いらない娘のいきつくところ   作:林屋まつり

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十八話

 

 学校か、……寮に視線を向ける。確かにそういわれればそう見える。

「長門さん?」

「ん、……ああ、榛名から寮は元々学校だったと聞いてな。

 そう意識してみると確かにそう見えるな」

「プールもあるしねっ」

 時津風は嬉しそうに続ける。プールか。泳いでみたいが。……提督は泳げるのだろうか?

「どうしたんですか?」

 秋月が首を傾げる。

「ああ、……提督は泳げるのだろうか? と思ってな」

 ぽつり、呟く。……一同沈黙。ほどなく、

「…………ぷっ、……だ、だめ、くくっ、う、浮かんでるところしか、想像できないっ」

 瑞鳳が笑い出した。阿武隈がつられるように笑う。

「あはははっ、しれーがプールの真ん中でぽかーんって浮かんでるところしか想像できないよー」

「あ、あれで泳ぐのが上手だと、かえって、変っ」

「確かに変だな。……バタフライとか」

「だ、ダイナミック、だな。たぶん」

 初月は首を傾げて呟く。確かにダイナミックだ。重、……物理的貫禄もある事だし。

「去年は、プールに入ってるところは見た事ない、ですね。

 ま、まあ、……提督も、さすがに入りずらいでしょうし。秋月たち艦娘の心情はともかく」

「…………水着を着た女性の中、一人佇む司令官様」

「……なんというか、…………なぜだろう。提督が不憫な気がしてきた。

 変だな、男性なら喜びそうな状況のはずなのに」

 虚空を見て呟く春風、そして、気の毒そうな初月の言葉に瑞鳳と時津風がさらに笑い出す。

「そ、そうですね。……あれ? 水着姿の女性に囲まれるって、男性的には嬉しいシチュエーションのはずなのに、……なんで、あたし、煤けた感じでぽかーんって佇む提督しか想像できないのかな?」

 首を傾げる阿武隈。それは私も同感だ。なぜか非常にいたたまれない。

 けらけら笑っていた時津風は不意に顔をあげて、

「じゃあさ、しれーの水着見た事ないんだよね。

 どんなのかなっ?」

「ふんどしだな」

 なんとなく即答してみたら阿武隈が崩れ落ちた。笑いの発作に立ってられなくなったらしい。

「あ、あれは水着なのか?」

 初月の問いに、自分の出した答えを思い返してみて「…………あれ?」

 違うはずだが。……おかしいな。

「なぜ、私はふんどしと答えたんだ?」

「だ、大丈夫か? 長門さん」

 初月に心配されてしまった。

「…………ど、どうしましょう? わたくし、長門さんの出したお答えに、疑問なく納得してしまいました」

 頬に手を当てておっとりと首を傾げる春風。

「ま、まあ、提督の水着はふんどしでいいとして、私たちの水着はどうするか」

「一応、……ええと、潜水艦の艦娘が着るような水着はありますけど、…………その、」

「…………後で買いに行こう」

 さすがに、私は着れないな。

「僕もちょっと厳しいかな」

 難しい表情の初月。そして、

「わ、私も厳しいわっ、ねっ」

 なぜか慌てた様子の瑞鳳。阿武隈も頷いて「そうですっ、あたしもNGですっ」

「えー、二人とも似合うと思うよー」

「そうだな。違和感ないな。…………ないな」

 頷く、と。瑞鳳と阿武隈は手に手を取り合って俯いた。

「だ、大丈夫ですっ、……秋月は絶対ににあ、…………あ、じゃなくて、……ええと、ねっ、初月っ」

「えっ? ……あ、…………そ、そうだな? ……そうだなっ、僕もそう思うっ」

 唐突に秋月から話を振られて精一杯応じる初月。阿武隈と瑞鳳はどんよりとした視線を向けた。

「初月ちゃん、私、スク水似合うんだ。そう思われてるんだ」

「どうしてあたしがOKなの?」

 じと、とした視線を二人から向けられておろおろする初月。時津風は満面の笑顔で手を広げる。春風は優しく手招き。

「ようこそ、阿武隈っ、瑞鳳っ、そして、さようなら秋月、初月。二人は長門の方に行って」

「確かに、秋月さんと初月さん、あまり、……ええと、ちょっと、印象が噛みあいませんね」

 おっとりと呟く春風。そして、僚艦に向けるとは思えない陰惨な視線の瑞鳳と阿武隈。秋月と初月は手に手を取り合って震えている。

「ま、まあ、そうだな。ここでは給料も出るそうだし、今度買いに行こうっ」

 その時は、……どうしようか。水着なんかで仲間割れして欲しくない。何か作戦を練っておかなければならないな。

 

