紅蓮の皇   作:Skullheart

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ALO編に入って影が薄いキリト君、漸く見せ場到来


Rampage time

「ごめん、お待たせ!」

 

「おう、どうだった?」

 

いつの間にかリュウとユイも串ものを貪っていた。余りに美味そうなのでリーファは少々食欲をそそられたものの、今は時間に余裕がないので我慢しなくてはならない。

 

「予想通り、向こうの目的は領主の討伐だった。場所は《蝶の谷》、時間は一時。ケットシーと秘密会談らしいわ」

 

「なぁるほど、連中が止めたがる訳だ」

 

「それで、これからそこに向かうんだけど…」

 

「ん?どうした?」

 

「……あなた達は一刻も早く世界樹に行きたいんでしょう?ならこれはあたし一人で何とかするわ。ここから北に向かえばアルンに辿り着く。あわよくばサラマンダーと接触して、一緒に世界樹を攻略する方が───」

 

『やだね』

「嫌です」

 

この即答にリーファの思考は一瞬停止した。

 

「……えっ?いや、あなた達が無理に関わる必要は無いのよ?それに、下手をしたらスイルベーンからやり直しになっちゃう可能性だって───」

 

「お前には今まで世話になった礼があるしな。これくらい手伝っておかないと、貰いっぱなしは性に合わない」

 

「でも、だからって───」

 

「優先順位ってヤツよ。俺達の用事はまだ一日あるが、お前のはもう二十分も無いだろ?それに……」

 

「それに?」

 

「奴らにゃ喧嘩売られてるからなぁ……。言ったろ?貰いっぱなしは性に合わないって」

 

リュウのまるで悪魔のような笑顔に、リーファは背筋に悪寒が走るのを感じた。

 

「……キリト君は?」

 

「おんなじような理由」

 

「右に同じく、です」

 

リーファは大きくため息をついた。折角人の為を思って忠告したのに、この三人は迷う事なく首を突っ込もうとする。

彼女が頭を抱えていると、ユイがそばまで近寄って耳打ちをしてきた。

 

「…リーファさん、先程スイルベーンからやり直しになるかもと仰いましたけど」

 

「……?」

 

「では伺いますが、現在トップ勢力の、ですが九割が一般的実力のサラマンダーとそこの二人、どちらが強いと思いますか?」

 

「え?そりゃあ───」

 

それを考えた瞬間、リーファは凍りついた。

どう頑張ってもサラマンダー側が勝てるビジョンが思い浮かばない。キリトでさえ一筋縄では倒せないというのに、その後ろにリュウが控えていては笑うしかないではないか。

彼女の中で、何かが大きく崩れ落ちる音がした。

 

「……ソウダッタネー」

 

「気をしっかり持って下さい。いずれ慣れます」

 

(哀れサラマンダー、骨は拾ってあげるわ。恨むなら彼らに喧嘩を売った自分達の不幸を恨みなさい)

 

リーファは静かに両手を合わせた。そんな彼女にユイは優しく肩に手を置き同情する。

 

「そんじゃ、もう時間もねぇからこのまま出発するぞ」

 

現在彼らがいるのは《ルグルー》の《アルン》側の門の前。会談が始まるまで、あと十分少々。本来なら間に合うかどうか怪しいのだが。

 

「チンタラしてる暇はないな。リュウはユイを頼む」

 

「おい、娘の面倒見るのは父親の責務じゃあねぇのかよ?」

 

「お前もちょっとはその苦労を知れ」

 

「仮にも父親でありながらそのセリフ言っちゃう!?」

 

「もういいです。金輪際パパにおんぶはしてもらいません」

 

「あっちょっユイ、それは困るなぁ」

 

どうしてこんなに余裕でいられるのか、リーファには不思議でならなかった。

 

「もう知りません。行きますよ、リュウさん」

 

「あいよ。背中乗れ」

 

リュウはユイを背中におぶると、そのままクラウチング・スタートの構えを取る。

 

Ready(レディ)……Start(スタート)!」

 

そして、威勢の良い掛け声と共に、ものすごい勢いで走り出した。

 

「あっ……仕方ない。リーファ、ちょっと手、借りるぞ!」

 

「え、ちょっ!?」

 

