因みにタイトルの「皇」は「おう」とは読みません。それは後になってのお楽しみということで・・・
アインクラッド第十一層、《月夜の黒猫団》ギルドハウスにて。
ケイタ達は、自分達の師として加入した前線組、リュウの講義を受けていた。
「さて、お前らに圧倒的に足りないものは何だと思う?」
「レベルとステータスですか?」
「それは大前提だ」
ササマルの回答は即座に切り捨てられた。リュウは補足する様に話を続ける。
「例えレベルとステータスが充分高かったとしても、今のお前らでは前線組に遠く及ばないだろう」
「………」
具体的に、かつこれ以上なくはっきりと言い切るリュウ。取り繕う事なく、ただただ事実のみを述べる彼の迫力に皆一様に呑まれていた。
「ステータスさえ積めば何とかなるとでも思っていたのか?お前達の戦い方は見せてもらったが、辛うじてそう見えるだけで実際はあんなもの戦術とは言わん。でもな、例えパラメータが充分高くても戦術が成り立っていても、死ぬ奴は死ぬ。お前らの目指す
ごくり、と息を吞むケイタ達。彼らは改めて自らの認識の甘さ、そしてVRMMORPGの残酷さを叩きつけられた。
「スキル構成も確認した。自分の武器の兎に角強いスキルを、と言った感じだな。だがそれは大きな間違いだ。ここで正解を言わせて貰うが、お前らに足りないのは、"幅"と"セオリー"だ」
「"幅"? "セオリー"……?」
その言葉を理解しかねたケイタは説明を求めた。しかし、質問されたリュウは少し考え込み。
「ケイタ、お前はリーダーだろう。ならばこの言葉をどう取る?」
逆に問い返され、ケイタは困惑した。分からないから言いているというのに───
だが彼は、そこで己の認識を改めた。
(……そうだ、他人に与えられるばかりが全てじゃない。現に前線組は───キリトは、誰にものを教えてもらっている訳でもなかったじゃないか。自分で考えて、自分で自分を強くしてきたんだ。それが出来なきゃ、本当の前線組入りなんて夢のまた夢だ!)
自らの甘えを断ち切るため、ケイタは全力で思考した。自分達に足りないものは何か?最も必要なものは何か?今までの経験・体感を掘り起こし、その答えを探す。
「……敵と
ケイタがずっと気になっていたのは、戦闘が始まった瞬間。頭の中での情報を整理するために、ケイタはポツリと呟いた。それを聞いたテツオが、今までの戦闘スタイルを一言にまとめようとする。
「えーと……まず前衛の俺が仕掛けて気を引いてる間に、ケイタ達後衛が攻撃していく────」
「それだ」
その瞬間、テツオを素早く指差すケイタ。突然指差されたテツオは驚き、思わずひっくり返ってしまった。
「俺達はそういう大雑把な戦い方しか決めてなかった。確かにこれは、全部の状況に臨機応変に対応できるかもしれない。だけどそれなら最初から戦い方を完全に理解して、最適な対策を立てていた方が確実じゃないか?」
「今までだと、初めて見るタイプに後手に回った事は少なくないよね」
サチの台詞に、ケイタはこくりと頷く。今まで漠然とだけ感じていた不安、その正体が今分かったような気がした。
「特に『上』じゃ、初めての敵と遭遇するのも当たり前になって来る。そんな時にいちいち後手に回るのは命取りになりかねない」
「そのためにある程度の"
納得したササマルがケイタに視線を送る。
「ああ。"幅"はそれを補うため───色んなタイプの敵に対応するため、そして"セオリー"外の対応のため。でも俺達のスキル構成には、その"幅"が全くと言っていい程無い。俺達は、各々で出来る事があまりにも少なすぎる」
ケイタが出した答えに、リュウはひゅう、と口笛を吹いた。
