紅蓮の皇   作:Skullheart

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あけましておめでとうございます(年末遅刻勢)
今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
そしてUA10000達成ッ……!
感謝っ!圧倒的感謝っ………!
次は20000を目標に頑張ります。


Rebellion against the world

世界樹の中に突入したリュウ達は、素早く陣形を展開した。それと同時に、上へ行かせまいとする無数のガーディアンが次々に姿を現す。目に映る限りでは剣を持った個体ばかりだったが、恐らくはその後ろに弓兵隊も控えているだろう。

SAOからの仲間が集まったと言っても、数の差は歴然。こちらを呑み込まんばかりの大軍は、凶悪なまでの制圧力を以てリュウ達に迫る。

 

「リュウ、おいでなすったぞ」

 

「わーってるよ」

 

しかし、分かっていてそれを対策しない彼らではない。ケイタの合図を受け、リュウはパァン、と両手を合わせる。同時に始まる超高速の詠唱。辛うじて聞き取れるとすれば、それが光魔法の一種であるという情報位か。

そして詠唱を終えた彼の背中に現れる、何十対もの光の「腕」。その様は実に神々しく、見る者を尽く圧倒した。

リュウはそれら全て、上空に広がるガーディアンの大軍に向ける。

 

「行くぜ新技、千手加農砲(センジュカノン)!!」

 

その瞬間、それぞれの掌から放たれる光の束。それらは全て味方を避け、正確にガーディアンを貫いていく。あちらが大勢で固まっている事を逆手に取り、後ろに控えていた弓兵をも纏めて敵の戦力を大きく削ったのだ。

 

更にそれだけでは終わらない。リュウはビームを照射したまま背中の腕を動かし、次々にガーディアンを凪ぎ払っていく。味方はそれを巧みに躱し、陣形に穴が空いたガーディアンを打ち落としていった。迂闊に動けば砲撃の餌食、かといって立ち止まれば切り伏せられる。ガーディアンの武器である物量も、このビームの雨の前では意味を成さない。

 

リュウの掩護射撃が、前衛の火力をさらに底上げさせる。シンプルながらも、充分な突破力を持つ方法。だが、その戦法はある程度想定されていたようで。

 

「……!」

 

前に出てきたのは、巨大な盾を両手に携えたガーディアン。剣持ちと同じく大勢出現したそれは、リュウの放つビームの射線に入り込み、その大盾で次々にビームを遮っていく。

 

「……来る!」

 

厄介な射撃が止まった隙に剣士ガーディアンが退がり、代わりに奥の方から弓兵ガーディアンが出て来た。そして弓兵達は盾の影に隠れつつ、リュウ達に向け一斉に拘束(スタン)付きの矢を放ってくる。この矢が命中すれば、少なくとも数秒は動きを止められる。相手が圧倒的なまでの物量を誇るこの戦いでは、それは命取りとなる数秒なのだ。まともに喰らえばただでは済まない。

 

だがリュウは、射撃体勢から微動だにしなかった。その代わりに、彼の前に現れる二つの影。

 

「ゴドフリー、レコン」

 

「うむ」

「了解」

 

リュウが指示すると、ゴドフリーが大斧の回転で、レコンが闇魔法の範囲攻撃でそれら全てを迎撃してみせた。後ろにいたリュウに被害は一切ない。彼は余裕の笑みで、前方のガーディアンに向けたレーザー砲撃を続けている。

彼らだけではない。他の皆もそれぞれ、まるで予測していたかの様に完璧に矢の雨を凌いでいた。

 

 

 

───突入(カチコミ)前。

 

「んで?死んで来た感想はどーよ?」

 

「もうちょいマシな言い方あるだろ!?」

 

リュウ達は、一足早く突撃し返り討ちにされたキリトに世界樹内部の様子を尋ねた。流石元SAOトッププレイヤーと言うべきか、暴走していても相手の事をしっかり観察していたらしく。

 

「まず厄介なのは兎に角数だな。まともにぶつかったら多分呑まれる」

 

「お前そんなんでよく行ったな」

 

「うるせぇ」

 

ダッカーの冷やかしを軽くあしらいつつ、キリトは話を続ける。

 

「そんで、その上で最も問題になるのが、後ろから撃ってくる拘束効果付きの矢だ。あれ喰らったら動けなくなって、一気に畳み掛けられる。ただ奴らの前に剣持ちが塞いで来るし、しかも矢自体呆れる位多いからタチが悪い」

 

「じゃーお前、剣持ちしかいなかったら行けたのか?」

 

リュウの質問に、キリトは少々考え込む。そして彼は苦々しい表情で答えた。

 

