「ふん、早速英雄扱いでさぞ気分は良いだろうね。ポッター?」
整えられたプラチナブロンドの髪が目立つ。授業終わりにユニシアが廊下を一人で歩いていればそんな声が耳に入ってきた。ポッター、それは希望の少年だと足を止めて様子を見ればそこにはスリザリンのマルフォイもいた。取り巻きらしきスリザリン生もいる。
「何が言いたいんだい?」
「その傷は希望の証なんかじゃない。箱に見捨てられただけだろう?」
マルフォイが言うと手を叩いて他のスリザリン生が笑う。箱とは災厄を閉じ込めたと言われている箱の事だろう。ユニシアたちは現実味がないおとぎ話の様に思っているが、その箱には過去からした未来、つまり今現在の災厄が閉じ込められているのだ。
ポッターの額にある傷は予言出来なかったという事にもなる。ユニシアはぼんやりとそんな事を考えていると突然前方から本が飛んできた。
持っていた教科書で何とかあたる事は避けられたが、飛んできた方にはマルフォイとポッターがいる。周りにも気に留めず二人で魔法の応酬をしているのだからユニシアも小さくため息をついてしまった。
「…早く部屋に戻ろう」
「戻る前に、少しは後輩指導をしたら如何かね?」
独り言もいつの間にか拾われており、ユニシアの背後には陰険、と言われるスリザリンの寮監がいた。
「ご、ごめんなさい…!」
「何がだ。お前はすぐに謝るな、…まあ騒がしいのよりかは幾分マシだが」
顔を強張らせながらユニシアは俯いた。いくら授業を受けてもなかなか慣れないのがこの教師だ。あからさまな嫌味に態度、会えば謝ってしまうのがユニシアだった。
「貴様も三年なのだから、少しはマトモになったらどうだ?独り立ちも出来ていないだろう?え?」
「…ごめ…、…その、」
謝りかけて止めるも、言葉が出てこない。ユニシアは困り顔で視線を床に落とした。
「何か言いたい事があるなら言えば良い。少しなら待っていてやるが?」
俯く顔に壮年の、意地の悪い表情が近付く。そんな時、足音を立てながら廊下に声が響いた。
「ちょっと!何してるのよ!…って、あんたら邪魔よ!」
マルフォイ達の間を割って入ったと思えば眉を吊り上げてユニシアのいるところまでやってきたのはニイナだった。
「他寮の先生が、優秀なレイブンクロー生に何かご用かしら?」
「出てきたな、片割れが」
「何ですって?」
「も、もう大丈夫だから…!先生にそんな言い方しちゃだめよ」
救世主だと喜んだのもつかの間、どうにもその救世主が荒っぽい様子でユニシアが止めに入った。ニイナはふんと鼻を鳴らしてユニシアの額にばちんと音がするほどのデコピンをした。ユニシアは先ほどの困り顔とは比べ物にならないほどに表情を歪めて額を抑えた。
「い、痛い…!ニイナのがよっぽど痛いじゃない?!」
「良い?あんたもちゃんと言い返すのよ!」
そんなやり取りを見て、スネイプは一度ユニシアを見てから「お先に」と言ってその場を後にしていった。
「あんたなんかより、お気に入りのグリフィンドール生をいじめれば良いのに」
スネイプがいなくなると、未だにやりあっているポッター達を遠目に見てニイナは言った。
「相変わらず、あんたへのいびりは健在みたいね」
「少しは和らいでくれると嬉しかったんだけどね」
「仕方ないわよ、あんたって付け入りやすいから」
からかう様に笑うニイナにユニシアは眉を下げるだけだった。
「そんな事よりも、新しく入った防衛術の教師を見た?」
「クィレル教授の事?」
「わざとらしい程びくびくしてて頼り甲斐も無いし、よくあんなのが一年生を担当出来るわよね」
「あの人だって、先生一年生でしょう?仕方ないと思うけどな」
「同族嫌悪ならぬ同族愛好ってところかしら?」
「え?ど、どういう意味?」
「そう言うところよ」
楽しそうに笑いながら2人は自分達の部屋に戻ろうと歩を進めていった。そう、今年から入ったのは新入生だけではない。防衛術の教師、クィレルだ。
頭にターバンを巻いておどおどしている様子が目立つ。ニイナがそう言うのも無理はなかった。
「ほら、噂をすれば…」
ニイナがそう言い、そっと指をさした先にはクィレルの姿があった。床に教材を落としてしまったらしく、慌てながら一人で拾い上げている。
「鈍くさいわね…」
他人事と言った風にニイナが呟くのと同時にユニシアが速足でクィレルの傍へ駆け寄っていくのはほぼ同時であった。
「先生、拾うの手伝いますね」
「え?あ、あの…ありがとう…確か君は…」
「レイブンクローのドレナードです」
「レイブンクロー…え、ええと…私もレイブンクローだったんです…お、同じですね」
「本当ですか?それじゃあ先輩だ」
クィレルの言葉に嬉しそうにそう返すとクィレルは少し驚いた様にしてから照れくさそうにぎこちない笑みを浮かべた。それを見てニイナはため息をつき、やっていられないと言った様子で視線を逸らす。
「先生、これで全部ですか?」
拾い上げたものを全てクィレルに渡し終えるとクィレルはじっとユニシアを見つめたまま小さく頷いた。
「…ドレナード、…れ、レイブンクローの…ドレナード」
「は、はい。何でしょう?」
「……あ、ありがとう。君は、…優しい」
クィレルの言葉にユニシアは再び嬉しそうに笑みを浮かべた。
普段は同寮の生徒にすら地味だ空気だと言われている反動か、優しいと言われた事は素直に心に響く言葉だった。
「どういたしまして、先生。…学校のみんなが、先生みたいに穏やかな人ばかりだったら良いのに」
「…そ、そんな…。どうしてだい?」
「みんな、個性が強い人が多いでしょう?…だから、先生みたいな穏やかな人は貴重です」
ニイナがおどおどしている、と形容したクィレルをユニシアは穏やかと言葉にした。
それに対してクィレルはうっとりとしたように息を漏らした。
「私も、君の様な生徒に出会えて光栄だよ。学生時代に会えていたらどんなに良かったか」
「え?」
ユニシアはクィレルの様子にどこか違和感を感じて思わず疑問符を浮かべたが、何が違和感になっているのかユニシア自身は気付いていない様子であった。
「さ、さあ、もうすぐ昼食の時間でしょう?行って下さい」
後ろ髪を引かれるような気持ちのまま、ユニシアはニイナのところまで戻っていった。
「何?クィレルは穏やかで何だって?」
「……ニイナ」
「…何よ」
「……何でもない」
ぼんやりと何かを考えるようにする姿のユニシアにニイナは首を傾げた。
近くにいなかったニイナは二人が何を話していたかなどほとんど聞こえていない。聞こえてきたのはユニシアの声のみだった。
「何よそれ、気になるじゃない」
「自分でもよく分からないんだもの」
ユニシアは振り返ってその姿を見ようとしたが、そこにはもうクィレルの姿はなかった。