「その結論が出せるんなら上出来だ。ま、そういう事だから暫くはこの二つを重点的に鍛えていく───と言いたいところだが、さっきも言った通りそいつは充分なレベルとステータスが大前提だ。今の内から前線組以上のペースで経験値を積まなきゃ、一生奴らには追いつけない。ってな訳で、レベリングと同時進行でやるぞ。結構ハードだから、覚悟しとけよ?」
ニヤリと笑うリュウに、一同はごくりと息を呑んだ。
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場所を移し、アインクラッド第二十八層。この前全滅しかけた迷宮区が二十七層なので、あの時よりも強力なモンスターが出現する事になる。
「この辺りのモンスターのアルゴリズムは比較的単純なものが多くてな。お前達みたいな、レベルもパーティの質も上げたいって奴にはうってつけの場所なんだ」
リュウはそう言っているが、彼らは昨日死にかけたばかり。さらにはその階層の上にいるモンスターと戦うのだ、ケイタ達が緊張しない訳がなかった。
「大丈夫だ、最初は俺が手本として指揮する。絶対に死なせないから安心しろ」
その瞬間、目の前で
「んじゃ早速、準備は良いな?」
リュウの言葉に皆一様に頷く。すると、状況は一瞬で動き出した。
「ダッカーとサチはそれぞれ両翼に展開。回り込んで奴らの背後を取れ。ケイタとササマルは左右二体を正面から、テツオは中央で迎え討て」
「! …了解!」
リュウの命令通りに、黒猫団は素早く動き出した。そして全員が持ち場に着いた途端、彼からのさらなる指示が飛ぶ。
「テツオはカウンターを狙え。サチ、あまり距離取りすぎるな。ダッカーももっと踏み込んで意識させろ」
『りょ、了解!』
休む間もなく出される指示に、五人はついていくのがやっとだった。脳が追いつかない、身体が反応しない。昨日までと違うレベルの高さは、彼らから思考する余裕さえ奪っていた。
それでも、攻略組に追いつきたいという彼らの決意は折れなかった。いつか
その覚悟を認めたのか、リュウはニヤリと笑い、ケイタ達に止めの指示を出す。
「ダッカー、テツオ。一気に決めろ」
『! 了解ッ!』
二人は短剣、盾持ちメイスから刀、両手斧へと
しかし黒猫団のような少人数ギルドではその手法は採れない。ならば、サブスキルをメインスキルと同等化することで、人員ではなく武器の入れ換えによって対応させればいい。同時にパーティバランスも整える事にも成功した。
武器を持ち替えた二人は、高い攻撃力を持つその装備で大技の準備に入った。それを認識したモンスターは、それぞれ回避や後退の動作を取る。リュウはそれを見て、他の三人にフォローを───
『らあぁっ!!』
「!」
だがリュウが指示するよりも早く、ケイタ達はモンスターを押し返した。
彼らはそう動く事を考えていた訳ではなかった。ただ単に、自分達がそうすべきであると感じた事をそのまま行動にしただけである。それは単なる直感か、はたまた本能と呼ぶべきか。あるいは彼らの絆がそうさせたのか。何にせよ、既にモンスターに逃げ場は無くなっていた。
『おおぉおおぉぉぉおぉぉ!!』
二人の大技に加え、他の三人も一斉に攻撃を加える。五人による飽和攻撃を食らったモンスターは、残らず力尽きてポリゴンと化した。戦闘終了を知らせるリザルト画面が、彼らの目の前に現れる。
「はぁ、はっ……終わった?」
ケイタはそう言って、へたりと座り込んだ。そんな彼に、リュウが顔を覗き込ませる。
「お疲れさん。今のが手本だから、これ参考にして次からケイタが指揮な」
「……まずは基本から、ですけど」
ケイタは死屍累々となっている他の四人に目をやりつつ、ため息を吐いた。
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まずは基本的なセオリーを体に叩き込みながら、かれこれ十七回程戦闘を繰り返し。へとへとになったケイタ達を横目に、リュウはちらと時計を見た。
