この素晴らしい世界に両津勘吉を!   作:ダイアジン粒剤5

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第2話

 おれ、佐藤和真は久しぶりに冒険者者組合へと歩を進めていた。

 別に依頼を向けるためではない。

 おれはすでに一生働かなくても良い程の金を手に入れている。である以上、危険な依頼を受けて命懸けのクエストに出る必要など全くない。

 あとは一生働かず、家で酒を飲みながら自覚警備に専念するのが正しい人の生き方だと確信している。

 そんなおれが珍しく外に出て冒険者組合へと向かっているのは、ただ単に友人の冒険者たちと一緒に昼間から酒を飲みたくなったからだった。

 一緒に暮らしている仲間にも飲みに行かないかと誘ったのだが、全員に断られた。

 アクアは今日は一日ソファーから動きたくないと言って酒瓶を片手に断り、ダクネスは領主としての仕事があって忙しいからと断られた。

 ならばめぐみんはどうかと誘ったのだが、ゆんゆんが心配だから探しに行くといって断られた。

 めぐみんとゆんゆんは同郷の友人同士なのだが、なんでもそのゆんゆんが最近妙な中年男と付き合いだし、行動がおかしくなったらしい。

 直接見たわけではなく聞いた話だが、その中年男と一緒になって酔い潰れ、ゴミ捨て場で酒瓶を抱えて寝ている姿が何度も目撃されているらしい。

 ゆんゆんはぼっち気質で危なっかしいところが多々あるが、割と芯はしっかりした子である。

 正直そんな醜態を晒しているとは思えないのだが、めぐみんは心配だから様子を見てくると言って出ていった。

 普段はゆんゆんのことを色々と邪険に扱っているめぐみんなのだが、いざとなるとやはり心配らしい。

 なんだかんで仲間思い、友人思いの奴なのだ。

 

 「ーーーーっと、そんなこと考えてる間についたな。でもなんだ?随分と中が騒がしいような?」

 

 むろん冒険者組合は騒がしいことが多いのだが、外に声が漏れるほどの騒ぎとなるとそうそうない。

 例外としては、誰かが大儲けして他の冒険者に酒を奢っている場合とかである。

 「これはタダ酒が飲めるチャンスかもな。こんな時に居合わせるなんて、これも俺の日ごろの行いがいいからに違いないな!」

 金が余っていても、奢られて飲むタダ酒は旨いのだ。

 なのでご相伴に預かるべくおれが冒険者組合の扉を開けるとーーーーーーー

 

 

 

 

 「よーし!これから金貨を撒くぞー!!それゆんゆんにバニル!お前らも撒けーーー!!!」

 

 眉毛の繋がったゴツイ角刈りのオッサンがテーブルの上に乗って袋から金貨を撒いており。

 

 「はい、撒きまーす!ソーレ皆さん、金貨ですよー!それ、拾えー!!」

 

 顔を真っ赤にして完全に出来上がったゆんゆんもそれに倣って楽しそうに金貨を冒険者たちに放り。

 

 「フハハハハハ!吾輩の好む悪感情とは違うが、この強欲の悪感情もこれはこれで美味であーる!それ冒険者どもよ、他を押しのけ強欲に金貨を拾うがよい!」

 

 元魔王軍幹部であり現在は売れない魔法道具店で働く大悪魔のバニルまでが何故か二人と一緒に金を撒いていた。

 

 

 

 

 

 「なにこれ、どうなってんだ???」

 

 冒険者組合の中は、ちょっとしたお祭り騒ぎのようになっていた。

 冒険者たちは争うように金貨に群がり、怒鳴り合いながら金貨を奪い合っている。全員顔が真っ赤であり、店のそこら中に酒樽や料理の残骸が転がっている様子を見るに全員が相当酔っている。

 そして、冒険者たちのそんな醜態を煽るかのように黄色い声援を挙げているのが、お馴染みのサキュバスサービスのお姉さま方だ。

 こちらも相当酒に酔っているようで顔や体が上気して赤くなっており、正直とても色っぽい。

 今夜はこういう感じの夢で発散するのもいいかもしれない。

 

 「いやいやいや、そうじゃない、そうじゃない。落ち着けー、俺!とりあえず、なんでこんなことになってんのか聞かねーと!」

 

