息抜きがてらに書いているので、気分次第で続くかも。
日記1
三度目人生記(6年4ヶ月22日目)
誕生日の祝いに手帳とペンをお袋さんから貰ったので、文字の練習を兼ねて日記をつけようと思う。
俺がこの国ブリテンに転生して早6年が経った。
気がついたら金髪爆乳の美人さんの胸に抱かれていたのにはたまげたが、生まれ変わるのも2度目なので状況の判断や事実を受け入れるのには苦労はなかった。
しかし三度目の生を生きる事になるとは、我ながら数奇なものである。
記憶の方も結構磨耗してるし、いい機会なので今一度思い返してみるとしよう。
1度目は現代日本の一般的なサラリーマン。
就職した会社がブラックだった為に二十代にして過労死した。
これについては仕方が無い。
自己管理が出来ない己の責任だ。
ただ、名前も顔も思い出せない両親に悪い事をしたな、と思うのみである。
そして2度目の生は近未来の上海。
今度は犯罪結社の名も無い刺客(鉄砲玉)だった。
名も無いというのは比喩でもなんでもなく、本当に無かったのだ。
組織からは42という番号で呼ばれていたし。
それで主なお仕事の方はというと、東洋の神秘『氣』を使った剣術でサイボーグ武術家の首を取るという、最初の生のブラック企業が天国に思えるようなステキ業務でした。
いやぁ、我ながら良くやったもんである。
対物ライフル並みの威力の投げ
達人が振るう高周波ソードやビームサーベル、オートマタの腹に仕込まれた機関銃の近距離掃射に果てはミサイルまで。
こんなアホみたいな攻撃を全部刀一本で捌いてたんだからな。
奥義が極まった頃になるとこちらも無茶苦茶になってきて、軽功術で宙を舞う羽を足場にしたり、ロケットランチャーの直撃にも耐える特殊合金製の戦車の装甲を刀で真っ二つにしたり。
あと超音速で剣を振れるようにもなりました。
やっぱ『
16歳で組織に裏切られて死んだけど、『楽しかったか?』と問われれば『楽しかった』と答えるだろう。
使い捨ての道具だったから、剣の腕以外は何も無くて。
最初は死にたくないって理由だったのに、いつの間にか馬鹿みたいにそれにのめり込んで。
対サイボーグ用の一撃必殺の奥義もあったんだけど、使えば使うほど身体壊す仕様だったから、剣一本で勝てるようにってアホみたいに修行して。
達人と殺り合う時のひり付くような感覚も、勝った時の自分が生きてるって実感も、相手の屍を見下ろして『自分の方が強い』って証明できた快感も、全部が麻薬みたいに気持ち良かった。
で、気付けば斬った張ったに、頭の先までどっぷり浸った剣術狂の出来上がりって訳だ。
仕事の時は鉄火場で剣を振り回して、休みの時はやっぱり修練で剣を振り回す。
文字通り人生全部を剣に捧げたお蔭で、免許皆伝も貰ったし秘剣と呼ばれる絶技も開眼した。
剣鬼だの魔剣士だのと妙な異名も付けられたが、死ぬ時は呆気ないもんだったわ。
組織の追っ手である70人のサイボーグ武術家相手に繁華街のど真ん中で大立ち回りして、全員斬り捨てた時にはこっちも死にかけだった。
最後は組織のナンバー2に上り詰めてた兄弟子に、一刀で首を刎ねられたんだよなぁ。
うん、悔しい。
サイボーグのクセに氣功を使うのには驚いたけど、動きも剣筋も全部見えてたんだよ。
残像が残る程の高速の体捌きからの超音速刺突。
あれって少し型は違ってたけど、竜牙徹穿だったよな。
あれだったら秘剣を使えばカウンター取れたのに、肝心の身体が動かなかった。
ま、終った事は仕方が無い。
どんな理由があれ死んだ俺の負けなんだし、ここは心機一転新たな人生で更なる高みを目指そうじゃないか。
そんな風に考えていた時期が俺にも有りました。
なんと今回の生まれは王子様である。
鉄砲玉から王族とか、いくらなんでも落差ありすぎだろ。
そんな今生の名前はアルガ・ペンドラゴン。
さすが王族、妙にしゃちほこばっている。
現在の俺の家族は親父殿であるウーサー・ペンドラゴンに金髪爆乳美人こと、母のイグレーヌ。
あと一つ違いの姉ちゃんであるモルガンがいる。
