トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話 作:ZUNEZUNE
「行くぞ一夏!」
「ああ!春十兄!」
織斑兄弟が手を交わして眼前の敵と対峙する。
対するタツノテンセイワニ、その眼を二人から離さない。鋭い眼光を常に一夏達に刺し続けていた。
それを呆然として見る箒。できれば自分も加わりたかった。
しかし無理である。一夏と春十はもう自分達とは違うステージに行ってしまったのだから。
「一夏…春十…」
その呟きが彼らの耳に入ったのかは分からない。しかしそれが合図となった!
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」
二人が雄叫びを上げ、全身に力を込める。
一夏から赤い
2匹の悪魔は唸り、タツノテンセイワニを威嚇する。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
しかしそのワニは退かず、逆に威嚇してきた。
どうやらどちらも負ける気はしないらしい。お互いを殺すことしか考えていない。
「はぁあ!!」
一夏と春十は全速力でタツノテンセイワニの周りを飛びかう。対するタツノテンセイワニは百足のように多い腕を振り回して二人の軌道上に手を置く。
「おらぁあ!!」
しかし全力の突撃により押し返され、逃げられてしまう。
飛行中、一夏は
「閻魔七味!!」
途轍もない程熱いレーザーを大きな瞳目掛けて撃つ。閻魔七味の高温で失明させようという作戦だ。しかしタツノテンセイワニは腕でそれを防ぐ。しかし受け止めた部分の鱗はドロドロに溶けてしまった。
「今だ春十兄!」
「おう!!」
鱗が溶け、装甲が薄くなった部分を春十が雪片弐型で斬り裂く。その切れ目がどんどん広がり、ワニの腕は斬り落とされ海に落下する。
「ギシャアアアアッ!!!!」
それに怒ったタツノテンセイワニは、口から光の炸裂弾を放つ。多くの光弾が二人に降り注いだ。
「特大まな板シールド!!」
「はっ!!」
それを一夏は大きいまな板シールドで、春十は第二形態
「ギシャッ!?」
シールドに口が開き、掃除機のように吸引し始めた。その力は数百倍大きいタツノテンセイワニを引き寄せるほど強かった。
ここでワニは先程と同じように炸裂弾を吐く。しかし全部
「お返しだ!」
ここで春十が
すると先程吸った炸裂弾がビームシールドの口から放たれたのだ。
「ギギッ!?」
自分の攻撃を全身に受けたワニは狼狽え始め、二人から距離を取ろうとする。
「逃がすかよ!!」
それを一夏が追った。一夏は閻魔七味の弾を乱発し、タツノテンセイワニ自慢の鱗を次々と溶かしていく。
逃げるのを止めたワニは、一夏を両手で掴もうとするが…
「おりゃああ!!」
黒星と白海に引き裂かれてしまう。もうタツノテンセイワニの固い鱗は意味を成していない。
「一夏!」
「オーケー春十兄!」
二人は剣を握りしめ、タツノテンセイワニへと勢い良く飛ぶ。
「「おりゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」
一夏の黒星と白海で、春十の雪片弐型で、猛獣の首は切断された。
「よしっ!」
空中でガッツポーズする一夏。その傍らでタツノテンセイワニの亡骸が海に向かって落ちていた。
一夏はそれを移動装置で回収する。
「おっとっと…」
曇っていた空が晴れていく。もう空は夕日の色が広がっていた。
沈んでいく太陽を見て、安堵の溜息を吐いた。
ここで、春十が視線に入る。こちらに背中を向けていた。
「春十兄…」
一夏はこっそりと近づき、後ろから叩いて驚かせようとしたが…
「えっ…?」
それより先に、ISを解除してしまった春十が落ち始めた。
「春十兄!」
一夏は急いで春十を回収する。
その表情はとても苦しそうにしていた。息も荒く、顔も赤い。
(まさか…
春十の白式の雪片弐型は、自分のエネルギーを消費し続けて発動する武器である。雑魚猛獣との戦いでエネルギーが枯れかけていた春十は、グルメ細胞を手に入れたことにより無意識でそれを発動していたのだろう。
(そして…タイムリミットが来た…!)
