紅蓮の皇   作:Skullheart

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やっぱ恋愛って哲学

注:内容調整に伴いALO編3話のフレンドサーチ機能の設定を修正しました。全ては私の責任だ。だが私は謝らない。



Whom is the tear for?

……分かっていた。これが実らぬ恋だという事も、これがしてはいけない恋だという事も。

しかしこの感情は、彼を好きだというこの感情だけは、どうしても止める事が出来なかった。

 

兄がいつも行くお見舞いに付き添い、初めて目にした兄の大切な人。そこで私は、その人への兄の想いの深さを知った。

私じゃお兄ちゃんを振り向かせる事は出来ない。だから私のこの想いは、胸の奥底にしまっておこう。桐ヶ谷直葉の初恋は、ここで終わらせるべきなのだ。

どれだけ好きだからといって、叶うとは限らない。恋の厳しい現実を、私は痛い程に思い知らされた。

 

その兄の手前泣く事は出来ない。なので病院から自分の部屋まで、私はずっと涙を堪えている。時計を見ると、そろそろ午後の三時を迎える頃だった。

 

もうすぐALOのメンテが明ける。他の三人が来るより早くログインして、少しだけ泣こう。仮想世界に現実の事を持ち込むのは本来タブーだが、あの三人ならきっと許してくれる。それに彼らになら、自分の泣き顔を少し見られても大丈夫に思えるのだ。私はアミュスフィアを装着し、ベッドに横たわった。

 

「リンク・スタート!」

 

意識が潜る一瞬、一筋の涙が流れた。

 

 


 

 

《アルン》の宿屋の一室にログインしたリーファは、近くのベッドに腰を下ろした。こちらの姿になればもしかしたら少しはマシになるかも、という淡い期待を抱いていたがやはりそう都合良くは行かず、渦巻く心と連動する様に両の目から涙が溢れ出した。

 

一度崩れれば後は脆い。頬を伝う涙は止まる所を知らず、誰もいない部屋に嗚咽が響き渡る。

 

「……え?どうした?」

 

気付けばいつの間にかログインしたキリトが、非常に困惑した様子でこちらを覗き込んでいた。

 

「……パパ、何したんですか」

 

「俺かよ!? 何もしてないって!……多分」

 

同時にログインしたであろうユイは、彼に冷ややかな視線を向けていた。

 

「違うの……現実(むこう)でちょっと……失恋しちゃって」

 

リーファは目を拭いながら答えるも、やはり涙は止まらない。

 

「ゴメンね、あたしの問題なのに…。すっごい迷惑だよね……」

 

「いや───」

 

すると、キリトはリーファの前にしゃがみ込み、そっと手を彼女の頭の上に乗せた。

 

「泣いちゃダメだ、なんて俺は言わないよ。人には人それぞれの思いがある。泣きたい時に泣けばいいんだ。俺はそれをどうこう言うつもりはないさ」

 

「キリト君……」

 

優しく微笑むキリトの言葉で、さらに涙がこみ上げて来る。それを察した彼は、ただ無言でリーファの頭を撫でた。

 

四人となった部屋に、もう暫く泣き声が続いた。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

「────もう大丈夫、ありがと」

 

そう言ってリーファは立ち上がる。未だ完全とは言い難いが、一応の整理はついた様だ。

 

「少しは楽になったか?」

 

その声に、リーファは驚き振り返った。気付かぬ内に、リュウが彼女の後ろにあるベッドに座り込んでいたのだ。

 

「リュウさん…いつの間に」

 

「割と最初の方から」

 

彼は腰掛けたまま、リーファに問いかける。

 

「……俺は恋愛なんぞした事はない。だから今のお前の気持ちも、想像でしか推し量る事が出来ない。だがその上で敢えて言わせて貰う。

───心だけは、絶対に拒絶するなよ」

 

「……うん、わかってる」

 

リーファは静かに頷く。それを見据えていたリュウも、これ以上は語るまいとして立ち上がった。

 

「そういやこれで案内役の役目終わった訳だけど、リーファはどうするんだ?」

 

宿屋を出た際にキリトが尋ねる。

 

「折角ここまで来たんだし、最後まで付き合うよ。さ、行こっ」

 

