剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました、剣キチ更新です。

 なんというか、この頃とっても忙しい。

 取り合えず、進行速度は少し落ちるかもですが、頑張っていきたいと思います。


剣キチが行く人理修復日記(19)

人理修復記42日目

 

 

 今日は第四次で征服王のマスターをしていたウェイバー少年と妙な再会したり、奇門遁甲の天地返しを体験したりと密度の濃い日だった。

 

 個人的には経絡が乱されるのがどういう感覚かを知れたのは収穫だったし、氣脈封じ対策という新たな課題が見つかったのも幸いだ。

 

 罠に掛かって喜ぶのは個人的にどうかと思うが、絶体絶命の窮地から生き残った経験ほど教材となるモノはないのである。

 

 さて今回の反省点だが、まずは圏境を過信しすぎた点か。

 

 いくらカルナ以外に看破された事がないとはいえ、今回はさすがに用心が足りなかったように思う。

 

 ウェイバー少年の詰めが甘かったからよかったものの、あそこで大剣豪の英霊とかを出されたら今頃五体満足ではいられなかったしれん。

 

 暗殺家業から足を洗って久しいのだから、今後は勘を取り戻すと同時に発見された際の事を常に頭に入れておくべきだろう。

 

 次に思いつくのは俺自身の貪欲さに陰りが出ている点か。

 

 天地を返された時は退いてしまったが、今になって思えばあの場は経絡に内勁が残っている内に攻めるべきだった。

 

 ウェイバー少年の首は刃の届く距離にあったのだし、相手はキャスターなのだから術の発動にこちらの一手が遅れるとは思えない。

 

 仮に即時発動型の罠があったとしても、因果の破断を使えば食い破れたはずだ。

 

 少なくとも、前世の俺なら後の事など考えずにウェイバー君を殺りに行った事だろう。

 

 上海に居た頃は命を掛け金にしての大博打なんてザラにあったし、今よりもハングリー精神に溢れていた。

 

 歳を食って丸くなったと言えばそれまでだが、命を削り合うギリギリの戦いではギラギラした獣のような感覚が勝負を分ける事も珍しくない。

 

 これから先に出てくるであろう名うての英霊達を相手にするなら、こういう錆は落としておくべきかもしれん。

 

 これは余談になるのだが、今回久々に出番のあった『剣理殺人刀』についても語っておこうと思う。

 

 ノリで大層な名前を付けてしまったが、あれは言ってみれば省エネ式戴天流である。

 

 オークニーで兵士をやっている時は単独で異民族の軍団を狩る任務を受ける事が多かったのだが、いくら俺が剣術狂いでも段平(だんびら)一つで軍を殲滅するのは流石に疲れる。

 

 そこで対サイボーグ用に調整されていた戴天流の型を本来の対人用へと組み直し、そこからさらに無駄を省いてスタミナのロスを減らす方向へと改良したのがあの刀法なのだ。

 

 開発理由は『楽がしたいから』というしょっぱいものだが、オークニーの蛮族狩りから延々と試行錯誤を続けてきただけあって、技法としてはいっぱしの代物に出来上がったと思う。

 

 まあ、技術として完成度が高まっていくのに比例して漂う血生臭い雰囲気も増加したのは誤算だが、より効率よく人を殺傷するというコンセプトを思えば仕方のない事だろう。

 

 これって暗殺術の方にかなりベクトルが傾いてるから、剣よりもダガーや小太刀の方が向いてるし。

 

 万が一俺が英霊になってアサシンのクラスで呼ばれたら、戴天流じゃなくてこっちを使うようになるんじゃなかろうか。

 

 閑話休題。

 

 さて、俺がまんまと罠に嵌ってバカやっていた頃、本隊の皆も頑張っていたらしい。

 

 立香ちゃんの話では不死人になった英霊一万騎相手に大立ち回りをやらかしたとか。

 

 接敵する前にアルトリアを先頭にセイバークラスのビーム祭りで軍の大半を削り、残り二千強を何とかサーヴァント達で押し留めたところ、アンリ・マユの新必殺技『無限の残骸(アンリミテッド・レイズ・デッド)』が炸裂。

 

 こちらも多重召喚宝具だったらしく、湧き出た汚泥のケモノによってあっと言う間に数の不利をイーブンに戻すことが出来た。

 

 そしてそのチャンスを逃すことなく、一万騎の召喚主であるダレイオス三世を討って大金星を挙げたのが所長の指示でついてきた百貌ボーイズだった。

 

 敵サーヴァントであるバーサーカー・ダレイオス三世によって多重召喚された一万騎全てに施されていた狂化によって、奴等が主を置き去りに突撃していた事を逆手にとっての電撃戦。

 