 というわけで、近くにいた馴染みのお姉さんに声を掛けて聞いてみる。

 

 「あの、ちょっといいですかね・・・・・・・」

 

 「はい?あ、常連さんじゃないですか!常連さんも、リョーさんに奢られに来たんですか?」

 

 すっかりお馴染みになっているので、お姉さんも機嫌よく対応してくれる。

 

 「リョーさん?」

 

 「はい、あそこでバニル様と一緒になって金貨を撒いていらっしゃる御方です」

 

 見ると、そのリョーさんは冒険者たちにテーブルを神輿の様に担がせ、その上でバニルやゆんゆんと一緒に踊っていた。

 そんなバニルの姿に、サキュバスのお姉さん方が黄色い声を挙げながら興奮している。

 地獄の大侯爵であるバニルは、低級悪魔であるサキュバスにとっては雲の上のアイドルのようなものらしいので、ライブのようなものなのだろう。

 だが、あのバニルの態度はちょっとおかしかった。

 基本ハイテンションで芝居がかった奴ではあるのだが、ああいった様子で騒ぐのは、ちょっと違う気がするのだ。

 

 「・・・・・バニルって、あんな風に騒ぐタイプだったっけ?なんかイメージと違うんだけど」

 

 悪魔のご飯は人の悪感情であり、バニルもそれを得るためなら色々とハッチャけた行動をする奴なのだが、今回はそれ目的とも思えない。

 基本、自分の欲求のため以外には動かないタイプの筈なのだが・・・・・・・・・。

 

 「ああ、それはリョーさんがいるからですね」

 

 そんな俺の疑問に気が付いたのか、お姉さんは上機嫌で教えてくれる。

 

 「リョーさんは私たち悪魔にとっては伝説の英雄のような方で、バニル様といえども敬意を持って接するのです。私たちもお目にかかるのは初めてで、サインも貰ったんですよ!」

 

 そう言ってお姉さんは日本語で書かれたサインを嬉しそうに見せてきた。

 あんなオッサンのサインに価値があるのか疑問だが、悪魔の間では伝説の英雄扱いらしいので、かなり大事にしているようだった。

 

 「なあ、伝説の英雄って、あのオッサン何を・・・・・・・・」

 

 

 「あーーーーー!!!カズマさんじゃないですかーー!!!!」

 

 

 お姉さんに話を聞こうとした直前、ゆんゆんの声がそれを遮った。

 

 「お久しぶりです、カズマさん!ほら、こっちですよ、こっち!リョーさーん!この人が、この前話した私の親友の彼氏のカズマさんですよー!」

 

 角刈りのオッサンと同じように神輿のように担がれたテーブルの上で踊っていたゆんゆんが、こっちを指さしながら大声で呼びかけてくる。

 なんというか、酔ってるにしても余りにも普段と様子が違う。

 引っ込み思案でぼっち気質なゆんゆんにあるまじき行動の数々に、正直別人なんじゃないかと疑うほどだ。

 

 「ほう、お前がサトウカズマか!」

 

 そして、ゆんゆんの声を聴いたオッサンがその見た目からは想像もできない身軽さでテーブルから飛び降り、こっちに向かって歩いてくる。

 低身長にも関わらずその姿には妙な威圧感があり思わず引いてしまうが、オッサンはそんなおれの様子に気を悪くした様子もなく、岩石の様にゴツイ顔に笑みを浮かべて気さくに話しかけてきた。

 

 「わしの名は両津勘吉。お前と同じく日本から転生してきた日本人だ。同じ日本人同士、仲良くしようぜ」

 

 

 

 

 「それでですね、俺はそのアイリスって娘と仲良く遊んでただけだってのに、そのクレアって奴が無理やり引き離したんですよ。酷いと思いませんか、両さん」

 

 「そいつは酷いな、ガキってのは好きに遊ぶのが一番だ。そのクレアって女は頭が固すぎるんだ」

 

 「でしょー!さすが両さん、話が分かるゥ!」

 

 俺と両さんは、あっという間に意気投合して十年来の親友のようになっていた。

 最初こそ両さんの見た目にビビッていた俺だったが、話してみると両さんは顔に似合わず聞き上手の話し上手で話題も豊富、一緒にいるとそれだけで楽しくなってくるような人だった。

