紅蓮の皇   作:Skullheart

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キリト「そういえばお前、シグルドって奴が裏切り者かもしれないってのにそんなにショック受けてないよな。一応仲間なんだろ?」

リーファ「むしろ正当にぶっ潰す手段が出来てゾクゾクしてるわよ」

ユイ「染まってますね~誰にとは言いませんけど」

リュウ「ん?」

ALOがハードになった原因の1/3はコイツ。


Beginning of counter attack

「あいつらに聞くって……あの数を相手にする気!?」

 

リーファの疑念は最もだった。あちらは大型シールドを携えた前衛が三人と、その後ろに回復兼攻撃用のメイジで編成された、明らかに対キリト・リュウとして組まれたチームなのに対し、こちらは即席の混成四人パーティ。普通なら絶対に勝てないのは先程リュウも明言している。

 

因みに彼女は知らないのだが、彼がサラマンダー侵攻部隊を瞬殺した技は空中からの多段ロックがあって初めて為せるものであり、飛行出来ないこの場所ではそれをする事は不可能である。

 

が、そんなリーファの心配を他所にリュウはキリトと戦術を練っていた。

 

「どうする?キリト」

 

「ん~?各個撃破といきたい所だけど、あんまりもたつくようじゃメイジの良い的だからなぁ……」

 

「それについては問題ない。どいつを生かす?」

 

「え?あ、うん……あの左端奥のメイジはどうだ?」

 

「よし、リーダーっぽくなく、かつ事情をある程度知っていそうな程よい感じだ。あいつにしよう」

 

「って聞いてない!?」

 

あっさりとスルーされた事に多少のショックを受けつつ、リーファはやれやれと肩を竦めるユイに視線を移す。

 

「ねぇ、止めなくて大丈夫なの!?」

 

「ああなったパパ達には何を言っても無駄ですよ……残念ながら」

 

「そんなぁ……」

 

リーファは絶望したようにガックリと肩を落とした。

しかしそんな彼女とは対照的に、ユイの目は穏やかな光を灯していた。

 

「まぁ、大丈夫ですよ。こういう時には大体何とかなってますから」

 

その視線の先には、彼女にとって誰よりも大きい男達の背中があった。

 

「んじゃ、キリトが時間稼ぎするから、リーファはあいつの回復、ユイは奴らへのデバフ頼むわ」

 

「う、うん」

 

「りょーかいです!」

 

彼女達がリュウの指示に頷くと、それを合図にキリトがシールドを持ったサラマンダーの前衛に向かって突っ込んでいく。同時にリュウは何かの詠唱を開始し、リーファ達も言われた通り回復魔法(ヒール)とデバフに専念する。

 

「うぉぉっ!!」

 

キリトは自分の役割が時間稼ぎだと自覚しているのか疑う程派手に暴れていた。しかしそれは意図してか知らずか、サラマンダー隊は彼に攻撃を集中させ、その後ろにいるリュウ達には一切手を出して来なかった。と言うより、キリトの怒涛の攻撃を防ぐ事に一杯で手を出す暇が無かった、が正しいのだが。

 

(そういえば時間稼ぎって言ってたけど、リュウさんは一体何をするつもりなの……?見たところ詠唱してるみたいだけど、それだけ時間がかかる魔法って一体……?)

 

疑問に思うリーファだったが、キリトのHPが減っている事に気付き、急いで回復魔法に集中する。

 

やがて彼女のMPも尽きてきた頃、とうとうリュウの唇の動きが止まった。その瞬間、彼はバーサーカーの如く剣を振るうキリトをぐいっと睨む。

すると、彼は突然敵の盾を踏み台に前衛を一気に飛び越え、空中から左端奥に位置していたメイジの服を掴むとそのまま柵に着地。そのメイジを引摺りながらリュウ達の方へと走り出した。

それを確認して、リュウは背中に懸架していた大型メイスに手を掛ける。

 

「これで終わりだ」

 

彼がメイスを大きく振りかぶると、それは荒々しい炎に包まれた。その光景にリーファは呆気に取られ、対してユイはおお、と感嘆の声を漏らしている。

 

「天地……開闢!!」

 

一声と共に振り下ろされたメイス、その纏っていた炎は橋一帯に広がり、ひとかたまりに固まっているサラマンダー部隊に向かって猛烈な勢いで進んでいった。

 

『!!?』

 

それを見た彼らは咄嗟に回避しようとするが、ここは入り組んだ通路ではなく湖に架かる橋の上。逃げ場など何処にも無い。

 

『う、うわぁぁぁぁ!!』

ドォォォォォォォン!!

