紅蓮の皇   作:Skullheart

47 / 52
前回の投稿が……年明け前……?
嘘だ……僕を騙そうとしてる……


GunGale Online
Just like anglers


「不審死事件?」

 

手元のコーヒーカップを口へ運びながら、桐ヶ谷 和人は首を傾げた。

 

「そ。これまでに被害者は二人、どちらもアパートの一室で心不全で亡くなってる」

 

そう語るのは、総務省の旧SAO事件被害者救出対策本部であり、現通信ネットワーク内仮想空間管理課、通称『仮想課』に務める所謂高級官僚、菊岡 誠二郎。彼と和人はSAO事件収束の際からの付き合いであり、和人が早くに明日奈と再会を果たせたのは、規則をも無視した彼の尽力による所が大きい。

 

その恩返し───などという高尚なものではないが、いつも飄々としていて腹の底が見えないこの男に借りを作るのも癪なため、和人はその『協力者』として彼の仕事に手を貸す事がしばしばあった。

 

「そして極めつけに、二人ともアミュスフィアを───」

 

「勿体ぶらずに言えって。このご時世、長時間のダイブで栄養失調挙げ句の果てに心停止なんて、参った事だがよくある話だろ。『仮想課』のアンタが不審死事件として動くんだ、もっと何か───例えば、誰かが犯行声明でも出したとかでもない限り、アンタがこういう件に積極的に動く性格じゃないのはもう知ってる」

 

「……察しが良すぎる、というのも面白くないなぁ」

 

菊岡は、バツが悪そうに目の前のパフェを一口頬張る。

 

「君の言った通りだよ。正確には犯行声明というより、犯行()()()()と言った方が近いんだけどね」

 

()()()()?」

 

まるで意味不明なその状況は、和人の頭を一瞬困惑させた。犯行そのもの───つまりその犯人と思しき人物は、わざわざそれをアピールした、という事だ。

 

それでいて、ダイブ技術に関係する事。そうでもないと、この菊岡という男は和人を呼び出したりしないだろう。そこまで考えた時には、彼の中で一つの答えが出来上がりつつあった。

 

「仮想世界から、現実の人間を殺したって言うのか? そんなバカな、それじゃまるでSAOじゃないか」

 

和人からしてみれば、冗談であって欲しい話だった。あの悲劇がもう一度繰り返されるのは、彼ら帰還者にとって絶対に避けたい事だからだ。

 

だが菊岡は、それを打ち砕く様に首を横に振った。

 

「それの真偽はともかく、人が亡くなってるのは確かだ。《ガンゲイル・オンライン》というゲームを知ってるかい?」

 

「知ってるも何も、有名だろ。フルダイブゲームで唯一、『プロ』がいる所って」

 

「プロ?」

 

フルダイブ型が主流となったVR界隈で、あまり聞き慣れない言葉に菊岡は首を傾げる。

 

「文字通りさ。《ガンゲイル・オンライン》、略して《GGO》はゲーム内コインを現実で使える電子マネーに還元できるシステムを導入してる。普通にプレイする位なら小遣いの足し程度らしいだけど、たまに出てくるレアアイテムを売り払えば……」

 

ドッ、と手持ちが膨れ上がる様子に、菊岡はヒュウと口笛を鳴らす。

 

「一攫千金、何とも夢のある話だね。話を戻そう、その亡くなった二人のアカウント名は《ゼクシード》と《薄塩たらこ》。共に亡くなる瞬間とほぼ同時刻、あるプレイヤーに()()()()()()。その一部始終を目撃した人間によれば、そいつはこう名乗ったそうだ。『死銃』、『デス・ガン』と」

 

死銃(デス・ガン)』───冷酷で非情な銃口を思わせる名に、和人は身体が少しばかり戦くのを感じた。

 

「……単なる偶然か、不謹慎なデマじゃないのか?」

 

「勿論、その可能性は大いにあるよ。だがもしこれが『可能な犯罪』だった場合、僕ら国家はその芽をみすみす見逃した事になる。そんな事態は絶対避けなくてはならない。聡明な君なら、そこまで理解してるんじゃないか?」

 

ドヤ顔でご高説垂れる菊岡を、和人は鼻で笑う。

 

「そう話すのがアンタじゃなきゃ、喜んで協力してたさ」

 

「ヒドイな」

 

「自分でも胡散臭いとは思わないのか?」

 

「……それもそうだね」

 

和人の歯に衣着せぬ物言いに、菊岡は返す言葉も無かった。

 