 女性体と幼児、そしてマクール君を除く77体による王手を跳ね返せなかったダレイオスは、彼等の影刃によって命を落とすことになった。

 

 ここまでは問題ないのだが、この戦いの影でシャレにならない案件が発生していた。

 

 なんと敵将サーヴァントであるアレキサンダーがネロ帝と刃を交えていたのだ。

 

 幸いにもマリー女王の機転で送り込まれたマシュ嬢達によって無事に敵将を迎撃する事が出来たが、一歩間違えばこちらの王手を食らうところだった。

 

 とはいえウチの一般兵には殆ど犠牲は出てないし、一万もの英霊に襲われている状況では迎撃に手一杯になるのは当然だ。

 

 なにより暗殺をしくじった俺に防衛側を咎める権利はない。

 

 今回のような失態を二度と侵さない為にも、早急に氣功封じの対策を確立せねばなるまい。

 

 とりあえずは意図的に氣脈の流れを乱して、それを復旧させる訓練を織り交ぜる事から始めよう。

 

 

 

 

「ほぁぁ~、ぬくぬくだぁ……」

 

「気持ちいいねぇ、モードレッドお姉ちゃん……」

 

「おら、ちゃんと肩まで浸かれよチビ共。こんなところで風邪ひいたらシャレになんねぇからな」

 

 黄金に真円を描く月と満天の星空の下、私は全身を包む温かさに目を細めました。

 

 どうも、先ほど姪から『アル叔母さんって、お風呂に入ってるとカピバラみたいな顔するね』なんて暴言をいただいたアルトリアです。

 

 たしかにあの幸せそうなまったり顔は可愛いですが、私はげっ歯目ではないのですよ、ミユ。

 

 あとカピバラとヌートリアが似ている事を良い事に、語呂合わせでニートリアなんて呼ぶ輩はカリバーの刑です。

 

「はぁい……ぷくぷくぷくぷく……」

 

「って、沈んでんじゃねーよ!?」

 

「うわわっ、ミユ~!?」

 

 突然の喧騒に目を向ければ、ミユが小さな泡を立てながら沈んでいくのが見えました。

 

 モーさん達は慌てているようですが、実は心配いらなかったりします。

 

 ミユはダヌーの神使だけあって、水神の加護を得ているので溺れる事はありません。

 

 先ほどのはしゃぎ具合から温泉の熱に充てられているようにも見えませんし、年相応のお茶目な悪戯なのでしょう。

 

 そういう事なので落ち着きなさい、ダブルモードレッドや。

 

 さて、私達が寛いでいるのは空中庭園ならぬ空中温泉です。

 

 もちろん、こんなものローマ領土には存在しません。

 

 実はこれ、姉上がガレスの読んでいたマンガに触発されて造った『魔導球』という礼装なのです。

 

 この『魔導球』は簡単に言うと一種の固有結界のようなもので、球状の透明ケースに入った模型に触れてアクセスコードを唱えれば、この通り内部が現実となった空間の中へと招待される仕組みになっています。

 

 現在稼働している温泉セットは、特異点攻略中では満足に入浴も出来ないだろうと気を使った母上が、ガヘリスの結婚式の時に兄上へ届けてくれたものだったりします。

 

 母上の指摘の通り、第一特異点での衛生面は沸かした湯で身体を拭うくらいしかできませんでした。

 

 ヤロウだけならそれと行水でどうとでもなりますが、女性と子供はそうはいきません。

 

 そういった苦い経験もあって、兄上も第一特異点修復後に五右衛門風呂用のドラム缶まで用意していたらしいです。

 

 なので、この魔導球はマジで助かったと言っていました。

 

 何年経っても親は子供の事を考えてくれているのですね。

 

 そういう経緯で我々の手に渡った魔導球ですが、先の戦の慰労と決戦前の英気を養う意味も込めてサーヴァントとマスターに解放する事になりました。

 

 ここを見た際のリアクションが最も良かったのは、やはりというかネロ帝だったりします。

 

『素晴らしい! 遠征先でこれほどのテルマエを楽しめるとは……余は嬉しい!!』

 

 テルマエ発祥の地を治める皇帝らしく、彼女はピョンピョン跳ねながら全身で喜びを表現していました。

 

 その時のネロ帝の仕草の絵になる事ったら……

 

 ああいうあざとい仕草が似合うのは、やはりちみっこい身長が影響してるのでしょうか?

