トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話 作:ZUNEZUNE
「んーーー?」
その女、篠ノ之束はある物を感知していた。
それは突如として部屋の中心に現れた光。約10分間そこに漂っており、正体も不明だった。
「触れても良い奴かなぁ…ちょっと怖いけど」
まず害がある現象なのかを調べるためにマジックハンドで光に触れてようとすると…
「うわっ!?」
突如として光の中から人が現れる。
「ありゃ…ここどこ?」
青年はリュックを背負いながら辺りを見渡す。ここか何処なのか分からないのだろう。
束はその顔に見覚えがあった。
「あ、すいません!ここどこですか?」
「…くん」
「えっ?」
「いっくん!!」
束は青年…一夏に抱きついた。
「もしかして…束さんですか?」
「そうだよいっくん!束姉さんだよ!」
束は涙を流しながら腕の力を強める。誘拐事件以来行方不明になった一夏を今の今まで必死に探していたのだから。
「もう何処行ってたの!チーちゃんや春君も心配してたんだよ!」
「…そうですか」
「いっくん?」
何故か、家族の事を聞いた一夏の顔が曇る。
「俺は…千冬姉さんや春十兄さんから見捨てられたんです」
「!?」
「千冬姉さんは僕より大会を優先して…」
「それは違うよいっくん!チーちゃんは大会関係者から何も伝えられてなかったんだよ!」
「えっ——?」
「2人とも見捨ててなんかいないよ!私と同じように、2人は泣きながらいっくんの事を思っていたんだ!」
「そうなんだ…そうか…俺はまだ愛されてたんだ…!」
自然に目から涙がこぼれ落ちる。それにつられて束もまた泣く。
「良かった!…本当に良かった!」
「うんうん…私も嬉しいよ…」
泣き崩れる一夏を、束がそっと抱きしめる。
「へ〜グルメ時代か〜」
一夏は束に自分がいた世界のことについて話した。
その世界は数多のグルメ食材があるグルメ時代だということを。
自分はそこで料理人になったことを。
「いっくん昔から家事上手かったもんね!」
「いや〜俺なんか〜」
「ところでどんな食材があるの?」
「それはですね…そうだ!」
座って話していた一夏が、急に立ち上がる。
「どうしたの!?」
「束さん、今まで心配させてたお詫びに、俺が何か一品作りますよ!」
「本当!?」
「マジです!どんな物が食べたいですか?」
「そうだね〜甘いものが食べたいな!」
「分かりました!キッチンお借りしますね!」
「すいません!キッチンお借りします!」
「!?」
急に入り込んできた見知らぬ人に、クロエは驚く。
「あの…貴方は?」
『くーちゃん!その子は織斑一夏君!』
束から通信が来た。
「織斑…一夏?以前話していた…?」
『うん!何も言わずにキッチン貸して上げて!』
「束様が言うなら…どうぞ好きにお使いください」
「ありがとうございます!」
クロエは出て行き、キッチンにいるのは一夏だけとなった。
「さて…やりますか!」
一夏が別宇宙移動装置を軽く操作すると、小さな光が沸き、そこからグルメ食材が沢山出て来た。
(こんな簡単に繋げられるんだ…)
実はこの食材、一夏が向こうの世界で食材を溜めていた食材倉庫から装置を使って取り出した物である。
「まずは…」
一夏は「メルク二代目」と彫られた不思議な形をした包丁を手に取る…
数分後、一夏が皿を持って束とクロエの所へとやって来た。
「お待たせしました!クロエさんの分も作って置いたので是非食べてください!」
「それはありがとうございます!」
「わーい!いっくんが作ってくれたスイーツだー!」
こうして2人の食卓に出された物は…
「…何これ?」
透明な「何か」が、苺やクリーム、餡子などを一口サイズで包んでいる。つまり饅頭だった。
「騙されたと思って食べてください!」
「じゃあ!いただきます!」
「いただきます」
手を合わせて、饅頭を手に取る。クリームが入っている物だ。
「あむっ」
そして口の中に入れると…
「!!」
思わず目を見張ってしまった。
(何これ…皮が舌の上でとろりと溶けた…!それと同時に甘い味が口全体に広がっていく…)
そして、この皮の正体に気付く。
「これって…水飴?」
「はい!ガラスのような透明度を持つ『玻璃(はり)水飴』を皮に使っています!」
(水飴なのにべたつきが無い…むしろ真水のように口の奥へと進んでいく!)
