剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 あとがき用の小ネタにしようと思っていたのですが、けっこうな分量になったので普通に上げてみる事にしました。

 色々とツッコミどころはありますが、楽しんでいただければ幸いです。


小ネタ 剣キチ召喚事情 IF

小ネタ 剣キチ召喚事情 IF

 

 

1.暗黒剣キチの場合

 

 

 渦を巻く魔力の中、三つの光輪が消えると次に浮かび上がったのは金色で描かれた毛皮を被った狂戦士の絵柄だった。

 

『そんな馬鹿な!? 低級召喚で高位を示す金のセイントグラフが浮かびあがるなんて!』

 

 ロマニ医師の驚愕の声を上げる中、渦巻くエーテルはさらに勢いを増す。 

 

 そうしてサーヴァントが現界しようとした瞬間、俺の直感は最大級の警鐘を鳴らした。

 

『どうしたんだい、アルガ君?』 

 

 素早くアロンダイトを抜き放ち、峨眉万雷の型に構えた俺の耳をロマニ医師が声が打つ。

 

 だが、生憎と今の俺にはそれに応える余裕はない。

 

 エーテルと魔力が生み出す光の柱でも隠しきれない明確な鬼氣。

 

 間違いない、一番ヤバいのを引き当てちまった。

 

「クカッ……カカカカ…………ゲェハハハハハハハハハハハハハッ! 六塵散魂無縫剣!」

 

 狂気と愉悦を感じさせる(ひび)割れた声と共に光の柱を突き破ったのは十二条の剣閃。

 

 それに一呼吸置いて、こちらも秘剣を開放する。

 

「六塵散魂───無縫剣!」

 

 次の瞬間、超音速の生み出した衝撃波が召喚ルームを駆け巡った。

 

 音を置き去りにして咬み合う刀の数は十二、いずれも必殺の威力を込めた一撃だ。

 

 エーテルの残滓を斬り刻みながら、閃光と化した相手の刺突をアロンダイトは弾き、逸らし、いなしていく。

 

 外れたお互いの剣圧が特殊合金製の壁を深く抉る中、ついに最後の斬撃が刃鳴と共に打ち上げられた。

 

 相手はこれで打ち止めのようだが、生憎とこちらはそうではない。

 

 刹那の間に疾った六条の閃光は、魔力の柱が消えるよりも早くその先にいる者を寸断した。

 

 五体をバラバラに刻まれ、魔力へと還って逝く恐らくは俺だった者。

 

 落下する奴の生首は、消える寸前に鬼相の口角を釣り上げながらこう言った。

 

『必ず、貴様を超えてやる』

 

 やれやれ、我ながら見上げた執念である。

 

 剣にイカレたまま成長すると、あんな風になるのか。

 

 ホント、姉御には感謝しかないわ。

 

 この一件の影響により召喚ルームの復旧は1月以上の時間を必要とし、俺の召喚はカルデア一級禁止事項と定められる事となった。

 

 だから言ったのに……。

 

 

2.ふうまの若様の場合

 

 

「ええと第16代……いや17代だっけ? とにかくふうま小太郎です。クラスはアサシンらしいっす。生前は忍者してたんで汚れ仕事には慣れてます。ま、死なない程度にコキ使ってください」

 

 召喚によって現れたのは、ハート型で禍々しいデザインをした仮面を被った十五、六才の少年だった。

 

 くすんだ青色の髪に褐色の肌。

 

 着ている服装も防弾仕様であろう黒のコートに同色のインナーとスラックスと、彼の言う忍者要素は手にした日本刀だけだ。

 

 身なりの事は脇に置くことにした俺は、まずは実力を見せてもらう為にトレーニングルームへ彼を連れて行った。

 

 手始めにシミュレーターでゴブリンや獣人等と戦わせてみたのだが、そこで俺は目を見開くことになった。

 

 なんと小太郎が使う剣術が内家戴天流だったのだ。

 

 しかもその腕前も免許皆伝レベル以上。

 

 となれば、同門として手合わせせずにはいられない。

 