 

地を走る炎からは逃げられる筈もなく、ましてや盾で防げる筈もなく、それは彼らを巻き込んで大爆発を起こした。

 

「お、おおっ!?」

 

しかし爆発の威力が大きく、キリトが橋の外へと投げ出されてしまう。湖には強大な水棲モンスター。掴んでいたサラマンダーは何とか橋の内側に投げ込んだものの、キリトが生き延びる事は絶望的である。

 

が、そこは良い仲間に恵まれたというべきか。

 

「パパ!!」

 

ユイが水面ギリギリでキリトをキャッチ。ユイの小さな体には彼の体は重かったようで、空中で必死に踏ん張っている。

 

「ユイ、なんで───」

 

「リ、リュウさんが、な…何かする、って、分かった、時…から、こうなる、事は…予想が、つ…いて、まし…たぁっ!」

 

「いや、そうじゃなくて……なんで飛んでんの?」

 

「わた、しは、インプです、から、洞窟…内でも、少しの、間なら、飛行、出来るんですぅっ!」

 

息も絶え絶えにキリトを橋に投げ込んだ後、ユイはフラフラと橋の柵に倒れ込んだ。

 

「おー、サンキュ、ユイ」

 

「リュウさ~ん、少しは加減してくださ~い……」

 

「はは、すまんすまん。まだALO(こっち)のには慣れてなくてな」

 

「……もうあたしはツッコまないからね」

 

ぐったりとうつ伏せるユイをキリトに任せ、リュウとリーファはキリトが回収したノビているサラマンダーのメイジへと近付いて行く。

 

「さぁ、知ってる事洗いざらい吐いて貰うわよ!」

 

リーファがそれを叩き起こし、剣を突き付け問い詰める。だが男は頑なに何も話そうとはしなかった。

 

「こ、殺すなら殺せ!」

 

このままでは埒が開かない───そう思われた時、彼女の後ろからリュウがスッと前に出た。

 

「よ。俺はリュウって言うんだが、お前は?」

 

「……ザック」

 

そう名乗った男に対し、リュウはとある話を持ちかけた。

 

「ここにあいつらから奪った装備品やアイテム、ユルドがあるんだが……お前、これが欲しくはないか?」

 

「……?」

 

ザックが怪訝な表情を取る。

 

「この件でお前が知っている情報を寄越せ……。そうすればそれをくれてやる。この場も見逃してやろう」

 

「……マジで?」

 

出されたエサにすんなりと食い付くザック。リュウはそれに対してコクリと頷いた。

 

「まずは俺達を襲った理由だ。そこから教えて貰おう」

 

「う~ん、理由になるかどうかは分からないけど、ジータクスさん……あ、さっきのチームのリーダーね。その人に呼ばれたんだけど、断ろうにも緊急召集だっつんで仕方なく来てみたら、たった四人の混成パを十何人で殲滅するっていうらしくてさ。そんなやり過ぎだろって思ってたら、昨日カゲムネさんを退けた奴らだって聞いて……半信半疑だったけど、本当だったんだな」

 

「それで?態々緊急召集かけて、その上こんな所まで追いかけてまで殲滅しようとする理由は?」

 

「そこまで詳しい事は聞かされてないなぁ。何せジータクスさんよりもっと上の方かららしいし、確か『作戦』の邪魔になるとか……。聞いた話じゃあ、他の場所に俺達の数倍の人と装備を集めてるみたいだぜ。最も、世界樹を攻略するにしては程遠い量だったけど」

 

「ほぉ……『作戦』とな?」

 