玻璃水飴は、トリコの「お菓子の家」の窓ガラスとして使われている物でもある。ベタベタな感触が無く、舐めたら甘いガラスとされている。
(中身のクリームが零れてきた!このクリームもとても蕩けていて、クリームのまろやかさと水飴の素朴な甘みが絶妙に絡み合っていて美味しい!)
「そのクリームは『油田クリーム』の物を使っています」
束がクリーム饅頭を堪能している間、クロエは苺饅頭を味わっていた。
(こんな苺食べたこと無い!噛むと中から練乳が染みてくる…それを程よい酸味が更に甘く感じさせる!)
「標高数万メートル…ベジタブルスカイと同じぐらいの高さの山で実る『スカイベリー』です。太陽光によって甘みが凄いです!」
そして最後に餡子、何とこの餡子、蛍のように光っているのだ。
本来なら何事かと恐れる筈なのだが、饅頭の旨さを知った2人は臆さず口に入れる。
(この餡子、柔らかい粒が噛まれる度に甘みと共に爆発して、口全体に伝わる!)
(だけど優しくて味わいやすい…まるで柔らかくなったチーズ!)
「これは海に住む『粒鮟鱇』の『提灯餡子』です」
美味い、2人が味わったことの無い甘み。2人は目を瞑り、一生懸命味わった。
ゆっくりと、大量の唾と共に飲み込む。
「…ふぅ」
思わず溜息を吐いてしまう。味わっていることに体力を使ったのだ。
「…美味しいよいっくん!こんなの食べたこと無い!」
「はい、とても感動しました」
「でしょでしょ〜にひひ」
一夏は子供のように喜ぶ。
「ところで束さん、千冬姉さんは今何しているの?」
「IS学園の教師だよ!」
「へぇ〜姉さんが教師…」
「そこに…何と春君も通っているんだよ!」
「ええ!?ISって女性しか操縦できないんじゃ…」
「だけど春君はできるんだよ〜これについてはこの私でも分からないや」
「へぇ〜」
自分の家族達の現状に一夏は軽く驚く。
あの生活感皆無の姉に教師が務まるとは思わないし、兄は女しか動かせない物を動かすし。
「そうだ!もしかしたらいっくんも動かせるかも!」
「ええ!?」
「可能性はありますね。一夏様のお兄様が動かせるのなら」
「そこにあるIS触ってみてよ!」
束が指さした方向には、まだ開発中のISがあった。
「そう言われると…じゃあ」
一夏はISにゆっくり近づく。
そして、そっと触れた——
景色が一変する。そこは何も無い黒い空間だった。そして自分は全裸。
何度か来たことがある。この空間は…
「ここは…!?」
「お前…中々面白い物を見つけたな」
後ろから声がする。そこには、赤色の肌を持った悪魔がいた。
髪の毛は漆黒の如く黒に染まっており、肩からは大きな棘が生えている。
両手両足の爪はトラのように伸びており、目も耳も鋭く尖っている。
「お前は…!」
「この機械は…俺達『食欲』の力を具現化できるらしい…グルメ細胞が馴染んでいる…!」
「…グルメ細胞が?」
「だが…こいつにはあるべき物…意思が無い。これは偶然か?」
「どういうことだ?」
一夏は悪魔に質問を繰り返す。
「例えば…食材が食運を持つ者に引き寄せられるように…俺達はこいつに引き寄せられたのかもしれん」
「…」
「俺達は選ばれたんだ…この機械に」
「…だから?」
「一夏、こいつを使え。この機械は、俺とお前を繋げる物だ」
「繋げる物?」
「もしかしたら…あの男の『フルコース』無しでも、お前は俺の力を使えるかもしれん」
「何だって!?」
「一夏、これは運命だ。運命の歯車…いや食の歯車が仕込んだ事…お前がグルメ時代の世界にやって来たのも…この世界に戻れて来られたのも…こいつの仕業かもしれん」
「…!」
「俺の意思は…こいつと一時融合する…お前なら…この俺を…」
「…いっくん?」
「これは…」
一夏が触っているISが、荒々しく反応していた。
これは運命…食運が巡りもたらした運命!
いきなり厨二っぽくなりましたね。この作品に出てくる食材は殆ど自分で考えようかなと思っています。