「また話がズレた。それで君は、どう思う? あのナーヴギアの様に、アミュスフィアでダイブした人間を、その内側から殺す方法があると思うのかい?」

 

「無いね」

 

「即答か。その根拠は?」

 

一見人の良さそうな、しかし腹の底が見えない笑顔を崩さぬまま、菊岡は和人に問い返す。

 

「脳に異常があったならともかく、かなり特殊な改造でもしない限りアミュスフィアで心不全なんて起こせないよ。アンタの話を聞く限り、どんな改造で人を殺せるかが知りたい訳じゃないのは確かだ」

 

「ああ。アミュスフィア自体は何の変哲も無い、ありふれた代物だった」

 

「アミュスフィア本体の性能についても、リュウと一緒に分解した事があるから分かる。心臓はおろか、脳にすら危害を加えるのは不可能な出力だ。安全面は十分保証出来る。それに………」

 

「それに? 何だ?」

 

「根回しの良いアンタの事だ。どうせ専門家なりお偉いさん方なりに話を聞いたりして、もうそっちで粗方答えは出してるんだろ?」

 

「……よく理解(わか)ってるじゃないか」

 

「さっきの即答で眉一つ動かさないのは流石に、な」

 

和人は呆れ返り、深く溜息を吐いた。

 

「それで? 俺に何をしろと? まさかこんな茶番をさせるために呼び出した訳じゃないよな?」

 

「話が早いね。その《GGO》というのを運営しているのがアメリカのザスカーという企業らしいんだが、どうも所在地もメールアドレスも公開されてなくてね。件の《死銃》なる人物が誰なのか、調べられなくて困ってる状況なんだよ」

 

「おい。まさか俺に、その《死銃》とかいう奴に接触しろ、とか言うんじゃないだろうな?」

 

「察しが良くて助かるよ」

 

そう言って、菊岡はニヤリと性格の悪い笑みを浮かべる。

 

「おい冗談だろ? 仮想空間(virtual)の中から人を殺したかもしれない人間だぞ?」

 

「さっきそれは無理だって、否定したのは君じゃないか」

 

「う……」

 

痛い所を突かれ、和人は言葉に詰まる。只の高校生の推測などアテにしないで欲しいが、きっぱり断言した手前簡単に引き下がる訳にもいかなかった。

 

「初めからこうするつもりだったな?」

 

「さあ、どうだろうね?」

 

ニヤニヤと、まるで観衆をまんまと出し抜いた奇術師(マジシャン)の様に笑っている様はいつ見ても腹が立ってくる。

 

「てか、何で俺なんだ? こういう面倒事ならそれこそリュウの方が───って、しまった。アイツは今海外だったか」

 

間の悪い事に、現在巧磨は仕事の都合で今日本を離れている。なんでも今度は医療分野に手を出すとかで、その道の最先端と手を結びたいのだそうだ。

 

「そ。だから今、頼れるのが君しかいない状況なんだ。無茶を承知で、何とか頼めないかな? 勿論、報酬は弾むからさ」

 

報酬───その言葉に和人の耳がぴくりと動く。

 

「具体的には?」

 

すると菊岡は、得意気に笑みを浮かべ右手の指を三本、み立ててせた。

 

「これに0が五つ付く」

 

「……マジで?」

 

卑しくも、和人はそれに食い付いてしまった。それだけあれば、最新型の24コア級CPUでマシンを組み上げた上でお釣すら返ってくる。一貧乏学生の身としては、これだけ魅力的な誘いは他に類を見ない……のだが。

 

「GGO……GGOかぁ……」

 

和人は未だ、承諾を渋っている様子だった。その表情から躊躇う理由を察した菊岡は、からかう様にくすりと笑う。

 

「なんだ、銃は苦手なのかい?」

 

「飛び道具はどうも性に合わないんだよ」

 

「なのにALOでトッププレイヤーやれてる方が不思議だよ、僕は」

 

「悪いな、剣一筋なもんで」

 

菊岡の皮肉を軽く受け流し、余裕そうに笑みを浮かべる和人。別に飛び道具を不得手としている事に劣等感は感じていないし、それ以上に剣の腕に自信を持っている。ちょっとやそっとの挑発ではそうそう乗る気は無かった。

 

「……分かった分かった。もう五万、僕の懐から色を付けておくよ。これ以上は勘弁してくれ。ウチの主食がモヤシになる」

 

えらく簡単に折れる菊岡に、和人は呆気に取られた。

 

「なんだ、随分と気前が良いじゃないか」

 

「君だけが頼みの綱なんだ、必要経費と思っておくさ」

 