「……五分五分って所かな。さっきも言った通りかなり数多いし、一体一体それなりに能力値あるから、一瞬でも気を抜いたら持ってかれてたよ」

 

「ならこれだけ揃えば大丈夫だな。あとは……」

 

「おい、それは弓持ちがいない前提で───」

 

反論しようとするキリトを手で抑えるケイタ。

 

「大丈夫、こいつが何とかしない訳がないだろ?」

 

「そ。お前の背中は俺に任せろ」

 

サムズアップを返すリュウ。たったそれだけで納得してしまえるのは何故だろうか。

 

「……と、言いたい所だが」

 

だがそんな安心感に反し、リュウは言葉を濁した。

 

「俺の新技にも恐らく対応してくる可能性が高い。《千手加農砲》っつーマルチロック式照射ビームなんだけど、射線に盾持ってる奴が入られでもすれば弓持ちが出る隙が出来るだろうな」

 

「じゃあどうするんだよ」

 

折角期待したのに、と内心落胆しキリトは呆れた表情でため息をついた。

 

「後ろにヒーラーを置いて、アタッカーを延々回復させるのはどうなの?」

 

そこに、リーファが意見を提示した。これはボス戦などで用いられる基本的な陣形で、前衛のスタミナを長引かせる事で長期戦を戦い抜く戦法である。リーファは無限にガーディアンが出てくる事を考え、この陣形を提案したのだ。

 

「ううん、それはダメ」

 

しかし、それを真っ先に否定する人物がいた。ここでは水妖精族(ウンディーネ)の姿をした槍使い、サチである。きっぱりと断言してみせた彼女にケイタが理由を尋ねた。

 

「どういう事だ?」

 

「ウンディーネの国力がずっとサラマンダーを下回ってるのは知ってるよね?だからそれを挽回するために、極秘でグランドクエストに挑戦した事があるの。その時、さっきリーファちゃんが言った戦い方でやってみたらしいんだけど……惨敗だったって」

 

サチの台詞に全員が息を呑む。分かりきっていた事だが、一筋縄ではいってくれないらしい。

 

「敗因は?」

 

「前衛だけじゃなくて、ヒーラーにも沢山ガーディアンが攻撃してきた事。囮役も頑張ってたみたいだけど、ほとんど効果がなかったって。あの陣形を崩されたら戦うどころの話じゃないよ」

 

ウンディーネの敗北の理由を客観的視点で語るサチ。彼女の言う通り、アタッカーをヒーラーで回復していく場合、そのヒーラーが攻撃を受け続ければ回復する暇などどこにもない。だからこそヒーラーはモンスターから離れ、前衛に囮を受け持って貰うのが定石なのだが、そんな事はそのウンディーネ軍も承知だっただろう。にも関わらず、敗北したという事は。

 

「あのガーディアン、普通のとは違うアルゴリズムで動いてる可能性が高いという事か」

 

「うん。とは言っても、滅茶苦茶な数だから普通のヤツのをちょっといじくった程度だと思うよ。多分、ヘイト向く条件が緩い位じゃないかな」

 

一応サチが補足を加えるが、それでも下手に支援がしにくくなる分、厄介である事に変わりはない。リーファをはじめ、皆の表情が苦々しいものに変わる。

 

だがその中で、所謂「悪い笑顔」を浮かべている人物が約一名。

 

「それはそれは……重畳じゃないか」

 

我らが司令塔、ケイタであった。

 

 

 

 

────時は戻り、ダンジョン《世界樹》内部。弓兵の一斉射撃を完璧に凌ぎ、状況は大きく動き出そうとしていた。

 

〈まずはリュウの千手加農砲、その対応を誘い出す。さっきアイツが自分で言った様に、恐らく防御用のガーディアンが何体か出てくる筈だ。そこからが勝負になる〉

 

ケイタの言葉通り、盾持ちガーディアンは千手加農の射線を遮り。

 

〈リュウが千手加農砲を撃ってる限り、剣持ちが盾持ちより前に出てくる事はない。つまり、リュウを抑えてくるのは必然的に弓持ちという事になる。だからテツオの合図が来たら、すぐに回避と防御に備えてくれ。どこかで必ずリュウを仕留めに来る筈だ〉

 

そしてその指示通り、皆この時に備えていたのだ。

 

「リーファ、サチ、ダッカー。出番だ」

 

『了解!』

 

そしてその瞬間、リュウの合図を受けた三人が目にも留まらぬ速さで突っ込んでいく。

 

〈弓って都合上、どうしても奴らには隙が生まれる。お前ら三人の出番はここだ。持ち前の機動力で一気に接近して、邪魔な射手共を蹴散らして来い〉

 