 

 これは余談ですが、現在使用している広大な空中温泉の元となった模型は姉上のフルスクラッチだったりします。

 

 今まで模型作りをしているなんて聞いたことが無かったので、最初に見せられた時はその完成度に度肝を抜かれました。

 

 聞けば、魔女チャットで知り合ったとあるマダムからボトルシップを勧められて、そっから模型作りにハマったんだとか。

 

 妊娠が発覚してからは家事全般を母上が担っているので、暇を持て余した姉上の部屋では私の積みガンプラが次々と組み立てられています。

 

 『魔女』『女神』と来て今度は『モデラ―』、姉上が持つ称号のフリーダムさには私も脱帽です。

 

「こら、お風呂で潜らないの! 溺れないのは知ってるけど、お湯に長く浸かってるとのぼせちゃうんだから!」

 

 わずかに浮かぶ黒髪の頭頂部をぺしりと叩くと、マルタがミユを引き上げました。

 

「えへへ……。ごめんなさい、マルタお姉ちゃん」

 

「まったく。今日はいつもより魔力を使ったんだから、ちゃんと疲れを癒さないとダメじゃないの」

 

 そう言いながら温泉の岩場に腰かけた自分の膝にミユを座らせるマルタ。

 

 窘めるような口調の割にこの扱い、彼女もミユには甘いですね。

 

 あと、どさくさに紛れて同じようにモードレッドを抱っこしているアタランテ。

 

 ご満悦なのはいいですけど、いい加減にしないとモーさんに斬られますよ、アナタ。

 

「そうやっていると、マルタさんとミユちゃんって姉妹みたいだね」

 

「はい。フランスの時よりも親密になったように見えます」

 

「私がライダーでは無くルーラ―として召喚されたのはね、この子が聖女ではなく姉代わりとして私を望んだからなの」

 

「フランスで会った時にね、マルタお姉ちゃんはすっごくカッコよくてキレイだったの! だから、みたせみたせーした時に『ミユのお姉ちゃんになってくれたらなぁ』って思っちゃった」

 

「そういうワケだから、この子の前では気取らないでただのマルタとして接する事にしたのよ」

 

 ペロッと小さく舌を出すミユの頭を優し気な手つきで撫でながら、マルタはリツカとマシュに答えました。

 

 ウチの家族は身分だのなんだのとは無縁ですから、そう望むのは当然かもしれませんね。

 

「アルガ君はいてもモードレッド達は母親と離れて暮らしてるからねぇ。その辺のフォローは私達がしてもいいんじゃないかな」

 

「そうね。二人とも女の子だから殿方には手に負えない事も出て来るでしょうし」

 

「ありがとー! お返しに私達がブーディカママ達のお背中きれいにするね!」

 

 マリーとブーディカの言葉を受けたミユは元気よくマルタの膝から降りると、バシャバシャと湯船を渡ってブーディカの手を引き始めます。

 

 しかし、なかなかに予想外な単語がでてきましたね。

 

「ブーディカママ、ですか?」

 

「ガヘ兄ちゃんとエスィルト姉ちゃんが家族になって、ブーディカ姉ちゃんがガヘ兄ちゃんのお母さんになったんだろ? だったら、兄ちゃんの妹なオレ達にとってもお母さんだぞ!」

 

 なるほど、間違ってない……のでしょうか?

 

「この子達ってちょくちょく他のサーヴァント達の所に泊まりに行ってるでしょ。ちょうど私の時が娘の結婚式のすぐ後でさ、少ししんみりしてたら元気出せって二人でこう呼んでくれたんだ。死んで英霊になった後で家族が増えるなんて思ってもみなかったからね、驚きと嬉しさで涙も引っ込んじゃった」

 

 そう言って嬉しそうに笑うブーディカ。

 

 あの子達もそんな風に他人を気遣える優しさを見せるようになったのですね。

 

 叔母として本当に鼻が高いです。

 

 因みに話に出ていたエスィルトさんですが、ガヘリスと共に家族風呂に入っているそうです。

 

 この家族風呂は魔導球の中で唯一混浴が認められたスペース、何をしているのかなど考えるまでも無いでしょう。

 

 聞けばグンヒルド夫妻も利用しているとの事。

 

 野暮な事を言うつもりはありませんが、オーナーの身内としては後処理だけはしっかりしてほしいモノです。

 

 しかし、この温泉は本当に気持ちがいいですねぇ……。

 

 お湯も熱過ぎず温過ぎず、炭酸も入っているので身体も自然に解れますし。

 

 ニートとしては、ここに住んでもいいような気がします。       

 

「叔母上。また温泉に浸かってるネズミみたいな顔になってるぞ」 

 

 そうやってまったりしていると、モーさんとネロが私の左右に腰を下ろしていました。

 

「ほっといて下さい。私は住環境が良い場所では緩くなるように出来てるんですよ」

 

「うむ、この浴場は本当に良い! 満天の星空に芸術的な滝と岩場によって作られた空中庭園。その中で湯を楽しむなど、皇帝であってもそうはできぬ贅沢だぞ!!」

 

 そう絶賛しながら天に向かって両手を伸ばすネロ。

 

 その反動で大きく揺れる胸が恨めしい。

 