モルガン姉ちゃんだが、俺の事が大層お気に入りらしく四六時中ベッタリと引っ付いて来る。
3歳から始めている戴天流の鍛錬にもついてきて、手製の木刀で物を斬ったり軽功術で落ち葉を足場に飛び回って見せると、滅茶苦茶喜ぶのだ。
血筋的には姉だけど精神年齢的には妹か娘みたいなんで、こっちもついつい可愛がってしまう。
最近はこっちが氣功の技を見せたお返しに、姉ちゃんが魔術を見せてくれるようになった。
ちっちゃい手から火の玉や氷やらをポンポン出るのは楽しいんだが、タマに制御をミスって怪我するので見守る際には注意が必要だ。
ちなみに、俺はその手の才能が全くないらしくお抱えの胡散臭い魔術師から『生まれ変わらないと無理』と太鼓判を押された。
なんでも魔術回路なるものが全くないんだとか。
これについては別段思うところは無いが、奴のドヤ顔が気に入らなかったので氣を込めて股間を蹴り上げておいた。
泡を吹きながら痙攣する姿が何とも無様で、笑いを誘った事を記しておこう。
ざまぁ!!
三度目人生記(6年5ヶ月12日目)
不肖アルガ・ペンドラゴン、本日付けで家から勘当を食らいました。
王子様生活終了、そして今日からただのアルガである。
まあ、全然気にしてないんだけどね。
そもそも、俺みたいな奴が王族とか絶対に無理があるし。
だって、礼儀作法や帝王学を習う暇があったら、剣を振ってるほうが有意義だなんて思う人間だもの。
こんな剣術キチが、どうやって国治めるんだって話である。
とりあえずはこうなった経緯を記しておこう。
事の起こりは8日前。
魔術の才が砂粒ほども無い俺に対して、親父殿はその分を剣術に充てるようにと指示を出した。
で、現れたのがご意見番みたいな老騎士さん。
彼は『こうするのですぞ』って唐竹割りの見本見せてくれたのだが、これがまたショボい。
蝿が止まるような太刀筋で大根切りのように振るわれる剣。
虚実も刃の引きも、放つまでの体術も何も無しである。
まあ、基礎の基礎なので取り敢えず振ってみろという意図があったのかもしれないが、そうだとしても酷過ぎた。
ここで笑顔で分かったと言えればよかったのだが、生憎と俺は剣術に関しては妥協できないタイプだ。
こちとら身体はガキでも、知識と技術は一つの流派を極めてますので。
それを生まれ変わった身体に一から詰め込もうって時に、こんな訓練をやらされては変なクセが付いてしまう。
そういうワケで『独学でやるから教師は要らん』と言うと、これに親父殿と老騎士が猛反発。
最初はオブラートに包んで意見を述べていたが、むこうがあまりにも意固地なのでつい本音をブチ撒けてしまったのだ。
そのせいで親父殿と老騎士は激怒し、そこまで言うならば現役の騎士と戦って勝ってみろって言ってきた。
今思えばトンでもない無茶振りなんだが、前世の経験で理不尽に慣れきった俺はそれで余計な口出しがされないなら、と快諾。
勝負は一週間後、つまり昨日と相成ったわけだ。
俺はこの一週間、負けられないという思いと共にいつも以上に鍛錬を重ねて、戴天流と氣功術の基礎を固めてきた。
まあ、今回はそれが災いしてやりすぎてしまったわけだが。
相手に出てきたのは現役バリバリの騎士。
しかも一団を任されているエリートだそうな。
刃引きしたロングソードを手に、チェインメイルの上に鋼鉄の胸当てを纏い兜を被った彼とは対照的に、俺は手製の木刀に動きやすい服で挑んだ。
こちらとしてはこの身体に防具なんて動きを阻害するだけだし、武器だって自分が使い慣れている物を持ってきただけなんだが、相手は舐められてると捉えたようだ。
まあ、自分は完全武装しているのに六歳のガキがそんな格好じゃあ、そう取っても仕方ないかもしれん。
怒りで顔を真っ赤にした騎士様は、開始の合図と同時に雄叫びを上げて突っ込んできた。
明確に感じる闘志に加えて、肌に刺さるような煮えたぎる殺意。
そんな物を久々に浴びたら、こちらも意識が鉄火場に立ち戻っても仕方が無い。
