剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 筆が乗り申した……。

 久々の休みだからって、まさかの一日仕事。

 まあ、こんなこともあるさ


剣キチが行く人理修復日記(8)

 ジュラの森林地帯を抜けたオルレアンにほど近いラ・シャリテという街。

 

 破壊されて用を成さなくなった家々が墓標のように並ぶその地に踏み入った俺達は、そこで住民や兵士だった者たちから襲撃を受けた。

 

 だったと過去形にしているのは間違いではない。

 

 こちらに牙をむいたのは、すべて生を終えた者を魔力によって強制的に動かしている動死体(ゾンビ)だったのだから。

 

 動けないほどに破壊された死体達が転がる中、女性と子供の清らかな声が響く。

 

「主よ。大いなる慈悲の元、迷える魂を救いたまえ」

 

「大地の精霊さん、みんなを喜びの島(マグ・メル)に案内してあげてね」

 

 ミユちゃんと共に(とむら)いの祈りを捧げているのは、あの子のサーヴァントとなったマルタ女史だ。

 

 天から降り注ぐ光と地面を照らす鬼火、二つの導を目印にして遺体から抜け出た魂達はあるべき場所へと還って逝く。

 

「マルタお姉ちゃん、できたよ!」

 

「ええ、よく頑張りました。これでここで散った人達も安らかに眠れることでしょう」

 

 足元でぴょこぴょこ跳ねるミユちゃんの頭を撫でながら柔らかな笑みを浮かべるマルタ女史。

 

 その様は聖女と呼ぶに相応しいものだ。

 

「オルレアン近郊の町だから無事では無いと思っていたけど、ここまで破壊されているとはね……」

 

 眼前に広がる瓦礫と死体で埋め尽くされた惨状に、オルガマリー所長は小さく息をつく。

 

 この街をオルレアン攻略の拠点にしようと思っていたのだが、城壁どころか物資も家屋もない有様では、その運用は難しいと言わざるを得ないだろう。

 

「落ち込むなよ嬢ちゃん。この街は敵の城の目と鼻の先なんだ、無事な方がおかしいってもんさ」

 

「ねぇランサー、どうすればいいと思う?」

 

 沈みがちな雰囲気を吹き飛ばすかのように快活な声を上げる青いランサーに、そのマスターである立香ちゃんが問いを投げる。 

 

「そうだな……。俺としては敵の本丸は目の前なんだから、一気に攻めて大将首と行きたいところだが───」

 

「馬鹿を言うな。サーヴァントの総数で勝っているとはいえ、相手はワイバーンの大軍を従えているんだ。考え無しの城攻めなぞ出来るわけがなかろう」

 

「つーか、こっちはガキを二人も抱えてんだぞ。こいつ等連れて突撃とか冗談じゃねー」

 

 シンプルイズベストなランサーの言葉に異を唱えたのはエミヤとモーさんである。

 

 鎮魂の術式の間、ミユちゃんの護衛に参加していたモードレッドは、『お疲れさまだ』と妹分にドリンクを渡しながらも周囲の警戒を怠っていない。

 

 言い聞かせていた常在戦場の心構えが出来ているようで結構、結構。

 

「なら、どうするってんだよ?」

 

「マルタからの情報で相手の真名は割れている。ここは一端オルレアンから離れる事になっても、バーサク・サーヴァントをおびき出して戦力を削るべきだ」

 

 エミヤの言う通り、ジュラの森からここに来るまでの間に俺達はマルタ女史から敵サーヴァントの真名を聞いていた。

 

 過日に矛を交えたバーサク・ランサーとバーサク・バーサーカーは、予想通りヴラド三世とランスロット。

 

 そして鉄の処女を使う妙な女は、バーサク・アサシンで召喚されたエリザベート・バートリーが成長し、完全なる怪物と成った存在である女吸血鬼カーミラ。

 

 こちらにいるエリザ嬢にとっては認められない存在のようで、話題が上がった時には『アイツは私が倒すわ!!』と並々ならぬ戦意を見せていた。

 

 で、俺は顔を合わせていないがエイリーク殿とアンリから竜の魔女を奪還したバーサク・セイバーがシュヴァリエ・デオン。

 

