剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 年末が近くなって、投稿が難しくなってきてます。

 もう一方も書かんといかんし、ここは踏ん張らねば。

 もうすぐブリテンも終盤だし、頑張ろうじゃありませんか。


日記11

 三度目人生記(41年2ヶ月7日目)

 

 

 久しぶりにマーリンと話したのだが、例の『剣キチ、世界を斬る』事件の事でメッチャ怒られた。

 『1年前の事を今更』と言えば、妖精郷にいて帰ってこられなかったんだと言う。

 なんでそんなに怒っているのか聞いたところ、なんと俺の行いは世界を滅ぼしかねない行為らしい。

 そんな大げさなと思ったが、あの不真面目の権化のような奴が目をマジにして言っていたことを思うと、まんざら嘘でもないんだろう。

 俺としては衰退するブリテンをなんとかする為にやったのだが、そんなに拙かったのか。

 その後、マーリンが世界の事やら魔術の事やら説明していたが、はっきり言って剣キチにはわかりません。

 要するに、世界を斬ろうとしたら謎の刺客が出てくるんだろ。

 それだけ憶えてりゃいいや。

 そう言う小難しい事をこねくり回すのはこいつ等の仕事だし。

 で、抑止力(俺を襲った謎の兵士の事)の話になったのだが、此方の説明からマーリンは奴等の正体に当たりを付けてくれた。

 俺を襲ったのは、『英霊』と言われる古今東西の英雄を再現したものらしい。

 それであの時の面子なんだが、炎の槍使いが『カルナ』、光線弓が『アルジュナ』、長短二本の槍使いが『ディルムッド・オディナ』、竜の氣を持った大剣使いが『ジークフリート』、最後の一人は分からんそうな。