「ところで、どうしたんですか? モーさんはともかく、ネロ帝が私に話しかけるなんて珍しいじゃないですか」 

 

「リツカの話では其方も一国を治めた王であったと聞く。そこで風呂の肴に面白い話があれば聞こうと思ったのだ!」

 

「面白い話ですか? ウチは脳筋騎士の集まりだったのでバカ話には事欠きませんけど……」

 

「いいじゃねーか。聞かせてくれよ、叔母上」

 

 大きい方だとはいえ、姪っ子にねだられては話さないワケにはいきません。

 

 そこで私は印象に残っているエピソードを面白おかしく語って聞かせました。

 

 例えば、文官の不足から騎士にも内政を手伝わせることになった時、自己推薦したラモラックがくわっと気合に満ちた顔で『九九、八十九!!』と答えた事。

 

 彼の騎士はどこぞの王族だったと聞いていたのですが、どうして頭が男塾の田沢並だったのでしょうか?

 

 トリスタンとイゾルデの逸話は有名ですが、実際にはあの男は十を超える村々に現地妻(イゾルデ)を作っていた事。

 

 お蔭でこっちの世界で悲恋となった二人の話を見た時には笑いも出ませんでした。

 

 私の世界のトリ野郎の顛末は知りませんが、こっちと同じ結末ならば妻となった『白い手のイゾルデ』の行動は当然と言えるでしょう。

 

 とある戦功叙勲の際、ランスロットが奴の毒牙に掛かってしまった哀れな女官三名から刺されそうになり、その不祥事が原因で叙勲を取り消された事。

 

 三又……いえ、ギネヴィアを含めたら四又ですか。

 

 当時は『英雄、色を好む』なんて見逃してしまいましたが、あの時奴の本性に気付いていればと悔やまずにはいられません。

 

 マーリンは兄上が剣術指南に来るたびに幻術で逃げようとしていたのですが、本人にあっさりと見破れたうえに『ねえ、自慢の幻術を破られてどんな気持ち』と煽りまくられていた事。

 

 いつも飄々としているあのクズが本気で悔しがっていたのは、なかなかに面白い見世物でした。

 

 というか、マーリンって兄上相手だと割とムキになるんですよね。

 

 本人は否定していましたが、あれって初戦の事を根に持っているのでしょうね。

 

 徴兵した民兵の多くが兄上を『アーサー王』だと勘違いしていると知って、まる二日ふて寝してしまった事。

 

 思い返せば兄上は劣勢になった際に散り散りにならないように教育したうえで効率のいい撤退方法を教え込んだり、新兵が安全に戦えるようにとベテランと二人一組で攻防を分担する台車に厚い盾と槍を設置した疑似ファランクス装置を作るなど、民兵を生き残らせるのに苦心していました。

 

 実際そのお陰で歩兵の戦死者も減少しましたし、それが転じて王と間違えられる事態を呼んだのでしょう。

 

 あとは仕事が忙しくて実家に帰れない時に姉上の転移魔術で強制的に帰省させられて、骨休めをした後でキャメロットに戻ってみたら国王拉致事件なんて大騒ぎになってた事などなど。

 

 途中から離れていたリツカ達も参加したので、けっこうな騒ぎとなってしまいました。

 

「いや、なかなかに笑わせてもらったぞ。しかし、其方は幸せ者だな」

 

 突然のネロの言葉に、私は思わず首を傾げてしまいます。

 

「ローマに限らず、国家の頂点に立つ者にとって血を分けた家族はその多くが政敵となる。国を統べる玉座は一つ、それ故に親兄弟と言えど王や皇帝となるには切り捨てねばならぬ」

 

 満天の星空に目を向けながらネロは朗々と語り続けます。

 

「しかし其方は違った。其方の家族は権力を欲せず、窮状を知れば惜しみなく手を差し伸べた。そして国や王冠の重みを忘れ、ただの娘としていられる場所で其方を快く迎え入れた。それはきっと数多の王が望んでも得られなかった至宝であろう。────正直、余は其方が羨ましい。余に兄妹はおらぬが、せめて母だけでも其方の家族のように接してくれればな」

 

 私達に見せたくないのか、天へと顔を挙げたままネロは少し震える声で言葉を紡ぎます。

 

 伝承通りであれば、彼女は唯一の肉親であった母親を政敵として葬ったと言います。

 

 いいえ、彼女だけではありません。

 

 モーさんが辿った歴史では、姉上が政敵として長きにわたって騎士王を苦しめたそうではないですか。

 

 それを考えれば、私はどれだけ恵まれていた事でしょう。

 

 改めて家族のありがたみが分かろうものです。

 

 今回の案件が終わったら、脱ニートの為にも家事手伝いくらいはするべきかもしれませんね。

 