 羽帽子に騎士服を纏った中性的なレイピア使いで、王妃曰くフランスでは有名な人物だそうな。

 

 あの戦いには顔を出していないが、もう一人のバーサク・アサシンが存在しているらしく、真名をファントム・オブ・ジ・オペラ。

 

 十九世紀を舞台とした小説『オペラ座の怪人』に登場した怪人――恐らくは、そのモデルの人物だそうだ。

 

 おそらくはジークフリートとゲオルギウスが行ったリオン防衛戦で失った手駒の補充なのだろう。

 

 あと、本拠に籠って出てきていないバーサク・キャスターでジル・ド・レェ。

 

 ジャンヌ・ダルクと共に百年戦争を戦ったフランス軍元帥なのだが、キャスターで召喚された奴はジャンヌ没後に悪魔崇拝に手を出し、自領にいる多くの子供達を手に掛けた殺人鬼の側面で現界しているのだという。

 

「なるほど、そいつは悪くない手だ。けどよ、そこの正義の味方様は一つ見落としてる事があるぜ」

 

 ニヤニヤと嗤いながら口をはさんできたのは、マスター警護の名目で馬車の屋根に乗ってお留守番しているアンリ・マユだ。

 

「ほう、何をかね?」

 

「あの竜の魔女が聖杯だってことだよ。奴さん、インプットされた願いの通りフランスを滅ぼす事にご執心みたいだからな。手駒の数が減ったら確実に再召喚で補充するだろうぜ」

 

 その指摘に『その可能性があったか』と苦虫を噛み潰すアーチャー。

 

「グンヒルドさんは竜の魔女が何者かの願いによって生み出された、反転したジャンヌ・ダルクだといいました。その何者かというのは、やはりバーサク・キャスターなのでしょうか?」

 

「おそらくは。私の死後、高潔な騎士だったジルは私を助けなかった主と国への憎悪から、様々な惨劇を引き起こしたと言われています。晩年の彼が聖杯を手にしたのなら、共に世界を恨む『私』を生み出してもおかしくありません」

 

 マシュ嬢の問いに沈んだ顔で答えを返すジャンヌ。

 

「黒幕に聖杯が揃ってるとなりゃあ、なおさら城に攻め入るしかないわな。数日前に旦那から散々な目に遭わされてるから、あのお嬢ちゃんが単独で戦場に出てくる可能性は低いだろーしよ。グズグズしてたらサーヴァントの数の優位もひっくり返されて、物量戦で擦り切れるハメになるぜ」 

 

「……そうね。私たちにとってここはアウェイ、時間はあちら側の味方と考えたほうがいい。ならば、ここは多少危険を犯してもサーヴァントの数が勝っている内に短期決戦を挑むべきだわ」

 

 所長がそう決意を固めると、それに一つ拍子を置いて彼女の下に一つの影が降り立った。

 

 傾いた陽光が照らしだしたのは、青紫の髪を一つに結い上げ髑髏の仮面を付けた褐色の肌の女性。

 

 所長のサーヴァントである百貌のハサンである。

 

「主殿。ワイバーンの群れと巨大な竜、そしてサーヴァントが六騎、こちらに向かってきております」

 

 淡々とした報告に一団の中へ緊張が走る。 

 

 編成からして、接近しているのは竜の魔女の手勢である事は間違いない。

 

 あの時、竜の魔女が足場としていた巨竜は俺のやらかしによってお肉となったが、再び目撃されているという事は再び呼び出したのだろう。

 

「みんな、敵襲よ! マスターと子供達はマリー王妃の馬車の中へ!! 各員は陣形を整えて、魔術師は早急に陣地の設置を!!」

 

 オルガマリー所長の指示によって迎撃態勢を取るべく動き出す一団。

 

 とはいえ、ほぼ廃墟と化しているこの街ではまともな陣地を敷くのはなかなかに難しい。

 

 簡易的なバリケードがいくつかとグンヒルドさんが主体になって陣地を作成した辺りで、竜の魔女の手勢はこの街に姿を現した。

 

「──なんて、こと。まさか、まさかこんな事が起こるだなんて……」

 

