「もうポーションがありません!短期決戦で行きましょう!
アスナさんとクラインさんはキリトの援護を!
俺とリュウとサチで彼らの対角から挟撃!
他は彼らの護衛だ!ボスの攻撃をなるべく防いでくれ!」
『了解!!』
初対面であるに関わらず、アスナたちがケイタたちの指示を承諾したのは、それが最善であると理解したからだ。
戦場において、司令塔の有無は無視できない違いを生む。極端に言うなら、子供の喧嘩とボクシングの違いといったところか。
アスナも頭は回る方だが、机の上でじっくりと練るタイプ。組み立てるのには時間を要するが、その分かなり高度な戦略を作り出す事が出来る。
しかしケイタは逆のタイプだった。状況を素早く、そして細かく判断できる彼は現場での"ズレ"を調整し、初めて目にすることも、外見・それに類似する
それが彼が手に入れた"強み"。この能力で言うなら、リュウはおろかヒースクリフにも引けは取らない。
しかし、強大な力というものはそれさえも容易く捻じ伏せてしまう。
「フッ!!」
「ハァッ!!」
「オラァッ!!」
《バーチカル・スクエア》、《スタースプラッシュ》、《
「クッソ固ェ!!」
あまりの防御力に、クラインが毒づく。先程の連携をもってしても、バーの変化は僅か五ミリに満たない。
「ダメージは与えられるけど、これじゃジリ貧よ…」
「くっ……」
内心、キリトは迷っていた。
自分だけに与えられた力を、今ここで使うべきか。使ってしまえば、今後更なる混乱が起きる可能性がある。そうならないために、彼は今までそれを隠して来た。
これを晒してしまえば、周囲からの目線は一変するだろう。アスナやクラインも例外ではないかもしれない。
しかし、この状況を打破するには最適な力なのだ。
「どうした?何を迷う必要がある?」
そんなキリトの全てを見透かした様に、リュウが優しく問いかける。
「お前が強くなった理由はちっぽけなプライドのためか?生き残るため、大切なものを守るためじゃないのか?」
「…!」
リュウの台詞に、キリトはハッとした。確かに大きな力を振るうためには、その力を恐れる事が必要である。しかし、それは諦めていい事への免罪符ではない。
「どれだけ評価気にしようが、死んじまったら元も子もねぇんだ。だったら形振り構ってられねぇよな?」
「…ああ!!」
彼の言葉で、キリトは漸く吹っ切れる事が出来た。どれだけ自分が傷付こうとも関係ない。自分が力を持ったのなら、それを誰かを守るために振るう。それがキリトの本懐なのだ。
「───アスナさん、クラインさん、退がっていて貰えますか?」
『…え?』
サチの言葉に固まるアスナ達。二人は、その言葉の意味を理解しかねていた。
当たり前だ。二人とも、いつ戦死してもおかしくない最前線で攻略組として戦ってきたのだ。その彼らが「退がれ」と言われても、はいそうですかと素直に頷ける訳はない。
しかし、その言葉が的を射ているのもまた事実だった。アスナもクラインも、一撃の威力よりスピードで翻弄し、手数で攻めるタイプである。それは今回のような重厚で強大な敵には相性が悪い。決定打が少ないため、どうしても長期戦にならざるを得ないのだ。
こちらからの攻撃は通りにくいが、向こうの攻撃は余波ダメージもある。このままではジリ貧になるのは確実だった。
こちらはすでにポーションを切らしている。二人ともHPはあと半分ほどだ。余波ダメージは勿論、万が一クリーンヒットすれば、軽装備である彼らはそれが致命傷となる。
それでもなお、アスナたちは食い下がった。
「あの強ぇの相手にお前ら三人だけでやるだと!? それを指咥えて見てろってのか!?」
「そうよ、いくら二人がユニークスキル持ちでも、三人は無茶よ!せめて援護にでも…」
「退がっとけって言っただろ。お前らは万に一つでも、ここで死んじゃあならねぇんだよ」
もし二人が死んでしまえば、その後の攻略活動に多大なる支障が出ることは想像に難くない。
だからこそ、リュウ達は二人に退避を指示したのだ。
その意図を理解したアスナ達は、仕方なく納得せざるを得なかった。
「……分かりました。但し、危ないと感じたらすぐにでも加勢します」
「おう。ま、そんな心配はいらんだろうけどな」
二人が離れたところまで下がるのを確認し、リュウがキリトに問う。