 ともかく本部に到着。図書室は二階にあるらしい。

「うあー、本とか眠くなりそう」

 どうだろうな。読書経験はなかったが。

 入ってみる。と、

「結構いるのだな」

「勉強に使う娘も多、……あっ、提督」

「む」

 机の一角に座る提督。と、秘書艦殿もいる。それと、

「おーいっ、天津風ーっ」

 二人と向かい合って座るのは天津風。背を向けている形になっていた彼女は振り返り、ぱっ、と笑みを浮かべて、……眉根を寄せた。立ち上がる。

「天津風?」

 難しい表情で近寄る姉に首を傾げる時津風。そして、

「いたっ?」

「図書室で大声出さないのっ」

「あう、……ごめん」

 俯く時津風を乱暴に撫でて「長門さんたちはどうしたの?」

「ああ、艦隊の動きについて阿武隈に相談をしようと思ってな。

 ついでに図書室を案内してもらったんだ。過去の資料もどこにあるか見ておきたい」

「そ、まあ、……大声出さない程度にね」

「そうだな」

 頷く、静かな印象のある場所だが、入ってみれば結構声も聞こえる。話し合いに使われることも多いのだろう。

 図書室であることを除いても、勉強や会議のために話をしているところで大声を出すと妨げになる。それはよくないだろう。

「天津風は何してたの?」

 わずかに声を抑えて問う時津風。天津風は視線を提督に向けて、

「司令と秘書艦さんと仕事の話よ。あたし、秘書次艦で会計とかそっち担当してるのよ。それで、そろそろお給料の日だから報告ね」

「あれ? 武器開発とかそっちじゃないの?」

 時津風は不思議そうに首を傾げる。確かに、天津風はテスト艦の側面もあったが。

「それは、…………まあ、そうなんだけど、その、」

 言いにくそうに視線を逸らす。なんとなく、時津風も事情を察したらしい。「ごめん」と。

「ま、そういう事よ。楽しみにしててね。

 それと、普通に話すならいいけど大声出しちゃだめよ。特に時津風はテンション高いんだから」

「解ってるよー

 じゃ、天津風のお仕事頑張ってねー」

「ええ、ありがと。

 長門さん、阿武隈さん、妹を頼みます」

 丁寧に頭を下げる。「ああ、わかった」

「うん、天津風ちゃんも頑張ってね」

 と、

「せっかくだし、天津風君は休憩がてらお話しててもいいよお」

 不意に間延びした声。のんびりと提督が顔を出して、天津風は眉根を寄せる。

「なに言ってるのよ。こっちがあたしの仕事なの。ちゃんと最後までやらせなさいよ」

「ふむう、…………む、そ、あだっ?」

「仕事気にしながら休憩なんてしてもちゃんと休めるわけじゃないでしょっ、しれーかんじゃないんだからっ!

 ほらっ、変な気遣いするくらいならささっと仕事終わらせて気兼ねなく休ませてあげるのっ、まったくっ、そういうところに気が回らないからしれーかんはだめだめさんなのよっ、ねっ、天津風っ」

「そうよっ、仕事に関して気遣いはいらないわよっ、ほんっと、解ってないだめだめさんな司令ねっ!

 いいからさっさと戻るわよっ、時津風、あとで遊びに行くわね」

「うんっ、待ってるよー」

 手を振る時津風。

「ふむう、……そういうものなのかなあ。女の子は難しいなあ」

「おっさんな司令がそう簡単にわかるわけないでしょっ!

