紅蓮の皇   作:Skullheart

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最初に言っておく。
某サッカー作品とは関係ありません。


Giant Killing

「……景色が一向に変わらない……」

 

「雪景色は嫌いじゃないが、こうも続くとキツイな」

 

「でしょ~?リュウさんもそう思うでしょ~?」

 

「だが今は、歩き続けるしかない」

 

「ですよね~」

 

リーファが溢す泣き言も、これで何度目だろうか。

彼らが今いるのは、地下世界《ヨツンヘイム》。丸々村ごと使ったトラップギミックにより大蛇に飲み込まれた彼らは、数分口の中を転がされた末、この白銀の世界へと吐き出されたという訳だ。

 

「これだけ歩いても人っ子一人いないとなると……」

 

「帰れそうにありませんよね~」

 

「邪神ならそこら中にいたのにな」

 

キリトの言った通り、ここには邪神型モンスターがうじゃうじゃいる。ヨツンヘイムは超高難易度ダンジョン、一体の邪神さえ凶悪に手強いというのに、下手をすれば群がって襲ってくる可能性もある。彼らがこうして歩き続けているのも、大蛇に吐き出された直後に何体もの人型邪神に追いかけられ、ひたすら逃げ続けたからに他ならない。

 

「ま、案外そういう所に人が集まってるのかもな、ここには邪神狩りに来る訳だし」

 

「でもリュウさん、わざわざあんな所に行くなんて自殺行為も甚だしいわよ」

 

「分の悪い賭けは嫌いじゃない……と言いたい所だが、確かにリスクがデカすぎるな。もうしばらくは歩いて様子を見るぞ」

 

肩を竦めるリュウに、リーファは大きくため息をつく。

 

「あたしもう疲れた~!眠~い!」

 

彼女の言い分も最もだった。現在、現実の時刻は深夜の二時半を過ぎている。《蝶の谷》を発った後、ログアウト可能な安全圏を探した結果あのトラップに引っ掛かったのだ。そろそろ休みたいと思うのは何ら不自然ではない。

 

「安心しろ、寝たら叩き起こしてやる。(これ)(これ)かどっちが良い?」

 

「全力で遠慮させて頂きます」

 

ぶんぶんと首を横に振るリーファ。その時、後ろで大きな音が鳴った。

 

「ふぉおおおおおおん………」

 

「もうキリト君、どんだけ大きい欠伸してるのよ!」

 

リーファがそちらに振り向く。だが。

 

「ん?俺欠伸なんてしてないぞ?」

 

「へ?じゃああれは……」

 

ふぉおおおおおん…………

もう一度それを耳にしたリーファは戦慄した。

明らかに彼女の頭よりも上から聞こえる。それも並の高さではない。

ギギギ……とブリキ人形の様に彼女が顔を上げると。

 

「ふぉおおおおおおおん………」

 

海月に似た巨大な邪神が、無数の触手を掲げ彼女らのすぐ後ろに佇んでいた。

 

「うぎゃああああああああああああ!?」

 

「うぐっ!?」

「うぉっ!?」

「わっ!?」

 

耳を劈く大声を上げ、リーファは他の三人を引き摺って逃げ出した。

 

「もうやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

近くにあった祠の陰に隠れるまで、彼女の絶叫は続いていた。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

「あー死ぬかと思った……」

 

「それはこっちの台詞だバカモン」

 

「あだだだだだだ!?」

 

キリトの隣ではリーファがリュウにアイアンクローを喰らっていた。

 

「襟元掴んで引摺り回すんじゃないよ」

 

「あなたがそれ言う!?」

 

「五十メートルも引っ張った覚えは無い」

 

「それは悪うござんした……」

 

「以後気を付ける様に」

 

「へい…」

 

リュウは観念した彼女の頭から手を離す。

 

「そう言えば珍しいな、ユイとリュウが感知を外すなんて」

 

遠巻きに先程の邪神を観察しているキリトが尋ねる。邪神はこちらを追いかけて来る様子はなく、ただ気紛れに歩き(?)回っている様だ。

 

「あー……俺は所謂『殺気』だとか『敵意』みたいなモンを頼りにしてるんだが、さっきのにはそれが無かったんだよ」

 

