師走も近づき多忙となっておりますので行進速度が緩やかになってしましますが、書き続ける事は止めないつもりなのでお待ちいただけると幸いです。
人理修復記44日目
祝第二特異点修復!
……といきたいところなのだが、生憎とカルデアに帰還した際にちょっとした面倒事が有った。
そんなワケでローマの総括は後回しにして、こちらから記したいと思う。
エスィルトさんの問題も解決し、ネロ帝に涙ながらに見送られながらレイシフトを終えた俺達。
しかしコフィンから出てみると、所長やドクターに管制室の面々が青い顔で震えているではないか。
しかも護衛として残っていたディルムッドと百貌の女アサシンは傷だらけときている。
明らかにただ事ではない状態に、俺は比較的冷静だったダヴィンチちゃん(所長が失禁しながら命乞いしそうなほどに怯えていた)に事情を聞く事に。
すると『Aチームの芥ヒナコがゾンビとして蘇った』という想像の斜め上を行く答えが返ってきた。
Aチームも芥ヒナコという人物も見当がつかんが、とりあえず人に危害を為すアンデッドがいる事は理解できた。
ならば、それを排除するのはこちらの仕事である。
ただでさえ人手不足な上にスタッフにはやる事が山積みなのだ。
これ以上業務が遅延すれば、数少ない職員が過労死する事にもなりかねない。
善は急げとばかりに駆除に出ようとしたところ、問題解決に立候補した男がいた。
それは百貌ボーイズのデンジャラスライオン(自称)基底のザイード君だった。
『死人一人葬るなど他愛なし』
と謎のポーズと共にフラグを立てた後、彼は扉のロックを外して出て行ってしまった。
女アサシンはともかく、明らかに格上のディルムッドが負傷している時点で一筋縄ではいかんと気付かねばならんのだが……。
隣にいたボーイズNo46が『だから捨て駒にされるんだよ、アイツ』と呟いているのを見るに、彼はあれが平常運転なようだ。
ザイード君が出ていった数分後、異様な気配を感じると共に轟音を立てて扉が大きく軋んだ。
二度・三度と何かを叩きつける音が響き、四度目の攻撃に耐えきることが出来ずに吹っ飛ぶ特殊合金の鋼板。
巻き上がる粉塵と瘴気すら渦巻くような闇の奥から現れたのは、力なくぶら下がるザイード君の首筋に牙を突き立てている女怪だった。
ランランと光る真紅の眼と死体のような青白い肌。
さらには爆風の影響だろう、蠢く肉と共に再生を始めている全身いたるところに刻まれた傷跡。
一目見て、俺は奴が件の不死人だと確信した。
『ごおおおおおおおおうぅざまあああああああぁぁぁぁぁっ!!!』
ザイード君の首を咥えている為か、くぐもった雄叫びと共に襲い掛かってくる化け物。
だが、ここに可愛い子供達がいる以上、奴の好きにさせる訳にはいかない。
俺は不死者の前に立ちはだかると、迫り来る手を受け流しながら懐から黄色の札を取り出した。
『南~無南~無……ていっ!! 南~無南~無……ていっ!!』
そして捕った腕を引く事で体勢を崩すと、その青白い顔面へと張り付けた。
『ぎゃあああああああああああっ!?』
札が張られた場所から煙を吹き出して絶叫する女怪。
少し前に子供達と一緒に見た『霊幻道士』に影響されて作った破魔符は、期待通りの効果を示してくれた。
この符の文字を描くのに使っているのはウチの鶏の血である。
手加減していたとはいえ俺の一刀を避け、さらには首を落とされてもなお『鳳凰脚』を最後まで出し切った文字通り『
効果が無いワケがない。
『このような姿で迷い出おって! 大人しく成仏せいッ!!』
血を吸われたのだろう、ガリガリになったザイード君が
それは第二特異点最後に我が陣営に加わった項羽殿だった。
何故止めるのかと聞いてみれば、返ってきたのはまさかの『その者は我が妻だ、主導者よ』という答え。
項羽殿の妻といえば、虞美人という名の才媛だ。
彼女は『虞姫』とも呼ばれ、多くの書物では『聡明で貞淑であり、幼い時から書を読んで大義に通じている。彼女の母が虞美人を産み落とす際、部屋で五羽の鳳凰が鳴く夢を見た為に、将来は貴人となる事を信じて誰にも嫁がせなかった』とまで言われている。
目の前にいる化け物を見る限り、とてもではないが共通点は見れないのだが……。
『虞美人? 彼女が? バタリアンじゃなくて?』と確認を取ってみたものの、項羽殿は間違いないと首を縦に振るのみ。
イマイチ確信を得なかった俺は、虞美人(?)の額に張り付いた符を外すとこう言った。
