-柊シノア視点-
一瞬だった。目の前にある光景が理解できなかった。
誰かが、優さんと妹さん…未来さんの間に割って入り、二人の体が何かの力で縛られたように見えた。
二人は藻掻いているように見えるけれど、全く動けていない。
白髪にマントを羽織った誰かが喋り出す。
「初めまして、日本帝鬼軍。私が第一位始祖、ロイドだ」
(第一位始祖…!?名前すら判明しなかった、貴族の最上位!?)
驚いて体が硬直してしまっていたのか、一瞬動きが遅れた。第一位始祖が、優さんの首に触れたかと思うと、胸倉を掴み、下に向けて放ったのだ。
「優さんっ!」「優ちゃんっ!」
斜めに落ちてきた優さんを受け止める。
諸共吹き飛ばされるかと思ったが、私ごと、優さんのご兄弟であろう吸血鬼が支えてくれた。
「ありがとう、ございます」
「…人間が、あの速度で落ちてくる優ちゃんを受け止めに来ると思ってなかった」
「…家族、ですから」
「…」
優さんを寝かせて、傷を診る。
暴走は止まったのか、いつも通りの姿だった。
追いついた君月さん、与一さん、みっちゃんにも私が傷を見ると伝える。彼等も、目の前にいるのがミカエラさんだと分かったのだろう、「俺達は周りを警戒しておく」と言って、彼との会話と優さんの診察を私に任せた。
が、目立った傷が無いどころか、全くの無傷だった。無傷なのは不思議ではあるが、天使化の副作用か何かだろうと自分を納得させて、安堵のため息を吐く。吐こうとした。
優さんの服の首元に、
「それ、は…」
反対側にしゃがんでいたミカエラさんも気付いたのか、紙を手に取る。
「こんなの、さっきまで無かった」
「はい、私も今さっきまで無かった、と…」
(今さっきまで無かった?ならばいつ?暴走してから、彼に触れたのは…!?)
「…ミカエラさん、中を、開いていただけますか」
「…君は、この中に名前があるか?」
「…!はい。」
宛名を確認されたのだとわかる。紙の端に、「百夜ミカエラ、柊シノア、早乙女与一、君月士方、三宮三葉へ」と見えた。
「…開くよ」
一つ息を吐いて、ミカエラさんが紙を開く。
中には、
全員へ
帝鬼軍も貴族共も君達を追うだろう。
私には双方から君達をかくまう用意がある。
取り敢えずは時間を稼いでおくのでここから逃げろ。
他に匿ってほしい人間がいるなら一緒に逃げていろ。
部下に迎えに行かせる。
百夜ミカエラへ
部下のクロウが君を匿うことを申し出た。
彼に迎えに行かせる。
クルルは死んだことにして匿ってみる。
と日本語で書いてあり、余白に走り書きで「少女の方は天使の力を早急に抜かねば死ぬ、処置してから迎えに行くとき一緒に連れて行く」と書かれていた。
「これ、第一位始祖から、ですよね」
「…君達は、帝鬼軍を、裏切れるの…?」
問いが聞こえたのか、警戒を続けてくれていた三人が答える。
「…それで、この隊の皆が死ななくてすむなら」
「同じく、あんな実験をする軍に居てはならんと思うしな」
「妹を実験に使った、それで理由は充分だ。…第一始祖が何処まで信用できるかは分からないが、今ここで俺が挑んで取り返そうとしても…多分無駄死にするだろうからな…」
吐き捨てるように言った君月さんの見る先では、暴走が収まったのか、穏やかな寝顔の未来さんが、第一位始祖に抱えられていた。
皆の声を聞いて覚悟を決める。
(腹は、括りましたよ)
「柊シノア隊は、これより日本帝鬼軍を離脱します!」
本番は第一位始祖の庇護下に入ってからだからね、多少の違和感は仕方ないね
見逃して下さい(土下座)