「……そろそろ上がりだ。次のパーティと交代する」
「……りょうか~い」
リュウの言葉により、彼らは狩場を後にした。
最前線以外の狩場は全て《アインクラッド解放軍》、所謂『軍』によって厳重に管理されており、私利私欲で独占しようものならすぐさま制裁が下される。諍いなど起こそうものならば、どこからともなくすっ飛んで来る位だ。なので最強の殺人ギルド《
「さて、モンスター狩りは終わったが俺たちのやることはまだ終わっちゃいない」
圏外圏の、されど圏内にほど近い広い丘。その中でも一際目立ちにくい場所で、リュウは立ち止まった。
「ダッカー、経験値が手に入るのはどういう時だ?」
「え…?戦闘に勝利した時?」
「そ。んでそれはモンスターと戦った時だけじゃあない」
「あ…」
ダッカーが全てを理解したと同時に、リュウから彼にデュエルの申請が届いた。形式は《初撃決着モード》。ダッカーはそれを承諾し、カウントダウンが始まる。
レベルを上げたいとはいえ、何故こうまで貪欲に経験値を求めるのか。それは、先程の"幅"の話に関係する。
確かに武器を二種類扱えれば強力だ。しかしどうして誰もしようとしなかったかというと、単純にスキル熟練度が半分になるからである。他がどんどん強いスキルを身に着ける中置いてけぼりを食らう訳なので、前線組ではサブスキルはあくまでも
そして、この方法にはもう一つの意味がある。個人技を磨かせてチーム全体の実力の底上げを狙っているのだ。いくらパーティの戦術に長けても、個々の能力が低ければ先日の二の舞になりかねない。スキルの関係ない「身体の使い方」を最適化させる事で、たとえスキルレベルが劣っていたとしても有利に立ち回る事が出来る。
カウントダウンが終了し、デュエルが開始される。
「セィッ!!」
短剣のスピードを活かしたダッカーの速攻。先手必勝、相手が体勢を整える前に削り切るつもりだ。しかしリュウは、ダッカーの攻撃をメイスの柄で器用に防ぐ。
「速さは悪くない………が、正面だけでは!」
速攻が通用しないと悟ったダッカーは、すぐさま刀へとシフトする。そしてもう一度距離を詰め、リュウのメイスと打ち合った。
重さのあるメイスを受け流しつつ、スピードで以て攻めまくる。だがリュウは、防戦一方になりつつもその攻撃全てに対応していた。
「くっそ、涼しい顔してやがる……」
あまりに冷静な対処に舌を巻くダッカー。刀の素早い連続攻撃を全部柄で弾くなど、まさに変態の所業。ダッカーは内心ドン引きしていた。
すると彼は、痺れを切らしたのか刀を上段から思い切り斬り付けた。リュウはそれを、右手に持ったメイスで防御する。
刹那、ダッカーはニヤリと笑った。その瞬間、彼の右手から刀が消える。
そしてそれと入れ替わる形で現れる短剣。ダッカーは瞬時に潜り込み、がら空きになったリュウの懐へと刃先を突き立て───
「……良い発想だ。だが踏み込みが甘いな」
しかし、突き出した短剣はリュウの
「刀と短剣のリーチの切り替えに慣れる事だ。もっと恐れず肉薄出来れば、お前のスピードは更なる武器になる」
一通りアドバイスを出し、リュウは一言「参った」と呟く。その結果、デュエルはダッカーの勝利となり、彼らは経験値を手に入れる事が出来るのだ。
なお敗北ペナルティとしてリュウが支払うコルは、使い道が無かったためにずっと貯まっていたものらしい。しかし前線に行った時にまたしこたま貯まるので、減らないどころかむしろ貯まっていく一方なんだとか。
何はともあれ、団の全員リュウにデュエルという名の組み手を延々繰り返し。日が沈んだ頃には、既に百周はしたのではないだろうか。再び死屍累々となりながら、ケイタ達はギルドハウスに帰った。
「……で? 誰がこれで終わりだって言った?」
『はぇ?』