気がついたら向かってくる唐竹に一刀を合わせ、相手の剣と胸当てを両断してたんだ。
『木刀で鉄を斬れるか!』などと思うかもしれないが、このくらいは内家剣法家では当たり前である。
『内勁(練り上げた氣の事)を込めて振るわば、布の帯は剃刀に、木の棒は鉄槌と変じる。そして鋼の刃が変じる先は、ただ因果律の破断のみ。それ即ち、形あるものすべからくを断ち切る、絶対不可避の破壊なり』なんて理があるくらいなのだ。
因果律の破断までは俺も極めた事ないけれど、これでも一度は皆伝まで上り詰めた身だ。
木刀で斬鉄くらいなら普通に出来る。
というか、これ位できないと軍用パワードスーツやら戦闘用オートマタの相手なんて出来ません。
こうして仕合は終ったわけだが、そのあと話はどんどん悪い方向に転がっていった。
お袋さん付きの侍女長さんの話によると、そもそも今回の仕合は聞き分けの無い王子への
俺に負けた騎士も軍事方面の重臣の息子らしく、今回の件で軍部内で大きく名前を落としたそうだ。
それに加えてこの歳で斬鉄なんてかましてしまった為に、俺が悪霊憑きではないのかというアホな噂も流れる始末。
さらに追い討ちとして、あの胡散臭い魔術師が『親父とお袋さんの間に次に生まれる子が次の王になる』なんて笑える予言を残しやがったのだ。
コレだけ条件が揃っていれば、こっから先はとんとん拍子である。
あっと言う間に悪魔の子というレッテルを貼られた俺は、お袋さんと姉ちゃんの必死の抗議も空しく廃嫡、追放処分となった。
追放用の馬車の御者を買って出た騎士が刺客に化けたところを見ると、魔術師の予言とやらも本当で長子である俺が邪魔になったんだろう。
ま、刺客の方は相手が動く前に首を刎ねて、路銀に武器、ついでに馬車もいただいたけど。
さて、こっから先はどうするかねぇ。
取りあえずは馬車と防具を金に替えて、諸国漫遊武者修行としゃれ込むとするか。
あ、ねーちゃんとお袋さんには手紙を出すようにしようっと。
三度目人生記(8年4ヶ月15日目)
幻想種とかいうナゾい獣や山賊の妨害もなんのその。
ブリテン島を横断し、ついにヨーロッパ本州に来たぜ!
あれからしばらくブリテンをうろついていたのだが、刺客の防具はともかく馬車の方は売れなかった。
捨てるわけにもいかんので慣れないながらも乗ってきたのだが、その間に襲撃が多い事多い事。
馬が呼び寄せるのか、はたまた俺が原因か。
黒い獣やギリシャ神話のキマイラまんまの怪物、金色の刃物っぽい角を生やした馬に果てはドラゴンまで。
出るわ出るわの怪物オンパレードである。
闘っているうちにパクッた剣も木刀も折れてしまったので、最後には奥の手である浸透勁『黒手裂震破』まで使わねばならなかった。
まあ、おかげで食う肉には事欠かないし、ドラゴンを狩った時に名刀っぽい細身の剣を手に入れたからプラマイゼロとしておこう。
そんなこんなでリアルモンハン体験をしながら放浪すること約二年。
戦闘経験も積んだし剣の腕も上がった。
身長だってグングン成長中である。
魔物の肉って栄養価が高いのか、食えば食うほど身体がデカくなってるような気がする。
なんかヤバい成分でも入っているかもと少々心配だが、前世で食った汚染物質塗れのネズミより危険って事は無いだろう。
さて、上陸した場所はどうもフランスのようなのだが、この辺もやっぱり治安が悪い。
向こうの様に魔物がこんにちわすることが無いが、代わりに野盗がポコポコ出てくる。
ここの責任者には、住民の為にも安全強化に努めていただきたい。
まあ、出てくる端から斬り殺しまくっている俺の言う台詞ではないが。
三度目人生記(8年10ヶ月21日目)
フランスの辺りをウロチョロしていると、泉の中から半透明の姉ちゃんに声をかけられた。
聞けばこの姉ちゃんは湖の精で、養育している赤ん坊の薬の材料として、馬車に積んでいる幻想種の素材を譲って欲しいとの事だった。
こっちとしては役に立てばラッキー程度の認識で剥ぎ取っただけなので、そういう事情ならば断る理由はない。
