出すのみである。

 

「く、くそっ!覚えてろーっ!!」

 

「ハッハッハ!心配せずともいつでも受けて立ーつ!」

 

捨て台詞を吐いて逃げていくシグルド達に、追い撃ちの煽りをかけるリュウ。やがて彼らの姿が見えなくなると、何事もなかったかのようにこちらに振り返った。

 

「さ、行こうぜ!時間は有限なんだ、もたもたしてると日が暮れちまう」

 

「……そうだな、ゆっくりしてる時間は無いな」

 

「あの人、何がしたかったんでしょうかねぇ?」

 

この男をよく知る俺とユイはこういう展開にはもう慣れっこだったが、

 

「え?え?…………え?」

 

リーファは一人話に追いつけず、ただただ困惑しているようだった。

 

 


 

 

「……リュウさん、まさかこれが目的だったんですか?」

 

高い塔を昇るエレベータの中で、ユイはこっそりと尋ねた。

 

「何の事だ?」

 

「惚けても丸分かりですよ。今朝からリーファさんの話を逸らし続けたのは、この展開に持っていくためだったんですね?いくら私達より早くに来ていたとしても、すぐにスイルベーンに軟禁されたあなたがアルンまでの詳しい道筋を知る事は難しい筈。なので本当は、ここからアルンまでの『本当の案内役』が必要だった。

リーファさんの昨日からの様子からして、話というのはアルンへの旅への同行でしょう。しかし、この世界での他種族とパーティを組む行為は脱走と見做され、以後脱領者(レネゲイド)として扱われる。それを察したあなたは街で尾行されている事を確認し、ここのエレベータ前まで話を引っ張った。そして先程の状況に仕立て上げることで、リーファさんの同行に彼女の意思は関与していないことにして、その上シグルドさん達というそれを立証する証人まで用意したんです。同意させなくすれば、パーティ脱退などのトラブルが起こりにくいですからね」

 

「……さぁ、どうだかな」

 

「むっ、あくまでもはぐらかす気ですか」

 

「ただ、案内役が欲しかったのは本当だ」

 

そうこう言っている内に扉が開き、《風の塔》の展望デッキへと出る。そこには壮大なパノラマが広がっており、深い森の先の大きな山脈、そしてさらにその先────《世界樹》までも見渡す事が出来た。少しの間その景色に見惚れるキリト達だったが、リーファがパン、と手を叩いて彼らの意識を引き戻す。

 

「さ、風向きが変わらないうちに飛ぶわよ!今が一番良いタイミングなんだから、逃したら大分遅れちゃうよ~」

 

最初は戸惑っていた彼女も、状況を理解して既に腹を括っていた。

 

「リーファ!アルンまでの案内、頼んだぜ!」

 

「任せなさい!」

 

四人は背中の翅を広げ、大空へと飛び立つ。彼らが目指すは央都アルン。その中心である世界樹。キリトの愛する者がいると思われる場所。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

『おぉー!!』

 

To be continued…

 




ちょっとシグルドさんが情けなくなってしまった。シグルドファンの人いたらすみません!
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