『Repeat after me. Brain』
『────ブ、ブレイン……』
絞り出るかのようなしゃがれた声は昔見た『バタリアン』に出てくる『オバンバ』によく似ていたのだが、ここは項羽殿の顔を立てる事にした。
部下の言葉を聞かないのはダメな上司の典型だし、同じ妻を持つ身として信じるべきだと思ったのだ。
白い煙を上げながらのたうち回っている虞美人(?)を助け起こし、身体に付いた符を取り払う項羽殿。
そして全ての符を剥がし終えると、爪で手首を軽く傷付けて滴る血を彼女へと飲ませた。
するとどうだろう。
渦巻く魔力と共に3倍速の巻き戻しのように虞美人の損傷が復元したのだ。
『……項羽様』
『虞よ、大事ないか?』
傷一つない身体になって意識もしっかり戻ったのだろう、虞美人は号泣しながら項羽殿に抱き着いた。
『史記』や『漢書』に記された彼等の悲恋を考えれば、彼女の態度は当然だ。
というか、人馬一体となった異形の身体を見てもなお一目で項羽殿と見抜くあたり、彼女の愛は本物なのだろう。
そのあと虞美人を慰めるという名目で、項羽殿はコフィンルームを後にした。
ぶっちゃけ色んな事を置いてけぼりだったが、あの状態の虞美人を問い詰めるのは人としてアウトだ。
そこからは清姫嬢よろしく、エスィルトさんや子供たちが心配でついて来たブーディカさんに驚いたり、所長やロマン医師から『あのケンタウロスが項羽ってどういう事やねんっ!?』と問い詰められたりと色々あった。
説明には何やかやと時間が掛かったものの、スタッフ達の理解を得られたのだから良しとしよう。
以上で今日はここまでにしたいと、剣キチは思うのであった。
人理修復記44日目
カルデアに戻ってきて一日経ったので、今日は投げっぱなしなっていた謎について書く事にしよう。
まずはロムルスとの戦いだが、アルトリアの証言だと俺の予測と違ってかなり苦戦したらしい。
神祖のポテンシャルも
あの槍は樹木を操作する力があるらしく、幹を盾に、枝を槍に、そして葉を刃と成す事で攻防一体の万能装備として作用していたそうだ。
ドクターの解説だと、あの槍の能力はパラティウムの丘に突き立ち、ローマを守護する大樹となった伝説から来ているのだとか。
その能力が神祖の戦術眼と戦闘センスに噛み合った結果、彼は一人でカルデアのサーヴァント達を圧倒する力を見せたらしい。
際限なく増殖する枝葉の波状攻撃で高火力を持つタラスクやモーさん、アルトリアを封殺。
アタランテやエミヤの射撃は大樹の幹を使って防ぎ、接近戦を挑めばダブルバーサーカーを叩き潰した剛撃が待っている。
神祖が言うには『ローマ帝国そのもの』という概念的な重さを持つ一撃は、ガチの魔力放出を使ったアルトリアを吹っ飛ばしたほどだとか。
エスィルトさんの事があったので仕方がないが、手合わせできなくて本当に残念に思う。
そんな超ド級サーヴァントを前に徐々に劣勢に立たされたカルデアメンバー。
起死回生と放ったクー・フーリンの『刺し穿つ死棘の槍』も、神祖の左胸ではなく大樹の幹の中央へと突き立ってしまう始末。
馬鹿なと驚愕する青い槍兵に神祖はこう告げたそうだ。
『この大樹はローマの象徴、即ちローマ其の物である。故にこのローマは
又聞きだった所為か、さっぱり理解できん。
ジョーカーが不発に終わった事で窮地に立たされたアルトリア達だったが、ここで神祖の前に立ち塞がる者がいた。
そう、今回の旗頭であるネロ帝だ。
五代ローマ皇帝として引く事は出来ないと告げる彼女に、神祖は自分の元へ降れば今以上の地位を与えてやると告げる。
それを聞いた瞬間、ネロ帝が発した激情と共に周囲を魔力変換による業火が渦巻いた。
普段の我儘ながら無邪気な表情を憤怒の相へと変えて、神祖へと果敢に挑むネロ帝。
立香ちゃんとドクターの話を統合するに、彼女に帝位を与えるという言葉はタブーだったようだ。
理由はネロ帝の母である小アグリッピナ。
彼女は4代皇帝クラウディウスに嫡子がいたにも拘らず、姦計によって自身の子であるネロ帝を帝位へと押し上げた。
以後小アグリッピナは現皇帝の母という地位とネロ帝に皇帝の椅子を用意した事を盾に、事あるごとに彼女の治世へ口を挟むようになったという。
彼女をそうさせたのが権力欲か愛情かは分からない。
しかし結果として彼女は己が治世を護ろうとした実の子に暗殺される事となる。
ネロ帝が民を愛し親族を疎んだ理由は、この事が理由なのだろう。