「さて、
「……ああ。だが、それにはヤツが攻撃しないことが前提になる」
「オーライ。抑えておく」
「助かる」
キリトと視線を躱し、リュウ達は前に出る。
「OK、じゃあサチ、行くぞ」
「うん」
そう言うと、二人は武器を地に突いた。
「【紅蓮】!!」
「【紫電】!!」
「「《スキルバースト》!!」」
二人が高らかに唱えた瞬間、彼らの身体にそれぞれ炎と電流が迸った。
「紅く燃え滾る
「雷鳴、大空に轟く。気高き女神、聖なる槍で裁きの光を下さん!!」
まるで呪文の様な台詞を詠み上げ、二人の力が激しい奔流を起こす。
「「《
そして、その力はやがて収束していき。
「現れろ!《アレス》!」
「降臨せよ!《アテナ》!」
二人の後ろに、それぞれ巨大な二体の魔神が現れた。
「!!!? ……はっ?……どういう…事だ……!?」
リュウの後ろには、炎の体を持った屈強な男性型が。
サチの後ろには、光の体を持った荘厳な女性型が。
それぞれ宿るように、彼らの背に佇んでいた。
「何なんだよアレ……?」
「どういう事なの……」
クラインとアスナもまるで意味が分からんぞという顔をしている。目の前の状況に、黒猫団を除くキリト達は誰もついていけなかった。
「………///」
「おいおい、そんな顔すんなって。いちいち口上言わにゃならん仕様にした運営が悪いんだ、お前は悪くねぇよ。それに結構サマになってたぜ、サチ」
「……ヒドイ……」
「そう悲観しなさんな。それに見合うだけの力がお前にはあるんだ。胸張ってりゃいいのさ」
「……うん。わかってる」
スイッチが切り替わったように、緊張感が駆け巡る。
それを先に破ったのはリュウだ。
「行くぜ、《アレス》!!」
拳を振りかぶり、一気に距離を詰める。
「うおあああああアアアア!!」
アレスと呼ばれた魔神の拳が、グリームアイズの顔面に直撃する。
するとどうだろう。キリトたちが束になっても雀の涙程しか減らなかったHPが、ググンと削られた。
しかもこれはただの通常攻撃。
スキル技を放てばどれ程のダメージが期待できるだろう。
続けて二撃、三撃と叩き込んでいく。
しかし流石にやられっぱなしという訳にもいかず、ボスも反撃を仕掛けて来る。
リュウはそれをバックステップで躱すと、その上からサチが攻撃。
「ハァァァッ!!」
神々しい光の槍。不用意な攻撃で硬直していたボスに、これまた大きなダメージが入る。
次、さらに次と攻撃し、みるみる内にHPが減っていく。
最後のバーに差し掛かった時、グリームアイズは大きな咆哮を上げた。恐らく特殊攻撃が来る。
「させない!!」
サチが槍を構えた。その矛先には、先程とは桁違いに収束した電気。
「テンペスト・ノヴァ!!」
《アテナ》の槍から振り下ろされた巨大な雷が、グリームアイズを貫く。モロに食らった衝撃が、ボスの攻撃がキャンセルさせた。
「これでラストだ」
ひるんだボスの真正面から繰り出す、リュウの渾身の一撃。
「
彗星の如き《アレス》の拳が、宣言通りHPバー残り四割まで削り取った。
「さぁ…出番だぜキリト!!」
巨人の間を縫うように、キリトが素早く飛び出した。そして、その手には
「スターバースト……ストリーム!!」
彼が呟くと同時に、目にも留まらぬ高速連撃が始まる。それは見る者全てを圧倒し、魅了さえしてしまう。その様を、ここにいるプレイヤー全員が息を呑んで見守っていた。
しかし、ボスもやられっぱなしという訳ではない。攻撃を受けながらも、回避動作の取れないキリトに対し大剣を打ち下ろそうとする。
だが空しくも、その両腕は完全に動きを止められた。リュウとサチが、下から支える形で攻撃を防いでくれているのだ。
「言ったろ?抑えとくって!」
「これじゃ"抑える"じゃなくて"支える"だけどね」
「こまけぇこたぁいいんだよ!!」
軽口を叩きつつも、しっかり役割を果たす二人。
それに応えるように、キリトの攻撃はどんどんHPを削っていく。
最後の一撃。最も威力の高いその一振りにキリトは全力を込め、放つ。
「ウグァァァァァァァァァ………!!」
一際大きい雄叫びを上げ、グリームアイズは倒れた。ガシャーン、とポリゴン破砕音が鳴り響く。
今度こそ、七十四層フロアボス《The Gleameyes》は倒された。
To be continued…