 期待してないから変な気遣いはいらないわよっ、ねっ、秘書艦さんっ」

「そうよっ、しれーかんは女の子に関してほんっとにだめだめさんなんだからっ、余計な事言わなくていいのっ」

「ふむう? …………そうかあ、また、誠一君と相談するしかないかなあ」

「おっさん二人が部屋の隅っこで顔つき合わせて女の子の事を話し合ったって周りがいたたまれなくなるだけよっ!

 鳳翔さんがすっごい微妙な笑顔を浮かべてたのもう忘れたのっ?」

「っていうか、そんな事してどんな答えが出るって思ってるのよっ! ほんっと、司令はだめだめさんねっ」

「ふむむ、……私はだめかあ」

 引っ張られながら虚空を見る提督。

「司令、中年のおじさんですからね。……そういう意味でも、大変ですね」

 秋月は困ったような表情。……そういえば、熊野が元帥と年頃の少女の扱いに関して相談していたといっていたな。

「いろいろ、気の使い方も大変だな。提督も」

「ここまでの待遇で迎えてくれただけでも十分なのに、……いや、あまり言い募っても仕方ないか。

 結局は提督がどう思うかなのだし、出来ることで報いるしかないな」

「そうだな」

「あう、……提督忙しいんだ。

 ううん、一緒に相談に乗ってくれれば心強かったのに」

 ぽつり、阿武隈が呟く。と、「いたっ?」

 ぱしんっ、と阿武隈の額に丸めた紙が投げられた。見てみると、「『自分でやれ』、……提督、お見通しかあ」

 追い払うように手を振る提督、阿武隈は困ったように肩を落とした。

 

「…………うん、大丈夫です。

 あたしが想定してた動きと同じです」

「そうか、それならよかった」

 一通りこちらの想定した運用について話をし、阿武隈は頷く。

「ええと、それで訓練ですけど。

 まずはその動きで艦隊戦をしてもらいます。書き出すよりは実際に動いた方がイメージもつかめるでしょうから。その結果を見て足りなさそうなところの訓練です。

 基本的には長門さんの精密砲撃、春風ちゃんと時津風ちゃんは雷撃の一撃離脱。初月ちゃんと瑞鳳さんは結果確認してからです。たぶん対空射撃と、制空権を取るための、艦載機制御訓練になると思います」