昨日までと同じような笑顔を浮かべ、リーファはキリトの手を引き歩き出す。その様子を、リュウとユイは微笑ましく見つめていた。

 

「……これで何も無けりゃあいいんだがな」

 

「……ですね」

 

彼らは、リーファがキリトを少なからず意識している事に気付いていた。確かに異性が身近にいれば、若者なら嫌が応にも気にしてしまうのが普通だ。

 

だがリュウ達は知っている。キリトには天地がひっくり返っても曲げないであろう心に決めた女性がいるという事を。さらに最悪な事に、そのキリトがドン引きな程に鈍感だという事を。そこから導き出される答えは一つ。

 

そう、リーファが例えキリトにアタックをかけたとしても、それは既に玉砕が決まっているのだ。先程の話を聞く限り、リーファは現実の方でで何かしらの失恋をしてしまったのだろう。それが原因で、自分がキリトに知らず知らずの内に惹かれている事を自覚してしまったら……

 

「……もーダメ、頭痛くなりそう。つーか既に胃が痛い」

 

「リュウさん大人でしょ?もうちょっと気の利いたアドバイス無かったんですか?何ですか『心は拒絶するな』って!あやふやにも程があるでしょ!!」

 

「だぁーかーら、恋愛なぞ生まれてこの方経験した事ないこの俺があいつに何を言ってやれるって言うんだよ!」

 

「そんなこと言ったら、私なんて感情すら作り物なんですよ!? それに比べたら経験があろうとなかろうと大差無いですよ!」

 

「ここぞとばかりにそういう境遇出すなっての!」

 

ぎぎぎぎ、と睨み合う二人。彼らのみでは事態が好転しないのは明白であった。

 

「二人ともー、早くしないと置いてっちゃうよー?」

 

「…おう」

「…はーい」

 

二人の気苦労も知らないリーファの呼びかけに、リュウたち二人は揃って大きくため息をついた。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

「……もうすぐで世界樹の入り口」

 

「それ言うの十二回目なんだが?」

 

「……じゃなかったわ」

 

「訂正しやがったこいつ」

 

四人は今、《アルン》の街中にいた。飛行時間の節約の為、地図を読むのは得意だというリーファの先導の元歩いてきた彼らだが、彼女の指し示す先は悉く行き止まり。最早何かに取り憑かれているのではと疑いたくなる程であった。

 

「また行き止まりですか~?」

 

「……やっぱ最初の曲がり角、もう一個奥の方だったのかなぁ?いや、それとも四個目?というか、そもそもアルンってこんなに入り組んでたっけ?」

 

ぺたりと座り込むユイと、マップを見てぶつぶつ独り言を呟くリーファ。どうしてこうなった、とリュウとキリトは二人して頭を抱えた。

 

「───そう言えば、《アルゲード》も最初はこんな感じだったっけか」

 

「……ははは、懐かしい名前だな」

 

そして同時に、昔を思い出し苦笑していた。

 

「確か、アスナが最初に入っていったんだっけ?」

 

「そうそう、まだ鬼の副団長だった頃で、『私に任せなさい!』ってえらく自信満々でさ。で結果帰れなくなって、『たすけて』ってメッセージ飛ばして、フレンドサーチで迎えに来てもらったアレよ。いやー、あん時の副団長殿の可愛らしかった事よ、涙目で猫みたいに丸まってんだもん」

 

「あの後しばらく大人しくなったよな。よっぽど恥ずかしかったみたいだぜ、その話する度にやたら鋭い目線が飛んできたし」

 

くっくっく、と二人から笑みが零れる。

 

「ところでキリト君よ、さっきの副団長殿の話だが……」

 

「?」

 

キリトは首を傾げた。

 

「その時撮った写真のデータがここにある、と言ったらどうする?」

 

「え」

 

その質問に彼は素早く食いついた。餌が提示されて僅か数ミリ秒、一本釣り師もビックリの速さである。

 

「何も不思議な事じゃあない。アイテム以外のプレイヤーデータがほぼそのまま引き継がれてるんだから、向こう(SAO)のスクショが残っててもおかしくはないだろ」

 

「そ、それで、その現物は…?」

 

「ほれ」

 