一度譲り受けた帝位で苦汁を味わったからこそ、彼女は神祖の言葉が許せなかったのだ。
こうしてネロ帝は怒りに任せて苛烈な攻めを見せるものの、相手は数段格上の神祖ロムルスである。
一時の感情がもたらす生半可な強化など通用するはずもない。
あっさりと天秤を逆転され、再び劣勢に追い込まれるネロ帝。
しかし彼女は諦めてはいなかった。
大技を放とうと神祖が隙を見せた瞬間、イチかバチか心臓への刺突で勝負を掛けたのだ。
複数の人間からの伝聞な為ハッキリしないのだが、このネロ帝の一手は普通ならば神祖の身に届くのはあり得なかったらしい。
戦闘に参加していた殆どのメンツは、神祖はネロ帝の攻撃に気付いていたし迎撃も可能だったと言ってる。
それが何故神祖を捉えたかというと、懐に入ろうとした時にネロ帝のスピードが爆発的に上がったのだという。
この現象に関する理由は分からないそうだが、ガラスの馬車から見ていたミユちゃん曰く『ネロちゃんの後ろに茶色で長い髪のお姉ちゃんが見えたの! その人が力を貸したんだよ』だそうな。
結果としてはこの一撃がトドメとなり、神祖はネロ帝に何かを言い残して座へと帰っていった。
この件については俺も要反省である。
ぶっちゃけ神祖がそこまで強かったとは思わんかった。
軍神の子にしてローマ建国の王とは聞いていたが、アルトリアを中心に袋にすれば負けないと思っていたのだ。
今後こういう事が無いように戦力分析は慎重に行うべきだろう。
次に芥ヒナコこと虞美人についてだが、彼女はこれまた真祖と呼ばれる精霊種らしい。
ダヴィンチちゃんは星の触覚がどうとか言っていたが、正直良く分からん。
要するに仲間を増やさない不老不死の生きた吸血鬼だと思っとけばいいや。
虞美人は所長の父親であるマリスビリー・アニムスフィアによって連れてこられ、偽名を使ってカルデアに所属していたらしい。
彼女は大の人間嫌いなようで、地球の殆どの地域に人間が進出してきたことで居場所が無かったそうだ。
そこをマリスビリー氏がスカウトして自分の部下に引き込んだのだとか。
彼女が所属するAチームとは、いわばエリートマスター集団である。
メンバーや詳細は聞いていないが、本来ならレイシフトにおいて中核を担う筈の人材だったとか。
まあ、それも謎の爆発で全滅してしまえば世話は無い。
彼女が芥ヒナコのガワを脱ぎ捨てて復活した理由はズバリ項羽殿。
なんと彼女は俺が第二特異点で項羽殿を召喚すると同時に、彼の気配を察知して目を覚ましたそうだ。
これを聞いた時点で、俺は彼女を姉御やグンヒルドさんと同じカテゴリーであると判断した。
で、あのゾンビ騒ぎは爆弾による肉体損傷に加えて冷凍保存の影響があった所為らしい。
ザイード君や項羽殿の血を飲んだのも、肉体修復に必要だったそうな。
それでこの虞美人だが、かなり面倒くさい御仁だった。
今日の朝に改めて顔合わせをしたわけだが、彼女は俺を見るなり開口一番『アンタが項羽様の召喚者ね! 私にマスター権限を譲渡なさい!!』と言ってきた。
言い伝えと違って礼儀がなってないなぁとは思ったものの、俺だって姉御が他人の
すると今度は『なにあっさりと渡してんのよ! 項羽様がいらないってワケ!?』と突っかかってくる始末。
さすがにこれ以上は項羽殿が止めてくれたのだが、どうも初対面にしては彼女の悪感情が酷い。
俺が言ってもカドが立つので項羽殿が引き出した話を聞いてみると、その理由はこうだった。
『ですが項羽様! 奴は魂まで血の匂いが染みついた邪仙なうえに星殺しです! こんな者と一緒にいては我等が穢れてしまいます!!』
仙人として道外れな自覚はたっぷりあったので、邪仙に関してはぐうの字も出ない。
しかしである、後者の『星殺し』に関しては身に覚えはないものだ。
軽くその辺の事を抗議してみたのだが、『邪仙の時点で十分アウトよ!』と取り付くシマもない。
今回は項羽殿が窘めてくれたが、彼女の嫌い様を見るにあまり接触はしない方がいいかもしれん。
人理修復記45日目
なんだかんだあった所為で二日ほどずれ込んでしまったが、ガヘリス達が妖精郷に帰っていった。
別れの際、ブーディカ女史とエスィルトさんが抱き合って号泣していたのはとても印象深かった。
うーむ、二人の反応を見るにブーディカ女史も受肉させた方がいいのかもしれん。
一応ミミズ吸引機の予備もガヘリスから貰っている事だし、次の特異点で奴等が出た時はケツの毛も残らないくらいにむしり取ってやろう。