加えてリュウが予見した、一斉射撃の後の空白。その間にリーファ達は盾持ちガーディアンを躱し、隙間無く立ち並ぶ弓持ちの大軍に肉薄する。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

三人は散開し、次々に弓兵達を切り伏せていく。取り回しの悪い弓という武器、そして一気に制圧するために数を並べた事が仇となり、ガーディアンは変幻自在に飛び回るリーファ達にただただ翻弄されるばかりであった。白いガーディアンの肉の壁に、虫が食った様な穴が開く。

 

「そぅらっ!」

「ふん!」

 

動き出したのは彼女達だけではない。千手加農砲の防御に集中している盾持ちガーディアンを、テツオやゴドフリーといったパワーのある者が横から粉砕していく。盾が一枚剥がされる度、強烈な威力を持ったレーザーがガーディアンの大軍に突き刺さる。

 

しかし、それで攻略させてくれる程グランドクエストは甘くはない。リーファ達が開けた穴は怒涛の勢いで湧出(ポップ)する兵士で次々に埋められていき、新たに現れた盾兵が再び射線を遮っていく。

 

無限に続くループ。ガーディアンは何度でも補充されていく。これを繰り返していれば、プレイヤー側がジリ貧になるのは明確である。

 

だがそれすらもケイタの作戦(オペレーション・ナイトエンド)の範疇、彼の掌の上であった。

 

「………おおおおおおおおおっ!!」

 

刹那、弓兵の大軍に開いた穴を、何かが猛スピードで駆け抜けた。それはまるで神話に描かれる龍が如く。重力の呪縛をも断ち切り、天に向かって牙を剥く漆黒の流星。

 

『黒の剣士』キリト。その双眸は、闘志と決意に溢れていた。

 

「行ってこい………キリト!」

 

ケイタの言葉に応える様に、キリトは更に加速する。剣士ガーディアンが迎撃に出るも、その勢いは止まらない。止められない。

 

何故なら、最初はリュウ達の何十倍はいたであろう剣士ガーディアンが、今では彼らと同等以下の数しか見当たらないのだ。それもその筈、先程まで湧出させるガーディアンは全て、怒涛の勢いで破壊されていく弓・盾持ちの方へと回されていたのだから。

 

リュウの砲撃は囮。本命は、ずっと後方で待機していたキリト。弾丸の様な速さの吶喊が、ダンジョンの天蓋に迫る。

 

当然、ガーディアンも黙って見ている訳にはいかない。弓兵は尚も上昇を続けるキリトに狙いを定め、矢を(つが)えた。

 

「させない!」

 

しかし、それは彼女達も然り。リーファ達三人は、キリトに矢を向けた個体から優先的に仕留めていく。加えて時折防御網を抜けて来る千手加農砲のレーザー。ガーディアンの中央からの支援攻撃は、完全に封じられた。

 

天辺まではまだ百メートルある。しかしこれまでの旅を省みれば、ゴールは目と鼻の先も同然。もうすぐで届く。もうすぐで会える。祈る様に念じ、キリトは手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

だが無情にも、キリトの勢いは止まった。近くに湧出した兵士が、キリトの片足を掴んだのだ。キリトはすぐさま切り払うも、新たに湧出したガーディアンが一体、また一体と腕や足に纏わり付いてくる。

 

そしてそれを見計らったかの様に、彼の目の前に無数の剣士・弓兵の群れが現れる。キリトが下を見れば、リーファ達の方にいる弓兵の湧出が止まっていた。恐らくリュウへの牽制を捨て、湧出させる戦力を全てキリトの方へと回して来たのだ。

 

それらはキリトを嘲笑うが如く、加速が止まり身動きの取れない彼を取り囲み、武器を向けた。再度の形勢逆転、決死の突撃は空しくも物量に阻まれ、まさに絶体絶命。絶望的状況である。

 

しかし何故か。そんな状態であるというのに。いや、そういう状態なればこそなのか。

 

キリトは───ただ笑っていた。

 

惜しむらくは、その意図を汲もうとするだけの知能を、ガーディアンが持ち合わせていなかった事か。それとも、天辺に最も近く最も脅威と判断したキリトを優先的に攻撃すべきとしてしまった思考ルーチンか。

 

故に見逃した。そこに向かって、風の刃と黒色の弾が迫っていた事を。

 

『!!』

 

それらはキリトに纏わり付いていたガーディアンを吹き飛ばし、彼の身体を解放した。そしてその瞬間、キリトの剣から光の刃が伸びる。

 

「ぅらああぁぁぁっ!!」

 

長く長く伸びたその剣で、キリトは目の前のガーディアンの群れを凪ぎ払った。ガーディアンは残らず真っ二つになり、爆散。再び天蓋へ道が開かれる。

 

