なんかシリカ要素が薄い気がしますがシリカ回です。
どういう…ことだ…!?
アインクラッド第四十七層主街区《フローリア》にて、午前八時過ぎ。
「……あ」
「ま た お 前 か」
キリトはまたまたリュウに遭遇した。
(偶然もここまで来ると、流石に何かの意志が働いているのかと疑いたくなるな……)
リュウの方に至っては、最早辟易するのを隠す素振りすら無かった。どうしてこうなる、と二人は互いにため息をつく。
「今度は
「人付き合い云々は余計だ」
挨拶もない会話。もう慣れたと言わんばかりのやり取りである。
「てか、何でシリカがビーストテイマーだって分かった?今使い魔はいない筈だぞ」
キリトはリュウに、普通は分かる筈のない彼女の素性をどうして見破れたのかを尋ねた。そんな彼にリュウは肩を竦め、あっけらかんと答える。
「ちょっとした噂だよ。小さな茶髪の短剣使いが連れてる小さな青い竜、滅茶苦茶レアだとかで良くも悪くも有名らしい。そしてその噂にピタリと当てはまる女の子が、どこか寂しそうな目をしてこの層にいる。まぁ大体は察するさ」
「スゲーどころか逆にコエーよ」
シリカどころか自分の事情さえも読まれていた事に驚き、キリトは面食らった。一を聞いて十を知るとは言うが、これは十どころか五十くらいまで読み取っているのかもしれない。
「……ところでさ、
「あぁ、もう大分安定してきたから、一旦俺抜きでやらせてる。心配はない」
「そうか……」
それを聞いて、キリトは心底安堵した。あんな別れ方をしたのだ、こんな状況で今更どんな顔をして会えば良いのか、彼には皆目見当もつかなかった。
「……それより、おm「あの!!」うぉっ!?」
いつの間にか近くにいたビーストテイマーの少女に、リュウは不意を突かれた。
「もしかして、あの『爆焔』の人ですか!?」
有名なのは俺も同じか、とリュウは心の中で呟き、キリトの不服そうな顔はスルーして肯定した。エギル曰く、リュウは下層でよく見かけられ尚且つ誰とでも積極的に接するその人の良さから、他の攻略組が一線引かれる中彼だけは周囲から全く敬遠されないとの事。これがコミュニケーション力の差である。
「ところでさ、さっきから───」
その瞬間、リュウに電流が走った。使い魔を亡くしたシリカというビーストテイマー、そして彼女を連れているキリト。今彼らがいるのは四十七層。そして彼が感じているモノ。
それらを踏まえた結果、リュウはとある仮説に思い至ったのだ。
「ちょっとこいつ借りてくけど、いいか?」
「え?」
リュウはキリトの肩をガッチリ掴み、シリカに尋ねた。
「え、あ、はい、……え?」
少々混乱した様子だったものの、彼女は承諾(?)した。
「悪いな」
「えっ?ちょっ!? ちょっ!!?」
キリトには有無を言わせず、リュウは彼を引き摺っていく。キリトはそのまま、近くの路地裏へと連れて来られた。
「何すんだよ!?」
「お前も気付いてるんだろ?」
リュウは少々本気の形相でキリトを問い詰めた。それを見てキリトの表情も険しい物となる。
「……まさかお前も」
「お前とは別のトコからだが、おそらく終点は同じだ。昨日あの子を拾ったんだろ?どこでだ?」
「三十五層、《迷いの森》」
「ビンゴ。アルゴも奴らが昨晩三十五層からこの四十七層に入ったっつってた。御誂え向きに、その日奴らのリーダーがビーストテイマーを含むパーティと迷いの森に入った事もだ。……ところでお前、まさかだが」
リュウの仮説が正しければ、これは少々外道な方法である。キリトはその仮説を証明する様に、苦々しい表情でこくりと頷いた。
「…多分お前の想像通りだ」
「優しそうな顔して、案外やる事
「返す言葉も出ないな」
はは、とキリトは苦笑いした。しかし、彼は意味も無くそういった行動を取る人物ではない。現に、その目には全てを受け止めるという確かな覚悟が見え隠れしていた。
「終わったらちゃんと謝ってやれよ」
「…勿論だ」
彼らは互いに頷き合った。話を終えると、二人はシリカの元へ戻る。
「なぁ、お前ら《思い出の丘》に行くんだろ?俺も付いて行っていいか?」
シリカはキリトを見たが、彼は問題ないとジェスチャーを返した。
「ならお願いします!絶対にピナを復活させたいんです!」
「おう、んじゃ、よろしくな」