好きなだけ持って行けぃっ! と言ったらガチに全部取られた。
さすが精霊、ガキ相手でも容赦無しである。
まあ、礼として黒い獣の皮で服を作ってもらえたけどね。
3日ほどの製作期間を得て渡されたのは、黒の皮ズボンに同色のインナー、そしてロングコートに指貫グラブと、前世の凶手時代そのまんまの格好である。
どんな服が良いのかと問われて、思わず浮かべたのがそれだったから仕方がないだろう。
精霊さん曰く、この服は魔術で作った礼装? だそうで、成長に合わせて大きくなるし並みの鎧よりも防御力は上。
さらにはある程度なら自己再生するらしい。
まるでファンタジーのようだ、と呟いた俺は悪くない。
むこうはさらに聖剣とやらをくれるといったが、それはお断りしておいた。
未熟な内に良い剣を持ったら、成長の邪魔にしかならん。
だから俺も道端で拾ったナマクラをメインで使っているのである。
ドラゴンから手に入れた方は、ここぞという時の奥の手なのだ。
あと出発する時に、精霊さんは作った薬も分けてくれた。
まだ子供なんだから身体に気をつけて無茶はしないように、だそうだ。
これでも中身はおっさんなんだが、なかなか世知辛いものである。
前々世に見たコナン君って大変だったんだなぁ。
三度目人生記(10年7ヶ月16日目)
気付けば勘当を食らって四年が過ぎていた。
ローマで飛び入りの剣闘士をしたり、オーガやオークといった本州特有の害獣を狩ったりと、根無し草の無頼漢も板に付いて来た頃合いだ。
そんな折、姉ちゃんから魔術で手紙が届いた。
なんでもお袋さんが妹を産んだそうな。
それはめでたい話なのだが、問題はその後である。
出産は無事に済んだのだが、親父殿の命令で生まれたばかりの赤ん坊を胡散臭い魔術師に預ける事になったらしい。
それが理由でお袋さんが精神的に参っているので励まして欲しいとの事。
手紙を読み終えた俺はすぐさま最寄の港へと進路を変えた。
7日ほどかけて実家に里帰りした俺は、この一年で磨き上げた氣殺法を使って正面から堂々と城に入ってやった。
ちなみに、この氣殺法だが今生になってちょっと性能がおかしくなっているらしく、使っている間は完全に誰にも気付かれない。
隠形術なのでそれが当たり前なんだが、真正面から殴っても認識されないってのはどうなのか?
まあ便利だから使ってるけど、いつかは中国に足を伸ばして高名な武術家に聞く必要があるかもしれない。
それは兎も角、お袋さんと姉ちゃんに久方ぶりに顔を合わせたのだが、二人揃ってボロボロ泣かれたのには焦った。
まだ子供の姉ちゃんはともかく、お袋さんまでそうなるとは予想もしていなかったのだ。
落ち着いたところで、こちらの成長に驚いたり旅の思い出を聞かせたりと、親子三人で楽しい時間を過ごした。
勘当されてからひたすらに斬った張ったの生活だったので、こういった穏やかな時間は久しぶりだった。
話題にするネタも尽きて話が止まると、お袋さんは赤ん坊(アルトリアというらしい)の心配を始めた。
生まれたばかりの乳児があんな胡散臭い輩の手にある事を思えば、そりゃあ心配にもなるだろう。
というワケで偵察役に立候補した俺は、氣殺法を活用して城内で調査を開始。
親父や家臣の会話から赤ん坊が魔術師の私室にいる事を入手したので、現地に直行することにした。
生意気にも結界みたいなモノを張っていたので一刀で斬り捨てて内部に侵入すると、室内にもかかわらずうっそうと草花が生い茂る妙な空間の中に、ポツンとベビーベッドが置いてあるのを見つけた。
ベッドまでの道行には妙な仕掛けが満載だったが、『意』を読む事を極意とする内家剣士には子供だましにもならない。
邪魔するモノを片っ端から叩き斬ってベッドを覗き込むと、そこには金髪の頭髪がまばらに生えた子ザルがいた。
これがアルトリアとみて間違いないだろう。
酷い感想だがそう見えたんだから仕方が無い。
まあ、新生児なんだから親に似てる云々なんてまだ分からんわな。
しかし、子ザル改め妹の気配が竜に似ているのはどういう了見なのか?