 最初に出会ったときと同じく黒竜の肩に立った竜の魔女は、眼下のジャンヌに視線を合わせると信じられない物を見たように手で口を覆う。

 

「ねえ、お願い。だれか私に水をかけてちょうだい。まずいの。やばいの。本気でおかしくなりそうなの。だってそれぐらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!!」

 

 次に彼女が浮かべたのは、端正な顔立ちから想像もつかないような醜悪さを滲ませた嘲笑だ。

 

「兄上、あれが竜の魔女なんですか? 私にはただのイタい女にしか見えないのですが」

 

「あー、本人曰くそうらしいぞ。言動が香ばしいのは仕様みたいだから、ほっといてやれ」

 

 人格云々は置いとくとして、竜の魔女が人間として普通に機能してるのを見て安心した。

 

 例の世界を垣間見た影響で触手と合体してメタルビーストになったり、巨大な虫の化け物や手が機関銃で足がロケットランチャーという極道な兵器に変貌してやしてないかと心配だったのだ。

 

「ところでお嬢さん、少しいいか?」

 

 ノッてきたところを邪魔されたのが気に入らないのか、ものすごく嫌そうな顔でこちらを見る竜の魔女。

 

 皮肉でやっているのであろう聖女モーフが剥がれかかっているのは、言わぬが華だろう。

 

「はぁ? 何よアンタ。こっちは田舎娘の憐れな姿を憐れむのに忙しいんですけど」

 

「ゲッター、同人誌、メタルビースト。これらの単語に憶えはあるか?」

 

「なにを訳の分からない事言ってるのよ、そんなの知るわけないでしょうが!」

 

 苛立ちと共に言葉を吐き捨てる竜の魔女の姿に、俺は内心で胸を撫で下ろした。

 

 グンヒルドさんの魔術を信じていないわけではないが、今回ばかりはモノがモノである。

 

 万が一が起こった場合、責任をとれない可能性の方が高い。

 

「変なのが横槍を入れてきたから、いい気分が台無しじゃない。───まあいいわ。改めてジル、あそこの田舎娘を見なさい」

 

「ふむ、あそこにいる娘がどうかしたのですかな?」 

 

 失礼な事を言われたのは置いとくとして、テンションがおかしい竜の魔女に応じたのは黒竜の逆側の肩に乗っている魚面の男だった。

 

 というか、今ジルって呼ばれたよな。

 

 もしかして、あれがバーサク・キャスターか?

 

「ジル……なんという姿に」

 

 こちらのジャンヌが絶句している所を見ると、奴が今回の黒幕候補に間違いないようだ。

 

「おや、あれは第四次に出てきた土下座マンではないですか」

 

 そんなバーサク・キャスターの姿を見て、またしても妙なことを言い出すアルトリア。

 

 目線で詳細を尋ねると、愚妹は少々困った顔でこう応じた。

 

「聖杯戦争の緒戦の頃でしたか。偽マスターと車で移動していたら奴が現れて、いきなり道の真ん中で土下座を始めたんですよ」

 

「土下座って、なんでまた?」

 

「さあ? 聞いてなかったのでわかりません。何にせよ相手はサーヴァントでしたし、ちょうど刎ねやすい位置に首を持ってきていたので、そのまま刎ねてしまいました」

 

「刎ねてしまいましたって……土下座してたんだろ? だったら、話の一つくらい聞いてやれよ」

 

「敵の話なんて聞く必要ありますか? 話術で煙に巻こうとしているか、欺瞞情報でこっちをハメようとするのが八割以上なのに。そんな暇があったら、しゃべってる内に殺った方が早いじゃないですか」

 

「まあ、その通りなんだけど。ともかく、そういう手はここでは使うなよ。流石にカルデア側の心証にも子供たちの教育にも悪すぎる」

 

「分かってます。やる時はちゃんと周りにいる人間を選びますから」

 

 ……こいつ、王様だったのに何処でこんなダーティな思考を手に入れてたんだ?