 さっそく模擬刀を使っての打ち合いを行ったのだが、結果はかなり満足のいくものだった。

 

 さすがに1500年以上も鍛錬を重ねた俺には及ばないが、小太郎の腕は『前世の俺』よりも確実に上だった。

 

 ただ妙なのは、技や動きの随所に俺と同じ癖が見られることだ。

 

 もしやと思って確認を取ってみたところ、まさかのビンゴ。

 

 小太郎は俺と前世を同じくする別の可能性だったのだ。

 

 これにはさすがに双方で度肝を抜かれたが、起源は同じでも全く別の二度目の人生を歩んだ時点で別人と言っていい。

 

 結局、従兄弟や親戚くらいで考えておけばいいとお互い結論を出した。

 

 こうして始まった主従関係だが、小太郎は公私の区別をしっかり付けるタイプらしく、任務中は何があろうと俺の事をマスターと呼ぶのを崩さない。

 

 転じてプライベートになると、アルガ師兄と気軽に接してくれる。

 

 俺との手合わせで戴天流の新しい可能性を見つけるのが楽しいらしく、暇をしている時はトレーニングルームに引っ張られることも多い。

 

 確かに双方にとって良い経験になるのだが、あまりやりすぎるとモードレッドが拗ねるのでほどほどにしてもらいたい。

 

 あと、お互いの歩んだ人生について話すのだが、没落した一勢力を復興するレベルでしっかり忍者の頭領をやっていたのには驚いた。

 

 あちらの二回目も大概波乱万丈だったらしく、6歳で鉄火場に放り出される等々奴さんも大概運がなかったようだ。

 

 まあ、廃嫡食らったこっちも似たようなもんだったけど。

 

 小太郎は現代の英霊で忍者というレアな立場だったことあり、サーヴァント同士が食堂でくつろいでいる時には色々と話をせがまれていたようだ。

 

 ある時、アーチャーが『今までで最悪だった任務は何だったかね?』と聞いた事があったのだが、返ってきたのは予想の斜め上の答えだった。

 

『性的に未経験の14歳の女の子を奴隷娼婦として敵陣に送り込んだ伊賀忍者の後始末』

 

 聞いた者全てが聞き直すくらいに荒唐無稽な内容だったが、小太郎曰く事実らしい。

 

 奴の語りでは、その女の子は任務中に行方不明になった母親を探すために作戦に志願したそうだが、人生経験の足りない女の子に務まるはずがない。

 

 目的地に到達する前に身柄を拘束され、本当に奴隷娼婦として調教されてしまったんだそうな。

 

 当然の帰結と言えばそれまでだが、悲惨にもほどがある。

 

 他にも吸血鬼の女王を助けたNINJYA騒動や囚われた姉貴分の救出任務など、小太郎の体験には聴きごたえのある話が多い。

 

 剣の腕が立つ上に話術も得意、団体の統率もこなして潜入・暗殺も可能と、よくよく考えたら奴はかなりのハイスペックである。

 

 何より起源は同じなれど違う人生を歩んだ自分なのだ。

 

 背中を任せるのに、これほどの適役はそうはいない。

 

 低ランク召喚と聞いていたが断言しよう。

 

 俺は間違いなく当たりサーヴァントを手に入れたと。

 

 

3.弓王(知り合い)の場合

 

 

召喚

 

剣キチ「お、なんか金の射手の絵が出てきた」

 

ロマン「だから、なんで低レア召喚で金枠が出るのさ!? おかしいから! それ絶対におかしいから!!」

 

剣キチ「それで本音は?」

 

ロマン「うらやま氏ね!!」

 

剣キチ「よく言った。褒美(ほうび)に貴様のマギ☆マリとやらのデータが保存してるPCに、紫電掌をたらふく馳走してやろう」

 

ロマン「やめてください、しんでしまいます」

 

弓王 「姉上、行きますよ~! ってどこですか、ここはッ!?」

 

剣キチ「またアルトリアが釣れたか。でも水着姿とはレアだな」

 