気にはかかるがそれはそれ。
妹の無事は確認できたのなら、今度はお袋さんに会わせてあげたいと思うのが人の情というものである。
善は急げとばかりにアルトリアを抱き上げて出口に向かったところ、待っていたのはあの胡散臭い魔術師。
『その子を連れて行ってもらっては困る』とか何とか言ってたが、そんな事は知った事ではない。
強行突破を図ろうとしたのだが、結果だけ述べると失敗した。
アルトリアは奪い返され、俺は脇腹に風穴が空く重傷を負わされて城から吹っ飛ばされた。
メイン相棒のナマクラ君もヘシ折られたのに、こっちが出来たのは奴の左目を潰して右手を斬り落とすことだけ。
悔しいが完全敗北だ。
あんなペテン師如きにこの体たらく、マジに修行の密度を上げねばなるまい。
あと、お袋さんと姉ちゃん。
妹に会わせてやれなくてごめん。
◇
妖精郷を模した工房の中で、主である花の魔術師マーリンは小さく唾を飲んだ。
普段は飄々とした態度を崩さない彼がこれほどに警戒を露わにする原因は、目の前にいる赤子を抱いた少年だ。
アルガ・ペンドラゴン。
いや、廃嫡された今ではただのアルガと呼ぶべきか。
ウーサーと共にブリテンを救う理想の王を創り出すという計画において、目の上のたん瘤というべき存在。
4年前に起きた家臣との些細な衝突を利用して排除に成功したのだが、まさかこのような暴挙に出るとは思わなかった。
剣の才があっても所詮は幼子と、千里眼を外した事に今更ながら歯噛みする。
「アルガ。君がここにいる理由は問わないし、ボクの工房に無断で立ち入った事も咎めない。だから、その娘を返してくれないかな?」
相手を刺激しない様に、出来るだけ優しくマーリンは言葉を紡ぐ。
あの小僧の目的が分からない以上、理想の王になるべきアルトリアに手を出されては堪らない。
「───妙な事を口にするな、ペテン師」
言葉と共に口元を吊り上げるアルガ。
そのこちらを嘲笑うような表情は、十やそこらの子供の浮かべるモノではない。
「この子は俺の妹だろ? だったら、『返せ』ってのは筋が違うと思うがな」
「その子の養育はボクが任されている。これはウーサー王の指示なんだけど」
「それは聞いた。けど、生まれてすぐに母親と引き離す事は無いだろ。言葉を話すとはいかなくても、首が座るまでは一緒にいさせてやれよ」
「それをボクに言われてもねぇ……」
「今、養育を任されたって言ってたろうが。だったら、そのくらいの裁量はあるだろ」
呆れたように言い放つアルガの言葉に、マーリンは内心で舌打ちをする。
彼の言う通り、そのくらいの裁量は自身の内にある。
だが、マーリンはアルトリアを純真無垢なまま養育する必要があると感じていた。
無私に徹し万民に愛を注ぐ理想の王。
その実現の為には、たとえ母親の愛でも要らぬ影響を与える可能性は排したかったのだ。
「悪いけどそれはできない。彼女はブリテンを救う理想の王として生まれ落ちた、その為に必要な教育というものがあるのさ」
「母親の、家族の愛を与えないことがかよ?」
「そうだよ。彼女は国民全てを愛さねばならない、それは只人には不可能なことだ。なら、そうでない彼女には誰もが与えられるようなモノは必要ない」
説き伏せようとするマーリンの言葉に返って来たのは、言葉ではなく刃を引き抜く鍔鳴りだった。
途端に吹き付ける刃のような殺気。
ここに来てマーリンは自身の説得が失敗に終わったのを悟った。
マーリンは身の丈ほどの杖を手に油断なく相手を見据える。
身に纏った黒ずくめの衣服は幻想種の皮を精霊が仕立てた一級の耐魔装備だが、手にしたショートソードは錆の跡が滲む鈍らだ。
相手が普通の子供であるならば一笑に伏すところだが、目の前にいるのは幼児だった頃ですら木剣で鉄を断ち切った怪童。
見た目で侮れば怪我では済まないだろう。
「こっちは穏便に済ませたいんだけどねぇ。言葉で解決する気は───ッ!?」
無駄口は不要、とばかりに振るわれた少年の斬撃を既のところで杖で防ぐ。
木が罅割れる乾いた音を耳にしながら、少年を振り払ったマーリンのコメカミから一筋の汗が流れ落ちる。
(あのナマクラで一級の魔術礼装であるこの杖を半ばまで斬るとか……!?)