 

 

 

 アレキサンダーとの遭遇戦から翌日、魔術球でリフレッシュに成功した正統ローマ軍は連合ローマ首都へと侵攻。

 

 幾多の迎撃を退け、彼等の王宮を眼前へと捉える位置まで進軍していた。

 

 もちろんここまでの道のりが平坦なはずは無く、死兵となった連合ローマ軍の必死の抵抗に遭った彼等は、ネロに随伴する兵士達にかなりの被害が出ていた。

 

 ネロは『戦である以上、兵の消耗は付き物だ』と言ってくれたが、カルデアのマスター代表を代表する立香としては素直に頷くことは出来ない。

 

 一騎当千のサーヴァントを10も従えている身としては、自分達が上手く立ち回れば犠牲を出す事はなかったという言葉を頭から拭えなかったのだ。

 

 とはいえ、彼女に自身の至らなさを悔やんでいる暇はない。

 

 散って逝った兵達に報いる事があるとすれば、一刻でも早くこの特異点を修復して元に戻す事なのだから。

 

「皆の者、決戦である!」

 

 連合ローマ首都への突入を前にして、皇帝自らの檄が兵へと飛ぶ。

 

「今こそ余と、余の兵たる貴様たちの力を集める時だ! この戦いを以てローマは再び一つとなろう!! 忌々しくも『皇帝』を僭称せし者どもよ! 今こそ、偽物のローマが潰える時だ!!」

 

 正統ローマの先鋒が王宮守護の兵と刃を交える中、中・後衛の兵士達に向けたネロの声はよく通った。

 

「戦え、余の兵達よ! 我が剣となって僭主どもを打ち倒すのだ!! 我が剣は原初の情熱にして、剣戟の音は宙巡る星の如く! 聞き惚れよ、しかして称え、更に喜べ! 余の剣たちよ!!」

 

 壇上で拳を突き上げるネロに合わせるように、兵士たちの鬨の声が周囲の空気を大きく揺り動かした

 

「おーおー、凄ぇもんだ。あのチビッ子皇帝、アジテーターとしては一流だな」

 

 そんな彼等の叫びを受けて、耳を塞ぎながら顔を顰めるクー・フーリン。

 

 それに応じるのはカルデア本部から通信を送るロマニだ。

 

『こっちにも彼女の声と歓声が聞こえてきたよ。兵士たちの士気は最高潮のようだね』

 

「すでに先遣隊が戦闘に入っています。ですが、サーヴァントの気配は未だありません」

 

 初手はローマ兵に譲るように指示を受けたカルデアの面々は、中衛に混じる形で出番を待っている。

 

 いつもの通り、王宮までの道のりはマスター達はマリーの馬車で移動し、建物の中に関しては一人一騎の護衛を付けて突入する手はずになっている。

 

「次に出て来るのもローマの皇帝なのかな?」

 

「かもしれないわね。けれど、レオニダスやアレキサンダーのようにローマ皇帝と関係のないサーヴァントも呼び出されているわ。それに固執してしまうのは視野を狭めるだけだと思うの」

 

 馬車の窓から顔を出していた立香の問いに、同乗していたマリーが答える。

 

 聖杯が敵の手にあるからには、新たなサーヴァントが補充される可能性は高い。

 

 決戦を間近に控えている以上、通常の聖杯戦争のように悠長に相手の真名を調べる余裕はない。

 

 ある程度は予測を立てておく必要があるのだ。

 

 もっとも、クー・フーリンを筆頭とした武闘派に言わせれば、『相手の名前なんざ、殺す間際に聞けばいい』という物騒な答えが返ってくるだろうが。

 

「おしゃべりはそこまでだ、サーヴァントの反応をキャッチしたぞ。距離はそう離れていない……前方に見えるはずだ」   

 

 決意を新たに進軍を続けていると、連合ローマ首都の城門の前に一際巨大な影が立っているのが見えた。

 

「……勇ましきものよ」

 

 それは太い漢だった。

 

「実に勇ましい。それでこそ、当代ローマを統べる者である」

 

 人とは懸け離れた容貌に鍛え抜かれた黄金比の肉体。

 

 そして大樹のように雄々しく聳えるYの字の構え。

 

 ───その漢はまさにローマだった。

 

「こちらも視認しました。王宮の入口付近に巨躯の人物が一人、こちらにむかって、声を掛けてきました。これは……ネロ陛下に呼び掛けています」

 

「こんな喧騒の中で声が届くなんて……。サーヴァントは声帯も人間を超えているのね」

 

 マシュの言葉にオルガマリーが半ば呆れた声を出す中、漢は真紅の目でネロを捉えたまま表情を緩ませる。

 

「───そうか。お前がネロか」

 