空メッセージの添付画像として送られたそれを見てキリトは、

 

「うぼぁっ」

 

一瞬悶死しそうになった。

父性を刺激されるというべきか、思わず守ってあげたくなるような弱々しい表情でうずくまったままこちらを見上げる様子は、その頃のキリッとした印象からは想像もつかない可愛らしさを醸し出していた。

 

「さて、どうする?」

 

「言い値で買おう」

 

「お前今金ねーだろ」

 

「畜生昨日の俺の馬鹿野郎」

 

ガックリとキリトは肩を落とした。そのリアクションをリュウは面白そうに嗤っている。

 

「ちょっと~キミ達も手伝ってよぉ~」

 

すると、脳が限界を迎えたリーファがキリトに泣きついて来た。元々自分がやるって言い出したんだろ、とため息をつきながらも、彼は渋々マップを開く。

 

「あー確かにこれは複雑だなぁ。えっと、俺達がいるのがここで、世界樹がここ……

───!!」

 

その瞬間、キリトは弾かれたように走り出した。この先は本来行き止まりの筈なのだが、彼は素早く猿のように建物をよじ登り、その勢いのまま街の上空へと一直線に飛んでいく。

 

「あんにゃろッ───」

 

「えっ?えっ?何?」

 

リュウ達もその後を追いかけ、飛翔する。突然動き出した状況に頭が追い付かないリーファだったが、それ以上にキリト達のスピードに追い付くことが出来なかった。軽い身体のため元からすばしっこいスプリガンのキリトと、高出力ブースターのような馬力で一気に加速するリュウ。リーファも速さには自信があったが、今は本気の二人が点となっていく所が見えるまでで精一杯だ。

 

「───────!!」

 

突如響き渡る、耳を劈くようなキリトの叫び声。リーファは何故か聞き覚えがある気がしたが、高速飛行によるドップラー効果が邪魔をして、漠然とした感覚しか掴めない。

 

「───どうしちゃったの?キリト君……」

 

リーファは速度に劣るユイを背負い、急いで高度限界へと向かう。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

───ナが待ってる、俺は行かなきゃいけないんだ!」

 

「だから焦るなって言ってるだろうが!少しは頭冷やせ!」

 

リーファ達が駆けつけた時には、キリトとリュウは口論になっていた。いや、正確には熱くなっているキリトをリュウが諫めている、というべきか。

 

「今のお前は冷静さに欠ける。そんな奴がグランドクエストに挑んでも返り討ちにされるだけだ」

 

「……」

 

あくまでも冷静なリュウの言葉に、キリトは黙り込む。

 

「こうなる事が分かってたからお前を呼ばなかったんだ。フレンドサーチの効果であいつの座標がマップに表示されてんのも、お前が暴走しかねないから黙ってた。んで予想通り、お前は暴走し始めてる。だから今は落ち着いて───」

 

「解ってるよ!解ってるんだよそんな事は!」

 

キリトの声は、リーファが思わず竦んでしまう程の気迫が込められていた。だがそれでもリュウは毅然とした態度を崩さず、淡々とした表情でじっとキリトを見つめている。

 

「……解ってるよ。俺が冷静じゃない事も、そんな状態じゃあ足手まといにしかならない事も……!でも!それでも!」

 

しかし、一転して震える声で話すキリトの眼はあまりに弱々しくて。まるでボロボロの心を必死につなぎとめているかのようだった。

 

「───じっとしてなんか、いられないんだよ」

 

そう言い残し、彼は凄まじい速度で急降下していく。恐らく向かう先は、ダンジョンとなっている《世界樹》根元の入口。リュウもそれを追い急降下する。リーファも慌てて下に降りようとした時。

 

「……ん?」

 

その背中にしがみつていたユイは、青空に光る影を見つけた。その影はやがて大きくなり、彼女たちのいる場所に向け落ちてくる。不審に思ったユイはそれを掴み取った。

 

それは、一言で言えばICカード。この魔法とファンタジーの世界からは程遠い、むしろ存在してはならないと言ってもよい代物だった。タップしても何も反応は起きず、オブジェクト情報も表示されない。

 

