「は?両さんを倒す?何言ってんのお前ら?あんな素晴らしい人を倒すなんて、そんな馬鹿な事を俺がするわけがないだろうが。そんな馬鹿なこと言ってないで、お前らもここで一緒に遊んで暮らそうぜ?日本から大量にゲームやマンガを召喚することに成功したんだ、これで一生退屈しないぜ!」
「チョーその通りですよ、お頭様。リョーさんはマジで素晴らしい方です、あんなに良い人を倒すだなんてヤバくないですか?そんなヤバいこと言ってないで、皆さんもこの部屋で暮らしましょう。凄いのですよ、この一つの部屋の中だけで全てが完結していて、ここから出る必要がないのです!」
私たちは現在、王城として王都に屹立する巨大ビル(という名称らしいとアクアに聞いた)の最上階にある、カズマとアイリスの二人が暮らす部屋の中にいた。
このビルという建物は何層もの
そしてこの部屋の中には、ありとあらゆるものが雑多に置かれていた。
まず目につくのは、部屋の中央にデカデカと置かれた映像を映し出す巨大な箱だ。
その箱の中では現在二人の人間が争っており、カズマとアイリスの手元にあるコントローラーの指示通りに動いている。
これほど巨大なものは初めて見たが、おそらくはこれもカズマが紅魔の里の遺跡から見つけてきたゲームというものの一種なのだろう。
「ねえカズマさん、ワ〇ピースの最新刊があるんですけど、これも日本から召喚したの?この世界に連れてこられたせいで見れなくなって困ってたんですけど、見せてもらっていい?」
「いいぞー、でもそれ最新刊じゃなくて2巻前だぞ?」
「ええ?!そんなに出てたの?!」
「安心しろ、そっちもちゃんと召喚してるから。ちなみにハ〇ター×ハン〇ーもあるぞ」
マジですか!と言いながら、アクアは絵だけで構成された本を手にソファーに寝転んでしまった。
クリスが何とかソファーから起きるよう説得しているが、ああなったアクアをソファーから起こすのはほぼ不可能である。
「ア、アイリス様!目を御覚まし下さい!城下が今、どのようなことになっているか御存じなのですか?!」
ダグネスが王を諫める忠臣のようなことを言い出した。
普段の態度がアレなので忘れることが多いが、これでも国王の懐刀とも呼ばれるダスティネス家の現当主。王家の者が堕落していれば諫言するのも当然だろう。
「あ、ララティーナじゃないですか。どうです、一緒にゲームをしませんか?次はカートで競うゲームをやりたかったのです」
「アイリスさま!?」
しかし
「アイリス様、城下はいま、大変なことに・・・・・・・!」
「城下のことなら知ってますよ?リューさんの手腕で城下も富み、笑顔が絶えないとか。我が国をここまで良くしてくれるとは、さすがはリョーさんですね!」
「うぐぅっ!」
アイリスの曇りなき笑顔と声に、ダグネスが轟沈する。
実際、そうなのだ。
あのリョーツ総統とかいう中年男のとった政策により、このベルゼルグ王国はかつてない繁栄を遂げていた。
軍は強いが経済的には貧しかったベルゼルグ王国はリョーツ総統の手により、経済的にも軍事的にも強い大国となった。
そのため総統に反感を持つ者も、表立っては逆らうことが出来ないのだ。
「い、いやしかし!アイリス様、悪魔ですよ、悪魔!悪魔が町中を平然と歩きまわっているのです!これを放置していて良いわけがありません!!」
「大丈夫だよ」
再起したダグネスの言葉を、今度はカズマが遮る。
「この町にいる悪魔たちはみんな両さんと契約していて、人間には危害をくわえないことになっているんだ。それどころか危険なモンスターの駆除なんかもやってくれてて、とても役にたってるんだぞ」
「し、しかし、悪魔は・・・・・・・・!」
