剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました、FGOの五話です。

 ようやく第一特異点に足を踏み入れることが出来ました。

 メンツが増えて大変ですが、なんとか書き分けていきたいと思う所存。

 ガチャでまったくカスリもしなかった紫式部よ、オラに文才を分けてくれ!!


剣キチが行く人理修復日記(4)

 星見台人理修復記 5日目

 

 

 先日の親父殿の件を聞いてモードレッドとミユちゃん、アルトリアが自分のサーヴァントを連れてやってきた。

 

 身内3人は分かるとして、なんでサーヴァント連中までやってきたのかと問うたところ、

 

 赤のセイバー改めモーさん『母上やあんたみたいな非常識な奴を生んだ親の顔が見たかった』

 

 親ってお前、お袋さんとはルーマニアで会ってるじゃないか。

 

 あれだけ甘やかされてたのに忘れたのか?

 

 アーチャー『なに、アーサー王伝説に深く関わる人間の顔が見れると聞いて、興味が沸いたものでね』

 

 アーサー王関連の人間なら本人も含めてこの部屋にゴロゴロしてますが、なにか?

 

 リリィ『師匠の顔色が優れないので、心配でついてきました』

 

 ええ娘や……。

 

 ともあれメンツが揃ったところで妖精郷へ通信を飛ばしてみたのだが、端末に出たガレスが言うには生憎と親父殿は出動中とのこと。

 

 仕事中ならば邪魔しては悪いという事で、予定を変更してガレスを相手に近況報告や雑談を行った。

 

 ルーマニアで仲の良かったモーさんは通信越しとはいえ再会できたことを喜び、子供達はサーヴァントのマスターになった事を自慢していた。

 

 アーチャーはというと『サー・ガレスは騎士と聞いていたが、どう見ても深窓の令嬢にしか見えん』と自身の知識との齟齬に首を傾げていたが。

 

 ウチの長女は正真正銘箱入り娘である、間違っても騎士になんぞなれません。

 

 ガレスの方はモーさんの他にも、波長が合ったのかリリィとの会話も弾んでいた。

 

 そんな感じで楽しい時間は終わったのだが、考えてみれば当初の目的はまったく果たせていない。

 

 せめて姿でもと思ったので、子供達には姉御から送られてきた合体バンクの動画を見せておいた。

 

 正直なところ自分でもどうかと思うのだが、現在手元にある親父殿が映ってる映像記録がこれだけなのだから仕方がない。

 

 モードレッドやミユちゃんは家族が変形合体するのに慣れているので割とアッサリ受け入れてくれたが、『どの辺が爺ちゃんなのか』に関しては開発責任者に聞いてもらいたい。

 

 付き添いのサーヴァント連中に関しては案の定度肝を抜かれていたのだろう、完全に呆気に取られていた。

 

 しかし雁首揃えて白目をむくとは情けない。

 

 というか、モーさんに関してはナマで陛下を見てるんだから、このくらいは予測できそうなものだろうに。

 

 ともかく妖精郷ではこんなの日常茶飯事なのだ、俺達と付き合うつもりならさっさと慣れてもらいたい。

 

 それと子供たちの世話をしていて気づいたのだが、俺も今に至るまで親父の顔を見た事がない。

 

 生前はどうしようもないとして、ロボになった今くらいは面通し程度はしておかねばならんだろう。

 

 合体動画ではロングショットな上に、あっという間に分離してしまうので殆ど確認できないし。

 

 あと、アルトリアが親父殿にかなり負い目を感じているようなのでフォローしておいた。

 

 会った場合は先手を取って『クソ親父がすみません』と土下座するつもりと言っていたけど、お前は親父殿に何もしていないんだからそこまでやる必要はありません。

 

 出生云々に関してはお袋さん達がフォローしてくれてるだろうし、一度シャットダウンさせたという俺等の結婚報告に比べたら軽い軽い。

 

 なによりアルトリアはお袋さんそっくりなので、向こうも無碍(むげ)にはできんだろうさ。

 

 万が一、親父殿が文句を付けてきても俺がナシを付けてやろう。

 

 顔も憶えていないメカな父親と可愛い妹、天秤がどちらに傾くかなど言うまでもないしな。

 

 

 星見台人理修復記 6日目

 

 

 スタッフの尽力によって模擬戦闘シミュレーターが復旧した。

 

 これはレイシフトシステムの応用によって、カルデア施設とは切り離された訓練空間へと使用者を転移させるものだ。

 