さて、本日のメインは特異点修復恒例の戦力追加である。
今回参加したのは立香ちゃんと俺に所長、そしてアルトリア。
子供達は毎度毎度増やしては負担になるという事で今回はお休み。
虞美人に至っては部屋から出てきませんでした。
彼女的には項羽殿と別れる気はないので人理修復に協力はするらしいのだが、極度の人間嫌いな為に他者との接触は最低限にしたいそうな。
復活早々に熟年ヒッキーみたいな事をほざいているが、こういうのは他人が下手に手を出すと意固地になるのが常だ。
彼女の社会復帰に関しては旦那さんの奮闘に期待しよう。
有事の際の備えとしてモーさんを立会人に一番手は立香ちゃん。
引きの強さに定評がある彼女が呼び出したのは───
『ほいほい。呼ばれたからにはそれなりに働きますよっと』
みどりの装備と外套に身を包んだ軽そうな兄ちゃんだった。
彼の真名はロビンフッド。
民衆の為に圧制者と戦った義賊だそうな。
支配者層と相性が悪そうだが、カルデアにいる王族経験者はニートとゆるふわ王妃、あとはパーフェクトバイキングと嫁くらいなもの。
ばっちり庶民の立香ちゃんとはウマが合いそうだし、そうそう揉めることはないだろう。
二番手は所長。
虞美人ゾンビ事件の後なので、カルデアの警備力強化の為にも強力なサーヴァントが欲しいところであるが───
『サーヴァント、ランサー。スパルタ王レオニダス、ここに推参!』
現れたのは猛々しい筋肉こと、第二特異点でアルトリア達の前に立ち塞がったレオニダス王だった。
彼は防衛戦のプロだし、いざとなれば部下である300人のスパルタ兵も召喚できるそうだから、カルデアの防衛戦力としては申し分ないだろう。
本人も『では、早速警備要員を鍛えるところから始めましょう!』とやる気のようなので一安心だ。
でもって三番手はウチの愚妹。
こいつの事だからリリィみたいに自分か円卓関係者を呼ぶと思っていたのだが────
『あー……あ? はいはい、アサシンの刑部姫でーす。って、アルちゃんじゃん』
『おや、オッキーじゃないですか。P●O2のオフ会以来ですね』
何故かヒッキー仲間が来てしまった……。
呼び出されたオッキーと呼ばれた少女。
本名は刑部姫といって、日本の妖怪で清姫嬢ともメル友なんだとか。
立香ちゃんを見て『貴女がきよひーの彼女かぁ。物凄く愛が重いだろうけど、頑張ってね』と励ましていたあたり、彼女の性格を良く掴んでいると思う。
本人は『カルデアから出たくないでゴザル!』なんて言っているが、もちろん現状ではそれは通らない。
いざという時は、アルトリアと同じように物で釣って何とかしよう。
そんなワケでトリは俺が飾る事になった。
前述の三名は聖晶石召喚を行ったが、俺は何時も通りの低レベル召喚。
で来てくれた英霊なんだが、意外と言うか順当と言うか……
「私はガレス。───円卓第七席、アーサー王に仕えた騎士です!」
並行世界の長女でございます。
髪が短かったのもそうだが、彼女を見て何より驚いたのは鎧を付けて槍を持っている事だった。
ウチの娘は深窓の令嬢として育てられたので、食器と本より重いモノは基本持たない。
あと運動神経も壊滅的なので、鎧など付けようものならひっくり返った亀になるに違いない。
そんなワケで顔は瓜二つながらも彼女が娘とは別人だとソッコー理解できた。
その後はモーさんを見て『お姉ちゃんですよーー!!』と突撃したり、俺が並行世界の叔父になると聞いて目を輝かせたり。
アルトリアに臣下の礼を取ろうとして『私は貴女の仕えた王ではありません。気軽にアル叔母さんと呼んで下さい』と言われて困惑したり。
召喚されて間もないのにクルクルと表情を変えていた姿は微笑ましかった。
ウチの娘と混同しないように線引きはしっかりするが、それでもモーさんと同じく親族である事に変わりはない。
大ケガなどしない様、前回の反省も踏まえて一層の安全対策に励もうと思う。
人理修復記46日目
ウチの長男が来て『ラグネルを迎えに行きましょう!!』と言うので、ちょっくら異世界に行ってきます。
第三特異点攻略開始前に帰ってくると所長には断りを入れてるので、出来る限り早めにかたづけたいと思う。
つーか、むこうにいる転生したラグネルちゃんがOK出したら、親御さんとかにも話を通す必要があるじゃなかろうか。
一週間程度の予定だけど、それまでに間に合うかなぁ。