日本語は本当に難しい…
作戦が開始された。
風林火山は《軍》救出のためボスを素通りして部屋の奥に向かう。
リュウを含めた月夜の黒猫団は、ボスのヘイトを稼ぐため正面から向かって行く。
キリトとアスナはそれぞれ左右から回り、遊撃する。
各々が各々の役割を果たすため、動き出した。
「フレイム・インパクト!!」
早速リュウが景気良く一発叩き込む。
さらに畳み掛ける形で、サチが《スパイラル・シェイバー》を、ダッカーが《カマイタチ》を繰り出す。
そしてすぐさまスイッチし、ササマルが《バーチカル・スクエア》、ケイタが《ファランクス》で追撃する。
その後ろでは、後退したサチ達がボスの死角に素早く移動しつつ、ノールックでウィンドウを叩き武器を入れ替えていた。
一糸乱れぬ連携、手慣れたウィンドウ操作にキリトは舌を巻いた。
(ダイナミックで豪快な動き、なのに針の穴を通すみたいな精密なスイッチ。単なるヒット&アウェイじゃなく、フォローやディフェンスにも余念が無い)
彼らの成長を素直に称賛しつつも、違う感情が芽生えている事もキリトはまた、否定出来なかった。
(もし、もしもあの時、違う運命を辿っていたなら……)
あそこに自分も加わっていたかもしれない。だがそれは所詮たらればの幻想、今更嘆いた所でどうにかなるものではない。過去の未練に縋っても意味は無いのだ。キリトは纏わり付く邪念を振り払うため、ボスの背後に回り攻撃を放つ。
「ハァッ!!」
繰り出した《ソニックリープ》は、完璧なタイミングで発動したかに思えた。しかし、二歩目のステップの踏み込みがいつもより半歩浅かった。キリトのソードスキルは、自分の身体の動きをシステムの自動アシストに乗せた上で更に自分の操作を加え、威力・リーチを底上げとクリティカルの調整を行なうという繊細な技術。つまり少しでもずれが発生すれば、それは致命的なミスになるのだ。
「うぉあっ!?」
バランスを崩したキリトは一回転し、派手にすっ転んだ。最悪な事に、ソードスキルの途中で転倒したために硬直まで付与されてしまう。
大きく隙が出来た所に迫る、《The Gleameyes》の一撃。地面を這う彼から見れば、振り下ろされる断頭の刃。
まさに絶体絶命、キリトにそれを防ぐ手立てはない。当たり所が悪ければ、最悪の事態さえ考えられる。
だが、ボスの斬馬刀がキリトを切り裂く事は無かった。攻撃が誰かに
彼の前には、庇う様に立つ二人の背中。
「呆けてる場合じゃないぞ、キリト!」
「防御は俺たちに任せろ!そら、行ってこい!」
テツオとケイタ。あの頃はキリトに守られてばかりだった彼らが、今は彼を守って立っていた。そこに至るまで一体どれ程の研鑽を、努力を積んだのだろうか。
(そうだ……俺も昔は強くなる事に必死だった。みんなも同じだ。どれ程の手間がかかろうと、どれ程の危険が伴おうと、ガムシャラにただ前を目指して進み続けたんだ。そしてここまで来た。今ここにいるのは強さの証!だったら…)
「
キリトは体勢をすぐさま立て直し、ケイタ達と共に反撃に移った。
「薙ぎ払い、来るぞ!」
ボスのHPが五割を切った所で、足元狙いの範囲攻撃が来る。だが動作が少々大振りだった。多少反応が遅れても避けられるモーションである。
しかしボスの目的は別にあった。空中にいて動けない間に、その中のサチがロックオンされる。着地もままならない中、彼女にブレス攻撃が襲い掛かった。
「サチ!!」
しかし次の瞬間、またもや目を疑う出来事が起こる。
「【紫電】!!」
その言葉と同時に、サチの剣に光───否、稲妻が走った。するとサチは、その剣でブレスを
『………え?』
キリトとアスナは、まさしく開いた口が塞がらない状態だった。今の光景のあまりの衝撃に、まるで雷にでも打たれた様に立ち尽くしていた。
「サチ……まさかお前も……」
「うん、ユニークスキルだよ」
「デスヨネー」
あんな滅茶苦茶な真似を出来るのはユニークスキル以外に考えられない。既に一人がブッ壊れだというのに、サチまでその仲間入りする可能性が出てきたのだ、攻略組を束ねるキリトとアスナには頭が痛い話である。