 サーヴァント同士がぶつかり合えば、その余波だけでも周辺に甚大な被害を及ぼす。

 

 当然、人類最後の砦となったカルデアの施設内で、そんな真似が許されるはずがない。

 

 とはいえ英霊だって元は人間である。

 

 長期間戦場に立てなければ、肉体的にはともかく勘や感覚は鈍るのは避けられない。

 

 館内にはトレーニングルームも設置されているが、人間用のそれではサーヴァントが使用しては一たまりもないだろう。

 

 そういった問題点を一挙に解決するのがこのシミュレーターだ。

 

 疑似的な訓練空間ならばサーヴァントがどれだけ暴れようと施設に被害は出ないし、システム的につながっているので万が一の事があっても登録された霊基で再召喚が可能となる。

 

 実際、俺も体験してみたがなかなか良い修行場だったと思う。

 

 相手を買って出てくれたクー・フーリンも花丸判定を出していたしな。

 

 明日からはここで鍛錬を積むことにしよう。

 

 それとクー・フーリンの必殺技だが、やはりと言うか師であるスカサハには及ばないようだ。

 

 威力や速度が同レベルでも、彼の場合はあまりにも『意』を放ちすぎている。

 

 あと専用の構えを取らないと撃てない事もいただけない。

 

 あれでは今から撃ちますと宣言しているようなものである。

 

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)』という技は、連撃の中に織り交ぜて相手の不意をついてこそだと思うのだ。

 

 事前に撃つ事が察知されてしまっては、せっかくの因果逆転の呪いも槍の間合いを外されたり撃つ前に潰されたりで、宝の持ち腐れになりかねない。

 

 以前に不意打ちしてきたスカサハは、因果逆転の呪いは無かった代わりに『意』がかなり抑えられていたものだが……。

 

 まあ、あれは長年に渡る修練の成果といったところだろう。

 

 この辺のことを伝えると、クー・フーリンは『あの女と()り合ったことがあるのかよ。……道理で打ち筋が読まれるわけだぜ』と苦い表情を浮かべていた。

 

 もっとも目の方は表情とは裏腹にギラギラと燃えていたので、このままで終わることはないようだが。

 

 そう言えば、模擬戦が終わった後でクー・フーリンが立香ちゃんに滅茶苦茶怒られていたが何だったのだろう?

 

 途切れ途切れに聞こえる声からは『ゲイボルグ』がどうとか言っているようだったけど。

 

 もしかしたら、マスターの許可無しに宝具を使用したのがご立腹だったのかもしれないな。

 

 あと、モードレッドも自身のサーヴァントであるモーさん相手に打ち込み稽古を行っていた。

 

 さすがにこっちは竹刀を用いていたが、あの子は英霊の太刀筋に対応して五分近い形で打ち合っていた。

 

 試合後の感想はモーさん曰く『攻撃がフニャフニャいなされて、やりづれぇ』。

 

 一方のモードレッドといえば『モーさんのビリビリかっこいー! オレもマネできるかな?』と目を輝かせていた。

 

 モーさんの魔力放出は騎士王由来の為、ウチの末娘には無理である。

 

 そう説明するとほっぺを膨らませて不満気だったので、代わりに機会があれば硬氣功を教えてやろうと思う。

 

 生身で超合金になれると言えば、あの子の事だから機嫌を直してくれるだろう。

 

 モードレッド達の稽古の所感だが、ウチの娘はそのまま修練を積めばいいとして、モーさんに関してはやはり魔力放出の反動による隙が目立つ。

 

 彼女の場合、アルトリアと違ってブリテン仕込みの騎士剣術と喧嘩殺法の融合である為に矯正はなかなかに困難だ。

 

 下手に型に嵌めてしまえば、彼女のスタイルである無手勝流の長所がスポイルしかねない。

 

 やるとしたら剣術の部分で隙を抑えつつ、喧嘩殺法に関しては彼女のセンスに任せるといった感じか。

 

 まあ、こちらが手を出すのは彼女が助言を聞く事が前提だが。

 

 最後に使用したのはアルトリア。

 

 リリィとマシュ嬢を引き連れて行ったのは基礎訓練だった。

 

 リリィに対しては魔力放出による弊害の説明と、反動を打ち消すために身の熟しの実践。

 

 マシュ嬢に行ったのは防御の基礎、盾の構え方や受け方などの練習であった。

 