帰宅し夕食も摂った後。リュウのその台詞に誰もが素頓狂な声を出した。特訓の一日目がやっと終わったと気を抜いた瞬間の話である。
「お前達には全員《体術》をマスターしてもらう」
その次の台詞にも目が点になる。《体術》と言えば汎用スキルの代名詞、ケイタ達も全員「取っておくと便利だから」という理由で粗方取得していた。だが、『ウェポンシフト』という荒業に加えて、どうして《体術》も鍛える必要があるのだろうか。皆が首を傾げていると。
「武器を右手で持てば?当然左手が空くよな。両手が塞がった場合は?足が空いてるよな。何らかの理由で武器を失くした場合は?両手が空くよな。こういう風に、《体術》ってのは身体そのものを武器に変えてくれる非ッ常に便利なスキルなのさ」
ほぉ~、と感嘆の声が漏れる。成程、全身が武器になれば手数は格段に増えるだろう。
問題はどうやって鍛えるかだが。
「空打ちじゃあ熟練度は上がりませんよね?ギルドハウスでどうやって鍛えるんです?」
最もなササマルの疑問。しかしそれに答えたのは、リュウではなくケイタだった。
「知っての通り、スキルは使えば使う程熟練度が上がっていくだろ?なら実戦でなるべく使える様に、予め型を叩き込んでおけば良い。身体が慣れてるかそうでないかで大きく変わってくるからな」
「正解だ」
完璧に近い回答に、リュウが拍手を送る。
「だからとりあえず、就寝前のこの時間は《体術》の鍛練だ。喜べ、朝から晩まで特訓三昧だぞ」
そんな訳で、追い討ちの如く始まった体術訓練。
「遅い!そんなんじゃ実戦で使いモンにならんぞ!」
「そんなんでバランス崩してどうする!? 本番じゃあ武器も持ってるんだぞ!?」
「《体術》スキルの威力は筋力値に依存する、だから筋トレするぞ!」
リュウのスパルタ式に、やはり死屍累々となる黒猫団であった。その日は死んだ様に寝たのは言うまでもない。
一ヵ月後。
前線組は三十四層を突破し、人数も増えているという。ケイタ達もレベルアップし、複雑なアルゴリズムの敵にも対応出来るようになった。リュウのトレーニングメニューにもいつしか慣れ、彼程のとまではいかないが、素早い指揮にも対応出来る様になってきた。
しかしこれで驕ってはいけないことは彼らは身をもって知っている。己を滅ぼすものは、常に己の内に存在するのだ。
そして現在、第三十三層の暗い森の中にて。
「あのNPCのじーさんの話じゃこの辺なんだが…」
畑を荒らす魔物を倒してくれというクエストを受注した彼らは、ターゲットとなるモンスターの巣を潰すべく、歩みを進めていた。
「あっ、あれじゃない?」
サチが指差す先には、大きな洞穴が口を開けていた。
「あそこか。間違いないな」
こうして六人は洞窟の中へと進んで行った。
そこはまさに魔物の巣窟、三六〇度全方位に敵が現れた。気を抜けばすぐに囲い込まれる状態。リュウに鍛えられる前の彼らならば、尻尾を巻いて逃げ出していたかもしれない。
しかし彼らは生まれ変わった。あの頃の弱い自分に終止符を打ったのだ。この戦いは、そんな自分達からの卒業試験。
「よっしゃてめぇら、強化月間の集大成だぁ!! これまで学んだこと鍛えたこと、全部活かして戦え!! それが出来なきゃ前線組には加われないものと思え!!」
『おぉ!!!』
リュウの激励を合図に、黒猫団は一ミリも臆する事なく大軍へと向かっていく。ある時は連携し、ある時は各個撃破でどんどん敵は数を減らしていった。
乱戦になれば《体術》が光った。どこからでもどんな体勢でも攻撃出来るというメリットは、一対多において遺憾無く発揮された。
これまで叩き込んだあらゆる"セオリー"は、組み合わせ応用する事で今では"戦術"と呼べるものにまで昇華させられるようになった。常に思い通り状況を作る事が出来るそれは、今では彼らとって、戦況を有利に運ぶためになくてはならない物である。