 

「ほら、見てよジル! あの哀れな小娘を! なにあれ? 羽虫? ネズミ? ミミズ? どうあれ同じことね! ちっぽけすぎて同情すら浮かば────!?」

 

 眼下のジャンヌを指差しながら嘲笑を浮かべる竜の魔女、しかしその言葉は早々に断ち切られてしまった。

 

 彼女の罵倒を止めたのは一本の矢だ。

 

 音にも届きうる速度で放たれた一射は竜の魔女の頭部を守っていた鉢金を弾き飛ばし、彼女が足場にしている黒竜の頬にそれを縫い付けた。

 

「だ……ッ、誰よッ!?」

 

「ケタケタと甲高い声を上げるな、耳障りだ」

 

 額から流れる一筋の血を押さえながら金切り声を上げた竜の魔女に応じたのはアタランテだった。

 

 頭上を見上げる彼女の顔は、子供達に構って貰っている時のような緩んだものではなく、憤怒に燃える獣のそれだ。

 

「アンタ……バーサク・アーチャー! 私を裏切ったの!?」

 

「───竜の魔女、よくもこの私に子供達を殺させようとしてくれたな。貴様だけは絶対に許さん! その醜く歪んだ顔に余すことなく矢を叩き込んでやる!!」

 

 癇癪のままに怒鳴りつけた竜の魔女だったが、そんな感情など比較にならないアタランテの放った怒気に当てられたのか、赤かった顔から一気に血の気が引く。

 

 そんな彼女に代わって、奇声を上げたのは逆の肩に立つバーサク・キャスターだ。 

 

「き……貴様ぁぁぁっ!? ジャンヌの手駒でありながら、彼女を傷つけるとは! 許さんぞ、この匹ぷぉぉぉ───ッ!?」

 

 妙に広い額にメロンの如く青筋を浮かべて叫ぶ様は一種の怪異であったが、そんな怪人のシャウトもまた横槍によって遮られてしまう。

 

 次に黒竜のどてっ腹へ突っ込んできたモノは、矢なんて可愛いものじゃない。

 

 マルタ女史の騎獣である亀型の竜が、甲羅に頭と手足を収めて弾丸のように高速回転しながら体当たりをブチかましたのだ。

 

 さすがの巨竜もこの一撃は堪えたようで、竜の魔女と怪人を肩に乗せたまま仰向けに倒れてしまった。

 

「アンタにムカついてるのはアーチャーだけじゃないわよ、竜の魔女。無辜の民を苦しめた上に散々人を舐めたマネをしくさって……その歪んだ根性、叩き直してあげるわ!」 

 

 声のした方に目を向ければ、妙に堂に入った動きでゴキゴキと拳を鳴らすマルタの姿。

 

 その様は聖女というよりも歴戦の女傑である。

 

 さて、巨竜から振り落とされながらも無傷で済んだ二人であったが、自身のサーヴァントだった二人の女性からの奇襲は精神的ショックが大きかったようだ。

 

「バーサク・サーヴァント達! 奴等を……裏切り者達も含めて始末しなさい!!」

 

 攻撃のダメージからようやく立ち直って巨体を起こし始めた黒竜、傍らでへたり込んでいた竜の魔女は残ったサーヴァントに指示を出した。

 

「Aaaaaaaaa!!」

 

 咆哮を上げて真っ先に一団を飛び出したのは例の黒いフルプレートを纏った騎士。

 

 前回は気が回らなかったが、黒い靄越しに感じる気配はランスロットのそれだ。

 

 勿論、こちらのサーヴァントも闘争の火蓋が切られたのを指を咥えてみているわけではない。

 

 馬車の中にいる立香ちゃん達マスター勢が指示を出すより早く、各自は動きを見せ始めたバーサク・サーヴァントを迎撃するべく行動を開始している。

 

「フン、小娘の許しも出た事だ。精々敵軍を蹂躙してやるとしよう」

 

「生憎とそうはいかねぇな。アンタの相手はオレだ、串刺しの大将」

 

 槍を手に走るヴラド三世の前に立ち塞がったのは青のランサー、クー・フーリン。

 

「カーミラ! 私の黒歴史は私の手で粉砕してやるわ!!」

 

「ほざきなさい、小娘。お前こそ私の拭い去りたい過去の汚点。血を搾り取るなどと悠長な事は言わない、跡形も無く滅ぼしてあげる!!」

 