これがゲームのシステム外のオブジェクトである事は明らかだ。そして彼女の記憶領域より呼び出される、一昨日のリュウとの会話。未帰還者達の脳を使い、非人道的な実験をしているという可能性。優れたユイの思考回路は瞬時に結論を導き出した。

 

恐らくこれは、ALO(オモテ)とウラを出入りするためのカギなのだ。虚構と現実の狭間に存在する門を開くためのカギ。

 

「───ママ」

 

そして、これを託してくれたのであろう人を想い、彼女は空を睨んだ。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

「リュウさん」

 

リーファ達が根元に到着した頃には、そこにキリトはおらず階段にリュウが腰を下ろしていた。

 

「あの……キリト君は」

 

「一人で突っ込んでった」

 

リュウは愛想を尽かした声で答えた。結局キリトを止める事は叶わなかった様だ。心配そうな表情を見せるリーファ達を背に、リュウは大きくため息をついた。

 

「はっきり言って今のあいつが世界樹を突破するのは不可能だ。視野が狭いわ、サポートも無いわでどれだけ保つんだか。ま、いっぺんボコボコに叩きのめされれば嫌でも目ぇ覚めるだろ」

 

「………」

 

リーファは、リュウの言う事が正しいと理解していた。どういう事情かは分からないが、キリトは今世界樹攻略に躍起になるあまり冷静さを失くしている。多少荒療治でも、あの様子では仕方ない所はあった。

 

しかし、それでも。

 

「……あたし、行きます。キリト君を助けに」

 

何故かは分からないが、そうしたいと思った。そうしなければならないと思った。

 

「……本気か?」

 

呆気に取られたリュウが彼女の方を見る。ユイも目を見開き、驚きを隠せないでいた。

 

「お前一人が助けに行っても戦況が傾く訳じゃねぇ。仮に助けられたとしても、それは真にあいつのためにならん。それはお前にも理解(わか)る筈だ」

 

リュウはただ冷静に、リーファを諭そうと試みる。だがリーファの決意は固く。

 

「それでも───彼を見捨てる事なんて、あたしには出来ない!」

 

「おいリーファ!?」

 

リュウの制止も空しく、彼女はダンジョン《世界樹》の入口へと駆け込んでいく。取り残されたリュウとユイは、互いに目を合わせた。

 

「……どうします?リュウさん」

 

「…………だぁぁぁぁぁ!! 揃いも揃って仕方のねぇ馬鹿どもばっかか!」

 

結局割を食うのは俺達だろ、と毒づきリュウは立ち上がる。

 

「行くぞユイ!」

 

「りょーかいです!」

 

彼らもリーファ達を追い、ダンジョンの中へと突入した。

 

 


 

 

────畜生。

 

HPを枯らし、リメインライトとなって浮遊する俺は、自身の無力をただただ嘆くばかりだった。

 

アスナを助けたい───その一心で行動してきた俺は、こんな所で立ち止まる訳にはいかなかった。たとえ一人だろうと、アスナに会いに行くつもりだった。

 

しかし結果はこのザマだ。物量の差に無様に敗北し、視界を壁のように阻む天使型ガーディアンを睨みつけるしか出来ない。

 

だが、それでも諦めきれなかった。どうしても諦められなかった。まだ戦える。何度だって戦える。その思いで一層強くガーディアンを睨んだ時。

 

「キリト君っ!」

 

真下から聞こえる少女の声。戦意に尖っていた俺はその声に虚を突かれた。

 

───リーファ?

 

 


 

 

どうしてついてきた、これはリーファは関わらなくていい問題だというキリトの思考に反して、彼女は彼のリメインライトを抱えてダンジョンの出口へと一直線に向かう。

 

しかし、新たなターゲットを認識した事で再びガーディアンが活動を開始した。剣を持った個体が多方向からリーファを追い、弓を持った個体が五秒行動不能(スタン)効果の付いた矢を一斉に放つ。リーファは自慢の機動力を活かし、次々に回避していく。

 

「あぐっ……!」

 

だが、ついに矢の一本がリーファの肩を貫いてしまう。行動不能により動きを封じられた彼女に二、三本目の矢が突き刺さる。

 