「確かエリス教では悪魔は絶対悪で、見つけたら即退治する必要があるんだったか?でも考えてみてくれ、ダグネス。いま悪魔たちは人々に危害を加えていないし、それどころかむしろ治安維持に貢献しているんだぞ?人々に害をなさず、むしろ人々のために行動している存在を退治するのは、はたして本当に正しいことなのか?」
「だ、だが、悪魔は人間の悪感情が主食で、いくら現在人々の役に立っているからといって、基本的には人類の敵で・・・・・・・・・」
「たしかに悪魔の主食は人の悪感情だ。嫌だな、という感情や絶望なんかを食べて生きてる。だがそんな悪感情は悪魔が何かしなくても大勢の人間が暮らしていれば、人間同士で普通に発生するもんなんだ。この町で暮らしている悪魔たちは、そういう人間同士の間で自然発生する悪感情を食べて生活してる。分かるか?人間が増え、繁栄し、巨大な都市が生まれれば、悪魔は何もしなくても質量ともに上質な悪感情を食べることが出来るんだ。つまり、悪魔にとって人類の繁栄は自分たちの繁栄にも繋がり、本質的に悪魔は人間の発展に手を貸した方が利益になるんだ。お前が心配しているように悪魔が人類に敵対するなんてことは無いと思うぞ?」
「う、ううう・・・・・・」
ダグネスがカズマにやり込められ涙目になって俯いてしまった。
こういう時のカズマの屁理屈は一級品、正論で攻めても適当にはぐらかされて終わりだろう。
ここは、攻め方を変えるべきだ。
「カズマ、カズマ」
「なんだよ、めぐみん。お前も俺に両さん戦えなんて言うのか?」
「ええ、その通りですよカズマ。それにアイリスも、よく聞いてください。いいですか、あのリョーツとかいう総統は、とんでもない悪徳貴族なのですよ」
正確には貴族ではないのだが、そこは言葉の綾という奴である。
私はマントを靡かせ、ゆんゆんから聞き出した話を二人に伝えた。
「まず、あのリョーツとかいう総統は国庫金を大量に横領しています」
私の言葉に、アイリスが目を大きく見開いた。
「いいえ、それどころか国家予算を自分の好きなように使っており、完全にこのベルゼルグ王国を私物化しています。毎日のように祭りと称して大規模な宴を開き、酒と享楽に溺れているのです。それだけではありません、町を見てください。確かに繁栄していますが、町のそこかしこに総統の黄金像が建っているでしょう?あれは全て税金から建てられています。自分の虚栄心を満たすためだけに、あんな物を大量に建てているのです。そんな男をそのままにしていて良いと思いますか?いいえ、良いはずがありません!さあ、私たちと共に、あの男を倒すために立ち上がるのです!!」
私の言葉を聞いたアイリスは大いに動揺したらしく、不安そうな顔でカズマの服の裾を引っ張りながら言った。
「あ、あの、お兄さま?今の話は、本当なのでしょうか?リョーさんは本当に、そのようなことを?もしそうなら、その、私は王女として、それを止めなくては・・・・・・・・!」
こうなればアイリスは喜んで総統討伐に参加してくれるだろう。
そしてアイリスが参加すれば、カズマも否応なく参加するはずだ。なにしろこの男ときたらアイリスにはとことん甘いのだから。
その辺について私個人としては聞き出したいことが多々あるのだが、今回ばかりは利用させてもらうつもりだ。
「・・・・・・・・・・・」
だが、カズマの反応が妙に悪い気がする。
普段ならそろそろいつもの口癖を言いながら起き上がり助けようと動き出してくれる気がするのだが・・・・・・・・。
「・・・・・・・カズマ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・プイッ」
「なっ!?」
「お兄様!?」
顔を逸らしやがりましたよこの男!