そう淡々と語りながら、珈琲を啜る菊岡。そんな彼を、和人は怪訝そうな顔で見つめていた。

 

「……やっぱアンタ、絶妙に何かを隠してるだろ?」

 

和人の射抜く様な視線に、菊岡はぴくりと眉を動かす。

 

「───どうして、そう思う?」

 

「半分は俺の直感だ。アンタから漂う雰囲気は、表と裏の二面性を持つ人間のソレに限りなく似てる。特にその、顔に張り付いた胡散臭い笑顔とかな」

 

「……もう半分は?」

 

「さっきアンタがドヤ顔でご高説垂れた『可能犯罪の芽摘み』、確かにアレは一理あるが、それでアンタが自腹切る必要は無い筈だ。そうまでして俺にこの仕事をさせたい……いや、させなきゃいけない理由って何だ?」

 

適当にはぐらかそうとする菊岡だったが、和人は再び鋭い視線で釘を刺す。

 

「総務省が予算を回してくるなら当然、俺の万一の安全確保はしてくれる筈。例えば、俺を監視下に置いてモニタリングするとかな。逆に言えば、俺の利用価値を品定めするには絶好のチャンスという訳だ」

 

「状況からはそうも取れるだろうね。けどそれは、あくまで推論の域を出ない」

 

菊岡は飽くまで冷静に、和人の追及を受け流そうとする。この化け狐相手では、ただ闇雲に突っ込んでも埒が明かないだろう。

 

「ああ、そうだ。俺が今言った事は証拠すら無い、推論とも呼べるか怪しい妄言でしかない。けどな、菊岡さん。これだけははっきりさせておきたい」

 

しかし、彼はそれを分かった上で敢えて踏み込んでいく。この男に対しては、一歩たりとも譲歩してはならない。決して自分は御しやすい駒ではないと、手綱を逆に掴み返してやるのだ。

 

「アンタ、一体何者なんだ? 何が目的で動いてる?」

 

喉元を突き刺す様な、鋭い言葉の刃。だが菊岡はそれに一切臆さず、不敵な笑みを浮かべている。

 

「仮に僕が腹に一物抱えてたとして……その質問に答えると思うかい?」

 

どっしりと構え、付け入る隙を与えないその風格からは彼の器の大きさが垣間見える。そんな妖怪を前にして、和人は───

 

「いや? 全く」

 

───おどける様に笑っていた。冷や汗どころか余裕すら見せるその豪胆さに、菊岡は目をぱちくりさせる。

 

「では何故、そんな事を聞く?」

 

すると一転、和人は再び厳しい表情で菊岡を睨んだ。

 

「……『脅し』さ」

 

「というと?」

 

きょとんとする菊岡に対し、和人は真剣そのものだった。無論、それは菊岡にも伝わっているだろう。少なくとも、単なる子どもの我が儘ではないと理解している筈だ。

 

「腹の底が見えない奴に、どうして自分の命を預けられる? そんな事が出来るのは、余程の馬鹿かお人好しか、だ」

 

飽くまで対等に、一人の大人として対話する。それが巧磨から教わった、彼の交渉の心得だ。

 

「……そうだな、その通りだ」

 

菊岡は、意外にも心苦しそうな様子を見せた。いつもの飄々とした態度で受け流されると思っていただけに、和人は拍子抜けした。だがそれは極めて一瞬であり、すぐにあの掴み所の無い胡散臭いにやけ顔に戻ってしまう。

 

「……アンタの目的が善意から来る物なら、俺は喜んで利用されてやるよ。だけど100%私利私欲だったなら、俺はアンタをぶん殴る。アンタが口を割らない以上、その行動から判断させてもらうがな」

 

菊岡の反応が引っ掛かった和人は、敢えて彼に挑発的な態度を取る。変に追及してガードを固められるより、ここは気付かなかったふりをしてじっくり探っていく方がベターと考えたからだ。

 

「成程? 僕が外道に走らないか、君が常に目を光らせている訳だ」

 

しかし、さっきの表情の変化が幻に思う程菊岡はポーカーフェイスを崩さなかった。最も、多少の揺さぶりで決壊する位の仮面であればとっくにボロは出ている筈なので、当然と言えば当然なのだが。自分の相対する人間の厄介さに、和人は心底辟易した。

 

「なら聞かせてくれ。現時点で、僕は君のお眼鏡にかなう人間なのかな?」

 

「……正直言って、『信用』は出来ない」

 

和人はゆっくりとそう告げた。人を試す様な物言い、気さくな様で掴み所の無い実体、寧ろこれで信用出来る方がどうかしている。和人の理性の全てが、この男に対し警戒信号を出していた。