 というか、ジークフリート以外聞いた事ないんですが。

 やっぱ、俺程度ではメジャーどころは動かないらしい。

 そう言うと、マーリンはまた顔を引き攣らせていた。

 いったい何だというのか。

 次にどうやって生き残ったのかと聞かれたので、記憶を掘り起こしながら説明する羽目になった。

 あの五人は身体能力と技量は上位のサイバネ武術家とトントンだが、手にしている武器がヤバい。

 まともにぶつかっては流石に勝ちの目が薄い事は分かっていたので、外れた光線弓の光弾が巻き上げた土煙に紛れて気配を断ったのだ。

 今の俺の気配遮断は大周天の効果もあって天地合一の位にある。

 千里眼とやらを持つマーリンが、目の前で使ったにも拘らず俺を見つけられないと言えば、効果の程は知れるだろう。

 そうして姿を消した状態で最初に狙ったのはジークフリートだ。

 剣を構えたまま辺りを見回している奴の背後から忍び寄って一撃で刺殺。

 背中の肩甲骨に木の葉形の痣があったけど、あれが伝説に語られる竜の血を浴びなかった急所だったのだろう。

 で、消滅を始めたジークフリートが残っている内にその身体を盾にして突撃。

 正体不明の騎士が放った矢がジークフリートの遺骸で爆発するのを目晦ましに、また氣殺の法で姿を消した。

 そうやって隙を伺っていると、光線弓が魔力を収束させながら浮かび上がった。

 ヤバいと思ったので、光線弓使いの背後へと跳躍し、技の発動前で隙だらけな奴を唐竹一刀で斬殺。

 そこでマーリンから『気配遮断は攻撃の際に気付かれるのでは?』という問いが来たが、俺に言わせればそんなのは二流のやる事である。

 『この身に修めしは、内家戴天流。我が一刀は『意』に先んじて鞘走り、無心の内に敵を斬る』

 即ち、気配遮断が使用者の攻撃の意思で解除されるのならば、こちらの放つ一撃は解除された時にはすでに相手を斬り捨てているという事だ。

 話を戻そう。

 光線弓を殺った際、炎槍使いの目に動揺が走ったのを見逃さなかった俺は、消えていく光線弓の死体を奴に投げ付けた。

 案の定、一瞬の躊躇を見せた奴の後ろに廻って一刀を振るうも、半ばまでしか刃は通らない。

 そこで作戦を変更し、黄金の鎧越しに奴の背中の中心、脊椎の上に手を置いて戴天流内功掌法『黒手烈震破』を放った。

 この技は全身の氣を放つことにより相手の肉体の内部を破壊する浸透勁の一種だ。

 前世であればサイボーグの特殊複合装甲を通り抜ける程度だが、天地合一に至った今ならば如何なるものも阻むことは無い。

 相手の五臓六腑が破裂するのを感覚で知った俺は、続けざまに頭部へも同じものを叩き込んだ。

 だが、この一手でも奴を葬る事は出来なかった。

 七孔から血を流しながらも襲い掛かる炎槍使いを目の当たりにして、俺はさらに作戦を変更した。

 再び氣殺で姿を消した俺は、『卑怯だ』の何だのと言っている二槍の騎士の首を後ろから刎ねた。

 一対五で襲い掛かって来る時点で卑怯もへったくれもないし、仮に卑怯な手を使ったとしても鉄火場でそれを糾弾するのは阿呆のやる事である。

 俺達がやってるのはお上品な馬上試合じゃない。

 殺し合いなんざ、どんな卑怯な手を使おうと生き残った者の勝ちなのだ。

 むしろ、兵法者なら策に引っかかった自分を恥じろという話である。

 この時点で、無数の剣を生み出す騎士が空飛ぶ剣での絨毯爆撃を開始。

 こうなっては流石に気配遮断など出来ないので、剣の雨を切り払って普通に突貫し、一刀を放った。

 むこうも然る者で、こちらの一撃を手にした黒白の双剣で受け止めようとしたのだが、それは悪手だった。

 アロンダイトを叩き斬った時と同等の内勁の込められた刃は、軌道に立ちはだかった双剣ごと騎士を両断したのだ。

 これで残るは不死身の炎槍使いだけなのだが、この後は特に苦戦しなかった。

 奴に放った『黒手裂震破』の二重撃。

 これの副次効果で経絡を乱された奴は大きく体調を崩した状態だったからだ。

 出血が止まったのを見るに、奴には再生能力らしき物が有るようだが、経絡・氣脈の乱れというのは外傷とは全く別物。

 どちらかといえば病に近いだろう。

 これを克服する為には、氣功に通じた者か己自身で氣脈を調整しなければならないが、それには特殊な修練が必須だ。

 例えるなら、心臓を自分の意思で自由に動かすと言えばいいか。

 それでもなお槍を振るい続けた奴には感嘆の念を抱いたが、最後は内勁を限界まで込めた一刀で鎧ごと斬り捨てた。

 炎槍使いの槍の余波で受けた軽度の火傷と剣群の絨毯爆撃での傷が少々だった。

 この話を聞いたマーリンは呆れながら『圏境に至った気配遮断から、無念無想なうえに防御不能の一撃を使った暗殺か。……えげつないにもほどがある』と呟いた。

 こっちから言わせれば、殺し合いなんてえげつないのが当たり前なんだが。

 その後、マーリンから再度世界に干渉しない様に釘を刺されて、ようやく釈放となった。

 いったいなんだったんだ?

 

 三度目人生記(42年5ヶ月6日目)

 

 

 ギャラハッドとの約束から一年が過ぎた。

 さすがに一発で妖精郷の環境に適応させる術なんてものはなかったので、神秘や魔力の影響を極力薄めるアイテムを作成して、徐々にあの子の身体を環境に慣れさせていくという手を取る事にした。

 手立てはあるものの即効性に欠けることから、約束の達成率は半分。

 よって、ギャラハッドの身分は騎士見習い。

 期間は俺達が妖精郷に行くまでという形で、ブリテン軍に入隊する事になった。

 正直なところ行かせたくはないが、約束通り一年間待たせたうえにこの成果だ。

 たとえ親子だとしても反故にするわけにはいかないだろう。

 身分と期間については、俺達の悪あがきだ。

 身内びいきは百も承知で、アルトリアには危険な任務に就かせないように頼んでおいた。

 あの子の出生はいわくつきだ。

 妙なことに巻き込まれたらどんな被害があるか、分かったもんじゃないからな。

 姉御の試算では俺達がここに居られるのは後数年。

 それまでは平穏であってほしい。

 