 事前の宣誓通り、アサシン・カーミラにはエリザベート嬢が。

 

「道を開けるがいい、路傍(ろぼう)の音楽家。私はクリスティーヌの元に行かねばならないのだ」

 

「そうはいかないね。僕の事を路傍扱いしたのはいいとしても、お前の垂れ流す騒音は聞くに堪えない。観客からクレームが付く前に退場してもらおうか!」

 

 貌半分を覆う白磁の仮面に鉤爪を付けた怪人、ファントム・オブ・ジ・オペラに指揮棒を突き付けるモーツァルト。

 

「……ッ!? やはり、王妃の元には簡単に辿り着けないか」

 

「なんだ、男か女かわかんねー奴だな。ま、テメエがどうであれ、ガキ共のところにゃ行かせねーけどよ」

 

 こちらに向かっていたシュヴァリエ・デオンを一刀で弾き飛ばし、ヘルムを装着したモーさんは赤雷が燻る刃を肩に預ける。

 

「ファフニール、黒き邪竜よ。リオンの時のような不覚は取らんぞ」

 

「手を貸すわよ、ジークフリート。あいつ等をぶっ飛ばすには、あの竜を片づけるのが手っ取り早いみたいだしね」

 

「ならば牽制は任せろ。いかに竜とはいえ、あの巨体では我が俊足には追い付けんはずだ」

 

 魔剣を手に巨竜の眼前に立つジークフリート。

 

 その脇をマルタ女史とアタランテが固める。  

 

 一勝一敗で迎えた宿敵との三度目の決戦に高ぶっているのか、大気を振るわせるような轟音で天へと鬨の声を上げる黒き邪竜。

 

 竜の魔女と黒幕と思われるキャスターは、すでにワイバーンの群れの後方へと引き下がっている。

 

 これで総力戦のカードは決定した。

 

 では、こちらも意識を眼前の相手へ戻すとしよう。

 

「Aaaaaaaaargaaaaaaaa!!」

 

 俺の姿を認識するや否や、ランスロットは黒く染まった剣を手に襲い掛かってくる。

 

 妙に甲高い叫び声なので聞き取り辛かったが、たしかに奴は俺の名前を呼んだ。

 

 どういう縁で呼ばれたかは知らんが、あそこにいるのは俺達の知るランスロットで間違いない。

 

 舗装の剥がれて土がむき出しになった街道を掘り返しながら加速を続ける漆黒の騎士。

 

 兜のスリットから放たれる赤い眼光には、刺すような憎悪が込められている。

 

 奴に悪感情を向けられる覚えはたっぷりとあるので、これに関しては別段不思議でも何でもない。

 

 あの事件から1500年余り。

 

 俺からすれば過去の話だが、奴にとっては晴れぬ恨みなのだろう。

 

 小さく息を付いた俺は足元に転がっていた飾りっ気のない鉄の剣を蹴り上げ、宙を回転するその柄を掴み取る。

 

 (かつ)ての担い手が相手となれば、アロンダイトMKⅢは信用ならない。

 

 手の中にある鉄剣は名剣には程遠い数打ちの(なまく)ら。

 

 刀身も刃零れや痛みが目立つが、今の俺ならこれでも十分に奴を討てるだろう。

 

 本音を言えばランスロットの言い分も聞いてみたいところだが、アルトリアの手前そうもいかない。

 

 愚妹を暴走させないが為に、マルタ女史に根回ししてまでランスロットの存在をボカしたのだ。

 

 正体を知られてしまっては元も子も無い。

 

 まあ、さっきの咆哮と真っ先に俺に掛かってきている事でバレている可能性もあるが、さっさと斬り捨ててしまえば有耶無耶(うやむや)にできるだろう。

 

 漆黒に染まったアロンダイトを大上段に振り上げて飛び掛かってくるランスロット。

 

 それを迎撃せんと一歩足を踏み出したところ、思わぬ───いや、予想してはいたが起きてほしくなかった横槍が飛んできた。

 

 そう、俺が踏み込むよりも早く前に駆け出したアルトリアが、ランスロットのボディに思い切り拳を叩き込んだのだ。

 