 

だが───

 

「けどアンタは、自分の責任はしっかり果たす。そこだけは『信頼』出来る」

 

だが、さっきのあの表情。あれがもし演技でなく、彼の本心が滲み出たものだったとしたら───? それこそ飽くまで推測でしかないが、和人の本能はそれが緻密に計算された演技には感じられないと告げていた。

 

「じゃあ、今回の依頼は───」

 

「引き受けてやるよ。ここで恩を売っておいて、懐からじっくり化けの皮を剥いでやるのも悪くない」

 

「ハハハ、恐ろしいなぁ」

 

そう言って、悪戯っぽい笑みを見せる菊岡。それは、所詮子どもの戯れ言と和人を見下す余裕の現れか、はたまたここから先へは進ませぬという牽制の一手か。その眼は(あやかし)の様に、和人の瞳の奥を見つめていた。

 

 


 

 

時同じくして、ALOにて。現実では午前中だが、時間の進み方が違うこの世界では陽が傾き出したイグドラシルシティ。まるで巨大なカボチャをくりぬいた様な形と内装のカフェは、嘗て《月夜の黒猫団》と呼ばれた少年達の憩いの場となっていた。

 

現在アインクラッドの解放フロアは第十層まで。第十一層を拠点としていた彼らにとって、次のアップデートは何より待ち遠しい物である。

 

この日は、午後から和人と明日菜の三人で出かけるサチを除いた、男四人がここに集まっていた。だがその顔は、楽しみを共有する様な希望に満ちたソレではなく、どこか暗い、沈んだ雰囲気が場を支配していた。

 

「───あいつ、最近見ないよな。学校じゃ元気そうなのに」

 

新発売の炭酸飲料を啜りながら、ダッカーがそう呟く。

 

「やっぱりあいつの場合、事情が事情だしな。こっちだと少し気まずいって思うのも、仕方ない所ではあるんじゃないか?」

 

それを冷静に分析するテツオだったが、その表情は悔しそうな気持ちを孕んでいた。ササマルもそれに同調しつつ、やれやれと溜め息を吐く。

 

「正直引きずり過ぎだと思うんだけどなぁ……。現にキリトの方は、もう許してるんでしょ?」

 

「だとしても、ここで俺らがとやかく言える事じゃない。これは、あいつが自分でけじめをつけるべき問題だ」

 

断固とした口調でそう告げるケイタ。下手に首を突っ込むべきではないと、正論という釘を刺す。しかしその表情は、他の三人と同じく暗いままだった。

 

「分かってるさ。だからこそ、何もしてやれない事がやるせないんだよ」

 

ササマルも、テツオも、ダッカーも、勿論ケイタも必死に考えた。四六時中思考を凝らし、皆で集まって知恵を出し合い、他の学生仲間やクライン達大人組にも相談した。それでも辿り着く先は、いずれも同じ様な結論だった。

 

「全く不甲斐ないよ。友達の筈なのに、力になってあげられないなんて」

 

不用意に立ち入るべきじゃない。自身で解決しなければ意味が無い。そう自分に言い聞かせてきた。そうでもしないと、無力感に押し潰されそうになった。そんな苦しみでさえ、()のそれの足元にも及ばないと思うからこそ、こうして彼についての話が持ち上がるのだが。

 

「今頃何してんだろなぁ……。ヘンな所でストレス溜め込んでないといいけど」

 

浮かない顔のまま、ダッカーは再びぽつりと呟く。彼の視線の先では、窓から顔を覗かせる夕日に新生アインクラッドが丁度重なるという奇跡的な現象のせいか、道行く人が続々と空を見上げている。中には浮かれたカップルがそれらをバックにスクショしていたりと、彼らの雰囲気とはかけ離れた賑やかな夕暮れ。時が過ぎ去っていくのを眺めながら、彼らはただ、願う事しか出来ない自分を呪っていた。

 

 

To be continued…




会話パートは心理を描かないといけないから凄く苦手(描けるとは言ってない)。状況や雰囲気もそれっぽく書かないとだし、具体的なアクションを想像出来る戦闘シーンと比べて何倍も時間が掛かる……。
次こそは……(なるべく)早い投稿を……

「次 な ん て 無 い」ガシッ

えっ

「敗者に相応しいエンディングを見せてやる……!」
ハイパークリティカルスパーキン!!

うぎゃああああああああああ!!?
そそそそれでは次回をお楽しみにぃやぁぁぁぁ!!?
ティゥンティゥンティゥン……(消滅)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。