 三度目人生記(43年3ヶ月6日目)

 

 

 ……ブリテンはもうダメかもしれない。

 今日、死にそうな顔をしたランスロットから相談があると持ち掛けられた。

 談話室に入るなり、せっせと防音結界用の札を張るランスロットに不吉なものを感じて問いかけてみると、何度か口ごもった後で出て来たのは『グィネヴィア王妃と不義の関係にある』というカミングアウト。

 とりあえず、気絶しなかった自分をほめてやりたい。

 聞けばこの関係は数年前から始まっており、当然肉体関係まで進展してるそうだ。

 で、なんで俺に話したかというと、どうも王の伴侶と不倫する罪悪感に堪えかねての事らしい。

 『今更何言ってんだ』という言葉が口を突きそうになったが、そんな事を言っても仕方が無い。

 どうしたいのかを聞いたところ、グィネヴィア王妃と添い遂げたいときた。

 悩みに悩んだ俺は、アルトリアを自宅に呼んでこの事実を話すことにした。

 本来ならランスロット自身が説明するのが筋というものだ。

 しかし、このメンタルヘタレにそんな芸当出来る訳がない。

 無理にやらせたら、発狂したうえに全裸で森の中を徘徊しかねん。

 取り敢えず、『アルトリアにはこちらから伝えるけど、ケジメはつけないといかんから覚悟を固めとけ。あと、当面王妃とは会うな』と言って、今日のところは帰らせた。

 で、政務を終えたアルトリアとケイ、そしてアグラヴェインを連れて家に帰った俺は、この事を暴露したわけだ。

 なんでアルトリアだけではなく腹心二人を呼んだかというと、こういう事態は当人だけに任せるとロクな結果にならないと踏んだからだ。

 事実を伝えたところ、アルトリアは個人としては二人がくっつくのには賛成らしい。

 もっとも、立場上それは許されないが。

 ケイは腹を押さえて蹲ってしまった。

 ゴメンよ、ケイ。

 特大級の胃痛の種を植えてしまって本当にゴメン。

 アグラヴェインはあきれ果てて、もう二人一緒に火炙りでいいんじゃね? などと言いだした。

 そう言えばこいつ、ギャラハッドの一件でランスロットのことを嫌ってたな。

 俺としては、助けを求めてきた以上は何とかしてやりたい。

 当事者であるアルトリアが二人の仲を認めるのであれば、手口があるのではないかと思うのだ。

 国的にも、このままズルズル関係を引きずってどっかで爆発するより、公的に決着を着けてしまった方がいいだろう。

 ケイがなにか考えがあるのかと聞いてきたので、温めていた策を三人に聞かせた。

 素人考えの付け焼刃だが、全く的外れではないと思う。

 実際、三人共なんとか可能かも、と評価してくれた。

 問題は王妃にかなりの不名誉を背負わせる事と、ランスロットが事実上円卓脱退となる事か。

 とは言え、無茶を振って来たのはむこうが先。

 対価無しにこんな都合のいい話が通るとは思っていないだろう。

 命の保証と豆泥なんて不名誉なレッテルは回避させる代わりに、大半のモノを失うのは覚悟してほしい。

 

 三度目人生記(43年3ヶ月8日目)

 

 