リュウの口角が僅かに上がったのを、リーファは見逃さなかった。

この男は一を聞いて十どころか百を知る事が出来る。例え僅かな情報からでもその中に「鍵」があれば必ず見つけ出し、全てを導き出してしまう。彼女の長いALO歴から見ても、彼以上に頭がキレる人物はいないと思う程に。さらにそれで戦闘力まで最強クラスだと言うのだから、最早存在がチートとしか言い様がない。今更ながら呆れのため息をこぼすリーファであった。

 

「すまないが俺が知ってるのはここまでだ。……もしかして、少なかったか?」

 

「いんや、十分さ。そら、約束の品」

 

リュウはウィンドウを操作し、ザックに戦利品を譲渡した。

 

「………よし、確かに受け取ったぜ」

 

「あなたねぇ……。それ、一応仲間の物なんでしょ?何か思う所とかないの?」

 

ホクホク顔のザックを、リーファが咎めるように尋ねる。が、彼は逆に満面の笑みでそれに答えた。

 

「だから良いんだよ。あいつらが自慢気に見せびらかしてた物が今は俺の手元にある。つっても俺が使う訳にもいかないから売り払うんだけどさ、それでも清々するんだよ」

 

そう言い残し、ザックはもと来た道を戻っていった。

 

「お~、終わったか~」

 

「おせーよキリト」

 

「誰のせいだと思ってやがる」

 

頭をぐしゃぐしゃと掻き毟りながら、ユイを背負ったキリトが近寄って来る。リュウと話しながら彼はウィンドウを開き、左上に見えているであろう時計を確認する。

 

「んー、現実は今で零時ぐらいか……。俺達は行けるけど、そっちはどうなんだ?」

 

「俺は問題ない」

 

「あたしはそろそろ厳しいかな、一応学生身分だし……あ、そうそう」

 

ここで、何かを思い出した様にリーファはリュウの方に顔を向けた。

 

「さっき言ってた『作戦』……あなたにはもう見当が付いてるんじゃないの?」

 

「ま、大体な」

 

「じゃあ教えなさいよ、あたしらでもちゃんと分かる様に」

 

「じゃあ逆に聞くが、その『作戦』はどういうのだと思う?」

 

性格悪いな、とリーファは内心毒づいた。分からないから聞いているのに、問い返されても解る筈がない。

それでももしかしたら当たるかもしれない、と彼女は出来るだけ考えてみる事にした。

 

「んー、普通に考えて何かのクエストとか?」

 

「なら俺達が邪魔しに来るリスクは低い。それに態々追いかけて倒すより、知られない内にこなす方がよっぽど効率的だ」

 

リュウ達は《ルグルー》の門に向かって歩き出した。さっきまでの激闘が嘘の様に静まっていたが、そのお陰かリーファは落ち着いて思考に集中出来た。

 

「って事はあたし達が邪魔しそうな───といっても、ちょっとの事じゃあ滅多に邪魔しようとは思わないわよ」

 

「なら逆に考えてみな。向こうから見て、俺達がどういう立場に見える?」

 

「逆?あっちから見たら……そういえばトレーサーはスイルベーンで付けられた可能性………もしシルフ領から出発するのを見られてたとしたら?あっちにとってあたし達は───シルフ寄りの人間、という事になるわね」

 

「じゃあそうなった場合、あちらさんにとって困る事は何だ?何故俺達が邪魔をしかねないんだ?」

 

「そりゃ、シルフ(うち)に不利益な事だからでしょ」

 

「なら考え方を変えよう。()()()()()()()()()()()()()()()?それも十二人寄越すなんざ、よっぽど来て欲しくなかったとしか思えないだろ?」

 

それを聞いた瞬間、リーファの頭の中は歯車が噛み合った様に整理されていった。

 

サラマンダー軍、世界樹、裏切り者のシグルド、シルフ側の自分達。

 

これらの言葉の意味する物が、全て繋がっていく。

 

「……まさか」

 

そう呟き、リーファはALOの全体地図を開いた。

 

「今朝、領主館に旗が上がってなかった。シグルドがあたし達を襲わせたこの状況から考えて、もしサクヤがログインしてないんじゃなく、秘密裏に中立域に出ているとしたら───?秘密裏なら護衛は最小限、領主補佐のシグルドならそれを知ってる可能性が高いわ。ならその『作戦』の内容は………領主の討伐?でもだとしたら、全部辻褄が合う」