 彼がネロに向けるのは自身の命を狙う敵を見るのとは程遠い、まるで父が幼子を愛でるような、そんな視線だった。

 

「何と愛らしく、何と美しく、何と絢爛たることか。その細腕でローマを支えてみせたのも大いに頷ける」

 

 そう言うと漢は構えを解き、何かを懐に迎え入れるように丸太の如き剛腕を左右に広げて見せた。

 

「さあ、我が元に来るがいい。過去、現在、未来のローマがお前を愛そう」

 

「ああ……一目見ただけで分かってしまう……。貴方は…貴方だけは、そちらに付くはずがないと信じていたのに……」

 

 漢の姿を目の当たりにしたネロの顔には普段の不敵な表情は無く、蒼白に染まったそこに浮かぶのは怯えと失望だった。

 

 さらに兵士たちに至っては、我先にとその場へ跪き首を垂れる始末。

 

 これでは戦いになどなるはずがない。

 

「お前達には分かるはずだ、我が愛し子よ。───私だ。私こそが連合の首魁である。お前達も連なるがいい。許す、お前の全てを私は許して見せよう」

 

 戦場であってもよく通る声でそう告げる偉丈夫。

 

 その声音に惑わされたのか、ネロの持つ真紅の切っ先もまた下へと下がっていく。

 

「ネロ陛下、あの男はいったい誰なんですかッ!?」

 

 急速に萎んでいく士気に危険を感じた立香が声を荒げると、ネロは絞り出すように男の名を口にした。

 

「……あの存在感、あの威容、間違えようはずがない。あのお方は我等がローマの建国王、神祖ロムルスだ」 

 

『ロムルス……ッ!? 軍神マルスの子と言われるローマ建国の超人か!!』

 

 ネロの言葉にロマニをはじめとするカルデアの面々が驚く中、漢の威光に物怖じしない者もいた。

 

 そう、正統ローマが誇る二大バーサーカー呂布奉先とスパルタクスだ。

 

 共に反骨精神の塊である両雄は、敵の首魁を目の当たりにすると同時に地面を爆砕しながら襲い掛かった。

 

「圧政者の長たる者よ! その邪悪なる魂が潰える時が来たのだ!!」

 

 初手を仕掛けたのはスパルタクス。

 

 見る者の心胆を寒がらせる笑みと共に、彼は鉛色の筋肉を脈動させてグラディウスを横薙ぎに振るう。

 

 轟音を伴って神祖の首へと食らいつかんとする青銅の刃。

 

 だが次の瞬間、水風船が破裂するような音と共に反逆の英雄はその上半身を粉砕されて地に伏せた。

 

 突然の事に唖然とする正統ローマの面々。

 

 視界を遮る血煙が晴れると、その先には大樹の如き剛槍を中段に構えるロムルスの姿が。

 

 しかし、相棒の無残な最期を目の当たりにしても呂布は眉一つ動かさない。

 

 狂気の侵された彼の頭にあるのは、敵の首魁たるロムルスを葬って連合を略奪する事だけだ。

 

「■■■■■■■■────ッ!!」

 

 瞬く間に敵との間合いを殺しきり、勢いのままに方天画戟を突き出す呂布。

 

 だがしかし、三国時代最強の英雄の一撃が捉えたのは相手の心臓では無く虚空のみ。

 

 そして、皇帝へ刃を向けた者に待っているのは天意の裁きである。 

 

「───セプテムッッッ!!」

 

 落下スピードと巨躯の重みを加えたロムルスの振り下ろしを、呂布は方天画戟を掲げて受け止める。

 

 凡百の英霊ならば、何が起こったかも分からぬ内に頭を割られているだろう一撃。

 

 それを防いで見せたのは『人中の呂布』の面目躍如と言えよう。

 

 しかし、そんな猛将を以てしてもロムルスの放った一撃を押し返すことは出来ない。

 

 剛腕……否。

 

 巨岩……否。

 

 大山……否、否、全て否!

 

 彼の両手に掛かる重みはロムルスから綿々と受け継がれたローマという国家そのものだった。

 

 王は皇帝となり民の増加と共に文化は栄え、いつしかヨーロッパ最大の帝国へと成長する。

 

 その誇りと浪漫は三国一と言われた武人でも、終ぞ国を背負う事の無かった呂布に支え切れるものではなかった。

 

「■■■■■■■■────ッ!?」

 

 怒号かそれとも悲鳴か。

 

 大気を揺るがす咆哮一つを残し、三国志に名を刻んだ梟雄はローマの大地へ圧し潰された。

 

「我が槍はローマそのもの。民と国を背負う重みを知らぬ者に止める事は叶わぬ」

 

 消えゆく二名にそう言葉を残し、再び大樹の如き構えに戻るロムルス。

 

 大地に聳え立つその型に隙など見当たらなかった。

 