 我が家がブリテンの『見せられないよ!!』的な秘密処理場になっている件について。

 子供たちの教育的にも甚だ遺憾だが、世に拡散するとブリテンが吹っ飛ぶ高火力的な物ばかりなので、この辺は仕方が無い。

 さて、今回間男のランスロットが夫(?)であるアルトリアに謝罪した。

 今まで相当なプレッシャーに晒されていたのだろう、頬はこけ顔は蒼白、虚ろな目でブルブル震えながら土下座する様は本気で哀れだった。

 本当ならもう一人の当事者であるグィネヴィアも一緒に土下座するべきなのだが、昨日アルトリアがこの件を打ち明けてから部屋に籠って出てこないらしい。

 アグラヴェインが無理にでも引っ張り出そうとしたのだが、アルトリアに止められたらしい。

 王の信頼を裏切ったかたちになるのだから、むこうだって死刑になると踏んだんだろう。

 そりゃあ引き籠りもするわ。

 まあ、王妃に関してはアルトリアから伝えてもらうという事で、前回の俺の意見を煮詰めた沙汰というか、示談案をランスロットに伝えた。

 

 1.アーサー王とグィネヴィア王妃は今年いっぱいで離婚する。理由については10年近い結婚生活にも関わらず、世継ぎを産むことが出来なかった為。

 

 2.ランスロットには円卓の騎士を辞して、フランス領に帰ってもらう。こちらは重病の恋人の余生を共に過ごし、看取るためとしておく。

 

 3.ランスロットの除名に伴い、フランス領は従兄弟のサー・ボールスに任せる。これは臣下を辞した事と2項の理由により、ランスロットに領地経営は不可能と判断されたため。また、今までの勲功を省みて、ボールスはランスロットとその恋人に邸宅を用意し、生活を保障するものとする。

 

 4.離婚の処理が終了した時点で、グィネヴィア王妃はブリテン王家から除名される。そのため、その後の彼女の行動について、王宮は関知しない。

 

 正直かなり苦しいところはあるが、これで事を大きくせずに二人の自由を確保できるだろう。

 後は、王妃が変装するなり何なりしてフランス領に移り、ランスロットと合流すればOKだ。

 病気の恋人という設定があるから、ほとぼりが冷めるまで引き籠る事も可能だし、そこからは当人に任せればいい。

 王妃にはかなり理不尽な悪評を付けてしまうが、その辺は不義の代価と思って勘弁していただこう。

 こちらの配慮に涙を流すランスロットに、アルトリアは離婚成立まで王妃との接触を厳しく禁じた。 

 離婚する前に不義が明るみに出れば、此方の目論見は全てご破算になるからだ。

 そうなっては、国家と王の威信を保つために二人とも処刑せざるを得なくなる。

 ランスロットの誓いの言葉を聞いた後、今日は解散となった。

 現状で打てる手はすべて打ったつもりだが、何処か不安が消えない。

 ランスロットよ、お前の事は信頼しているが気を付けろよ。

 身をもって知っていると思うが、女の情念は理不尽かつ強烈なモノだからな。

 

 

 

 

 アルガの邸宅での秘密会談から数日、ランスロットは兵舎の自室で書類の整理を行っていた。

 胸の中の罪悪感は消えてはいないが以前に比べてはるかに小さなものとなり、空いた空間を埋めるかのように明日への希望が占めている。

 栄光ある円卓の騎士に未練が無いと言えば嘘になる。

 しかし、愛する者と歩む未来への代価と思えば、終止符を打つ事に迷いはなかった。

 自分達の事を認めてくれた王やその橋渡しをしてくれた義兄には、本当に感謝の言葉もない。

 この国を去った後でも縁を繋ぐことが出来れば良いのだが。

 自身のムシが良い願いに苦笑いを浮かべていると、扉をノックする音がした。

 小さく二つ、大きく三つ。

 これはグィネヴィアと決めた『来たこと』を伝える合図だ。

 迎え入れようと席を立ったランスロットの脳裏に王の命令が過ぎる。

 扉の前に立ったランスロットは、古びたドア越しに外にいる者に声を掛ける。

「……何方でしょうか?」

「私です、ランスロット」

 返って来た鈴を転がすような声はやはり王妃の物であった。

 ランスロットの中に慕情の火がくすぶり始めるが、彼はそれをねじ伏せる。

「お帰り下さい、妃殿下。ここは貴方様が足を運ぶ場所ではありません」

 冷静であろうと己を戒めながら、ランスロットは拒絶の言葉を紡ぐ。

 これ以上、王や義兄の信頼を裏切る訳にはいかないのだ。

「何故です!? ランスロット!」

 信じられないと言わんばかりに声を上げるグィネヴィアに、ランスロットは誰かに聞こえないかと心臓が跳ね上がる思いだった。

(ここで騒がれて、誰かの目に留まるのは拙い!)