二つ目の武器の扱いにも慣れ、リュウやその伝手の手解きのお陰で充分戦力たりうるものとなった。よく似たポテンシャルの武器を選択したため、パラメータ配分も問題ない。
いつの間にか敵も数える程しかいなくなった。それでも吶喊してくる敵を、ケイタ達は落ち着いて処理する。これでクエスト達成───と思いきや、突如地鳴りが轟く。
「な、なんだ!?」
「……どうやら、これからが本番ってやつらしい」
リュウが呟くと同時に天井が吹き飛ぶ。すると地面から、四本足で直立する大鎌を持った巨大なワニが現れた。
「グガアアアアァァァァアア!!」
爆発音のような雄叫びに、もう一度地鳴りが響く。
「固有名 The tyrant NEPTUNE…
定冠詞が付くモンスターは全てボス級モンスターにランク付けされる。しかしこんな一介のクエストで現れるなど滅多に、いやもしかしたら初めてかもしれない。
不意に頭に『撤退』の二文字が浮かぶ。しかし、そんな心を見透かしたようにリュウが叫んだ。
「どうした、ビビったかぁ!!? お前らは今まで何をしてきた!? お前らは何の為に強くなった!? それは今!この時!こういう奴を!ぶっ倒す為だろうがぁ!!!」
その言葉にケイタは我に帰る。
そうだ。こんな所でビビっている訳にはいかない。そうではいられない。
だから強くなった。いつか前線に加わり、一秒でも早くゲームをクリアする為。そして、"彼"に追いつき、並び立つ為に。
「……対ボス級の基本は?」
「硬い盾役が敵の攻撃を引きつけ、その間に連続攻撃!」
「だがあいつは重撃装備だ、即死攻撃もあると思え」
「…!」
「メインアタッカーは俺がやる。防御はなるべく躱す方向だ。スピードで翻弄しろ!」
『了解!!!』
そして散開、リュウが本格的に加わるというのだから、俄然気合いも入るというもの。後ろ向きな気持ちなど、とうに消し飛んでいた。
「グォォォォアアアァァ!!!」
強力な大鎌の一降りがササマルを襲う。それを紙一重で躱し、足掛かりにして肉薄した。
ボスの顔面に四連撃槍スキル《ファランクス》をお見舞いすると、リュウと空中でスイッチする。
「やはりパワー型か。俺好みの相手だ。
行くぜ、ダブル・バーニング・フィスト!
からの…フレイム・インパクト!!」
槍と拳と大型メイスの連撃でボスの体勢を崩し、さらにダッカーの刀とテツオのアックスで追撃をかける。
攻撃を避けては反撃、攻撃を避けては反撃を繰り返しついに五本あるHPバーの内一本を削り切った。
「パターン変わるぞ!注意しろ!」
その言葉より早く、ボスが口にエネルギーを溜め、放つ。それは小さな水の散弾となって彼らに降りかかる。
「小さなダメージは気にするな!強引でも無理矢理でも勝ちは勝ちだ!」
そうは言ったものの、避けるのが難しいこの攻撃を何度も繰り出されるのは厳しい。
パターンがパターンなら先に倒れるのはケイタ達だ。ならば、ここは皆を信用すべきだろう。
「個々で攻める!それぞれ散開して囲み込め!」
敢えて連携を断ち、パーティ全体に降りかかるダメージ量を少なくする。
的を散らし、細かなダメージを分散させることで被害を減らす作戦である。
「考えられるようになってきたな。味方を活かす指示を出せれば、お前はもう立派な司令塔だ」
「それは……光栄っ!」
誉め言葉は嬉しいのだが、今はそれどころではない。
ボスのHPゲージを残り一本まで削った。ここからが本番なのだ。
「ウグァアァアァアアア!!!!!」
悲鳴とも取れる声を上げ、ボスは鎌を捨てた。
そして、先程とは少し違う、紫色の水散弾を空に放つ。
それは雨のように、ボスの周囲にいたケイタ達に降り注いだ。次の瞬間、彼らの体が全く動かなくなってしまった。
「敵全体に
流石のリュウも完全には避けられなかったらしく、足止めを余儀なくされている。