「CPUにも敵意があるの?」

 

「攻撃行動がプログラムにあれば、CPUはリアルタイムで詳細な位置を把握するために、レーダーみたく周囲に探知波を出すんです。それに入った瞬間、私のセンs───感覚が変わるのを利用してるだけですよ」

 

「で、今回はそれを感じなかったと」

 

キリトの言葉にリュウはこくりと頷いた。

 

「本来あれは大人しい邪神なのかもな。さっきも言った通りここには邪神狩りに来る奴ばっかだ。手当たり次第に攻撃していくなら気付かなくてもおかしくないし、むしろ先制してこないなら狩るにはもってこいの獲物なんだろ」

 

「成程……ん?」

 

邪神を見ていたキリトが表情を変えた。

 

「どうした?」

 

「邪神の挙動が変わった……あっ」

 

その時、彼らは一瞬凍り付いた。

リュウ達がその方向を向いた瞬間、邪神は真っ直ぐこちらへと駆け出して来るではないか。

それを見たリーファは驚き狼狽した。

 

「ま、まさかこっちに気付かれたとか?」

 

「いや、それならさっきの内に襲ったり追いかけて来たりする筈だ。だから多分、何か他の……」

 

刹那、リュウとユイは後ろに振り向きすぐさま身構えた。

 

「どうしたの!?」

 

「センサー内に入りました。あの邪神が向かう方、二百メートル先です!」

 

キリトとリーファもそちらの方を見る。目を凝らすと、そこには最初に彼らを追いかけて来た六本腕の人型邪神が、二体掛りで先程と同型の海月型邪神一体を攻撃していた。

 

「嘘でしょ!? Mob同士が戦ってる!?」

 

驚くリーファのすぐ横を、あの海月型邪神が通り過ぎて行く。どうやらあちらに加勢に行く様だ。

 

勢いそのままに人型に吶喊する海月型。急な奇襲に戸惑う人型だったが、すぐに持ち直し一体ずつで海月型を圧倒する。状況は明らかに海月型が不利であった。

 

「……どうする?」

 

「…助けよう」

 

リュウの問いかけに真っ先に答えたのはリーファだった。

そのやり取りに、キリトはいまいちピンと来ない様子で尋ねた。

 

「助けるって……どっちを?」

 

「苛められてる方だよ!キリト君、リュウさん、ユイちゃん。何か方法無い?」

 

リーファは切実な目で三人を見る。

 

「一体だけなら俺だけで何とかなる。キリト、お前はもう一体を何とかしろ」

 

「ああ、わかった───へぁ?」

 

思わず変な声が出てしまったキリトは、自らの耳を疑った。あの巨大な邪神の内、一体を一人でどうにか出来るなど、どんな奥の手を隠し持っているのだろうか。いや、何故か彼ならそれを当たり前の様にやってのけそうな気がするのだが。

 

「そんじゃ、任せた」

 

そう言って、リュウは邪神達の方へと駆け出した。

 

「あっ、おい───ったく、仕方ない!」

 

キリトもそれを追いかけ、つられてリーファとユイも二人を追う。

 

「キリト君、どうやって───」

 

「一か八かだけど、あの形なら……!」

 

「形?人型の形の何が───」

 

リーファが言い切る前に、キリトはケースから投擲用ショートピックを取り出し、走る勢いのまま、海月型邪神に夢中になっている人型邪神目掛けて思いっきり投げた。

 

ピックは美しい直線(ストレート)の軌道を描き、寸分の狂いなく人型邪神の眉間へと吸い込まれる。HPの減りとしては微小なものだったが、キリトの目論見通り邪神のヘイトは海月型から彼へと移行した。

 

「ユイ、リーファ!走るぞ!!」

 

「え?え!? えええぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

鬼神の如き表情で迫る邪神から、リーファ達は脱兎の勢いで逃げた。何が何なのか分からないが、隣で走るキリトの顔を見るに何か策があるのは間違いない。そしてそれ以上に、あの邪神に追い付かれたら間違いなく死ぬ。その事実が、リーファを形振り構わぬ全力で走らせた。

 