すぐに見えなくなったリュウを見て、キリトもリーファの手を取って走り出す。

 

「ぁぁあああああああ!?」

 

まさに脱兎の如き速さで駆け抜けるキリトの腕に、彼女は必死に掴まっていた。本来ならその行く手を阻む筈だったモンスター達がどんどん後ろへと流れてゆき、その内半分はキリト達を追いかけてきた。普通なら《トレイン》というタブーとされる行為である。

 

「ヴェアアアアアアアア!?」

 

やがて出口が近づいて来る。前を走るリュウの姿も見え、恐らくは同時に到達するだろう。だがリーファにとってはそれどころではなく、ただただそのスピードに振り回されるのみだった。

 

そして洞窟を抜けた瞬間、キリトはリーファを掴んだまま飛翔し、リュウは急ブレーキを掛けその慣性力を利用してユイをカタパルトのように射出した。

 

「んじゃ、後始末といきますか。こんだけ荒らしといて放置じゃあ無責任だしな」

 

一人洞窟の出口に残ったリュウは、燃え盛る大型メイスを片手に後ろから迫るモンスター群を見据えていた。

 

天地開闢(テンチカイビャク)

 

先程サラマンダーを吹き飛ばしたものと同じ炎が、今度はモンスタートレインを文字通り蒸発させ、さらにその威力を利用し、リュウはキリト達がいる空中へと一気に到達した。元いた場所が大惨事になっている事については、リーファは見て見ぬふりである。

 

「お待たせ」

 

「も~、キリト君もリュウさんもひどいわよ!」

 

「はは、すまんすまん。ま、速いに越した事は無いじゃないか」

 

「そういう問題じゃ……って、言ってる暇も無いものね。急ぎましょ!」

 

リーファはそう言って《蝶の谷》へ向かおうとするが、

 

「!! いや、待て」

 

「ぐぇ!?」

 

リュウが襟元をぐいと掴んで引き留め、皆を近くの樹の枝葉の中へと隠れさせた。

 

「げほ、げほっ……今度は何よ!?」

 

「見ろ、サラマンダーの小隊だ」

 

彼が指差す先には、四人程で構成されたサラマンダーの小隊が、蝶の谷より少し逸れた方向へと飛んでいた。

 

「本当だわ、下手すれば見つかってたかも。それにしても、どこに向かうつもりかしら?」

 

「一旦どこかに集合するんじゃないか?大人数で長距離移動すれば目立つし、それで襲われる側に気付かれれば本末転倒だからな」

 

「俺もキリトの説が正しいと思う。だからあいつらについて行けば本隊に辿り着くとは思うが……《隠蔽(ハイディング)》スキルが無い以上、見つかるリスクが無い訳じゃねーし……お、そうだ」

 

リュウは何かを思いついたように手を叩くと、キョロキョロと周囲を確認した。

 

「……よし、誰もいないな。お前らは見つからないように先に行け」

 

「リュウは?」

 

「俺も後で追い付く。とにかく行った行った」

 

三人はリュウの行動を訝しげに感じたが、事実時間は残されていないのでここは素直に従う事にした。

再び一人になったリュウは、隠れていた事がバレないようにそっとサラマンダー達の方へと近づいていく。

 

「なぁなぁ君たち、ちょっと良いか?」

 

「ん?なんだ、同族か。どうしたんだ?」

 

彼らはリュウがサラマンダーである事から、警戒心なくリュウに接して来る。その様子を見て、彼は内心ニヤリと微笑んだ。

 

「近くのダンジョンでモンスターの群れに捕まってさ。なんとか一人逃げて来れた所さ。それより、君たちは一体どこに行くんだ?」

 

「これは極秘なんだが……まぁ良いだろう。俺達はこれから《蝶の谷》でのんびり話し合いしているシルフとケットシーの領主サマ達を討ちに行くのさ。そのために、一旦《葦の池》に集合する訳だ」

 

「へぇぇ、それはまた大胆な……。ならば、微力ながら自分も参加させてはくれないか?」

 

「構わんさ。ではついて来───」

 

その瞬間炎を纏ったリュウの脚が、周りにいた彼以外のサラマンダー全員の首を消し飛ばした。制御を失った彼らの体は、力なく真下に墜落していく。

 