弓王 「貴様はデスクィーン師匠!?」

 

剣キチ「その呼び方を知ってるって事は第四次のセイバーだな。しかしお前さん、ブリテンのやり直しを願ってサーヴァント卒業したんじゃなかったっけ?」

 

弓王 「そうですよ! あのクソッタレな王様生活を終えて、ようやく姉上と妖精郷でまったり過ごしていたんです! なのに、どうして私を呼び出したんですか!?」

 

剣キチ「なんでと聞かれてもガチャ運としか言いようがないんだが……。それはともかく、かくかくうまうまで人類の危機だ。協力を要請する」

 

弓王 「それって私要りますか? 貴方が解決に乗り出すなら『もう、あいつ一人でいいんじゃないかな』理論で、その人理なんたら事件も終わると思うんですが」

 

剣キチ「そんな事はない。俺にだって出来ないことは山とある」

 

弓王 「仮にそうだとしても労働なんてゴメンです。私はブリテンにいる時に一生分働きました、あとは姉上とキャッキャウフフしながら暮らすんです!」

 

剣キチ「何故アルトリア属は王様を終えるとニートになるのか?」

 

弓王 「そんなのブリテンの王位が『たけしの挑戦状』並みにクソゲーだからに決まってるでしょう」

 

剣キチ「正論過ぎてぐうの音も出ない。だがしかし今は人類滅亡の危機、ここで引き下がるわけにはいかん。考え直すがいい、セイバー改めアーチャー。ウチの愚妹だってニートを脱却して働いてるんだぞ、こんな風に!」

 

ニート「どうも、ニートです」

 

弓王 「開口一番、ニートって言ってるじゃないですか」

 

剣キチ「口だけだ、口だけ。今だってお前さんの未熟な頃と一緒に剣術の修行に励んでいたはずだ。そうだろう、妹よ」

 

ニート「リリィと一緒に三蔵の前で『西遊降魔録』をしてましたが、なにか?」

 

弓王 「思いっきり遊んでますけど」

 

剣キチ「『西遊降魔録』ってあれだろ。負けたら悟空、悟浄、八戒が悲鳴上げて破裂するレトロゲー。三蔵の前でやるとか悪意しか感じないんだが」

 

ニート「こっちがワンミスする度に『ごくうぅぅ~!?』ってマジ泣きしてましたね」

 

剣キチ「確信犯か、この外道」

 

ニート「暇つぶしにやってみた、後悔も反省もしていない。しかし、またしても異世界の私ですか。妙に近しい匂いを感じますが、いい加減にしてもらいたいものです」

 

弓王 「肝心の妹さんもそう言ってるじゃないですか! これで分かったでしょう、アルトリアは使命を果たしたらニートしていいんです!!」

 

剣キチ「ぐぬぬ……。愚妹め、これでは反論できんではないか」

 

弓王 「だいたい、ブリテン王様ループという無間地獄を抜け出した私に働けとか、どんな鬼畜な所業なんですか」

 

ニート「なにそれ、こわい」

 

剣キチ「ループについて詳しく」

 

弓王 「原理は分かりませんが、やり直しを始めたら死ぬ度に選定の儀に戻るんですよ。姉上が言うにはアラヤが私を駒として拉致るために心を折ろうとしてたとか」

 

剣キチ「野郎、まだ諦めてなかったのか」

 

弓王 「本当に気が狂いそうでしたよ。戦場で死んだり、国が滅亡したり、事故死したり、謀殺されたり。最初はなにくそと歯を食いしばっていましたが、30回を超える頃からそんな気概は無くなりました。そこから先は死ぬ度に今度こそ楽になれるようにと期待する日々です。それなのに気が付いたら目の前に選定の剣があるんですから、渾身のヤクザキックをかましても許されるはずです」

 

ニート「うわぁ…………」

 