それでも懸命に飛ぶリーファだったが、鈍った隙に剣持ちのガーディアンがすぐ後ろまで迫っていた。

 

「はあっ、はぁっ……」

 

彼女の表情は必死だった。キリトにはどうしてそこまでするのか理解出来なかったが、心が締め付けられた様に息苦しい感覚が彼の全身に走った。

 

そしてその間に、ガーディアンはリーファの背中をしっかりと捉えていた。投擲、あるいは振り下ろされた剣が彼女を襲う。

 

「リーファさん!」

 

が、それらは全て間一髪張られた障壁に阻まれた。声がした方にはユイが心配そうな表情で彼らを見上げていた。

 

「リーファ!! そのまま来いッ!!」

 

その先では、リュウが堂々と仁王立ちしていた。既に詠唱は終えているらしく、彼の周りでは猛々しい炎が渦巻いている。

 

「リュウさん……ユイちゃん……ありがとう」

 

リーファは言われた通り、出口目がけて真っ直ぐに突っ込んでいく。ユイも防壁を張った後、急ぎリュウの方へと向かった。

 

「来い、《アレス》!!」

 

同時に、リュウはアレスを出現させる。その両手には、やはり轟々と唸る炎。

 

劫火百烈拳(ハンドレッド・バーナー)!!」

 

瞬間、繰り出された無数の拳はリーファとユイを見事に躱し、その後ろから迫るガーディアンを悉く焼却していった。後続のガーディアンも次々に消されていき、行動不能付きの矢さえも漏れなく灰燼に帰した。拳の連打が生み出す炎の嵐は、何事も寄せ付けない鉄壁のバリアと化す。

 

リーファはアレスの間を縫い、出口へと飛び込んだ。それを確認すると、ユイはリュウの襟首をつかみ、硬直した彼の身体を出口の方へと引き摺り込む。

 

急いでウィンドウを開くリーファ。そして《世界樹の雫》なるアイテムを取り出し、キリトのリメインライトに注ぐ。

 

すると、リメインライトの周りを複雑な立体魔法陣が取り囲み、数秒後には復活したキリトの身体がそこにあった。

 

「キリト君……!」

 

涙を滲ませた声で、リーファはキリトの名を呼ぶ。危険を冒してまで救ってくれた彼女を見て彼も悲哀の表情を見せるが、それでも今のキリトに止まるつもりはなかった。彼女に一言礼を言った後、彼はもう一度ダンジョンのゲートへと向かう。

 

「そんな……一人じゃ無理だよ!」

 

「そうかもしれない……でもこれ以上、リーファ達に迷惑はかけたくないんだ。だから────」

 

バキィッ!!!

言葉を続ける前に、リュウの拳がキリトの左頬を抉った。かなり本気で殴ったらしく、キリトはバランスを崩し倒れ込む。リュウは立ち上がろうとする彼の目の前まで迫り、その胸ぐらを掴んだ。

 

「『迷惑はかけたくない』だぁ?テメェ、リーファがどんな気持ちでお前を助けに行ったのか分かんねえのか!? 俺達にとっちゃお前が一人で突っ込んでく方がよっぽど迷惑なんだよ!!」

 

リュウの叱咤にキリトの頭にも血が上り、逆にリュウの胸ぐらを掴み返した。

 

「だったら俺はどうすればいい!? このやるせなさは、やり場のない気持ちはどうすればいい!? 待ってたって何も変わらないじゃないか……!俺は取り戻さないといけないんだ!! ()()()を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────え?」

 

その声に彼らが振り向くと、リーファが両手を口元にあて、半歩ずつ後退っていく姿があった。キリト達には何が起きたのかが分からず、ただキョトンとその様子を眺めているのみだった。

 

「嘘、そんな事って……でもその人は……!」

 

酷く狼狽するリーファに彼らも困惑する一方だった。ここは何か声をかけた方が、と考えた瞬間───。

 

「まさか───お兄ちゃん、なの……?」

 

『────は?』

 

その一言に、彼らは空間が凍り付いていくのを感じた。

 

To be continued…




そう言えばこの小説も一周年過ぎたなって。こんな作者の妄想の毎度付き合って下さり、誠に嬉しい限りです。これからもご愛読の方を宜しくお願いします。
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