 魔力放出によって強化された拳は、フルプレートを纏った騎士の身体を容易く『く』の字に折り曲げる。

 

 しかも間の悪いことに次の瞬間には俺が放った剣が、前に突き出す形となっていた頭部の兜を断ち切ってしまった。

 

 手元が狂った所為で奴に掛かった狂化の因果ごと、だ。

 

「ぐふぁぁっ!?」

 

 真っ二つに割られたヘルムと吐き出した反吐を残して後方へと吹き飛ぶランスロット。 

 

 轟音と共に壁を突き破って廃墟となった邸宅に突っ込んだランスロットに向けて、アルトリアは一歩足を踏み出した。

 

 イモい運動靴が地面に着いた瞬間、地響きを立てて文字通りラ・シャリテの町が揺れた。

 

 アルトリアが放つ空気すら軋む威圧感に、ワイバーンはもちろん交戦中の英霊や巨竜までもが動きを止める。

 

 一時的に喧騒が止んだ戦場の中、アルトリアは土埃に塗れながら廃墟から這い出てきたランスロットの眼前でその足を止めた。

 

「お……王、なのですか?」

 

「この顔を見忘れたか、薄汚い裏切り者が」

 

 首の半ばまで伸びた髪から(ほこり)を零しながら顔を上げるランスロットに、冷然と侮蔑の言葉を吐き捨てるアルトリア。

 

 さきほど帽子の鍔の下から見えたあいつの目は、黄金に染まって瞳孔も竜と同じように縦に細く裂けていた。

 

 ヤバいな、完全にブチキレている。

 

 今度こそ特異点修復は不可能になるかもしれん。

 

「貴方からの裁きは後程謹んでお受けします。ですが、今はあの男……アルガの元へッ!!」

 

「行ってどうする? 兄上から受けた数々の恩を仇で返しただけでは飽き足らず、今度はその命まで取るつもりか?」

 

「あの男は魔女と結託してグィネヴィアと我が子の命を奪った! 私は彼女の、そして生まれてくる事が出来なかった子の無念を晴らさねばならない!!」

 

 半ば叫びとなったランスロットの言い分に俺は小さく息を付いた。

 

 今さら怒りを憶えるなんて事はない。

 

 もちろん何を言ってるんだという思いはあるが、子供の無念を晴らすという点では父親としては共感を覚えなくもない。

 

 まあ、だからといってむざむざ討たれてやる気はないが。

 

 ともあれ、子供達を王妃の馬車に入れておいて本当に良かった。

 

 こんなセリフ、モードレッドには絶対に聞かせられん。 

 

「無念だと? 不義に不忠を重ねた者が言えた事か。子供とやらが死んだのも、貴様等の行いが原因ではないか」

 

「~~~ッ 邪魔をするなら、例え王であろうとも!!」

 

 話を強引に打ち切って、ランスロットはアロンダイトの切っ先をアルトリアへ向ける。

 

 返す言葉が無いのはわかるけど、もう少し何か言えよ。

 

 あれだけこっちに恨みがこもった視線をぶつけてきたってことは、それだけの理由があるって事だろうに。

 

 こちらの感想はさておいて、宣言通りに刃を放つランスロット。

 

 ブリテン時代と遜色のない一撃を放った奴は、次の瞬間には甲高い金属音を残して弾丸ライナーのような速度で吹き飛んだ。

 

「立ち塞がれば諸共に私も斬る、か。よくぞほざいた」

 

 言葉と共に濃密な魔力を吐き出し、迎撃に振り抜いた闇色の刀身を肩へと預けるアルトリア。

 

 奴が纏っている魔力の量は、ブリテン時代ですら見た事が無いほどに莫大なものだ。

 

「ならば、その身体に叩き込んでやろう。私が『ブリテンの赤い竜』と呼ばれる、その真の理由を!」

 

 地面を爆砕しながら飛び出したアルトリアは、再び廃墟から出てきたランスロットに剣を振るう。

 

 袈裟斬りに落ちてくる聖剣の刃をランスロットは寸でのところで受け止めるが、その衝撃を受け止め切れずに片膝を付いてしまう。

 

「ぐ………ッ!?」

 