空中でトンボを切って音もなく着地したアルガは、調息と共に構えを取る。
身の危険を感じたマーリンは杖の先から魔力を弾丸に変えて放った。
空を裂く光弾は5つ。
アルトリアの事が頭を掠めたが、それ以上に目の前の子供が危険と判断しての事だ。
込める魔力を加減しなかったそれらは、着弾すれば鎧を纏った人間でも容易く粉砕する。
いかに耐魔装備を纏っていたとしても、当たれば絶命は免れないだろう。
だがしかし襲い掛かる無数の凶弾は、薄闇を踊る白刃の輝線に見当違いの方向へと導かれて不発に終わる。
疾さ・威力に勝る魔力弾をいなす軽妙の技は、まぎれもなく戴天流剣法『波濤任櫂』。
『軽きを以て重きを凌ぎ、遅きを以て速きを制す』
これこそが四千年という時を費やして磨き抜かれた中国拳法の深奥『内家拳』の極意に他ならない。
「シッ!」
鋭い呼気と共に野生の獣を上回る速度で躍りかかるアルガ。
戴天流が一撃必殺の刺突技、貫光迅雷。
内家氣功術の一つ、軽功術の妙による踏み込みと共に放たれる突きはまさに雷光の如し。
練り上げられた内勁が込められた切っ先は、鈍らな外見とは裏腹に鎧の数倍の強度を持つマーリンの魔力障壁を容易く貫通する。
咄嗟に身を捻ったお蔭で臓腑を抉られることは無かったが、花の魔術師の腹には一本の赤い線が刻まれた。
「~~~~ッ!? 冗談じゃない!!」
そう吐き捨てると、マーリンは杖を持つのとは逆の手に黄金に輝く剣を出現させる。
湖の乙女のところで見た神造兵器のデッドコピー。
威力は本物に比べるまでもないが、一般の剣とは一線を画す性能がある。
だが、その光刃すらも刃が噛み合った瞬間に流れるようにいなされ、今度は両腿を薄く斬られた。
最早アルトリアの事など眼中に無いとばかりに、魔力による弾幕と剣からの衝撃波を放つマーリン。
それらは工房に生えた植物や王国の政務に関する書類、アルトリアの寝床すらも破壊するが、肝心の少年を捉える事はできない。
この時になってようやくマーリンは認識を改めた。
目の前にいる者は断じて子供ではない。
超一流、それこそ精霊すらも斬殺せしめるほどの剣士であることを。
そうと分かれば容赦などする余裕はない。
魔力を込めた杖で床を叩くと、周囲に張り巡らされた植物が一斉にざわめき始める。
ここはマーリンの魔術工房だ。
使用目的の大半が息抜きとはいえ、侵入者迎撃用の罠など幾らでも用意している。
現状におけるマーリンの優先度は一つ目は自身の生存、二つ目は襲い来るアルガの撃退、アルトリアの救出はその次に来る。
言い方は悪いが、自身とウーサー、イグレーヌがいればアルトリアの代わりを作る事は可能なのだ。
だがしかし、ここで自身が命を落とせば理想の王によるブリテン救済自体が露と消えてしまう。
だからこそ、マーリンの攻撃には容赦はなかった。
一方、アルガは突如として己を包囲した悪意に困惑しつつも、その対処に追われていた。
周囲を取り巻く色とりどりの植物、それらが一斉に牙を向く。
彼等の葉は鋭利な刃、伸びた茎は鋭い槍に、長く垂れ下がった蔦は空を切る鞭へ、そして種を蓄えて膨らんだ実は近づいたものを蜂の巣にするクレイモア地雷さながらのトラップに。
放たれる魔術攻撃に加えてそれらを孤剣一つで捌き切る事は、さしものアルガにも困難だ。
