初めましてこんにちは、飼育員です。いやこれ、名前じゃなくてあだ名なんですけどね。いや部活仲間がフリーダムすぎて、いろいろ面倒みているうちに言われ始めたんですよ。本名は
ストップウォッチ片手に山道を見下ろす私。道というか獣道の方が正しい。最近始めた練習の一つ、山のふもとまで行って戻って来るだけ。これを三セット。只今サッカー部全員、三セット目を全力ダッシュ中です。
それにしても、登校と山登りがイコールになる学校って今どれだけあるんでしょうね。うちは登山っていうかジャングルツアーですが!
あ、そんなことを愚痴っている内に幼馴染が帰ってきました。
「一番乗りチタ!」
「お疲れ、ほいドリンク」
チタ。変な語尾って思うだろ? 中学生なんだぜ、こいつ……。ゴリとかコケとかカメもいるぞ! 個性が強すぎるサッカー部だけど、他の学校も似たようなもんです。なんだよマネージャーはメイド服着用って! そんなサッカー部に入るマネージャーいるの!?
ん? て思った人も多いでしょう。気づく人はもうわかってる。そう、ここはイナズマイレブンの世界なのです!
私がなんでイナズマイレブンの世界にいるのか、それは私にだってわからない。目を覚ましたら小学生だった時の衝撃といったら。転生ですかはははふざけんな。なんやかんやでここにいるのが当然になっていた。あれ、私生前は高専生のはずだったんだけどなー。高専の勉強楽しいよ? 生物応用化学科には推薦で入って……ってこれは今関係ないか。話がぶれるのも大体影山のせいにしておけばいいよね。絶対に許さねえ! ドン・サウザンド! え、人違い? そんなー。
テレビでサッカー見た時ドン引きしましたよ。サッカーって? ああ! な感じです。オゾンより上でも問題ない、それが超次元サッカー。
……よし、皆戻って来たね。おお、タイム上がってる人が増えてる。後でお菓子作ってあげよう。
「ア~アア~!」
遠くから声が響いてくる。顧問の先生からの連絡です。メール使えよは禁句。野生にだって文明の利器はちゃんとあります。皆動物のなりきりを楽しんじゃってるだけなんです。ええ。
「すぅ……わかりましたー! 皆ー! 対戦相手わかったよー!」
おそらく山のどこかにいるだろう先生に返事をする。一瞬で私に視線が集まった。
「どこコケ?」
「雷門だって。あの帝国に勝ったらしいよ?」
空中戦だけなら帝国より上とか評される野生ですけど、試合負けたんですよね。こっちはデスゾーンの準備で空に上げたボールを奪って攻撃にまわるしかなかった。シュートは全部パワーシールドに止められて、結局得点はとれませんでした。
向こうは空中戦に対しての特訓がしたかっただけっぽい。キラースライドとか見れなかったし、まだ悪役な感じマシマシな鬼道君が「いい調整になった」なんて言ったからね。
そもそも破壊されなかった原因として、あのバスが山道あらためジャングル道登ってこれなかったからな! いやー影山も含めた帝国の皆が徒歩で来たのはめっちゃびっくりした。あー写真に撮りたかったなー。
「らいもん……? あの伝説のイナズマイレブンの雷門チタ?」
「でも今までフットボールフロンティアに出場してないゴリ」
「そんな奴らに負けるはずないカメ」
勝って当然、みたいな空気が皆の間に漂う。私がいることで野生は何か変わったのか、と質問されたら否と答えるだろう。アニメでしかイナズマイレブンは知らない。ゲームだけの選手とか練習とか必殺技とか本当に何にも知らないんだ。知識チートは無理。エイリア編、世界編とインフレは続く。勝てるはずがない。私達はただ、初期の敵として忘れられるだけだ。
私だけが知っている、この世界のストーリー。雷門はイナズマ落としを試合中に完成させ、野生を打ち破る。ただそれだけ。
顔に現れていたか、心配そうに覗き込む馳威太。
「……飼育員、大丈夫チタ?」
「あ、うん。皆、無名だからって油断しないようにね」
おう、と返事をする皆。……うー、笑顔がつらい。この暗い気持ちをどっかへやるには、とりあえず練習だー!
たぶん続かない。