「なんだ、その無様な姿は。貴様、兄上の教えを忘れたか? それとも───私の剣など理を以て受けるまでも無いと侮ったか!」

 

 そこに間髪入れずに襲い掛かる黒の刃。

 

「ぐおぁっ!?」

 

 それは本体と同色の魔力の軌跡を残して木の葉のようにランスロットの身体を吹き飛ばす。

 

「相手の力量も測れぬ愚昧が。才無く心無く刀刃(とうじん)を弄んだ事を悔いながら、相応の惨めさで死ね!」

 

 宙を舞うランスロットへ向けて、聖剣から放たれる追い打ちの魔力砲撃。

 

 真名解放の極光には及ばないものの、竜のブレスさながらの一撃は辛うじてアロンダイトで防いだランスロットを余波だけで地へと叩き落した。

 

「なんなのよ、あいつ! あんなふざけた格好をしてバーサク・バーサーカーを一方的に……ッ!?」

 

「狼狽えている場合ではありません、ジャンヌ。ファフニールを除けば奴の突破力は我が軍一、この状況で失う訳にはいきませんぞ!」

 

「わかってるわよ! 行きなさい、ワイバーン共!!」

 

 こちらの異変に気付いた竜の魔女の指示によってアルトリアへ向けて殺到するワイバーンの群れ。

 

 下級の竜種とはいえ50近い数ともなれば、その暴威は英霊単騎の手に負える物ではない。

 

 だが────

 

(やかま)しい。堕ちろ、蚊トンボ共」

 

 吐き捨てるような言葉と共に、闇色の聖剣の代わりに右手に収まっていた聖槍から放たれる大嵐の一撃。

 

 地上から天を穿つ竜巻に巻き込まれたワイバーン達は、一瞬にして跡形も残さずに消し飛ばされてしまった。

 

「これが……これが王の力だというのか!? ブリテンにいた時とはまるで違う───ッ!」

 

 吹き荒れる余波に耐えながら、自身の身体が作り上げたクレーターから這う這うの体で這い出るランスロット。

 

 思わず漏れたであろう奴の言葉をアルトリアは鼻で笑い飛ばす。

 

「小娘が演じていたお飾りの王など、武では自分に及ばないと慢心していたか? 馬鹿め、あの時はみだりに国土を荒らさぬよう、手心を加えていただけのこと」

 

「な……」

 

「この身に流れるは古き女神の血と竜の力。極光の爪と嵐の牙を持ち、纏う鱗は妖精郷の加護によって不壊にして絶対。それが貴様らの王、アルトリア・ペンドラゴンの真の姿。──────カムランの丘に集った7万の敵兵、その(ことごと)くを食い殺した怒れる暴凶竜よ」

 

 そう言って口角を吊り上げる我が妹。

 

 笑うというのは本来は攻撃的な物であり、一説によれば獣が牙をむく行為が原点と言われる。

 

 ならば、今のアルトリアの浮かべるそれは獲物を食い散らかさんとする竜の貌なのだろう。

 




 アルトリア(本気)

 カリスマE   味方全体の攻撃力をアップ(3T)

 魔力放出EX  自身のバスター性能を70%アップ(5T)

 竜の心臓EX  ターン開始時自身のNPを40%チャージ(8T)解除不能 

 竜の因子活性化 竜特攻で受けるダメージ2倍

 神性D     自身に与ダメージプラス状態を付与


 ランスロットでの攻略法
  
 竜特攻が付いているので、アロンダイトが当たればワンチャン有り。

 ただし宝具解放の速射力を始めフィジカル面では相手にならないので、ひたすら逃げ回ってNPを溜める事。

 上手く宝具が使えるようになったら、ビームではなく『縛鎖全断・過重湖光』に賭けるべし。

 ただし、相手のアヴァロン・カウンターには注意。

 基本当たれば死亡のオワタ式なので、防御は考える必要は無し。

 距離を離すと光と闇のカリバーと聖槍の嵐が絶え間なく飛んでくるので、射線上に仲間を巻き込むようにして撃たせない工夫が必須。

 ただし、追い込みすぎると剣キチが乱入してくるので一撃で仕留める事。

 PS・勝てたら次は怒れる剣キチ戦
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