 そう判断したランスロットは、素早くドアを開くと振り上げていたグィネヴィアの手を取って部屋の中に引き入れた。

「ようやく迎え入れてくれましたわね、ランスロット」

 顔をほころばせるグィネヴィアに、ランスロットは苦い顔で口を開く。

「妃殿下。貴女は王より私と接触しない様に申し付かっているでしょう」

「ええ、聞きました。王との離婚が成立するまで、要らぬ疑いが掛からぬように会うのを禁ずると。ですが、一年もの間貴方と会えないなど、私には堪えられません」

「お聞き分けください、妃殿下。これは我々を思っての事なのです」

「この仕打ちのどこが!? 此度の事が済めば、私は子を産めぬ石女という汚名を着せられ、城から放り出されたという醜態が残るのみではありませんか!!」

「……ッ!?」

 見た事も無いような怒りように、ランスロットは諫言の言葉を飲み込んでしまう。

「殿方の貴方には分からないでしょうが、母と成り得る力が無いとして離縁を申し付けられるのは、淑女にとって最大の侮辱なのです! これが私の身体が原因ならば、涙を飲んで納得もしましょう! ですが、諸悪の根源は性別を偽っていた王ではないですか!?」

「グィネヴィア……」

「それに、貴方だって騎士の栄誉をはく奪され、領地まで取り上げられる始末。これが私達を思っての事だと!?」

「それは王達が不義を侵した我々を助けようと───」

「それでも私は嫌です! この胸の想いを押さえながら愛のない王と一年を過ごすなんて!!」

 ヒステリックに叫ぶグィネヴィアの目を見たランスロットは、ビクリッと身体を強張らせてしまった。

 そこには、かつて自分に迫ったカーボネックのエレインと同じ熱と狂気が宿っていたからだ。

「愛しています、ランスロット」

 肩を押さえる手から力が抜けた事を感じたグィネヴィアは、その手を優しく押しのけてランスロットに抱きつき、諸共にベッドへと倒れ込んだ。

「だから、貴方も私を受け入れて?」

 ここまでの道中で自らの顔を隠すローブ、そして下の夜着を脱ぎ捨てるグィネヴィア。

 彼女が見せる剥き出しの女が、ランスロットから抵抗の意思を奪っていく。

 そうだった。

 彼のエレインもまた、己が拒絶した故に愛に狂った。

 ランスロットはグィネヴィアを愛している。

 だからこそ、心から慕う女性があのように狂気に落ちるのは堪えられない。

「───大丈夫。今まで気づかれなかったんですもの、後1年もやり過ごせますわ」

(すみません兄上、そして王よ。私は───)

 徐々に近づいてくるグィネヴィアの蠱惑的な表情に、湖の騎士はゆっくりと目を閉じた。

  





後書きオマケ

ゆるゆる第五次聖杯戦争



さくらん「うふふ……待っててくださいね、先輩」
モル子 「なんか影から黒い触手がウネウネ出てるんだけど……」
剣キチ 「あの触手に手足を絡め捕られた犠牲者が、彼女に乗られる未来しか見えない」
メーちん「どうするんですか、あれ!?」
モル子 「大丈夫よ、えみやん君と合体すれば落ち着くと思うわ」
剣キチ 「あの子の想い人ってえみやん君なのか?」
モル子 「そうよ」
剣キチ 「なんて事だ。腹を斬るくらいで許してくれるだろうか……」
モル子 「やめて、きっと迷惑よ」
メーちん「諸悪の根源がなにを」
金ピカ 「珍しい物があると聞いて足を運んでみれば、斯様なっ───キュルッ!?」
剣キチ 「あ、なんか金色い人が触手に持ってかれた」
モル子 「キュッといったわよ、キュッと!」
メーちん「今のはサーヴァントのようでしたが、なんだったのでしょう?」
剣キチ 「ウチのロペットが『コンバインOK』の指令を出したとはいえ、このまま合体させるのは拙い」
モル子 「誰がロペットよ、誰が」
メーちん「なにか手はあるのですか?」
剣キチ 「取り敢えず、触手を斬って気絶させよう。ほいさっ!!」
さくらん「きゃうっ!?」
メーちん「さくらんが元の色に!?」
モル子 「概念までスパスパ斬れるって便利ねぇ」
剣キチ 「慣れると簡単。それまでが大変だけど」