致命の傷は逃れているものの、胸の中で眠るアルトリアを庇っている事もあって彼の身体は全身傷塗れになっていく。
それでも少年の眼光は鋭さを失っていない。
否、それどころかさらにギラギラと凶刃の如くその光を強めている。
「カ…カカッ……!」
吊り上がった口元から漏れ出したのは、笑い声か。
襲い掛かってくる木を一刀の下に斬り捨てたアルガは、白刃で作り出した洞にアルトリアを隠すと軽功術によって風の速度でその場を離れる。
そして自由を取り戻した手をたなびくコートのポケットに入れ、中に仕込んでいた物を地面に撒いた。
瞬間、耳をつんざく爆音と共に紅蓮の炎が工房の天井を焦がす。
「こんな場所で火をッ!! 正気かっ!?」
半ば悲鳴のような声を上げ、慌てて消火を行おうとするマーリン。
ここで彼は二つの事を失念していた。
一つは、消火に手を取られて自身を護っていた弾幕が途絶えた事。
もう一つは工房の結界が破られるまで、アルガが城内にいるのに気づけなかった事だ。
工房の主が立ち昇る炎に向けて杖を構えたその瞬間、物音一つ立てずに背後の茂みから飛び出した少年はその首へと白刃を振るう。
「~~~~~ッ!?」
完全に自分の虚を突いた襲撃に、声なき悲鳴と共に全力で足掻くマーリン。
それが功を奏したのか、刃の軌道上に振り上げられた腕が割り込み持っていた杖ごと両断された。
同時に限界を迎えたアルガの剣もまた、錆の跡が浮いた刀身の半ばから折れ飛んだ。
鮮血と共にクルクルと宙を舞う己が手首と相手の凶刃。
それを視界の隅に収めながらも襲撃者に向き直ろうとした瞬間、柔らかい物が潰れるような音が頭の中に響き、激痛と共に左目が闇に覆われる。
「ぐあぁっ!?」
漏れた苦鳴と共に目に刺さったモノを抜こうとすれば、残った目に映るのは自身に腕を掴まれながらもゾッとする様な眼光を浮かべるアルガの姿。
そして掴まれたのと逆の腕が懐から新たな刃を取り出そうとしているのが見えた瞬間、マーリンは持てる魔力の全てを使って少年を吹き飛ばした。
残された視界を白に染める魔力光が収まった後には、進路上の物を全て吹き飛ばした上に壁に空いた大穴があった。
命を脅かす脅威が去った事に脱力したマーリンは、部屋の隅の方からか細い赤子の泣き声を耳にした。
疲労困憊の身体に鞭を打って向かってみると、縦に掻っ捌かれた木の穴の中で泣き声をあげるアルトリアの姿があった。
「よかった、運良く無事だったみたいだ。もう一度作るとなると、色々手間だからねぇ」
割と最低な事を漏らしながら、マーリンはその場にへたり込む。
あの小僧を呼び寄せたのはイグレーヌかモルガンだろうが、両名の処分を求めるのは難しいだろう。
王であるウーサーはイグレーヌにぞっこんだし、かといってモルガンに責が及べばそのイグレーヌが黙っていない。
アルガ追放やアルトリアの件がある所為で、ただでさえウーサーや自身に対するイグレーヌの心象は最悪なのだ。
これ以上何かあれば、モルガンを伴って逃亡するか、最悪の場合は親子心中でもされかねない。
そうなれば、ウーサーも使い物にならなくなるだろう。
彼にはアルトリアがある程度成長するまで、国体を維持してもらわねばならないのだ。
そういったトラブルは避けるべきだろう。
「やれやれ……。これはボクが黙っているしかないかなぁ」
深々と溜息を付くと、マーリンは断たれた手首を付け合わせて治癒魔術を始めるのだった。