「すまんな、情報提供感謝する」

 

それを見届けたリュウは、今度は見えない程の素早い手つきでマップを開いた。自分の位置、敵の目的地、時間……それらを総合すれば、向かうべき場所は自ずと導き出されてくる。

 

「《葦の池》……なら次に来るのはあの辺りかな?」

 

次の獲物に狙いを定め、彼は翅を走らせた。

 

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

 

「っ……!」

 

《蝶の谷》に差し掛かったリーファ達の目には、間一髪間に合わずサラマンダー部隊に包囲されているシルフとケットシーの領主達が映っていた。

 

「間に合わなかったね……」

 

「それはまだ分かりません!」

 

ユイのその言葉に応える様に、キリトがぐんぐんスピードを上げていく。

そして、あっという間にサラマンダーとの間に割って入ると、この場を仕切るべく声高らかに宣言した。

 

「俺はスプリガン=インプ同盟大使のキリト!ここにシルフ、ケットシー両勢力とも友好関係を結ぶために参上した!サラマンダー諸君、只今より我々に攻撃行動を取れば敵対意志と見なし、我ら四領総戦力を持って君たちと相対する所存である!」

 

勿論これはハッタリである。しかし、その確証がなければウソだと断じる事は不可能に近い。あまり時間を掛けられないのはサラマンダー側も同じなのだ。本当に同盟が結ばれていて、目の前の少年がその大使だなどと言われても、それをすぐに確かめる術が無ければ彼らは下手に動く事は出来なくなるのである。

 

敵の大多数が動揺している内に、リーファとユイもキリトに合流する。

 

「リーファ!何故ここに!? それに、これはどういう事だ!?」

 

状況が呑み込めないシルフ領主、サクヤが困惑した様子でリーファに問い詰めて来る。無理もない、いきなりサラマンダーに囲まれたかと思えば、顔も知らないスプリガンの少年が現れ、あまつさえインプ、スプリガンも同盟を結びたいなどと宣っているのだ。訳が分からなくて当然だろう。

 

「大丈夫、彼に任せれば……多分」

 

そうは言ったものの、リーファ自身は内心不安で仕方がなかった。祈る様に手を合わせ、ただただ事態の収拾を願うばかりだ。

 

すると、動揺するサラマンダー軍を制して一人の男がキリトの前へと現れ出た。装備の質からして、軍のリーダー的存在だという事は明らかである。

男はキリトをまじまじと見たのち、堂々とした口調で彼に問いかけた。

 

「大使と名乗った割には……護衛も付けず一人とはな。その理由は当然あるのだろうな?」

 

「人に質問する時は先ず自分から名乗るのが礼儀だと思うが?」

 

「これは失礼。俺はユージーン、サラマンダーの将軍をしている」

 

キリトの淡々とした応答に、ユージーンは舌を巻いた。人間、ウソやハッタリをかます時自分にとって都合の悪い質問をされると、弁明のため図らずもおかしな挙動を取ってしまうものだ。しかし目の前の少年は一切動揺せず、逆に相手の無礼を指摘する余裕さえ見せた。それは、ユージーンがキリトをただ者ではないと理解するのに充分な理由だった。

 

「さっきのあんたの質問の答えだが、俺が護衛を付けていないのは、その必要がないからだ。俺は一人でも充分に強いと自負している。モンスターやそこらのプレイヤー程度の相手なら、むしろ下手に周りを固められる方がこっちは戦いにくいのさ」

 

最もらしい理由、質問攻めを続けていればいつかは切り崩せる可能性もあるが、先程の回答を見る限りどれだけかかるか分からない上、下手をすれば言いくるめられる場合も出てくる。時間をかけてしまえば目的のシルフ・ケットシー領主を逃してしまう事も考えられ、さらに自軍の不安を取り除くどころか更なる動揺さえ生みかねない。

その結論をコンマ数秒で叩き出したユージーンは、解決のベクトルを第二の選択肢へと移行させた。

 

「ほう?口は達者な様だが、ではそれに釣り合う実力があるのだろうな?」

 

「…見かけで判断するなよ?」

 

「面白い!ならば、それを行動で示すがいい!」

 