 いつもはグータラでおちゃらけている妹だが、この時ばかりは真剣そのもの。

 

 王様業務の経験からか、伝える力や受講者へのけん引力など指導者としての手腕も悪くない。

 

 説明の後に一度やって見せ、本人にやらせた後で改善点を指南する。

 

 あれだけ丁寧ならば、教えを受けている彼女達は確実に上達するに違いない。

 

 そう言えば、俺は以前までカルデアのスタッフの中でマシュ嬢だけを呼び捨てにしていたようだ。

 

 立香ちゃんに指摘されるまで気づかなかったところを見るに、完全に無意識の行動だったのだろう。

 

 少々疑問に思って考え直していたのだが、今日になってようやくその理由が分かった。

 

 マシュ嬢がデミ・サーヴァントとして武装した際の気配が、ギャラハッドによく似ているのである。

 

 ロマニ医師を始めとするカルデアメンバーの証言では、マシュ嬢と融合したサーヴァントの真名は分からないと言っていた。

 

 俺の感覚がポンコツでなければ、彼女に憑いているのは恐らく並行世界のギャラハッドという事になる。

 

 ……しかしシールダーか。

 

 ギャラハッドに関してはウチの末息子のイメージが強いので、盾というのがなかなかに結びつかない。

 

 これは再度並行世界のアーサー王伝説を確認する必要がありそうだ。

 

 

 星見台人理修復記 7日目

 

 

 オルガマリー所長が退院した。

 

 死亡+肉体損失のコンボから復活したという事で長期に渡る検査が行われていたのだが、結果はまったくの健康体だそうな。

 

 復活時に付与されたレイシフトやマスター適性も問題なく確認できた為に、彼女もマスターとして活動するらしい。

 

 人理焼却から暗い話が続いていたカルデアにとって久々の朗報である。

 

 喜色を露にする者にほっと胸を撫で下ろす者など、スタッフの面々にも明るさが戻ってきている。

 

 そんな所長であるが、立香ちゃん達がサーヴァントを呼び出したと聞くと『私もやるわ!』と召喚ルームに飛び込んでしまった。

 

 害意を持つサーヴァントが現れたら危険という事で、護衛として俺も彼女の召喚に立ち合うことになった。

 

 こういうのは普通サーヴァントがやるのでは?と所長に聞いたところ、先に呼ばれたサーヴァントが隣にいたらムカついて集中できないというアレな答えが。

 

 一番じゃないと気が済まないって、子供かいな。

 

 ともあれ、彼女は現状におけるカルデアのトップを張るお嬢ちゃんである。

 

 多少の我儘は聞いてやるべきだろう。

 

 急遽徴収されてきたマシュ嬢の盾に聖晶石を落とし込み、所長は召喚の呪文を淀みなく唱える。

 

 それに応えるように盾の上に魔力が踊り、三つの光輪が形成された後で立ち上るエーテルの先にあったのは、黒のフードと髑髏の仮面を付けた褐色の肌を持つ女性であった。

 

 呼び出されたのはアサシン枠としてはスタンダードなイスラム教の伝承に残る「暗殺教団」の歴代教主の一人、『百貌(ひゃくぼう)』のハサンというらしい。

 

『我ら影の群れを従えた以上は勝利も必至。ご安心召されよ、マスター』

 

 そう言葉を紡ぐ自らのサーヴァントに安堵の息を吐くと、所長は彼女を連れ立って召喚ルームを後にした。

 

 しかしあのサーヴァント、出ていくときに俺の方をジッと見ていたのだが、何処かで会ったことがあるのだろうか?

 

 所用も済んだので出て行こうとしたところ、今度は管制室にいたロマニ医師から呼び止められた。

 

 医師曰く、英霊召喚システムにはサーヴァントの霊核の欠片である聖晶石を触媒にした高位召喚と、カルデアの電力を変換した魔力のみで行う低位召喚があるらしい。

 

 で、彼はその低位召喚の実験を俺にしてほしいというワケだ。

 

 正直言ってこれには困った。

 

 四次聖杯戦争の際に聞いた話では、英霊召喚とは具体的な触媒がなければ召喚者の相性でサーヴァントが召喚されるらしい。

 

 俺と相性のいいサーヴァントなんて、軒並みロクデナシに決まっている。

 