 

 「リョーさん、グラスが空いちゃてますよ!私が注いであげますねー!」

 

 「おっ、すまんなゆんゆん」

 

 ゆんゆんとは、両さんがこの世界に転移した直後に出会ったらしい。

 それが縁で何度か協力してクエストをこなし、今では相棒のような関係になっているらしい。

 ゆんゆんのぼっち気質が著しく改善したように見えるのも、このコミュ力の怪物のような両さんと一緒に行動してきたおかげだろう。

 さすがは両さんである。

 

 「しかし両さん、リョウさんかー。思い出すなー」

 

 「ん?何をだ?」

 

 ゆんゆんの注いだ酒をグビグビと一気飲みしながら聞いてくる両さん。

 

 「いえですね、俺、実は向こうの世界ではネトゲでランカーでして。そのゲームに、リョーっていう伝説的なプレイヤーがいまして、その人が両さんとそっくりなんですよ」

 

 日本では家に引きこもってネトゲばかりしていた俺だが、そのゲームにはリョーと言うハンドルネームの伝説的なプレイヤーが居たのだ。

 曰くゲーム内随一の資産を持つ。

 曰く独裁者となりゲーム内の都市ひとつを壊滅に追い込んだ。

 曰く他のゲーム世界そのものを破壊しつくしサービス停止に追い込んだ。

 様々な伝説を持つそのプレイヤーはランカーだった俺にとっても憧れの存在だった。

 そしてそのリョーと絡んだことが一時だけあったのだが、その時のリョーの態度が今の両さんとそっくりなのだ。

 

 「その人とは割と仲良くしてたんですけど、良い人でしたねー。リアルで会ったことはないですけど、会えば両さんみたいな人だったかもしれないですね」

 

 「・・・・・そのゲームって、ひょっとして×××××か?」

 

 俺の話を聞いた両さんは、軽く頭を捻るとそう聞いてきた。

 

 「えっ、なんで分かるんですか!?ひょっとして、両さんもやってました?!」

 

 「やってたも何も、わしがそのリョーだよ。ってことはお前、ひょっとして『レア運ニートのカズマ』か?」

 

 俺は、思わず椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。

 

 「な、なんでその二つ名を・・・・・?!いや、え!?まさか、本当に、リョー?!リョーさんなんですか!!そんな、こんなところで仲間に会えるなんて!!」

 

 「そりゃあこっちのセリフだ、カズマ!お前こんなに若かったのか、てっきりもっと年上かと思っとったのに!」

 

 俺と両さんは、思わぬ再開に喜び抱き合った。

 両さんと成し遂げた冒険の数々が走馬灯のように浮かび上がってくる。

 火山に住む伝説の竜を共に討伐した。

 神話に語られる武器を手に入れるために古代の遺跡に潜った。

 世界を滅ぼすとする邪神を倒し、ギルド対抗戦では様々な手助けをしてくれた。

 両さんは、俺にとって歴戦の戦友に等しかった。

 

 「えーと、良くわからないんですけど、リョーさんとカズマさんは知り合いなんですか?」

 

 状況をよく理解できていないゆんゆんが、首をかしげながら聞いてくる。

 

 「ああそうだ、俺にとって両さんは戦友のような人なんだ。まさかこの世界で、向こうの世界の友人に会えるなんて思ってもみなかったよ」

 

 思わず涙ぐみながらそう言うと、両さんも涙を流しながら言った。

 

 「わしもだ。まさか向こうの世界の知り合いに会えるとは思っていなかったぞ。-----よし決めた!カズマ、お前をそのアイリスって娘に会わせてやる!」

 

 拳を突き上げ宣言する両さん。

 その気持ちはとても嬉しいのだが、しかしそれは不可能なのだ。

 

 「両さん、その気持ちは嬉しいんですけど、さっきも言った通りそれは不可能なんですよ。俺、王都への入城を禁止されてて、近づいただけでも逮捕されちゃいますよ」

 

 俺の言葉を聞いた両さんは、ニカッと豪快に笑うと、俺の背を叩きながら言った。

 

 「男がやる前から諦めてどうする。なに、わしに任せておけ。わしを誰だと思っとる、わしは不可能を可能とする男、両津勘吉様だぞ!」

 

 

 

 

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