トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話 作:ZUNEZUNE
静かな厨房、何の音も聞こえない。
一夏は冷や汗を流しながら目の前の「それ」を凝視する。
「…」ゴクリ
そのマンボウは、一般的に知られている種類と比べて小さかった。
通常のまな板に少しはみ出る程度のそれは、一夏にプレッシャーを与える。
勇気を出して、きらりと光る包丁を入れた。
エラの近くから切り、ゆっくりと包丁を進める。
「ハァ…ハァ…!」
絶妙な力加減、失敗できないという緊張、ストレス。それら全てが一夏の精神を逆撫でする。
まるで随時首を絞められている感覚に負け、一夏は、微妙に力を強めてしまう。
「あっ!」
気づいた時にはもう遅い。ロイヤルマンボウの体色は見る見る内に黒ずんでいく。
失敗した、そう思った時には膝から崩れ落ちていた。
やってしまった、という気持ちではなく、体力的な問題で。
「いっくん!」
すると束が入り込んで来て、一夏の身を案じる。
一夏は大量の汗を流し、目も虚ろになっている。
(ロイヤルマンボウ…なんて魚だ)
その魚は、
些細なことでストレスを感じ、死んでしまうロイヤルマンボウ。
そいつを何とか味を落とさずに調理するというのが課題だった。
しかし、それに伴う圧倒的な技術力と集中力。
それによって、1匹捌くのにも体力を使ってしまう。
(食林寺に行って食儀を習得したいけど…今この世界を放っておく訳にもいかないし…)
食儀の習得には時間がかかると思われる。しかしその間にグルメ生物からこの世界を守れる者がいなくなるのだ。IS世界でグルメ生物に対抗できる力や人間はまだいない。よって自分はここに残るしかないのだ。
「いっくん…たまには休んだら?」
「そう…ですね…少し…休憩を…」ハァ…ハァ…
取りあえず今は休もう。寧ろ他の食材で修行した方が良いかもしれない。
(兎に角…腹が減ったなぁ…)
しかしそのお腹は、素直であった。
「いっくん何やってるの?」
「
ある程度休憩を終えた一夏は、一旦ロイヤルマンボウから離れ、次なる戦いの準備をしていた。
「更に強いグルメ生物が現れたらどうしようもないですからね」
「ふ〜ん、これは?」
「研磨砂糖ですね。高速で発射すると相手を切断できます」
「この赤いのは?」
「バクハバネロの粉です。少しの衝撃で爆発するので気をつけて下さい」
「色んなのがあるんだね」
「そうだ束さん、頼みたい武装があるんですが…」
「え?どんなの?」
「はい、それは——」
一方、IS学園にて…
「あら、春十さんと箒さんは?」
「鈴もいないぞ」
セシリアとラウラが3人を探していた。
そこにシャルが話しかけてくる。
「3人なら自主練してるよ」
「自主練?」
「弟さんを早く見つけたいんだってさ」
「そうですの…」
「む?だからといって何故自主練になる?」
「次怪物が現れたら必ず一夏さんも来る…その時に捕まえるんだって」
「…あれをですの?」
「そう言わないでよ。いつかできるようになるよ…きっと」
「行くぞ鈴!」
「来るなら来なさい!!」
アリーナ内で、白式と
春十は雪片弐型で、鈴は双天牙月で互いの懐を狙った。
激しい戦いを、箒はずっと眺めている。
一夏、お前が何で生きているのかが分からない。
あの時何が起きたのか、何故怪物と戦うのか。
俺はお前の兄なのに何も分かってやれない。
だけど一番不思議に思うのが、何故俺や千冬姉、皆に会いに来ないことだ。
俺はお前が生きていて嬉しい。だが怒っている。
これ以上——家族や友人を悲しませるな。
一夏、私はアンタが許せない。
あの時勝手に死んで、私や春十、千冬さんを悲しめたことが許せない。
アンタが私達に何か隠しているのが許せない。
それとも何?思っている程私達は仲が良くなかったの?
————ふざけないで。
だからといって隠し事をしないでよ。私達は最高の友達よ。
もう私に——大切な人を失った気持ちにさせないでよ。
一夏、お前は私達のことなど忘れてしまったのか?
お前はかつて千冬さんから学んだ剣術を使わなかった。
お前は私達の顔を見たのに声をかけなかった。
お前は——家族からの愛も忘れてしまったのか?
私は忘れなかったぞ。お前のことを。
例え死のうが記憶を失おうがお前は私の知っている「織斑 一夏」だ。
だからお前も——
「鵺コッコもやられてしまったのね…」
鵺コッコを仕掛けた女が、がっかりしたような素振りをする。
「しょうがないわ…あなたを使うしかないようね」
その目に映るのは、自分の数百倍のサイズはある…赤い目であった。
この作品でも食材募集とかしちゃおっかな?(やらない)