そこにボスの叩き付け攻撃、キリト達は素早く散開してこれを躱す。その瞬間、がら空きになったボスの脇腹に何者かのソードスキルが炸裂した。
それは先程まで生存者の避難誘導を行なっていた《風林火山》のリーダー、クライン。
「旦那!撤退支援終わったぜ!」
「ご苦労」
そう言うと、リュウはメイスを地面に思い切り叩き付けた。
態勢は完全に立て直した。今から始めるのは注意を引くための「牽制」ではない。目の前の標的を叩き潰すための『戦闘』である。
「サチ!こっからは本気で行くぞ!」
「うん……!」
バヂィッ、とサチの身体に電流が走ったかと思うと、彼女は先程とは桁違いのスピードで飛び出した。
「サンダー・ストリーム!!」
一瞬で肉薄し、雷を纏った剣で見舞う強烈な一撃。流れる様な横一文字がボスの胴に刻み込まれる。
麻痺効果も加わって大きな隙が出来た所にすかさず、
「
リュウが叩きつけたメイスの衝撃波で追い打ちする。まさに読んで字の如く、大地を炎が迸る。
「ウウォォォォォォォ……!」
二つの大技に加え、麻痺・火傷も相まってかなりのダメージが入った。しかし二人の攻撃はまだ終わらない。電流の効果で強化された身体能力を使い、サチは高く跳び上がる。そしてボスの真上まで到達すると、槍を大きく振りかぶった。
「グローリー・ボルテックス!!」
そのまま投げ落とされた槍は、大きな雷光となってボスの脚部を貫く。足に大技を喰らったボスは跪き、キリト達に大きな隙を晒す事になった。
ここぞという時に訪れた最大のチャンス、一瞬さえ無駄に出来ない。そしてその『一瞬』の余裕をも、彼は与えてはくれなかった。
「ぉぉおおおおおおおおっ!!」
その瞬間を待っていた様に、その顔面の前にリュウは既に飛び込んでいた。肉薄する彼の右腕には、今までとは比べものにならない程に荒れ狂う炎。収束していくそれは、まるで
「ビッグバン…スマッシャアアァァァァ!!」
巨大な炎を纏った拳は、自分の身長の三倍はあろうかというボスをいとも容易く吹っ飛ばした。ボスの身体は壁に叩き付けられ、停止。そのHPバーは、間違いなく空になっていた。
「お、おおお………」
七十四層のボスがあっさりと倒された。あまりの急展開に拍子抜けし、呆然と立ち尽くすキリト達。喜ぶべきか驚くべきか、彼らはリアクションに困っていた。
「倒した……?倒したんだよな?」
恐る恐るクラインが尋ねる。リュウはそれに答えなかったが、クラインが何度確認してもボスのHPは零だった。
だがしかし。
「なぁ……この違和感は何なんだ?」
クラインは皆に問い掛けた。
ボスは確かに倒した。なのに、今までと『何か』が違う。それを感じているのはクラインだけではない。キリトやアスナ、そこにいる全員がどこか違和感を感じていた。
「LA通知と祝福メッセージ、ドロップアイテムの配布がされてない」
その答えを出したのは、他でもないリュウだった。そこから導かれる最悪の可能性を考えた皆は。ハッとしたようにボスが倒れた方を向いた。
倒されたはずのボスの身体は、一切ポリゴン化していなかった。まさか、とキリト達は戦慄した。そして最悪の可能性は、彼らを絶望へと叩き落とす様にその姿を現す。
あの青かった身体は次第に赤く変色し、空になっていたHPバー三本にあっという間に緑色の体力ゲージが充填されていく。
戦いの幕は、まだ下ろされていなかった。
「おいおい……このタイミングでボーナスステージとか言われても嬉しくねーぞ?」
リュウの願いも空しく、フロアボス《The Gleameyes》は無情にも立ち上がる。
戦闘再開を告げる咆哮が、再びボス部屋に響き渡った。
「くっそ……!全員、行けるな?」
「おう!」
「もちろん!」
こうして始まった第二ラウンド。一筋縄ではいかない事は、ここにいる全員が承知していた。
To be continued...
すまない…サチを中二病っぽくして本当にすまない…
UA1000達成やったー!!(°▽°)
これも全て読者様のお陰であります。
これからもよろしくお願い致しますm(_ _)m
次は5000だー!!ι(`ロ´)ノ
《追記》サチのユニークスキル名を変更しました。唐突且つ重大な変更、誠に申し訳ございません