 

 

 

 ところ変わって、ここは連合ローマの王宮内。

 

 ロムルスが正当ローマの迎撃に出向いた事で主不在となったこの場所だが、それにも拘わらず蠢く者がいた。

 

 それは肩まで伸びたもっさりした髪にモスグリーンのスーツとシルクハットを付けた中年の男。

 

 その姿を見ればカルデアのスタッフは生きていたのかと驚愕し、特異点冬木の真実を知る者は首を捻った事だろう。

 

 男の名はレフ・ライノール・フラウロウス。

 

 宮廷魔術師という名目で連合へ取り入った魔術王の手先だった。

 

「くそっ! この私が不意打ちを受けたとはいえ、精霊ごときに打倒されるとは。お蔭であの御方の手を煩わせた上に、この程度の使いも出来ぬのかと不興を買う始末」

 

 普段は温厚に見える顔を憤怒でゆがめ、レフは黄金の盃を持つ手に力を込める。

 

「だが、二度目の不覚は取らんぞ。奴がこの特異点に踏み入っているのは調査済みだ。この特異点で得られたリソースの大半をつぎ込めば、最大級の英霊を召喚できる。それであの男を────」

 

 復讐が成った時のことを夢想しているのか、人とは思えぬ凶悪な笑みを浮かべるレフ。

 

 しかし、その幸せな時間は突然彼の肩を叩いた手によって終わりを告げた。

 

「────────やあ」

 

 何故なら、振り返った薄暗い闇の中に自分の凶相など比較にならない程の悪鬼スマイルが浮かんでいたのだから。

 

 

 

 

水着剣豪小ネタ

 

アラ50『師匠君。カジノの契約書を調べてみたが、やはり我々の予想通りだったよ』

 

デス師匠『遅行性のインクを使用した追加文章詐欺、か。ずいぶんとチャチな真似をする』

 

アラ50『そのチャチな絡繰りを見抜けないのが彼等だ。清廉潔白が過ぎる王に早逝したファラオ。世間知らずのハイ・サーヴァントと田舎娘な聖女様。挙句の果ては引き籠り妖怪だ。現代社会の裏に潜む悪意を見抜くのは少々難しいだろうさ』

 

デス師匠『とはいえ、あれでも同じ釜の飯を食った仲間だ。娼館堕ちやモルモットにされるのを見過ごす訳にはいかん』

 

アラ50『夏を満喫できない程に手荒いマネになったとしてもかね?』

 

デス師匠『その程度は授業料さ』

 

アラ50『それはまた随分と高くついたものだ。ところで、英霊最強決定戦はどうするのかね?』

 

デス師匠『もちろんやるとも。なにせ、今の俺は悪の仮面『デスクィーン師匠』だからな』

 

アラ50『便利なものだね、変装というモノは』

 

 

 

 

なすび『そんなワケで、この特異点の難易度が急上昇してしまいました』

 

ニート『獅子王が恥ずかしいバニー姿なのはさておいて、マジでシャレになってませんね。ぶっちゃけ、諦めた方がいいんじゃないですか?』

 

うさぎ『恥ずかしいとは無礼な。これはサー・ガウェインとサー・ランスロットが勧める由緒正しいカジノ店主の正装なのだぞ。それと諦めるなどと情けないことを言うな』

 

ぐだ子『獅子王様、騙されてる……。あとマシュはゴミムシを見るような眼をするの止めようね』

 

ニート『情けないって、貴女も兄上の強さを肌で感じたでしょうに。ベティヴィエール、彼女はどうやって敗北したのだ?』

 

ベティ『開幕と同時に剣キチ殿の小足・大斬り・グレイブシュートで打ち上げられ、あとは壁を使った『円卓バスケ無限ループ』で為す術も無く敗北いたしました……』

 

トリ『仮面の男に吹き飛ばされては壁を跳ね返る我が王の姿は、まさにピンボール。……私は悲しい』

 

うさぎ『ベティヴィエール!? トリスタン!?』

 

ベティ『王よ。剣キチ殿を最も知ってるのは彼女です。ならば、恥を忍んででも勝つための手がかりを掴むべきかと』

 

うさぎ『くっ……』

 

中二病『しっかし、どうしちまったのかねぇ、あの御仁。こんな傍若無人な行いをする人じゃねえはずなんだけどよぉ』

 

ニート『兄上単独ならともかく、息子たちを巻き込んでいるのは解せませんね。兄上の行動指針は子供に顔向けができない事はしないですから』

 

ぐだ子『こういう時に花のお兄さんが手を貸してくれたらなぁ……』

 

ニート『花のお兄さん?』

 

半魔 『待たせたね。呼ばれて飛び出た花のお兄さんだよ』

 

