まだ心臓がうるさい。
私は、シリウス・ブラックのことを何も知らなかった。
知っていたつもりだった。
純血なこと。
弟がいること。
女の子に人気があること。
悪戯好きであるということ。
あんな顔をはじめてみた_いや。はじめてではない。
一年生の時、シリウスと最後に話したとき。
あいつはあんな顔をしていた。
たまに見せる、あの真剣な顔を見ると落ち着かない。
はやくリリーの風邪が治ってほしい。
こいつらといるのは落ち着かない。
…列車が止まったかと思うと、ホグワーツについたようだ。
「私、先に降りてるわ!」
ここから逃げたくて、私は呼び止める声も聞かないで走っておりた。
列車から降りると、シリウスと雰囲気が似た男の子にあった。
恐らく、弟だろう。スリザリンのネクタイをつけ、シリウスと同じような色の黒髪に、お坊っちゃまのような綺麗な顔立ち。
「あ…ああ。
どこかで見たことがあると思ったら、ミラー先輩。
はじめまして、シリウス・ブラックの弟…といえば、わかりますか?」
やっぱり。しかし、あちらから話しかけてくるとは意外だった。
「あ、うんっ、はじめまして!
シャーロット・ミラーです…レギュラスくん?だよね?」
確か名前はレギュラスだとかいっていた。なぜ知っているかというと、誰かがシリウス・ブラックの弟なんだよ、と力説していた。私はもちろん聞かないようにしていたが、グリフィンドールではなくスリザリンに入ったということで一時期みんな噂していた。
「そうです。突然ですが兄をたぶらかさないでください。
マグル生まれのあなたに恨みはないですが、兄を家系図から消したくはない」
はぁ?と声を出してしまった。
何こいつ。と思ったが、ここで騒いで罰則でも受けたら、と思うと震える。
レギュラス・ブラック。予想通りの純血主義者!
「レギュラス、お前なにやってんだよ」
「兄様」
グリフィンドールに入った兄を、嫌うかのようにシリウスを見たその子とシリウスの間に妙な緊張感が漂う。
シリウスがひとりでいることに驚いたが、後ろから賑やかな声が聞こえてくる。
特に話す様子もなく緊張したその空間にだれもが何も言えなかったが「では」と会釈をして立ち去るレギュラスの後ろ姿にシリウスはちっ、と舌打ちをする。
大丈夫か、と優しい目で見てくるシリウスには調子を狂わされそうになる。
「あなたの弟って全然似てないのね」
目を見開いて驚くシリウスの目には、ひどく傷ついている私の顔が映る。リリーがいればこんなことなんともないのに、と。マグルに好きで生まれたわけじゃない。本当は、セブのように魔法のことを幼い頃から知っていたかったし、リリーのように両親が理解がある家庭に生まれたかったし、もっといってしまえばポッターの家でもシリウスの家でもよかった。
久しぶりに帰ったあの家の中で私は異端だった。それはそうだ、魔法なんてありえない話で私だってそう思っていて。
羨ましい。マグル生まれを馬鹿にされるのはもう慣れてしまったし泣くことも少なくなった。だけど純血をひどく羨ましく思うときがある。自分が魔法使いであることが当たり前と思っていたこともとからあるどうしようもない魔法の差も。
「おい、シャーロット」
聞きたくなかった、一年生のときの私ならどういっただろうか、リリーなら。駄目だ、と直感的なもので悟る。
こちらを睨んでいるセブが見えて、私のことを軽蔑しているのだ、と思った。リリーに恋い焦がれる彼とは二人で話したことがあまりない。スリザリンとグリフィンドールという違いは私達を次第に遠ざけていく、だけど私は知っていた。彼は今もリリーを思い続けていることもスリザリンの中ではよく思われていないことも、穢れた血だと一緒になっていうこともあるのだと。
「あとでね」
そういって、シリウスたちと別れ久しぶりに会う友人たちとの再会を喜んだ。
__兄を家系図から消したくはない。
その言葉が、私の頭の中をぐるぐると回っている。ジェームズと楽しげに笑うシリウスが目にはいって複雑な気分になる。こんな余計なことを考えてしまうのも、リリーがいないからだ。
それからは、いつもどおりのように思えた。今年はハッフルパフが多いだとか、あの子が可愛いとか彼氏ができたとかそんな話をして寮に戻る。
リリーと部屋が同じだった、と思い出す。どうにも寝る気分にはなれないで部屋の鍵はあけなかった。
「__シャーロット」
「シリウス、奇遇ね」
もう夜になった外を見て、シリウスは綺麗なグレーの目を月の色に染めていた。
兄を、家系図から。言葉が、やっぱりどこかで引っかかる。
「なぁ、レギュラスと何話してた?」
「自己紹介と、あなたのお家のお話よ」
俺の家、と繰り返すシリウスの声を聞きながら時計を見ると消灯時間をすぎていた。見つかれば罰だけれどそれもたまにはいいだろう、リリーには怒られてしまうだろうけど。
「なぁ、シャーロットはスニベルス_セブルスのことはどう思ってる?」
「羨ましいわ、ずっと自分を持ち続けられるのも恵まれた魔法の才能も」
セブの冷たい目を思い出して、背筋が凍る。昔から彼は私のことをどうにも思ってないのだと思っていたしそれは今も変わらないけれどリリーがいないと本当に私に興味をなくすのだと思うと泣きそうになる。
私にとっては、大事な友人だったから。