〈でもさ、折角リュウを囮にして俺達の方にリソース割かせても、デスポーンしてキリトの方に来られたらそれこそ意味無くない?〉

 

〈そ。だから、キリトの他にもう二人上に上げる。それでその役を担ってくれるのは───〉

 

「……来たか!」

 

キリトを振り向いた先には、高速で向かって来る二つの影。

 

「すまない、遅くなった」

「援護します、キリトさん!」

 

かつて絶対騎士(アブソリュート・ナイト)と呼ばれ、皆を守る盾であったディアベル。

数少ない魔法使い、それも高威力の範囲攻撃持ちであるレコン。

彼らはキリトの前に出て、討ち漏らしたガーディアンを牽制する。キリトはその隙にポーションを(あお)りながら、救援に来た二人に声を掛けた。

 

「思った以上に数が多い。二人とも、行けるか?」

 

「任せろ」

「何とかしますよ」

 

キリトがHPを回復し終えたのを見計らい、二人はもう一度集結しつつあったガーディアンの群れに向け吶喊していく。

 

「そぉれぇっ!」

 

すると、彼らは敵陣のど真ん中でクイックターンした。同時にディアベルの剣が、周囲のガーディアンの身体を掠めていく。ガーディアンの敵意の矛先は、全てディアベル達へと向けられた。

 

「さぁ、ついて来い!」

 

ターンした勢いのまま、二人は瞬時に敵陣から抜け出した。それを逃がすまいとするガーディアンは、何十体もの群れを成して追跡を開始する。その様はまるで、集団で獲物を追い詰めるライオンの狩猟。大軍で攻めてくるガーディアンに対し、ディアベル達はとてもちっぽけに見えた。

 

だがそれさえも、彼らの計画通り。

 

「レコン君!」

「はい!」

 

その瞬間、突如出現した巨大な黒い球体がガーディアンの群れを呑み込んだ。ブラックホールの様に禍々しいそれはまさに「闇」。そしてその中で巻き起こるのは、凄まじいエネルギーの乱流。一網打尽にされたガーディアンは為す術もなく圧壊し消滅していく。レコンが得意とする闇魔法、その極致《ダーク・エクスプロージョン》。

 

「……あいつ、あんなの出来る様になってたんだ……」

 

リーファはそんな彼を見ながら、感嘆の声を漏らした。昨日まで随意飛行もままならなかったのに、いつの間にか戦闘機動さえ当たり前にこなし、更にはクイックターンという高等技術さえ見せた。因みに本人曰く《アルン》までの道中で練習したらしい。

 

「……やるじゃん」

 

リーファはそう呟きながら、残る弓兵を蹴散らしていった。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

ディアベルとレコンが敵を分散させ、キリトは再び天蓋へと急行する。ガーディアンはすかさずそれを阻もうとするも、その多くはディアベル達の巧みな撹乱とレコンの誘導弾により動きを掻き乱されていた。

 

「やっぱり予め組んであるだけのプログラムじゃ、状況判断力は人間のそれに劣るか」

 

薄くなった肉壁を突き破り、キリトは独りごちた。

 

サチの予想通りガーディアンのアルゴリズムの変更点は、捕捉条件の強化以外は大したモノは無い。何故なら、物量はそのまま強さに直結するから。複雑な事など必要ない、最も単純(シンプル)でかつ最も脅威的な方法だから。相手がどれだけ素早くとも、どれだけ屈強な戦士を並べようとも、どれだけ高度な戦略を引っ提げて来ても、物量はそれを凌駕する。戦いは数とは本当に良く言ったものだ。

 

───ならば、限界の物量を以てしても抑え切れない場合はどうするか。答えは簡単だ。「強さ」というファクターを足してやればいい。

 

「!!?」

 

突如、キリトの前に巨大な影が立ち塞がった。それは携えた剣を構えると、キリトの突撃を軽々と受け止めてみせた。自分の攻撃が非常に軽くあしらわれたその事実に、キリトは驚き目を見開いた。

 

その正体は、これまでとは明らかに違うガーディアンであった。四肢は筋骨隆々としており、見るからに頑強さがひしひしと伝わって来る。そして何より、他のガーディアンとは一線を画した体躯。比べれば一回りや二回りも違いそうな程に巨大なそれは、その全身から膨大なプレッシャーを醸し出していた。

 

「要は、こいつを倒してから行けって訳か!」

 

吶喊を止められたキリトは一度距離を取り、そして再度大型ガーディアンに突撃する。大型はそれを避けようとはせず、寧ろ真っ向から彼を迎え討つ構え。次の瞬間、キリトと大型は強烈な衝撃波を伴いながら切り結んだ。