「うん、僕もそれは必要だと思う」

「了解、初月ちゃんといかに制空権を確保するかね」

「艦隊の連動訓練としては、戦艦の長門さんと、足の速いみんなの速度差をどう解消していくかです」

「そうだな。射程に慢心して僚艦の皆を先に行かせたら、砲撃の届かないところで交戦となったでは意味がない」

「ただ、これも机上の想定なので、いろいろ変わるとは思いますけど、それも含めての明日模擬戦します」

「誰が相手なの?」

「あたしたち、第三の三艦隊で考えています」

「そうか、……では、胸を借りよう。お互い全力で取り組もう」

「はい、そうでないと訓練になりませんから」

 阿武隈も真剣な表情で頷く。それならよかった。

「第三の三艦隊といっても、あたしは出ますけど、話した通り第三艦隊の娘は流動的で、誰が出るかはその日にならないとわからないです。

 たぶん、秋月ちゃんは出れると思うけど」

「はい、その時は初月が相手でも容赦しませんっ」

「そうだな。僕も、秋月姉さんには負けないように全力を尽くそう」

「胸を貸すなら、私たちが貸しましょうか」

 不意に、声。阿武隈が慌てて視線を上げる。

「古鷹、……さん」

「演習ですね。私たちも予定は入っていませんから、相手をするのは構いませんよ」

「私たち、……第一の一艦隊か」

 つまり、この基地の主力たち。か。

「ん、旗艦さん。次の予定っぽい? 夕立、明日辺り帰ってくる村雨姉と遊びたいっぽい?」

 ひょい、と彼女の後ろから顔を出したのは、夕立。

 なぜか口の端を引きつらせる阿武隈と、全力で首を横に振る秋月。

「夕立も第一の一艦隊?」

「そうっぽいっ!」夕立は胸を張って「夕立は第一の一艦隊で、村雨姉は秘書次艦っ、山風は第二艦隊の旗艦、つまりここは、白露型の天下、っぽいっ!」

 むむむ、と時津風が難しい表情。陽炎型として対抗意識でも燃やしているのか。

 どや顔の夕立、は、頭を叩かれた。

「艦型も艦種も関係ないですよ夕立。

 高性能な娘がその性能を発揮できる位置にいる。ただそれだけです。提督はそんな理由で選別をしません」

「解ってるっぽい。言ってみただけっぽい。姉妹が頑張ってるのを自慢したかったっぽい」

「うー、陽炎型だって負けないよっ」

 むくれる時津風。……ふと、主力艦、か。

「夕立も、その、……指輪、だったか。

 それを持っているのか?」

 古鷹はそれを持っていたが。

「指輪? ……ですか?」

「ええと、物凄く強い艦娘の証、だっけ?」

 知らないらしい春風は首を傾げ、瑞鳳は曖昧に呟く。

「いろいろ細かい事はありますが、その認識でいいですよ。

 指輪持ちは現存で、……ええと、十五、だったかな。現存する艦娘の上位十五、という認識であってます」

「古鷹さんはその一員なんですよね。凄いなあ」

 阿武隈の言葉に「鍛錬あるのみです」と、古鷹。

「けど、夕立は、」

「違うっぽいー、夕立も指輪欲しいっぽいー」

「強さの証明か?」

 初月の問いに古鷹は首を横に振り「それもありますけど、つけられると性能の上限を取り払えるのですよ。理論上は無制限の強化が可能になります」

「理論上?」

「物理法則の壁は突破できない、という事です」

「それは仕方ない。……とはいえ、凄いな」

「凄いけど、」くすくすと古鷹は笑って「それだけではないのですよ。ね、夕立」

「ぽいー、その指輪持ちの一人は時雨姉っぽい。同じ白露型として負けてられないっぽい」

「…………それはつまり、駆逐艦で、艦娘の上位十五に入っている、という事ですよね」

 春風が目を見開き呟く。古鷹は頷いて、

「春風さん。上位十五のうち、半数以上は駆逐艦ですよ。そして、その中でも一線を画する上位四は皆駆逐艦です。

 ちなみにその時雨は三位、……まあ、四位と実力伯仲らしいですが」

「ぐぐ、白露型めー」

 唸る時津風とどや顔の夕立。けど、

「安心してください。二位は陽炎型です。雪風ですね。

 その時雨も、勝てないと苦笑していましたよ」

「陽炎型の面目躍如っ、流石雪風っ」

 両手を上げる時津風と、唸る夕立。

「く、空母はっ? 赤城さんとか、その、……ええと、指輪持ち? だったりするっ?」

「いえ、空母は、……龍驤さんでしたね。正規空母は、……いなかった、と思います。…………いや、佐渡島にいる翔鶴さん、指輪に届いたのかな」

「そうなの?」

 意外そうに応じる瑞鳳。けど、

「龍驤さん、……って事は軽空母って事よね。

 うん、じゃあ、同じ軽空母の私も、頑張ればそこに至れるってわけね」

「もちろんですよ」

「なら、戦艦はっ?」

 やはり、同じ艦種で極まった能力を持つ艦娘がいるのはいい。自分もその高みに到達できると思うと、胸が熱いな。