軈て、地面が雪から一面の氷へと変わる。その上を暫く進むと、キリトは突然走るのを止め、後ろを見た。

 

「……よし、人型はまだ来ていない。ユイ、奴は来てるか?」

 

「依然センサー圏内です!」

 

「うし!」

 

それを確認すると、彼は魔法の詠唱を始めた。魔法に精通するリーファには、それが幻影魔法だと理解出来た。すると、その魔法によって一面氷だった地面が、先程と同じ雪原へと変貌していく。そして同時に人型邪神もキリト達がいる場所に現れた。

 

「き、来たぁぁぁぁー!!」

 

「ユイ、スモッグ!」

 

「! 了解です!」

 

慌てるリーファとは対照的に、キリトは冷静にユイに指示を飛ばした。ユイもその真意を汲み、人型に向けて魔法の詠唱を始める。

 

「一体何を───」

 

「まぁ見てなって」

 

ユイが詠唱を終えると、邪神の目の前が漆黒の暗雲で覆われた。視界を奪われた邪神は混乱し、ただ闇雲に周囲を攻撃する。

 

「ひゃあ!?」

 

地面を穿つ六本の腕が引き起こす振動は相当なもので、キリト達も今はギリギリで立っている状態である。

 

「ちょっと、本当に大丈夫なの!?」

 

「多分、いける、筈ッ!」

 

そんなやり取りを交わしつつ、時々近くを掠める攻撃を何とか躱すキリト達。幾らこちらを視認出来ていないからと言っても、このままでは軈てジリ貧になる事は目に見えていた。

 

が、逆転の賽は意外と早くに投げられていた。

 

刹那、リーファは心なしか人型邪神が少し傾いて立っている様に見えた。最初は気のせいかと思ったのだが、その歪みは次第に大きくなり、ついに邪神はバランスを崩しよろめき始めた。

 

邪神は知らない。自分の立っている場所が、雪原に偽装された()()()()()()だという事を。そしてその上で暴れ、その氷に幾つもの穴を開ければどうなるかを。

 

目の前の闇が晴れ、自分の状況を悟った所でもう遅い。邪神に逃げ場は無く、ただただ湖に落下する運命を受け入れるしかないのだ。

 

必死の抵抗空しく、人型邪神は底の見えない湖へと吸い込まれていく。

 

「これはまた派手に落っこちたなぁ」

 

「……あたし、ついて来ない方が良かった?」

 

「……さぁ?」

 

太陽の差さないヨツンヘイムで唯一飛べるインプであるユイにぶら下がり、キリト達は安全圏へと避難する。脅威が去ったと安堵する一同だったが、リーファは何か引っ掛かった様に一人訝しげな表情をとった。

 

「……でも、湖に落ちたからって人型を倒せるとは限らないわよね?」

 

彼女の言う通り、人型邪神は身動きこそ取れていないものの完全には死んでおらず、水面下で未だ藻掻いている様子だった。しかしキリトは、勝利を確信した笑みでその光景を見ていた。

 

「大丈夫、あれはもう終わりだよ───ほら、来た」

 

キリトが指差した方を見ると、先程攻撃されていた海月型邪神が一体、猛烈な勢いで湖に迫っていた。そしてそのまま湖に飛び込むと、今までの劣勢が嘘の様に人型邪神を圧倒し始めた。無数の触手を人型の身体に絡め、ギチギチと締め付けていく。

 

「形がどうのって、そういう事だったの?」

 

「ああ。海月みたいな形だったから、もしかしたら陸上の戦いが不得意なのかもと思ったのさ」

 

ほー、と感嘆の声を漏らすリーファ。彼女の視線の先では、とうとう限界を迎えた人型がそのHPを枯らし、ポリゴンに身を散らしていた。

 

「こっちは解決だな。あとはあっちが───」

 

その瞬間、キリトは絶句した。どうしたのかとリーファもその方を向くと、同じく彼女も言葉を失う。

 

そこには嘗てSAOにてその存在を鮮烈なまでに刻み付けた、焔の巨人が屹立していた。

 

To be continued…




この(仮想)世界も(パワーバランスが)破壊されてしまった!
畜生世界樹(ユグドラシル)絶対許さねぇ!!
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