弓王 「国を救う政策だって搾りカスも出ないくらいに考えましたが全部無駄。どんな手を講じても斜め上の事態が起きて国ごとオシャカです。寝取り野郎とビッチは毎回毎回不倫するし、寝てるか起きてるか分からない竪琴弾きは絶対に例のセリフを吐いて離脱する。唯一の救いは貴方の助言通りにやって、姉上との関係が改善したことくらいですよ」

 

剣キチ「予想以上に極悪だな、そのトラップ」

 

ニート「これは……私だったら絶対に2回目で自分の首を落としてますね」

 

弓王 「とあるループの時なんて本当に酷いものでした。その回はたまたま私が不倫コンビの所業を最初に気づいたんです。この事実の発覚が国の崩壊の序曲である事を知っていた私は必死になって隠しましたよ、ええ。そしたらどうなったと思います? 奴等は夜中に謁見の間に忍び込んで、朝まで玉座を使って露出プレイしやがったんですよ!!」

 

剣キチ「ハイセンスすぎる」

 

ニート「あなた、どんだけ奴らにナメられてたんですか」

 

弓王 「さすがに堪忍袋の緒が切れたので即座に二人を手討ちにしたら、今度はランスロット派の馬鹿共が国内で追悼テロを起こしまくる始末。おかげでブリテンはまたもティウンティウンしましたよ、クソがッ!」

 

剣キチ「追悼テロというパワーワードよ」

 

ニート「というか、自分の国をロックマンみたいに……」

 

弓王 「あの国がロックマンなんていいモノなワケがないでしょう! スペランカーですよ、スペランカー!!」

 

剣キチ「あの清廉潔白だった騎士王がここまでやさぐれるとは、ブリテンループとはどれほどの苦行だったのか」

 

弓王 「他にもド腐れエピソードはまだまだありますよ。即位した翌日に竜になったヴォーディガーンが攻めてきたとか。私が女である事が侍女から諸侯にリークされて、あっという間に魔女として火炙りにされたとか。あ、島の半分を領土にしたら大陸から破壊の大王が攻めてきたなんてのもありましたね」

 

剣キチ「これは酷い」

 

ニート「即位直後にヴォーディガーンって、それRPGで例えたら王様と謁見した次の瞬間に魔王が現れるくらいの絶望ですよ」

 

弓王 「だいたい、なんなんですかあの島。意味不明の化け物がワラワラいると思ったら、作物はドンドン育たなくなる。デスクィーン師匠の言ってた土壌改革をやれば地元民がバタバタ倒れて、王が呪いを掛けたとか事実無根の悪評が立つ。だからと言って何もしなかったらしなかったで、今度は食い物が無いと一揆発生です! いっそ沈んでしまえ、あんな腐れ島!!」

 

剣キチ「昔俺もやってみたけど、世界殺しでもしないとあの島救うの無理だよな」

 

ニート「今思えば完璧に呪われてましたよね、ブリテン島。世界から滅べと言われる国ってどれだけ業が深いんでしょうか」

 

剣キチ「だいたいウーサーとマーリンの所為だな」

 

ニート「噂のウーサーの顔、一度は見てみたかったものですね。まあ、会った瞬間にカリバー100連発は確実でしょうけど」

 

弓王 「もう王様も騎士も真っ平御免です……。私はただの少女として、姉上と面白おかしく生きるんだ。そして、今度はモードレッドをちゃんと作ります」

 

剣キチ「おい。今トンデモない事を口にしたぞ、この娘」

 

ニート「なんでウチの家系はテンパったら近親相姦に走るのか」

 

弓王 「私を理解してくれるのは姉上だけ、ならば娶るのは当然の事です。夫だったロット王もいませんし、私が夫の座を射止めるのに何の問題も無いはずだ!」

 

剣キチ「シスコンを拗らせすぎて、まったく笑えん」

 

ニート「…………これはもうダメですね」

 

剣キチ「彼女に戦闘は無理だ。速やかに送還して、後は保護者殿にお願いしよう。世界は違えど姉御は姉御、ヤンデレの玉砕アタックくらい見事に受け止めてくれるさ」

 

ニート「並行世界の姉上の愛が、病んだ騎士王を救うと信じて!!」


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