「は、春十!?」
「一夏!?アンタ…」
ここで箒や、後ろにいた鈴達専用機組も来る。
皆春十の様態を見て顔を青ざめた。
「春十さん!しっかりして下さい!」
「春十!死んだりしたら許さないんだから!」
「春十!起きてよ春十!」
「嫁…!」
一夏に横抱きされている春十に近寄る。その言葉を聞いても何も変わらない。
急がなければ——
「…鈴、お前達の宿は…?」
「…えっ?」
「早く案内してくれ!俺がこいつを何とかする!」
「来たか…!」
一方千冬と真耶は宿の入り口で生徒達の帰りを待っていた。
するとこちらに向かう7機のISを確認する。箒達がゆっくりと着地した。
ここで千冬と真耶は、その集団の中にいる一夏に目を開く。
「一夏…お前…」
「話は後だ千冬姉!春十兄が大変なんだ!」
「春十…!?」
ここで千冬は箒達に抱えられている春十の元へと駆け寄る。
真耶も春十の様子を見て口元を抑えた。
「何があった…!?」
「分かりません!怪物を倒したら急に倒れて…」
ここで一夏がISを解除して、エプロンを着始めた。
全員がそれを不思議そうに見ていた。
「一夏…お前何をする気だ?」
「千冬姉…厨房借りるぞ」
一夏は急いで厨房へと行き、まな板と対峙して考えた。
(今の春十を救うには…極上の食材が必要!)
そう判断した一夏は、装置で1匹の魚を取り出す。
小さなマンボウ…そう、一夏の課題であった「ロイヤルマンボウ」である。
(こいつを食わせないと…)
しかしこいつの調理は繊細さがとても必要である。数ミリでも包丁がずれると味が駄目になってしまう。
だが迷っている時間は無い。一夏は包丁をゆっくりと入れた。
ゆっくりと言っても練習の時よりも速く、正確に…
(集中しろ俺!兄弟の命がかかっているんだぞ!)
数秒しか経っていないのに、汗が滝のように流れる。そして揺れるように目眩が起きる。
唾を飲みたいが、少しでも油断すると失敗してしまう。
震える手を無理矢理押さえ込もうとする。しかし脳も感覚も言う通りにならない。
息を荒げることも許されない空間。まるで目隠しして綱渡りをしている気分だ。
(俺はできる…俺が春十兄を守るんだ!)
春十はその後、布団に寝かされ、教師陣と専用機組に見守られていた。
一夏が厨房に入って約10分。一向に様態は良くならない。それどころかどんどん衰弱している。
「医者に診て貰っても分からない…一体嫁に何が…」
「まさか…春十死んじゃうんじゃ——」
「バカなこと言わないで!」
シャルの言葉を鈴が大きな怒声で遮る
「…ごめん」
「いや、私もイライラしていた…」
空気も悪くなっている中、勢い良く襖が開く。
そこには、疲弊していた一夏が立っていた。片手には、刺身を乗せている皿。
「「「一夏!?」」」
「良かった…間に合ったか…」
千鳥足のようにフラフラと歩き、寝ている春十の顔元に座り込む。
そして、一枚の刺身を箸で摘まみ口元に持って行く。
「春十兄…食ってくれ…」
「一…夏…?」
意識が朦朧としている状態で一夏を確認した春十は、差し出された刺身を口に入れ、ゆっくりと咀嚼する。
「…」モグモグ
「…どう?」
「…い」
「えっ?」
すると春十は急に立ち上がり、飛び跳ねながらこう叫んだ。
「美味い!!!!」
その様子を見て、その場にいた全員がポカーンとしている。
春十は顔色悪い状態から意気揚々と味を語る。
「口の中で冷たい感覚が広がり、その後に甘い脂がスウッと解けて喉に行く!肉みたいに濃厚なのに刺身の感触だ!」
初めて口にしたグルメ食材に興奮しっぱなしの春十。それを見た一夏は尻餅をついて笑い始めた。
「はっは…だろうね」
「ハッ!そうだ一夏だ!」
春十は急に正常に戻り、一夏の顔を見る。
「一夏!!お前今までどこ行ってたんだ!?どうして俺達に会いに来なかった!?どうしてあんなに強いんだ!?」
「そ、そうだ一夏!説明して貰おう!」
「洗いざらい喋って貰うわよ一夏ぁ…!」
それに便乗する箒と鈴。二人とも怒っている。しかし春十だけが純度の怒りでは無かった。
美味しい物を食べた影響か、今まで抱いていた怒りと疑問がどうでもよくなっているのだ。
「…そういうわけだ、一夏。話して貰うぞ」
「千冬姉…分かった」
観念した一夏。正座をして皆に向き直った。
「でもその前に…」
そう言葉を溜めていると…一夏の腹が大きく鳴った。
「飯にしようぜ!」
次回、食事回(ほぼ毎回だけど…)