彼はそう言って、ユージーンはサラマンダー総員を以てキリトへと突撃させた。数にして約三〇対一、いくらキリトと言えどこの差を覆すのは至難の技。しかしキリトは微動だにしなかった。

 

『!!?』

 

すると突然、サラマンダー軍全員が停止した。否、停止させられた、が正しいか。

 

「…見かけで判断しないで下さい!」

 

キリトの後方にいたユイが、吶喊するサラマンダー全員に向け闇魔法の拘束魔法(バインド)を掛けたのだ。高度なAIである彼女にとって、対象三十のマルチロックや複雑な詠唱のノータイム構築など造作も無い事。これによって、数のゴリ押しという手っ取り早い方法を潰されたユージーンは面食らってしまう。

 

「…………」

 

「どうした?俺はまだ何もしていないぞ?」

 

「………ククッ」

 

「?」

 

刹那、ユージーンはキリトに向けて吶喊した。

 

「まだ勝負はついていない!インプの奴には驚かされたが、俺一人だろうとそこにいる奴らを屠る事は出来る!」

 

ユージーンが剣を振り下ろす。キリトも剣を前に防御しようとするが、剣同士がぶつかる瞬間手応えが無い事を感じ、咄嗟に横へと移動した。

キリトの予感は的中し、ユージーンの剣はキリトの剣をすり抜け、キリトの肩を掠める。

すぐさまキリトは距離を取り、ユージーンと対峙した。

 

「……俺の初撃を避けたのは貴様が初めてだ」

 

「良いのか?四勢力同時に敵に回す事になるぞ?」

 

「それは貴様の言う事が真実ならの話だ!」

 

ユージーンはもう一度吶喊する。下手に受けられないキリトはひたすら回避に専念するが、ユージーンの素早い突進は彼に引き離す事を許さない。

 

「俺を倒す事が出来れば納得してやろう」

 

毎度毎度ピッタリと接近してくるユージーンに、キリトはじわじわと追い詰められていた。キリトの剣は大きすぎるのだ。一撃が重く大きい分読まれやすくなってしまう。その上こうも接近されてはキリトの攻撃より先にユージーンの方が早くなる。まさにジリ貧、リーファ達は固唾を呑んで見守っていた。

 

「二人の距離が近すぎる。これじゃあ加勢に行けない……!」

 

「攻略サイトで見た事がある。魔剣《グラム》、防御無効というふざけた性能だったが……まさかこんな場面で出くわしてしまうとは」

 

不利な条件が多い中、キリトはよく戦っていた。しかしそれも時間の問題、いずれ破られる均衡を前にリーファ達の不安は増大していく一方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、ここまでが外野からの印象である。

 

実際は、冷や汗をかいていたのはユージーンの方だった。攻撃が全て紙一重で躱され、一向に決定打が与えられない。このままではジリ貧なのは彼なのだ。

 

「とりゃっ!」

 

「!? がっ!」

 

一瞬剣速が鈍ったのを、キリトは見逃さなかった。攻撃の隙を縫い、鋭い蹴りを鳩尾に直撃させる。その勢いを利用し、キリトは一気に距離を取った。

 

その瞬間、キリトの後方から飛んでくる何か。彼はそれを迷いなく掴み、左手に携える。

それは、緑の長い太刀。先程までリーファの腰に差してあったものである。

 

「え?あれ!? ユイちゃんいつの間に!?」

 

それをキリトに投げ渡したのはユイだった。彼女はただ何も言わず、一点の曇りの無い目でキリトを見守っていた。

 

「……二刀だと?ふざけた真似を!!」

 

再度吶喊するユージーン。キリトを狙い真っ直ぐに剣を振り抜いたが、それは空しくも空振りに終わった。

 

「な…!?」

 

それどころか、彼の姿は忽然と消えていた。気付けば、彼の体のど真ん中に大きく☓字の傷が出来ており、その後ろには静かに佇むキリトがいた。

 

「くっ…!」

 

ユージーンが振り向いたその瞬間、再びキリトの姿が消える。ユージーンに更なる傷を作って彼の後ろまで高速移動したキリトは、空中で大きく踏ん張る姿勢を取った。

 

(塔の壁を無意識に蹴って、跳ね返る程の反射が俺に残っているならば───()()()が出来る筈!壁は無くとも……)

 

翅を大きく広げ、一気に急制動をかける。キリトの体は、まるで壁にぶち当たった様にピタリと停止した。

 

(今の俺は、空を飛べる!)