 

「ぐうぅっ!!」

 

両者一歩も退かず、力と力がぶつかり合う。様々な太刀筋が飛び交い、その度に激しく剣戟音が響き渡る。

 

(重い、硬い、おまけに巧いッ……!もたもたしてると他の奴が集まって来る、早めに決着を着けないと───)

 

そう直感したキリトは、防御を捨て一気に勝負を掛けた。全身のバネを極限まで使い、振り翳した大剣をガーディアンの頭部に叩き付ける。大型ガーディアンはそれを真っ向から受け止め、再び鍔迫り合いが繰り広げられた。

 

やはり拮抗する勝負。だがその時、キリトの左手が剣を離れ、ガーディアンの腹部を捉える。

 

「喰らえッ!!」

 

刹那、掌から放たれるエネルギーの塊。それは、キリトが予てより密かに鍛えていた闇魔法。と言っても、今の彼の熟練度で撃てるのはただのエネルギー弾が精々、しかし威力としては充分なそれを、キリトは連続でガーディアンの腹に叩き込んだ。至近距離で直撃を受けた大型ガーディアンはバランスを崩し、大きな隙を見せる。

 

「やぁああっ!!」

 

直後、キリトの回転斬りが炸裂。大型ガーディアンは真っ二つに斬られ、破砕音と共にポリゴンの塵へと身を散らした。最大の障害を切り伏せたキリトは、すぐさま上昇を再開する。次の邪魔が来ない内に、ゴールへと辿り着くために。今度こそ届け、そう願いキリトは頂へと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこに広がっていたのは、空虚にも等しい絶望だった。

 

先程の大型ガーディアンが……三体?否、五体?いや、もっとだ。キリトと天辺までの十数メートルの間に、大型ガーディアンが所狭しと詰められていたのだ。

 

「………っぉぉぉおおおおおお!!」

 

それでもキリトは止まらなかった。自分が出せる最高のスピードで、絶望の壁の突破を試みる。

 

だがそれで打ち破れる程、目の前の壁は脆くはなかった。決死の吶喊は軽々と受け止められ、そして返す刀で切り飛ばされるキリト。

 

「キリト君!」

 

ディアベルが駆け寄ろうとするが、彼の周りにはガーディアンが続々と集まっている。下手に動けば逆に彼を危険に晒す事になるだろう。誘導しやすいガーディアンの認識判定が、ここに来て恨めしく思えてきた。

 

「……くっ!」

 

何も出来ない自分の不甲斐なさに、ディアベルは歯噛みした。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

ダンジョン《世界樹》の中程。少しずつだが再び湧き始めた弓兵を処理していた、リーファ達にもキリトの様子が見えていた。

 

「キリト君……!」

 

必死に戦う彼に、リーファは心配そうな表情を浮かべる。兄は大丈夫なのか、また無茶な真似をしているのではないか。あらゆる不安が彼女の脳を駆け巡った。

するとその時、トン、とサチがリーファの背中を押した。

 

「リーファちゃん、行って!」

 

「!」

 

サチの指示に、リーファは驚いた。与えられた持ち場を離れていいのかと。だが実際、弓兵の量はだんだん少なくなっている。上の状況を考えれば、助けに行けるタイミングは今しかない。

 

「ここは俺達だけで何とかなる。あいつを助けてやってくれ」

 

湧出したての弓兵を葬りながら、ダッカーも彼女を後押しする。託す様な笑顔を見せる彼らに、リーファは小さく頷いた。

 

「うん、行ってきます!」

 

そう言って、リーファは翅を走らせる。上に向かって高速で離脱する彼女を、ガーディアンも追跡しようとするが、彼女たちがそれを許すはずもなく。

 

「させない!《グローリー・ボルテックス》!!」

 

サチの雷が剣士弓兵纏めて一気に撃ち落とす。彼女とダッカーは、それでもリーファを狙うガーディアンの前に立ち塞がり、そして高らかに吠えた。

 

「ここから先は、行かせない!!」

 

サチの槍に、激しい電流が迸った。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

リーファは飛んだ。全力で飛んだ。ガーディアンの反応をも置き去りにし、立ち塞がる者がいれば瞬時に切り伏せた。持ち得る力全てを出し切り、彼女は空を駆け抜けた。

 

「キリト君!」

 

リーファの目に映ったのは、今剣を振り下ろさんとする大型ガーディアンの姿。対するキリトは体勢が整わず、防御の姿勢が間に合わない。

リーファはさらに速度を上げた。己の限界を超えた加速、それは彼女自身のポリゴンをも揺るがし、そしておよそ三十メートルはあったキリトとの距離を一瞬で詰めた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