 そう説明して最初はNOを突き付けていたのだが、低位召喚なので強力な英霊が出ないことに加えて『ヤバいサーヴァントが来た場合は、こちらの判断で抹殺していい』なんて条件を付けられてしまっては断れない。

 

 渋々と所々はしょった召喚の呪文を唱えてみると、出てきたのは脈打つ赤い斧を持つ角が生えた筋骨隆々の大男と、全身真っ黒な怪しい少年だった。

 

 最初に出てきたのはエイリーク・ブラッドアクス。

 

 血斧王の異名を持つバイキングで、姉御のネット友達の旦那さんらしい。

 

 最初はバーサーカーらしく喋れない演技をしていたのだが、奥さんからOKが出たようで途中から普通に話すようになった。

 

 彼が言うには奥さんはちょっぴりヤキモチが強いため、女性と話して無用な被害を引き起こさないために言葉が通じないフリをしているのだとか。

 

 これを聞いたときはとってもシンパシーを感じてしまった。

 

 きっと彼とは仲良くなれると思う。

 

 因みにエイリーク殿の奥さんの名前はグンヒルドという。

 

 名前を聞いて思い出したけど、この前妊娠中の姉御に滋養強壮や悪阻を抑える生薬を送ってくれたいい人である。

 

 魔術で旦那さんと繋がっているということなので、これを機にお返しを渡しておいた。

 

 ウチで採れたワーム肉と飛び跳ねキャベツ、口に合えばいいのだが。

 

 で、続いて現れたのはアヴェンジャーのアンリ・マユ。

 

 なんと冬木の聖杯をバッチくしていた汚染の元である。

 

 どうもあの時ぶった斬った事で縁が繋がってしまったらしい。

 

 本人曰く、どこかの世界の俺は奴を相棒として悪逆の限りを尽くしたらしいのだが、できれば風評被害と思いたい。

 

 というか、これって闇堕ちした俺がいること確定じゃなかろうか。

 

 『この世全ての悪』を自称するだけあってイタズラ坊主っぽい奴なので、いらん事したらブン殴ると釘を刺しておいた。

 

 これで当面は大人しくしてくれればいいが……

 

 余談だがロマニ医師はアンリ・マユが出てきた時点で、ひっくり返って医務室に運ばれたらしい。

 

 医者の不養生とは恐ろしいものである。

 

 彼の早い復帰を切に願おう。

 

 

 星見台人理修復記 8日目

 

 

 本日、観測班の努力が実って第一特異点が発見された。

 

 地球環境モデル・カルデアスが示したのは西暦1431年、百年戦争時代のフランスだ。

 

 ロマニ医師曰く、この時代の著名な英雄は聖女ジャンヌ・ダルクやフランス元帥ジル・ド・レェだそうな。

 

 人理が焼却されてから初となる特異点修復ということで、今回は全マスターが参加する形となっている。

 

 正直なところ戦時中という事なので子供たちは置いていきたかったのだが、ミユちゃんとモードレッドから強硬に反対された。

 

 ミユちゃんの目は神使になるって決めて、姉御たちを説き伏せた時と同じだった。

 

 これは生半可な説得では逆効果だ。

 

 下手に置いていくと管制室の職員を操ってでも追ってきかねない。

 

 あの子が動けばモードレッドも付いて行くだろうから、被害は二倍になる事が確定している。

 

 仮にそうなってしまっては、フランス全土が対象であるこの特異点では遭難する可能性もある。

 

 ここは一緒に連れて行った方が得策だろう。

 

 事前の行動指針としては、到着と同時に所長のアサシンを斥候として派遣。

 

 特異点の状況を確認しつつ、現地の龍脈を使ってカルデアとの中継ポイントを確保し補給路を形成する。

 

 あとは知りえた情報によって臨機応変に対応していくといったところだ。

 

 かなり行き当たりばったりな代物だが、特異点の内側の様子が掴めない以上は仕方がない。

 

 先行きは不透明だが、全員が元気で戻ってくることを目標に頑張ろうではないか。

 

 

 

 

 青い空、そよぐ風、緑が生い茂る丘、そして巨大な竜を中心として天を覆うワイバーンの群れ。

 

 さすがは特異点、たった一つおかしい点があるだけで牧歌的な雰囲気が世紀末に早変わりである。

 

「ワオ、すっげえ。これ、死んだわオレ」 

 

「まさか、このような場所に出るとはな」

 

 ジュラ紀もかくやの光景に、さすがのサーヴァント二人も呆気に取られている。

 

 エイリーク殿はともかくアンリ・マユは諦めるの早すぎである。

 

 この程度、笑って切り抜けられなければ俺のサーヴァントは務まらんぞ。

 

「何言ってんの。オレってば自他ともに認めるクソ雑魚英霊よ? 竜種なんかと戦ったら骨も残らねーって」

 

 なんてセリフのわりに余裕しゃくしゃくで肩をすくめて見せるアンリ・マユ。

 

 ともかく状況を切り抜けないとならんわけだが、他のメンツはどこにいったのか? 