赤主従

剣キチ 「さて、これで姉御の失態は取り戻したと思うが、これからどうするか」
モル子 「取り敢えず、若奥様に言って休ませてもらえば?」
メーちん「できれば、そうしていただけるとありがたいです。ある事を確認するまで家には帰れないので」
剣キチ 「了解。まあ、オーナーに話を通す前に新手の客みたいだけどな」
赤弓  「やはり気づいていたか」
リンリン「貴方達、その子をどうするつもりかしら?」
モル子 「あら、さくらんちゃんの知り合い?」
剣キチ 「なら好都合。気絶してるだけだから、連れて帰ってくれるかな」
リンリン「へ?」
モル子 「? なにか変な事言ったかしら」
剣キチ 「いや。普通の対応だと思うが」
リンリン「いや……だって、貴方達キャスターの一味なんでしょ? だったらその子を人質に取って、『この娘の命が惜しくば』とかするところじゃないの?」
剣キチ 「やっていいの、馬主さん?」
メーちん「やらないでください」
モル子 「なにか勘違いしているようだけど、私達はこの子に危害を加える気はないわよ。せっかく手間をかけて助けたのに、傷つけたら無駄骨だし」
リンリン「でもでも、さっきこの子を気絶させた……」
剣キチ 「姉御の恋愛相談で暴走したからね」
モル子 「失礼ね。愛を勝ち取りに行っただけじゃない」
メーちん「参考までに聞きますが、あのまま放置していたらどうなりました?」
モル子 「えみやんくんと既成事実を作って、子供を宿して、そのまま学生結婚コースね」
リンリン「なっなっなっ……なによそれぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
赤弓  「……やめてくれ、そこから先は地獄だぞ(白目)」
剣キチ 「危ない危ない。そんな事になったら、彼等の親御さんの前でセルフ斬首せにゃならんところだった」

記憶

剣キチ 「そういえば、そこの赤い人」
赤弓  「なにかね?」
剣キチ 「どっかであった事ないかな?」
赤弓  「……いや」
モル子 「(考え中…考え中……終わり)そうよ、あれだわ。貴方がブリテンにいた時やらかした『剣キチ・世界を斬る』事件で出てきた抑止の守護者」
剣キチ 「ああ、思い出した。マーリンがただ一人分からんって言ってた名無しのヒトだ」
リンリン「世界を斬る? 抑止の守護者? ちょっと待って、貴方いったい何したの?」
剣キチ 「千五百年くらい前にブリテンに住んでたんだけど、世界の意思とかで国が滅びそうだったんだ。で、何とかならんかと思って、世界を斬ってみた」
モル子 「それで本当に世界という概念に傷を付けちゃって、世界の危機って事で抑止の守護者が緊急出撃したのよ。そこの彼はその時に呼び出された一人ってワケ」
リンリン「( ゚д゚)」
剣キチ 「ふむ……。あの時は傷だけだったけど、今ならバッサリ行けるような気がするな。───姉御、試していい?」
モル子 「絶対ダメ」
剣キチ 「いいじゃん。失敗しても例の刺客が出るだけだろ。それくらいバッサリぶった切るからさ」
モル子 「成功したら世界が滅ぶでしょ。やるならせめて、若奥様達とアルトリアを回収してからにしなさい」
リンリン・赤弓「ちょっと待てぃッ!!!」


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