ギリギリでキリトの前に割り込み、リーファはどうにかその剣を受け止める事に成功した。

 

「スグ!?」

 

キリトは驚いて目を見開きながらも、すぐさま回り込みガーディアンを真っ二つに叩き斬る。二人は会話を交わすでもなく、互いに背中を合わせた。続々と囲い込んでくるガーディアンをただただじっと見据え、二人は剣を構える。

 

「おぉぉぉぉぉ!!」

「やぁぁぁぁぁ!!」

 

刹那、二人は全方位に広がる大型ガーディアンの、その正面の群れに向け吶喊した。ただ一点を穿ち、突き抜ける光。不退転の覚悟で剣を振るう彼らの勢いは、ガーディアンの壁を無理矢理奥へと押し込んでしまう程に凄まじかった。

 

だがガーディアンは、またしても素早い対応をしてみせた。湧き出た大型の群れが、両翼から二人の背後へと回り込んできたのだ。如何に優れた突破力だろうと、挟み撃ちにしてしまえば仕留めるのは容易い。正面の壁が押し留めている隙に、無防備な背後へと無数の剣士が迫る。

 

その瞬間、リーファは素早く後方に反転した。同時に、装備していた長刀をキリトの前に差し出す。キリトはそれを迷いなく掴み取り、左手に構える。

 

「キリト君……行くよ!」

 

差し迫る大型の間を縫い、リーファはキリトの足元へと移動した。互いの両足を合わせ、二人はガーディアンの壁、さらにその先の天辺を睨む。

 

「頼む……リーファ!!」

 

リーファは全MPを捧げ、それを自らの両足に込めた。巻き起こる突風、吹き荒れる暴風。その風は群がっていた周囲のガーディアンを散らし、僅かながらその肉壁に綻びを作り上げる。

 

「いっっっっ…………けぇぇぇぇぇええええっっ!!」

 

そして、リーファはまるでロケットの様に、その綻びに向けてキリトを全力で蹴り上げた。足に込めた風はその威力を最大限に高め、さらにはキリトの全体を嵐の様な風が覆う。大型が大軍を成して阻もうと風は容易く吹き飛ばし、たとえ堪えきったとしてもキリトの二刀が容赦なく切り伏せる。怒涛の勢いで進撃するキリトに、ガーディアンはなす術なく塵と消えていった。

 

「すまない、待たせたな!」

「遅れた分の仕事はするヨー!」

 

その上ダメ押しで、後から駆けつけたシルフ・ケットシー連合軍が魔法とブレスの飽和攻撃を畳み掛ける。その何発かはキリト達のいる天辺近くまで届き、突破させまいと群がるガーディアンの大軍を打ち崩した。

さらには。

 

「行け、キリト!」

「アスナをお願い、キリト!」

「頑張って、キリトさん!」

「終わらせて来い、キリト!」

 

クラインやリズベット、シリカやエギル達旧SAO組が、それぞれ後方から迫るガーディアンを抑え込んだ。ガーディアンが誇っていた圧倒的物量差は、ここに来てそのアドバンテージを完全に崩壊させられたのだ。皆の援護を受け突き進むキリトは、最早誰にも止められない。

 

「───あとは頼んだよ、お兄ちゃん」

 

そんな彼の後ろ姿を見守りながら、リーファは残ったガーディアンの群れに身を委ねた。得物もMPも無い彼女に最早反撃の術は無い。リーファはキリトに全てを託し、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

しかし。

 

「……全く、ムチャするよ。リーファは」

 

彼女の周囲のガーディアンが、下半身を遺して全て爆散した。リーファが振り返ると、そこには彼女に自らの剣を差し出すレコンの姿。優しく微笑む彼に、リーファはため息をついた。

 

「囮役引き受けたあんたに言われたくないわ」

 

彼女は笑みを零し、その剣を受け取る。彼女達の役目は終わった。後は引き揚げるのみだ。

 

「……出来れば、あたしも行きたかったけどなぁ」

 

既に見えなくなったキリトの方を見つめながら、リーファはそう呟いた。しかしこの先は彼が決着を着けるべき場所だ。恐らく、自分達が容易に踏み込んでいい領域ではないのだろう。これまで頑張ってきた事を考えれば少々名残惜しいが、いつかきっと辿り着ける時が来ると、リーファ達は信じていた。

 

「大丈夫だよ、リーファ。僕達がいる」

 

そんな彼女に、レコンがサムズアップを送る。リーファは彼の笑顔に釣られる様に笑みを零す。

 

「そうね……なら、期待してるわ」

 

二人は笑い合い、目下に跋扈するガーディアンを斃しつつ撤退を開始した。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