一瞬、リュウとキリトは気付かれないよう小さく
_ _ _ _ _ _ _
道中は予想以上に順調だった。
キリトも前会ったときより総合的に強くなっているし、シリカもパラメータは低いが戦闘センスはなかなかのものだ。使い魔を生き返らせるとだけあって気合も入っている。
初めは独特な姿の敵に四苦八苦していたものの、少しは慣れてきたようだ。二、三回程縛られ吊るされ失神しかけていたが。
何はともあれ、無事(?)に《思い出の丘》の頂上に到着。《プネウマの花》が生えているという白い岩に辿り着いた。
「え…」
だがそこで、真っ先に駆けていったシリカが驚きの声を上げた。
「は、花が…花がありません!」
「!? いやそんな筈は…」
「一旦落ち着けお前ら」
思っていた展開と違い、少々パニックになりかける二人を制する。
「よぉーく見てみな」
「あ…」
すると、岩の天辺から一つ白い芽が萌え始めていた。それはみるみるうちに成長し白銀に輝く花となる。
「わぁ…」
その神秘的な光景に目を奪われ、感嘆の声を漏らしたシリカに、キリトが手に取るよう促す。
シリカが手を伸ばすと、茎の部分が砕け、花だけが残った。
「これで…ピナが生き返るんですね…」
「ああ。心アイテムにその花に溜まった雫を振りかければいい。だがここは強いモンスターが多いから、街に戻ってからの方が良いだろうな。もうちょっと我慢して、急いで戻ろう」
「はい!」
こうして丘を下り、街道に続く橋を渡ろうとした時だった。俺がシリカを庇う体勢になり、キリトが前へ出る。
「そこで待ち伏せてる奴、出て来いよ」
キリトの声に応じる様に、橋の両脇に繁る木立から一人の女性が現れる。
「ろ、ロザリアさん!? なんでこんなところに……!?」
「あたしの
そしてシリカに視線を移し、皮肉の文句を並べていく。
「その様子だと、《プネウマの花》を首尾よくゲット出来たみたいね。おめでと、シリカちゃん」
「そしてお前は『早速その花を渡して頂戴』と言う」
「じゃ、早速その花を渡して頂戴。
─────!?」
目的が割れていれば次の台詞を先読みする事など造作もない。
ベラベラ話されても時間の無駄なので主導権はこちらに寄越してもらおう。
「お前だけが待っていたと思うなよ?こっちもあんたに用があるんだ。
「え…?でも…ロザリアさんは…グリーン…」
「オレンジギルドといっても、全員がオレンジでない場合も多いんだ。仲間の一人が街で獲物を見繕って、パーティに紛れ込み、待ち伏せをかける。あいつらの所もそういうタイプさ」
キリトの説明は的を射ていた。恐らく彼女もしくはもう一人いるであろうグリーンが、街に入れない他のメンバーの目となり動いていたのだろう。
「ところであんた、十日前に三十八層で《シルバーフラグス》ってギルドを襲ったな。メンバー四人が殺されて、リーダー一人生き残った」
「ああ、あの貧乏ギルドね」
「そいつは毎日朝から晩まで最前線のゲート入口で、泣きながら仇討ちしてくれる奴を探してたよ…」
キリトの声が殺気を帯びる。
完全にスイッチが入っているのは火を見るより明らかだ。
「でも彼はな……決してあんたを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと。───あんたにあいつの気持ちが解るか?」
「解んないわよ」
ロザリアはさらりと吐き捨てた。
キリトの眉間がピクリと動く。
「何よ、マジんなっちゃって。バカみたい。ここで人を殺したって、ホントに人が死ぬ証拠ないし。そんなんで、現実に戻った時罪になる訳ないわよ。だいたい戻れるかどうかも分かんないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む奴がね」
ロザリアの目が凶暴そうな光を帯びる。
その言動に、俺もこみ上げてくるものを感じた。自分も他人の事は言えない様だ。
「ま、『爆焔』がついて来たのは予想外だったけどさ、その子庇いながらじゃあ戦い辛いだろうし、あんたらでこの状況をどうにかできるとでも思ってんの?」
彼女が合図を出すと、同じ繁みから十人程プレイヤーが現れた。その内九人はオレンジカーソルだ。
「キリトさん!」
シリカが心配そうな表情を浮かべる。
まぁ普通なら無理もないが。