「いえ、いません」

「…………そ、……そう、か」

 なんというか、残念だ。

「まあ、戦艦は使用する資材が多いので、どうしても温存されがちですから。

 使用する資材も少ない駆逐艦とかはそれだけ練度を上げる機会に恵まれるのです。もちろん、優秀な提督の下にいる、という前提もありますけどね」

「提督の資質も大切、ですね」

 春風が小さく呟く。「春風?」

「あ、……いえ、わたくしも、旧型艦だからという理由で何もやらせていただけなかったので。……神風お姉様も、それで苦労をしていた節がありますし。

 そう言った色眼鏡で見ない方は、有り難いです」

「私は安倍中将、提督以外の下についたことはないので知りませんが。

 とはいえ、特定の艦娘を偏愛したり、旧型艦とか不幸艦とか妙なレッテルを意識して敬遠したりとか、様々な理由でせっかくの兵器を死蔵する提督の話はよく聞きます」

 古鷹はひらひらと、指輪を示して、

「性能の上限がないのだから、すべての艦娘が強者へと至れます。

 その可能性を踏み潰す提督は非常に多いので、春風さんのいう事は間違えていませんよ。……夕立?」

 示した指輪を羨ましそうに見ている夕立。古鷹は微笑み「欲しいですか?」

「もちろんっ! 夕立も早くその一員になりたいっ! というわけで演習ならどんと来るっぽ「夕立」いっ?」

 ぽつり、声。振り返る。

「あ、……天津風?」

「図書室では静かにしなさい。

 説教と、不知火に怒られるのと、給料なくすの、どれがいい?」

「…………土下座を選択するっぽい」

「静かにしなさいってのっ」

「ぽいー」

「まったく、時津風も、あんまり騒いでるとお給料なくすわよ?」

「あうっ、……はい。自重します」

 と、

「夕立、勝手に演習のスケジュール組まないで」

「ひっ、や、……山風っ?」

 じと、とした視線の山風。

「古鷹さん。わたくしたちはすでに第三の三艦隊で調整を組んでいますわ。

 どうしても、というのなら融通はしますが、直前に好奇心だけで変更は遠慮願いますわよ?」

「失礼、そうでしたね」

 睨みつける熊野に、くすくすと古鷹は笑って応じる。山風は頷いて、

「あんまり、我侭言うなら、制限かける」

「あう、……ゆ、夕立は、山風の、お、お姉さん、っぽい?」

「第二艦隊旗艦のあたしの方が、偉い」

「…………い、妹に下剋上されたっぽ「夕立」……い~」

 天津風と山風に睨まれて崩れ落ちる夕立。古鷹はくつくつと笑う。

「第二艦隊からストップがかかったなら仕方ありませんね。

 もっとも、偉そうに指輪持ちなんて言っても私も一人の艦娘、余計な気兼ねは不要です。敗北から学ぶこともある、という覚悟で挑むのもいいですよ。

 もちろん、下剋上を狙うというのでも歓迎しますけどね」

「是非そうしたいものだな。……ああ、そうか。夕立は妹の方が偉いのか」

 第二艦隊旗艦、艦娘間で偉い偉くないはないと思うが、それでも、仮に比較するなら山風の方が偉いだろう。……ん?

「そういえば、私もか」

「そうですね。第一の一艦隊に属する陸奥さんの方が偉いですね。

 まあ、別にそれで命令されたら服従しろとは言いませんが」

 古鷹はくすくすと笑う。

「そうだな、……ああ、服従するつもりはない。

 が、同じ長門型だし、ここの先輩としていろいろ教えてもらうつもりだ。……陸奥先輩と呼ぼうか提案したら拒否されたが」

「…………ああ、そうでしょうね」

 なぜか、微妙な表情になる古鷹。なぜだ?

「しれーにも服従する必要ない、ってところだもんねー」

「ま、大抵言ってることは間違えていないから、指示には従うけどね。

 ただ、いらない気遣いは余計よ。……さて、あたしは仕事戻るわ。古鷹さんと阿武隈さんはもちろんだけど、長門さんも、新人だからって先輩に変な気兼ねしないでね? うるさくしてたらガツンと言ってやってっ」

「ああ、そうさせてもらう」

 それがこの基地にいる艦娘のやり方なのだろう。好ましいと思っているのだから、逆らうつもりはない。

「それじゃあ、あたしたちも、戻る。熊野さん」

「ええ、これを機に勝手なことはしないでくださいな」

 山風と熊野も軽く手を振って席に戻る。古鷹はくすくすと笑って、

「だ、そうですよ。夕立」

「ぽいー、……って、なんで夕立が悪いっぽい? 演習吹っ掛けたの旗艦さんっぽいっ?」

「あ、そうでした。それでは、夕立、私たちも行きましょう」

「ぽいっ」

 ふと、その背を見送って、難しい表情で黙っていた秋月は、ぽつり、呟く。

「最強の艦娘って、駆逐艦なんですよね。

 誰、……なんだろ」

 

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