 

そのまま空を蹴り、急転換。三度ユージーンへと突撃し、動きに追い付けない彼にまたも大きく傷を刻み付けた。

 

その後は最早一方的な展開だった。いくら防御無効と言えど、攻撃が出来なければ意味を成さない。キリトを捉えられないユージーンを嘲笑う様に一撃、また一撃とダメージを重ねていく。それは正に神速。翻弄するという言葉が最も似合う光景だった。

 

「スターランページ・エクストリーム!」

 

無意識に放ったその言葉と同時に、彼の後ろでユージーンは派手に爆散した。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

領主サクヤの復活魔法により、ユージーンはリメインライトから復活した。

そして早々、キリトの前へと進み出て手を差し出した。

 

「……完敗だ。我々は潔く兵を引こう」

 

「全く……漸くか」

 

対してキリトはやれやれといった様子で肩を竦め、ユージーンの握手に応じた。

これで決着……そう思われた時だった。

 

「こんな結果……納得出来るか!」

 

「っ!待てガウェイン!」

 

ガウェインと呼ばれた、恐らく中隊長辺りであろう人物は、真っ直ぐにサクヤ達へと斬りかかった。瞬間、緊張が走る。

 

「ワッショイ!!」

 

「ギャフン!!」

 

……が、その騒動は一瞬で集結した。

 

突如走った紅い閃光が、ガウェインを踏み潰したのだ。あまりの展開の速さに、ユージーン含め全員の目が点になる。

 

「おーす、終わった?」

 

「お前のマッスルインフェルノでな」

 

あまりにも場違いな呑気な声。リーファとキリトからは呆れのため息が溢れた。

 

「相変わらず派手な登場だな…リュウ」

 

「地味なのより良いだろ?サクヤ」

 

ニヤリと返すリュウに、サクヤの笑みも引き攣っていた。

 

「で?お前はどこで何をしていたんだ?」

 

「集合場所に来る前の小隊をプチプチッと。九つ位は潰せたかな?」

 

「半分近く来ないと思ったら貴様の仕業か!!」

 

ユージーンの声に、皆が驚き振り向いた。

 

「え?お知り合い?」

 

「知り合いも何も、シルフ領侵略の際に軍がヤツ一人に全滅させられたのだ。俺含めてな」

 

「あら、覚えられてた?」

 

「忘れられる訳がなかろう!! 全く、貴様が関わっていると分かっていれば、もっと早くに兵を引き揚げたというのに……」

 

ユージーンは悔しそうに頭を抱えていた。なお、あのユージーンでさえ戦慄させる男を見て、領主二人の顔が更に引き攣っていたのは言うまでもない。

 

「兄者には相手を選ぶ様伝えておこう。では、さらばだ」

 

彼はそう言い残し、残った部下を引き連れて飛び立っていった。

 

「……して、何故君達はここに?」

 

「あ、それはカクカクシカジカで───」

 

「成程シグルドが…。リーファがそう言うんなら間違いないんだろう」

 

「っつー訳で、ユイ!」

 

「はい!」

 

リュウの合図と同時に、ユイが闇魔法《月光鏡》を出現させる。離れた所でも会話が出来るという優れものであるそれを、ユイはシルフ領の領主室へと繋げた。

 

「やっほ、シグルド!ご機嫌麗しゅう?」

 

『き、貴様ら!何故生きて───』

 

突然現れた鏡、そしてそれに映るリュウ達に対し、シグルドは腰を抜かしていた。

 

「何故、とはこちらの台詞なんだがな?シグルド」

 

『さ、サクヤ様!? そ、それはですね……』

 

「おっと、下手な言い訳は通用しないぜ?ホレお前の後ろ」

 

シグルドが慌てて振り向くと、そこには赤黒い蝙蝠がパタパタと羽ばたいていた。じっと彼を見つめているそれを見たシグルドの顔は、次第に青ざめていく。

 

「記録特化のトレーサーだ。リアルタイムでの観察は出来ないが、そいつが見聞きした事は呼び出せばいつでも再生が出来る」

 