キリトは進み続けた。止まる事無く、ただひたすら目の前に立ち塞がる障害を薙ぎ払い、そして突き穿った。その力は彼一人の物ではない。リュウ達が支え、サチ達が守り、リーファ達が押してくれたその背中。そこに宿った皆の想いが、キリトの翅を限界まで動かしていた。

 

否、限界は既に超えている。剣を振る腕も、攻撃を見切る感覚も。キリトを司る全てが、限界を超えて研ぎ澄まされていた。これが想い、皆から託された力。紡いだ絆を噛み締めながら、キリトは突き進んだ。

 

(……あの時のアイツも、こんな感じだったのかな)

 

思い出されるのは、SAO最終決戦。ヒースクリフ───茅場晶彦の圧倒的な力の前に倒れ伏し、さらにアスナとサチという大切なものを失って、完全に心が折れかけた時。リュウは決して諦めず、その脅威に立ち向かってみせた。

それは半ば諦めていた皆の心を突き動かし、リュウへの想いを一つにした。ボロボロになったリュウに託された思いは、彼に新たなる力を与えた。

 

その時キリトは初めて、想いの力の可能性を知った。心と心が重なれば、人の力は何十倍にも強くなる。それは決して思い込みや幻想などではなく、人間という存在特有の力。それが今自分に与えられている。自分を強くしてくれている。その実感が、キリトの胸の内に更なるエネルギーを生んだ。

 

(だったら、俺はその期待に最大限応えるのみ!)

 

するとキリトは、さらにスピードを上げた。加速度ごと上昇させたキリトの翔天は何者にも阻むことを許さず、そのスピードは音をも置き去りにする。追随はおろか近付く事さえままならない吶喊を、一体誰が止められるだろうか。

 

「ぅおおおおおおっ、らぁっ!!」

 

そんなキリトの目に、突如飛び込んで来る光。それは、彼が立ち塞がる全てを打ち倒し、そこに辿り着いたという証。

 

「やっと……来た」

 

彼の手は、間違いなく天蓋に触れていた。今漸く、キリトは待ち焦がれた世界樹の天辺へと到達したのだ。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

「キリトは!? どうなった!?」

「テツオ!」

 

同じ頃、ダンジョン下部。リュウ達は、驚異的な「眼」を持つテツオの最前線の観測報告を待っていた。

 

「……よし、抜けたぞ!キリトの目標到達を確認!」

 

「本当か!?」

 

「ああ、間違いない!あいつは天辺に辿り着いたぞ!」

 

テツオがその結果を皆に伝えた途端、ケイタをはじめ全員が大きくガッツポーズした。

 

「やった……やったぞ!」

 

『よっっしゃあぁぁぁ!!』

 

皆互いに健闘を称え合い、キリトのグランドクエスト達成を祝った。肩を組み、手を取り、そして笑い合った。ALO全種族の宿願は今、果たされたのだ。

全力を出し切り、やる事は全てやり切った。その上でこの最上の結果が齎されたのだ。これ以上の喜びは無いだろう。後はここから引き揚げて、キリトからの朗報を待つのみ。

 

だがそんな中、一人だけ神妙な表情をする者がいた。それは、あの場所にキリトとは違う因縁を持つ者。

 

「サクヤ、みんな。頼みがある」

 

リュウであった。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

───キリトは世界樹の頂点に到達した。そう、確かに到達したはずなのだ。

 

だがグランドクエスト達成を祝う、歓迎のファンファーレが鳴る気配はない。それどころか、周囲のガーディアンは消滅さえせず、未だにキリトに敵意を向けていた。

 

「成る程な。まさか本当にそうだとは」

 

だが彼は一切焦る事なく、一人ポツリと呟いた。

これだけ凶悪な難しさでも、100%突破出来ない訳ではない。現に彼はここまで来れた。その可能性は、運営も少しは考慮していた筈だ。

 

だからこそ、()()()()()()()()。こうすれば攻略は確実に不可能となる。万一誰かがここまで至ったとしても、この難しさでは精々数人程度。帰還したとして、誰も本当に到達したとは信じないだろう。まさかグランドクエストそのものが虚偽だとは思うまい。

 

「全く……本当に性格が悪い」

 

そう言って、キリトは懐からあるものを取り出した。それは、空から落ちてきたという無機質なカード。キリトはそのカードを、おもむろに天蓋に突き差した。

 

「ユイ、頼む」

 

「待ってました!」

 

キリトが呼ぶと、ヒョコッと彼の胸ポケットから、ピクシー状態のユイが姿を現した。彼女はすぐさまキリトの手中にあるカードに触れ、プログラムを展開する。

 

「ゲートオブジェクト解析……管理者権限を確認。続いて、カード内部の管理者コードと同期開始……」

 