しかし今はそんな事を気にしている場合ではない。厄介な鎌を捨てたとはいえ、このままではボスの攻撃をモロに食らう羽目になる。既にボスはエネルギーを溜めている。それが放たれれば、ケイタ達は───
しかし、その光が彼らを襲う事はなかった。
何故なら、ケイタの後ろから放たれた一筋の攻撃が、溜まったエネルギーごとボスを貫いたからだ。ケイタは驚き、自分の後ろにいる人物へと目を向けた。
そこにいたのはサチだった。
バカな。あの雨を避けたのか。リュウでさえ完全には避けられないあの麻痺毒の雨を、全て避け切ったというのか。
サチは懐から解毒結晶を出し、俺たちの麻痺を消す。
「大丈夫?」
「あ…ああ。サチ、お前…」
「すまん、助かった」
「へ?」
リュウの口調に呆気にとられた。それは明らかにサチの変化について、何か知っている素振りだったからだ。
「ああ、ベタなやつだよ。サチは週一で、夜な夜な俺と最前線で周回してたのさ。一刻も早く強くなりたいって言われてな」
「んなっ…!?」
思わず絶句するケイタ達。そんな彼らに対し、サチは恥ずかしそうに照れている。
「サチは意外と反射神経が良くてな。敏捷レベルを徹底的に鍛えさせてみれば、敏捷度は俺を超えちまった」
「……」
もはや言葉も出なかった。
あの内気で臆病で大人しかったサチが、自ら望んで前線に赴くなど。
いや、強くなりたいと最初に言い出したのはサチだった。もしかしたら、あの時からサチの中で何かが変わっていたのかもしれない。
「そんな顔すんな。お前らもこれからどんどん強くなる。師としてこれ程嬉しい事はないさ」
「…!!」
その言葉に、一層上がるケイタ達のテンション。最早彼らは、どんな敵にも負ける気がしなかった。
「グアアアァァアアアァァ!!!」
「お、待っててくれたのか?割と律儀なボスモンスターだな」
ようやっと立て直したボスが、叩き付け攻撃を繰り出す。しかしそんな大振りな攻撃を見切れない黒猫団ではない。すぐさま散開し、各々反撃する。ここで、ボスの体力がゲージ一割になった。
「ガアアァァァアアアァァ!!!」
大きな雄叫びと共に、一際大きなエネルギーを溜め始めた。恐らく最後の悪足搔きである。
「させるか!バーニング・フィスト!!」
リュウがその顔面に強烈な一撃を叩き込む。
ボスのHPはあと一発分。黒猫団の勝利はすぐそこにある。
そしてそこに、いち早くサチが飛び出した。
『行けぇぇぇェェェエェェ!!!』
リュウやみんなの声に応えるように、彼女は槍を振りかぶる。
「スパイラル・シェイバー!!!」
その槍が、ボスの土手っ腹を貫く。そのままHPが0になり、ボスはポリゴンと化して消滅した。
「やった…やったなサチ!!」
ボスを倒した事に、皆喜びの声を上げる。初のボス級撃破、その成果を互いに称え合った。
「お前……技名シャウトは俺とキャラ被るだろうが」
リュウも苦言を呈しながら、しかしてその表情は笑顔が綻んでいた。
「ははは、ゴメンね?」
「全く… ホラ帰るぞお前ら!」
クエストクリア。その結果を残し、黒猫団はその場を後にしようとする。
だがその時、サチに一つのメッセージが入った。
「何…?通知…?」
彼女がそっと開くと、そこには───。
『条件達成─────────』
To be continued...
少々長くなってしまいました……
ここで黒猫団全員の武器を載せておきます。メモみたいな感じで
ケイタ:片手棍、盾持ち短槍
テツオ:盾持ちメイス、両手斧
ダッカー:短剣、刀
ササマル:長槍、盾持ち片手剣
サチ:長槍、盾なし片手剣
サチに盾を持たせなかったのは、攻撃を受けられないことを相談されたリュウが「受けられないなら避ければ良い。当たらなければどうという事はない」とアドバイスした、という裏設定があるからです。原作至上な方はすみませんm(_ _)m