「心配ねーよ、シリカ」
「キリト………?その恰好、盾なしの片手剣…………《黒の剣士》!?」
シリカの言葉を聞いた賊の一人が、急に怯えた顔になる。
「ヤバいよロザリアさん、こいつも攻略組、しかもその中のトップクラスだ…」
「はぁ!? 何ですって!? ……ま、まぁ向こうのは手出ししてくる様子もないし、十人もいればたった一人倒せる筈よ!」
「そ、そうだ!たかが一人、十人で倒せない筈がねえ!」
その瞬間、賊が次々にキリトに襲いかかった。彼は反撃する素振りも無く、ただただ攻撃を受け続けていた。
「キリトさん…」
「大丈夫だって。信じてやんな」
そう言ったものの、キリトは全く避ける気配はない。
相手とは圧倒的パラメータ差があるのですぐ死ぬことはないだろうが、それにしても食らいすぎだ…などと思っていると、俺はあることに気付いた。
HPバーが減っては戻り減っては戻りを繰り返している。
それに向こうも気付いたらしく、攻撃を止め一旦下がった。
「
戦闘時回復スキルは、ごく僅かのHPで敵を一定数倒すとレベルアップする。
実戦で使える回復量にするには生死スレスレのスリルを味わわなくてはいけない。
「なんだよコイツ、化物かよ……」
「ああそうだ……ただ数字が大きいだけで、これだけの圧倒的な差がつくんだ!それがこのSAOの……MMOゲームの理不尽さというものなんだよ!!」
キリトに気圧され、賊たちは顔を引き攣らせる。
「転移───」
撤退しようとするロザリアに飛びかかり、俺は上から大型メイスを叩き付ける。
「がっ……!?」
ロザリアのHPバーは一瞬にしてレッドゾーンに達した。同時に、俺のカーソルもオレンジになる。
「痛ぇか?怖ぇか?生きてぇか?それがてめぇらが散々殺してきた奴らの、"命の叫び"だ。証拠がない?罪にならない?だったらてめぇはどうだ!? 本当に死ぬ証拠がねぇから怖くねぇのか!? 罪にならねぇからって俺を赦せるか、あぁ!? んな訳ゃねーよなぁ!!? てめぇらが殺した奴らのも、お前に宿ってんのも、全部同じ命なんだよ!! 同じ重さ、同じ尊さを持った、かけがえのない命なんだよ!!!」
「ヒッ…ヒイイィィィィ!!?」
ロザリアの表情が完全に恐怖で染まり切り、そして失神する。他の仲間達も、こちらの気迫に圧されて動けなくなっていた。
「……キリト」
「……ああ」
キリトが回廊結晶を取り出す。
「コリドー・オープン!」
掲げた石はキリトの言葉に呼応し、ここではないどこかへと繋がる光の門を作り出した。
「この回廊結晶は黒鉄宮の牢獄に繋がってる。一人ずつこれを通れ。さもなくば…と言いたい所だが、その必要はなさそうだな」
ロザリアを含め全員、怯えきって反抗する様子もない。
犯罪者ギルド《タイタンズハンド》はこの日、抜け殻のような状態となって逮捕された。
事が落ち着き、沈黙が流れる。
「───大丈夫なのか?」
キリトがその静寂を破る。どうやら俺のカーソルの事を気にしている様だ。
「まぁ、取り敢えず数日は野宿だな。野営セットは常備してるし、問題は
オレンジプレイヤーは街には入れない。
なので必然的に野営するしかないのだが、いや、そんな事より。
「大丈夫か?シリカ。すまんな、驚かせちまったか」
おもいっきり腰を抜かしているシリカを気遣う。
無理もない、彼女にとってはこの十分は驚きの連続だったのだから。
「は、はい……。大丈夫です、多分」
「そうか。なら後は任せたぜ、キリト」
邪魔者はさっさと退散するのみ。するとこの場を立ち去ろうとした時、背後からシリカの声が聞こえた。
「あの、リュウさん!ありがとうございました!」
どんな時でも感謝の言葉を忘れない心に感動した俺は、去り際にサムズアップを返した。そしてそのまま、迷宮区に続く道へと進む。
さて、これからどうするか。普通に野営するんじゃ面白くない。いっそここから最前線まで、縛り付きの徒歩で行ってみようか。
命があるだけでどんな事にもワクワク出来る。命があるだけで出来る事が広がっていく。
「生きてるってのは良いもんだ」
そう呟いて、俺はモンスターの群れに飛び込んだ。
To be continued…
いかがでしたでしょうか?
なお、本編のリズ回と圏内事件には介入しません。
だって付け入る隙がないんだもの…