「……それ使えばわざわざレコンから聞く必要なかったんじゃ」

 

「リアルタイムでの観察は無理っつったろ?あいつの情報が入ってるかどうかも分かんねーのにこっちに戻してどーすんだよ。それに、ダメ押しは取っておくもんだろ」

 

さらに奥の手があった事実に一同は軽く引いた。同時に、彼を敵に回してはいけないという戦慄さえした。

 

『う、うわぁぁぁぁぁ!!』

 

半ば狂乱し剣を振るうシグルド。その刃は蝙蝠を捉えそうになるが、

 

「Summon Please」

 

突如現れた魔法陣に吸い込まれ、剣は空を切った。

シグルドが鏡を見ると、先程の蝙蝠がリュウの隣に現れた魔法陣から出てくる所が映っていた。激しく狼狽するシグルドを尻目に、蝙蝠はリュウ達の後ろの空間に彼がサラマンダーと会っている決定的場面を投影する。

 

「ほうほう、ここまではっきり……シグルド、覚悟は出来ているのだろうな?」

 

サクヤの目がギラリと光る。それを見た瞬間、シグルドは膝から崩れ落ちた。目からは生気が抜け落ち、糸が切れたマリオネットの様にピクリとも動かない。

 

「一つ教えてやる。深淵を覗いている時、深淵もまたお前を覗いているのさ。不用意に手を出したりはしない事だな……おっと、もう聞こえていないかな?」

 

その後サクヤが領追放を言い渡しても、既にシグルドは無反応であった。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

事態が終息して、キリトの周囲に領主二人が近寄って来た。

 

「君達には世話になったな。こちらとしては何か礼をしたいのだが」

 

「礼なんていいさ。こっちも用事があるし、気持ちだけで充分だよ」

 

「そうか……では、その用事が終わればシルフの用心棒として働くというのはどうだ?」

 

「えっ!?」

 

「ダメだヨー、彼にはケットシーで働いて貰うんだヨー!」

 

「ええっ!?」

 

突如始まる領主達の色仕掛けによるお誘いに戸惑うキリト。対する彼は満更でもなさそうな赤い顔をしていた。

 

「ちょっとー!キリト君は今はあたしのパートナーなの!」

 

それを引き剥がす様に、リーファが間に割って入る。リュウはそれをけたけたと笑ってからかう。

 

「はっはっは、モテモテじゃねーの!」

 

「リュウさん!茶化さないでよ!」

 

「そう言うお前も顔赤いぞ?」

 

指摘されたリーファの顔は照れて一層赤くなり、キリトを押し退けて隅の方へと駆けていく。それが見ていて面白いのか、リュウは終始高笑いしていた。

 

その光景を尻目に、キリトはサクヤとケットシー領主アリシャ・ルーの前でメニューを操作していた。

 

「と、取り敢えず……俺達、これから世界樹に行くんだけどさ。出来れば手伝ってくれれば有難いかなって…」

 

「ウーン、こっちとしてもそうしたいのは山々なんだけどサ…」

 

「何せ費用が足りな───」

 

サクヤが言い切る前に、彼女達の前に大きな袋がズン、と出現した。

 

「お金なら、俺も協力するよ……これで足りればいいけど」

 

その中身を見て、二人は目を見開き驚いた。

 

「こ、この額は……軽く一等地に城が建つぞ……!」

 

「ヨツンヘイムで邪神キャンプ狩りでもしなきャ、こんナ……」

 

「……その様子じゃ、大丈夫だったみたいだな」

 

彼女達の反応を見て安堵したキリトは、二人と固い握手を交わした。

 

「約束しよう。世界樹に絶対に救援に行くと」

 

「これだけして貰っテ、何もしないのはダメだヨネー!」

 

「ああ、助かる」

 

頼もしい助っ人を手に入れたキリトは、未だ隅っこで頭を抱えるリーファと、彼女に何処か儚げな視線を送るリュウとユイを連れて再び世界樹を目指し飛び立つ。

 

目的の場所は、もうそこまで来ていた。

 

To be continued…




カゲムネさん「……報告しとけば良かった」

なお、肝心のサラマンダー領主がその恐怖を知らないのでほぼ無意味な模様
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