「急いでくれよ……」

 

ユイが全力を尽くしている事は充分理解しているが、それでもキリトはそう思わずにはいられなかった。時折突き刺さる下方からの攻撃や、リーファとレコンが撤退ついでに放ってくれる牽制の魔法によってある程度軽減されてはいるが、それでも未だ襲い来るガーディアンを一人で捌き切るのには限界があった。

 

「あと少しです。頑張って下さい、パパ!」

 

「ああ……!」

 

ジリジリと滲み寄るガーディアンを前に、キリトは大きく深呼吸した。

 

_ _ _ _ _ _ _

 

 

「───準備はいいか、リュウ」

 

「おう」

 

再びダンジョン下部。サクヤ達シルフの魔法使いは、リュウの後ろに佇んでいた。それ以外の仲間は皆、彼らにガーディアンが近付かないよう牽制、もしくはMP供給に回っている。

 

彼の頼みとは即ち、「最大威力の風魔法による自身の加速力強化」。

奇しくもそれは、先程上でリーファがした事とほぼ同じコンセプトだった。

 

その案を聞いた時は全員正気を疑った。何故なら、普通は強大な加速力に反応が追いつかず、制御不能になるのが関の山だからだ。

だがこの男はそれさえ理解した上で言っているのだろう。ならば無理に止める事はあるまいと考えた結果、サクヤ達はその無茶苦茶な案に乗る事にしたのだ。

 

「では、行くぞ!!」

 

サクヤの掛声と同時に、彼女を中心に荒々しい暴風が巻き起こる。それは風魔法に長けた彼女でさえ、制御が利くギリギリの威力。

 

「来い!」

 

そんな巨大なエネルギーを背に、リュウはニヤリと笑う。その右脚には、これまた轟々と荒れ狂う真紅の炎。

 

「せーのっ……はぁぁぁっ!」

 

サクヤ達は一斉に、溜め込んだ風のエネルギーを解き放った。リュウはその力の流れに乗り、凄まじい速さで飛翔していく。

 

 

勿論、それを黙って見ているガーディアンではない。その道を塞ぐ様に陣を組み、いざ迎撃せんと上昇するリュウを待ち構える。

 

「フェニックスゥゥゥゥゥ……」

 

すると彼は、姿勢を百八十度反転させた。風に乗って加速しつつ、炎を纏った右脚を天に向けるリュウ。真っ直ぐに伸びたその脚は、立ち塞がるガーディアンの壁のド真ん中にいた個体を深々と貫いた。

 

「……ブラスタァァァァァァッ!!」

 

その瞬間、激しく燃え上がる炎。空を覆う様に果てしなく広がるそれは、まるで不死鳥がはためかせた大いなる翼。その翼は空間一杯に展開していたガーディアンを一瞬の内に呑み込み、一つ残らず塵灰に帰した。強大な風を受け羽ばたく火の鳥は、一直線に天へと昇ってゆく。

 

「うっそぉ……」

 

怒涛の勢いで何もかもを焼き尽くしていくリュウに、すれ違ったリーファ達はそう呟くしかなかった。

 

程なくして頂点付近、ここからは上位種の大型ガーディアンが出迎えに現れる。今度は勿体ぶらず、最初から量産状態という徹底ぶりで。

しかし、それすら関係ないとばかりに炎翼は容赦なく焼き払った。触れた者全てを燃やし尽くす紅蓮の劫火の前に、多少の能力強化など殆ど意味を成さなかったのだ。天空都市への通行を阻む最後の門番となる筈だった大型ガーディアンの大群は、全騎跡形も無く消滅していった。

 

「!? 何だ!?」

 

周りを囲んでいたガーディアンが突如消え去った事に、キリトは驚きを隠せなかった。だが彼が事実を理解するよりも早く、状況は急速に動き出した。

 

「パパ!ロック解除完了しました!直ちにワープを開始します!」

 

ユイが告げると同時に、手に持ったカードが輝きを放ち始める。その光はキリト達を包み込み、こことは違う異空間へ誘う門。徐々にワープしていく彼が、光に完全に覆われる瞬間……

 

ダァン!!

 

同時に、銃声のような音を立てリュウの足が天蓋に叩き付けられた。

 

「! リュウ!?」

 

再び驚くキリトの隣で、リュウは不敵に笑う。既にワープは起動した。彼の身体もキリトと同じく、異空間へと飛ばされていく。

 

『黒の剣士』キリトと『爆焔』リュウ。

嘗てSAOに終止符を打った二人は、この事件に最後の幕を降ろすべく今、ALOの最奥へと向かう。

 

 

To be continued…




戦闘描写頑張った(小並感)
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