 

「ま、その可能性が高いな」

 

リュウも同意するように頷く。

 

「そうだとすると、一体どこに?───だめ、ここからは情報が少なすぎるわ」

 

手詰まりとなり、リーファは頭を抱えた。気付けば《ルグルー》の中央の広場まで進んでおり、一行は一休みするためベンチに腰を下ろした。

 

「なら知ってそうな奴に聞けば良いんじゃないか?」

 

いつの間にか串ものを買ってがっついていたキリトが言った。

 

「知ってそうな奴…?───あっ」

 

そのアドバイス(?)にリーファには思い当たる人物がいた。彼女は慌ててウィンドウを操作し、フレンドのメニューを開く。

 

「レコンは…もうログアウトしてる。ごめん、ちょっと現実(そと)出てくるわ」

 

そう言い残し、リーファは仮想世界を後にした。

 

 


 

 

ベッドの上で目覚めたあたしは真っ先にアミュスフィアを取り外し、枕元の携帯端末を取った。するとそこには。

 

「うわ……何これ」

 

学校の同級生である長田慎一───レコンからの着信履歴が十二件びっしりと並んでいた。

やはり緊急の要件───彼にすぐさま掛け直そうとしたタイミングと、その彼から十三件目の電話が鳴ったタイミングはちょうど同時だった。

 

「直葉ちゃん、そっちは大丈夫だった?」

 

「う、うん」

 

何度も電話を掛けてきた割に、慎一は落ち着いた口調だった。少し前までかなり慌てん坊の筈だったのに、この二ヶ月での彼の成長ぶりにあたしは何度舌を巻いただろうか。

 

「シグルドが裏切ったって本当なの?」

 

「良かった、伝わったんだね。本当だよ。僕がこの目で確実に見たし、この耳でしっかり聞いた。間違いない」

 

相変わらずな彼の行動力に、直葉はため息を吐いた。ALO内でも飛び抜けて高いレコンの隠密力は、選ぶ種族を、というか遊ぶゲームを間違えているとしか思えない。

 

「また《ホロウ》で尾行したのね……。まぁ今回は仕方ないとして、なら聞くけど、今サクヤがどこにいるか分かる?」

 

「そこまで分かってるなら話は早いね。サクヤさんはケットシー領主と《蝶の谷》で一時に極秘会談みたい。あいつら、そこを攻めるらしいよ」

 

「一時!? あと二十分しかない……。この事はサクヤに伝えてあるの?」

 

「その前にドジって見つかって捕まっちゃった」

 

「……そこはしっかりレコンクオリティでちょっと安心した」

 

「酷っ」

 

「分かった、ありがと。後はこっちで何とかする」

 

「行ってらっしゃい、リーファちゃん」

 

「ちょっと!その名前で───」

 

通話は途絶えていた。急を要する事態のため余計な話をしないその気遣いはありがたいのだが、それにしたって『リーファちゃん』は現実(こちら)ではよして欲しいものだ。

 

「でも、まぁ今回は許してあげる」

 

誰が聞いている訳でもないのだが、そこは気分の問題。あの頼りなかったレコン───戦闘では未だそうなのだが───がここまで出来る様になったのだ、ならこちらも何かしなくては示しが付かないというもの。

 

「リンク・スタート!」

 

あたしはアミュスフィアを装着し、再び《リーファ》としてALOへと戻っていった。

 

To be continued…




おまけ:NGシーン

「この件でお前が知っている情報を寄越せ……。そうすればそれをくれてやる。この場も見逃してやろう」

「し、知っている事を話せば……ほ…ほんとに…その『アイテム』…は…渡してくれるのか?」

「ああ~、約束するよ~~~~~~っ!やつらの『アイテム』と引き換えのギブ・アンド・テイクだ。言えよ…早く言え!」

「だが断る」

「ナニッ!!」

「このザックが最も好きな事のひとつは自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ」

男なら一度はやってみたいやり取り

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