トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話 作:ZUNEZUNE
『制限時間は30分!一夏シェフと小松シェフにはこの真っ暗闇の中で料理してもらいます!当然食材の種類なども視覚では絶対に確認できません!』
(うわッ……本当に暗黒って感じだな……!)
闇料理対決のキッチンの中、一夏は今自分がどこに立っているのかも分からない状態で軽いパニック状態となる。無理もない、対戦相手である小松どころか使う食材すら見えないこの空間、しかしそんな危ない時でも一夏の勝利への欲望は燃え盛っていた。
それは勿論師匠である小松に勝つため、別に油断とか侮っているわけでもなくただ単純に
(うしッ!まずは食材選びからやらないと!)
一夏は取り敢えず自分の使う食材を選ぼうと行動を開始する。物を蹴ったりぶつかったりとしないように慎重かつ大胆不敵に足を進め予め教えられた食材置き場へと向かう。
一夏はリンカのような嗅覚、ララの視覚、コロナの触覚、ポニーの聴覚といった索敵能力に優れているわけではない。だけどこうして真っ直ぐとその場所へと近づけた。
――一体何故か?食材の声に呼ばれているからだ。
(分かる!どこに食材が置かれているかが!)
そうして無事そこへ辿り着き、手探りでそれがどんな食材かを見極める。手だけじゃない、匂いや大きさ、それだけでも何の食材か言い当てられる知識と才能が一夏にはあった。
しかしそこである異変に気付く。食材の声が――一斉に騒ぎ始めた。
(何だ!?……まさか!)
その原因を一夏は即座に理解する。暗闇のどこからか包丁とまな板が当たる音が規則的に続き何が行われているかもすぐに分かった。
小松だ、彼は既に食材選びを終え既に調理を開始していた。その速さと決断力にも驚かされるが、問題はそれを感じた食材たちの反応だった。
(食材たちの声が一気にデカくなった!あの人に使われて欲しいって願望が溢れ出ている!)
こうしている間にも食材たちは大きく喜ぶ――《幸運かもしれない》、この世界で指折りの料理術を持つ小松とその弟子で引けを取らない実力者である一夏、プロの料理人たちにこうして見定められているのだから。食材にとってそれがどれだけの贅沢だろうか?それは
尊敬、憧れ、様々な感情が一夏の脳内を駆け巡る中。ドッシリと構える黒い感情もあった。
それは
(食材に愛されているんだ……師匠と人柄と食材を想う純粋な心……)
自分もあんな風に食材たちに求められたらどんなに嬉しいことか、それが只の醜い感情であることは勿論分かっている。だけど同じ舞台に立つ者としてそのような念を感じずにはいられないのだ。
あれが自分が目指すもの、何て遠い――圧倒的な存在だろうか。
(……追いついてみせる!俺だって……料理人だ!)
だからこそ、これ以上彼を遠い存在として見ない為にも一夏は奮起する。そして凄まじいスピードと判断力で自分の使う食材を手に取り自分の調理場へと走った。
(自分の手も見えない暗黒空間……普通なら包丁なんて持つこともできないだろう、だけど食儀を習得した俺には簡単なことだ!)
そして食林時で会得した食儀の技術を用いて普通の時とそう大差無いような包丁さばきを見せる一夏、どこにまな板があるのかも手に取るように分かり次々と食材を捌いていった。何も見えない空間で、ひたすら食材を切る音だけが響き闇の中へと消えていく。
(このプニっとした柔らかい肌触り、それでいて涙にくる僅かな痛み、恐らく『スライム玉ねぎ』だ。この硬い表面に苦みの匂い……『ルビーピーマン』だろう。そしてこれは『パスタ麺の木』の――)
見えない視界の中で食材を推理していく一夏、実際見事全ての食材を言い当てられており必要なものも全て揃った。そして何を作ろうかも決まっている。
暗闇の中でも、柔らかい感触ですぐに崩れてしまうスライム玉ねぎ、逆に宝石のように硬いルビーピーマンを順調に捌いていく。
(……って、コンロの火も見えないのかよ!)
そのまま火をつける一夏であったがこの暗黒空間を僅かだが照らすはずの火が見えない、その闇はまだ続行していく。
この闇料理対決、コンロの火によって食材の焼き加減やどれぐらいの火力かを悟られない為グルメ界に存在する特別なガスが使用されている。なので物を焼くことも容易ではなかった。
しかし一夏はまずそれで湯を沸かし、その沸騰した熱湯の中にトマトを入れていった。
(このブドウトマトを茹でて皮を剝く……そしてミキサーにかけて、これで一番の要は完成だ!)
――唐突だが、貴方がもし食材だとしたら一夏と小松、どちらを選ぶだろうか?
信頼や人間関係を無し……つまり料理人として技術面だけで選べば全員が小松の名を挙げるだろう。しかし今一夏が使っている食材たちは、小松ではなく一夏を選んだ。
感謝しかない、自分を選んでくれた彼らの為にも優勝する!そんなやる気が一夏に芽生えていた。