ニート『やっぱり原因はお前か、このクズが!!』

 

マリン『あふっっ!?』

 

なすび『ニートさん! 半魔さんを見るなり幕之内ばりのリバーを打ち込むのはやめてください!!』

 

ニート『貴様、なにをやった!? ハケッ、ハクンダッッ!!』 

 

半魔『ぐはぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

ぐだ子『すごっ! パンチの威力で身体が浮き続けてる!!』

 

うさぎ『落ち着くがいい、異界の私よ。そのザマでは半魔も言葉を発することが出来まい』

 

ニート『チッ……』

 

半魔『…………ありがとう。助かったよ、獅子王』

 

うさぎ『感謝の意があるのなら事情を説明しろ、半魔。私に権能を使わせたのは彼を封印する為なのだろう?』

 

すまない『封印とは穏やかでは無いな。あれが剣キチ殿として、そうする理由はなんだ?』

 

半魔『簡単に言うとだね、彼は特異点の原因である聖杯に宿った思念に取り憑かれてしまったんだ。そうだよね、武蔵殿』

 

イオリん『う……。───簡単に言うとですね、この北米で行き倒れた私はたまたま聖杯を見つけまして。当時は空腹も限界だったので、聖杯を食器にご飯とうどんをたべてしまったのです。その結果、何故か私の剣士としての徳とか経験とか執着なんかが分離して───』

 

半魔『その情報を私から聞き取った剣キチが討伐の為にそれと接触。倒す事は出来たんだけど、相性が良すぎて思念を取り込んじゃったんだねぇ』

 

うさぎ『結果、あの怪物が誕生したわけか。そして手に負えないと判断した貴様は本当の目的も告げずに私を煙に巻き、口車に乗せられた私はこのラスベガスを作る事で奴を封印した、と』

 

なすび『そんなことが……。ところで剣キチさんを元に戻す方法は無いんですか?』

 

半魔『彼は剣士としての思念が前面に出ている状態だからね、セイバークラスが剣の勝負で勝てば元に戻るよ』

 

ニート『事実上不可能じゃねーかッッ!!』

 

マリン『あぷぱっっ!?』

 

ぐだ子『ニートさん、気持ちはわかるけどアスファルトの上で高速DDTは止めて!!』

 

ニート『しかしどうしたものか……。今の兄上なら世紀末覇者のように、このラスベガスの征服に乗り出すのは目に見えています』

 

うさぎ『そして我等にそれを防ぐ手立てはない……』

 

中二病『なにを諦めてやがるんでぃ。あの御仁だって水着剣豪なんだろう? だったら、勝てばいいだけの話じゃねーか(……なんて啖呵を切っちまったが、クラス的に考えて戦うってオレになるんじゃねーか?)』

 

ニート『止めておきなさい。迂闊に手を出すと、うさぎのように死ぬより辛い目に遭いますよ』

 

うさぎ『水着剣豪勝負が命のやり取りでないのが幸いした。あれが実戦なら、私はみじん切りになっていたのではないだろうか……』

 

すまない『剣キチ殿の対策は後で考えるとして、まずは他のカジノに協力を求めるべきじゃないか?』

 

イオリん『だったら【HIMEJI・サバイバルカジノ】に行きましょう。あそこを仕切ってるのは刑部姫だし、他の面々よりは与しやすいはずよ』

 

ぐだ子『そうだよね。なんにせよ、まずは仲間を揃えないと!!』

 

 

 

 

なすび『そんなワケで【HIMEJI・サバイバルカジノ】に来たのですが……』

 

ぐだ子『すでに地獄開始されていた件』

 

次男『ヒャッハー! 軍師の旦那ぁ、派手に花火を上げてくんなぁ!!』

 

ちんきゅー『いいでしょう。湖の騎士よ、今からカジノの正門まで飛ばします。貴方はそこで自爆しなさい』

 

何スロ『んー! んー!!』

 

ベティ『あれはランスロット卿!』

 

トリ『生きていたのですね、私は悲しい……』

 

ちんきゅー『こんなギャグイベントでそうそう死ぬわけがないでしょう。───だからこそ、利用価値があるというものですが』

 

中二病『テメェ等! 湖の旦那をどうするつもりなんでぇ!?』

 

長男『He is Rocketman!!』

 

ちんきゅー『策、冷血を持って終わらせましょう。炸裂するは掎角一陣。───現代ではこうも呼ばれているようですね、南斗人間砲弾と!!』

 

何スロ『んー!! うわらばっっ!?』

 

うさぎ『ランスロットぉぉぉぉぉっ!!』

 

ちんきゅー『────フッ、必要な犠牲でした』

 

長男『たまやぁ……』

 

次男『たまやぁ……』

 

ニート『貴方達、なんで言い方が毒島流なんですか……』

 

 


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