 

「どうやらこの場所には現れていないようだ。もしかしたら、我々だけ転移に不具合があったのかもしれんぞ」

 

 それはまた何ともハードラックな事である。

 

 まあ、手勢が足りないくらいその気になれば何とでもなるので、この状況に子供達が巻き込まれなかったことを良しとすべきか。

 

「私の狩場に現れた者がいると思えば、貧弱な英霊と無能なマスター一人とは。飛んで火にいる何とやらとはこの事でしょうか」

 

 空から降り注ぐ声に目を向けると、地面に降り立った巨大な黒竜の肩に誰かが乗っているのが見て取れた。

 

 蝋のような白い肌に銀灰色の髪、そして濁った金の瞳とヤケに見慣れた色彩の女は、その身に黒い甲冑を纏って竜が描かれた同色の旗を掲げている。

 

「悪いね、お嬢さん。君の縄張りに踏み入ったのは事故なんだ。大目に見てくれるとありがたいんだが」

 

「却下です。この竜の魔女ジャンヌ・ダルクの前に立った者は、何人であろうとも焼き尽くされる運命にある。お前達にできるのは、命乞いではなく己が罪深さを懺悔しながら死ぬことだけよ」

 

 邪悪な笑みと共にこちらの提案を一蹴する女。

 

 ジャンヌ・ダルクと言えば、この特異点が発生した時代を代表する聖女のはず。

 

 それがあの有様で自ら魔女と名乗るとは、冬木にいたセイバーのように奴も特異点形成に関係があるのではないだろうか。

 

「どうする、アルガ殿」

 

 旗を掲げた竜の魔女に合わせるように牙を剥き出しにするワイバーンの群れ。

 

 それを真っ向から睨み返すエイリーク殿の顔は、バーサーカー詐欺と揶揄される理知的で気さくな雰囲気は無い。

 

 赤く充血した瞳と獰猛さを隠そうとしない凶相は血斧王の名に恥じないものだ。

 

「一つ確認したい。ジャンヌ・ダルク、君はこの特異点に何か関係あるのか?」

 

「随分と愚かな質問だこと。愚者に知恵を授けてあげるので、耳をかっぽじってよく聞きなさい」 

 

「耳をかっぽじってって……。聖女のフリしようとして素が出てねぇか、あの嬢ちゃん」

 

「シッ」

 

 後ろでいらんツッコミを入れようとしていたアンリをエイリーク殿が(たしな)める。

 

 幸いこちらの会話に気付いていないお蔭で、ジャンヌの上から目線の講釈は中断されることはなかった。

 

「紡がれた人類史の変革が特異点だというのなら、この竜の魔女こそがその中心なのでしょう。何故なら、我が憎悪と竜の群れによってフランスは焼き尽されることになるのだから!!」 

 

 自分で言っていてテンションが上がったのだろう、ドヤ顔で旗を振りかざすジャンヌ。

 

 何気にベシベシ横っ面に()が当たっている竜はいい迷惑だろうに。

 

 しかし、思わぬところで言質(げんち)が取れてしまった。

 

 初っ端からクライマックスなんて予想もしていなかったが、こうなっては仕方がない。

 

 俺は腰に下げていたアロンダイトの柄を握ると、踏み出した一歩と共に鯉口を切る。

 

「ヤベェ……。おっさん! マスターを止めろ!!」

 

「な、なに?」

 

「ヤロウがあの顔になった時は、大抵こっちが考えている斜め上の事態を引き起こすんだよ!! 絶対シャレにならねぇから早く!!」

 

 背後でアヴェンジャーが騒いでいるが、気にしている余裕はない。

 

 あのイタズラ小僧は割とどうでもいいとしても、エイリーク殿は姉御の友達の為にも無事に返さねばならん。

 

 そのためにもだ────

 

 特異点のボスが相手なら、ビームを使わざるを得ない!!

 




次回『特異点崩壊』

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