「何故顔を逸らすのですか、カズマ!私の話をちゃんと聞いていたんですか、貴方は!!」
「お兄様!いくらリョーさんでも、私は王女として不正を見逃すことは出来ませんよ!?」
カズマは私を無視してアイリスに向き直り、その肩を掴むと目をジッと覗き込みながら語りかけた。
「お、お兄様?」
「なあアイリス、俺の目を見ながらよーく考えてみてくれ。両さんがやってることは、本当に悪いことなのか?いや、仮に悪いことだとしても、それは本当にやめさせなきゃいけないことなのか?」
「な、なにを言っているのですか!不正も国家の私物化もやってはならず、仮に見つけたのならやめさせなければならない悪いことです!」
「確かにその通りだ。だが、世の中はそう単純でもないんだよ、アイリス。不正を全て駆逐するのは不可能だし、仮にその不可能を無理やり実行に移そうとすれば国家そのものを破綻させてしまうなんて本末転倒な事にになることもあるんだ」
「そんなはずは・・・・・・・・」
「あるんだよ、アイリス。実際アイリスのお父さんは不正を全て無くそうとはしてはいないだろう?俺は会ったこと無いけど、話を聞く限りではアイリスのお父さんらしく、国家と国民を愛するとても立派で素晴らしい人らしいな。そんな人でも不正を一つも許さず無くそうとはしていないだろう?それは、不正を全て排除しようとするのは逆に国家と国民のためにならないからなんだ」
「し、しかし、あのアルダープなど、不正を糾弾され、倒された者もちゃんといます!」
「あれは、その不正が国家や国民に無視できない危害を加えるようになったからだよ。国家と国民の安定が為政者の最大の目的である以上、それを犯すものは排除しなくちゃいけない。でも、両さんのやってることはそれにあたるだろうか?確かに両さんは国の金を勝手に使って毎日町を挙げての祭りを行っているけど、その祭りによって金が市政に大量に流れ込んで町には活気があふれ、その活気に引き寄せられて他国から人も集まって空前の好景気が訪れている。これは経済的な利益以外にも、魔王軍との長い戦争で疲れ切っている人々の心に明るさを取り戻してもいるんだ。なあアイリス、これでも両さんが悪いことをしてると思うか?」
「で、ですが、リョーさんは国のお金を使って自分の銅像を町中に大量に作っています!これは、悪いことではないのですか!?」
「それも同じことなんだよ、アイリス。その銅像はこの国の職人に発注して作ってるんだ。つまり、これも市政に金を流して好景気を作ることに一役買ってるんだ、そこまで悪いことじゃない。----それに、ここからが一番大事なことなんだが、アイリスは俺と一緒に遊ぶ今の時間が楽しいだろ?」
「そ、それは、はい、とても楽しいですが・・・・・・・」
「だろ?で、そんな俺たちの楽しい生活は両さんのおかげで成り立っているんだ。両さんを倒すという事はこの素晴らしい生活を失うということ。一生引きこもって遊びながら暮らせる今の生活を自分から捨てるなんて、そんな馬鹿なことをするわけないじゃないか」
「色々と理屈をこねていましたがそれが本音ですね!このダメ人間が!!」
私はカズマの首根っこを掴み、無理やり立たせようとする。
「いいから私たちと一緒に来て悪の総統を倒すのです!問題ないから不正は放っておこうなんて!あなたは自分が恥ずかしくないのですか!?」
「そ、そうですお兄様!その、なんというか上手く言葉にできないのですが、とにかく、いまのままでは色々と駄目な気がします!お頭様たちと一緒に行きましょう、お兄様!」
アイリスも今のままでは駄目だと気が付いたのか、私と一緒にカズマを引っ張り出す。王族だけあって基礎ステータスが高いため、カズマはなすすべもなく引きずられている。
「いたたたた!ちょ、まて、放せって!アイリス、さっき言った俺の言葉をよく思い出すんだ!両さんを倒すことが本当に正しいことなのかをよく考えるんだ!それにめぐみん!めぐみんにも、良い話があるんだ!実は今は極上のマナタイトを大量に集めていて、それを使えば一日のうちに何度も爆裂魔法が・・・・・・・・・!」
「あーもう!時間がないってのに!助手君、ちょっと私と一緒に来て!」
突然のことだった。
涙目でアクアの相手をしていたクリスが突如大声で怒鳴るとカズマの手を取って引っ張ると、そのまま部屋の外に出て行ってしまったのだ。
普段とは違うクリスの鬼気迫る表情に私たちは何も言えず、その後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
「あ、あの、お頭様。クリス様がお兄様を連れて行ってしまったのですが、追わなくて良いのでしょうか?」
アイリスが恐る恐るといった顔で聞いてくる。
「・・・・・・そうですね」
アイリスは知らないことだが、あの二人は王国を騒がせる義賊、銀髪盗賊団として共に活動することがあるのだ。
普段のカズマ君呼びではなく助手君と呼んだところを見るに、おそらくは銀髪盗賊団としての話し合いをするのだろう。
カズマがクリスと二人きりで私の知らない話をするというのは気に入らないが、銀髪盗賊団の支援下部組織の団長としては我慢のしどころでだった。
「・・・・・まあ、いいでしょう。実際持て余していましたし、ここはクリスのお手並み拝見といきましょうか」
私は、私の尊敬する盗賊団の首領にカズマの説得を任せることにした。
最終話予定の6話がちょっと時間かかりそうです。話を綺麗にたたむのって難しい。