剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました、最新話更新でございます。

 多忙さ+スランプでなかなか筆が進みませんでしたが、エタってないので見捨てないでくれると幸いです。

 


幕間の物語『ガウェイン・嫁取り再び』②

 どうも、再会して早々義娘に対して申し訳なさがいっぱいの剣キチです。

 

 あの後、暴走していた長男は鞘で引っ叩いて飛行機のシャワー室に放り込んでおきました。

 

 お兄ちゃんの世話を任せてゴメンよ、アグラヴェイン。

 

「大丈夫か、ラグネルちゃん……でいいのかな?」

 

「はい。お久しぶりです、お義父様」

 

 ニコリと笑みを浮かべるラグネルちゃんに、俺は詰まりそうになった言葉を吐息に変える。

 

 あの事件からずっと、もしも彼女に会う機会があったら言おうと思ってた事があったのだ。

 

「────すまなかった。ガウェインを失った時に傍にいれなかった事、そして君に孤独の中で最後を迎えさせてしまった事を詫びさせてほしい」

 

 言葉と共に俺は深く頭を下げた。

 

 時系列的に見れば、この事に関して俺が詫びる理由は無い。

 

 ガウェインの訃報を聞いたのは王都にいたラグネルちゃんが先だし、俺達にそのことが伝わった時には彼女は息子の後を追って逝ってしまっていたのだから。

 

 それでも彼女は俺の義娘。

 

 理屈など関係なく、最も辛い時に独りにした事は謝るべきだと思う。

 

 例えそれが自己満足だとしても、それが親としてのケジメなのだ。

 

「そんな……顔を上げてください、お義父様!」

 

 ラグネルちゃんの声に顔を上げると彼女は胸元で両手をきつく握って、目に涙を溜めながらこちらを見ていた。

 

「謝るのは私の方です! ガウェイン様を失ったお義父様達に追い打ちを掛けるような事をしてしまった私が……」

 

 嗚咽からそれ以上言葉が紡げないラグネルちゃん。

 

 俺はモードレッド達にするように、俯いてしまった彼女の頭を優しくなでた。

 

「もう過ぎた事さ、気にしないでいい。どういう形であれもう一度会えたんだから、それでチャラにしよう」

 

「お義父様ッ!」

 

 感極まったのか俺の胸に飛び込んでくるラグネルちゃん。

 

 向こうだって色々と思うところがあったんだろう。

 

 そういった諸々の気が晴れるのなら胸の一つや二つ喜んで貸すさ。

 

 

 いつまでも立ち話はなんなので、俺達は最も近いアクセルという町に行く事にした。

 

 まあ、その際にガウェインのジェットを見てラグネルちゃんが驚いたり、ランサーとガレスの違いを説明するのに手間取ったりと軽いトラブルはあったが。

 

 城壁に囲まれたアクセルの街は、どこかブリテン時代を思い出させる懐かしいモノだった。

 

 ただ、ラグネルちゃんと歩いているだけで『ボッチが人と歩いてるぞ!』と驚かれるのには閉口してしまった。

 

 湖の乙女が見せてくれた画像を見るに対人関係に問題があるのは分かっていたが、まさか町の噂になる程だとは思わなった。

 

「すみません、ガウェイン様……」

 

「気にする必要はありません。これからは私がいつも一緒なのですから」

 

 さりげなく肩を抱くガウェインのアグレッシブぶりに内心舌を巻いていると、アグラヴェインが耳打ちしてきた。

 

「気を付けてください、父上。……あのゴリラ、狙ってますよ」

 

 何を? などと野暮な事は聞く必要は無い。

 

 恋愛観が母ゆずりだという姉御の見解を鑑みれば、その答えはおのずと出るからだ。

 

「心配するな。事に及ぼうとしたらブン殴ってでも止めるから」 

 

 たとえ元夫婦だったとしても、今のラグネルちゃんは生まれ変わっている。

 

 今生の親御さんもいるだろうし、絶対にガウェインを選ばないといけないワケでもない。

 

 俺としても筋を通していない婚前交渉など認める訳にはいかんのだ。

 

 ラグネルちゃんに奢ってもらった串焼きをもっきゅもっきゅ食べているランサーが、何事かと首を傾げていたが敢えてはぐらかしておく。

 

 こういうドロドロとした話は彼女にはまだ早い。

 

 さて、目的地の酒場はなかなかに活気にあふれていた。

 

 中世のレトロな造りと安酒の匂いを嗅ぐと、ヨーロッパを放浪していた時の事を思い出す。

 

「さて、話をする前に聞いときたいんだが……今更なんだけど今生の名前で呼ばなくて大丈夫か?」

 

「ラグネルで構いませんよ。ガウェイン様達に今の名前で呼ばれても慣れないですし」

 

 俺がそう切り出すとラグネルちゃんは苦笑いで返す 

 

「ちなみに今の名前は?」

 

「…………です」

 

 興味本位だったのだろう、アグラヴェインが問いかけるとラグネルちゃんは蚊の鳴くような声を出す。

 

「ゆんゆんですか。ええ、今の貴方のように可愛らしい名前だ」

 

「何で聞こえるんですか!?」

 

 酒場の喧噪に紛れそうな声をさすがの聴力で掬い取るガウェイン。

 

 普通に考えたらありえないのでツッコまれても仕方がない。

 

「大丈夫ですよ。貴方の声ならどれだけ離れていても聞き逃しませんから」

 

「ガウェインお兄ちゃん、さすがです!」

 

 ニコリと笑いかけられてラグネルちゃんは顔を赤くして再度下を向き、ランサーは歓声を上げる。

 

 強面の俺やアグラヴェインと違って、ガウェインの容姿は童話に出る王子様の基準を軽くクリアしている。

 

 そんな人間に口説き文句を言われたら、元嫁という補正を脇に置いても女性なら赤面の一つもするだろう。

 

 しかしである。

 

「やっぱり重いな、アイツ」

 

「母上といいゴリラといい、ああいう姿を見ていると色恋沙汰に関わる気を無くします」

 

 これでラグネルちゃんにこっちでの許嫁がいますなんて話があったら確実に刃傷沙汰になる。

 

 アイツのことだからラグネルちゃんに手を上げる事は無いだろうが、その代わりに相手は消し炭に化けるだろう。

 

 息子が嫉妬で殺人犯になる事だけは避けねば。

 

 あと三男よ。

 

 お前の内面は間違いなく俺に似てるから、そういう事は言わないでくれ。

 

 生涯独身とか親として割と勘弁である。

 

「ところでガウェイン様達は、どうしてこちらに来られたのですか?」

 

「もちろん貴女を迎えに来たのです、ラグネル。様々な人の助けを借りて現世に戻る事が出来ましたが、例え一度生を終えようと私の伴侶は貴女以外に考えられない」

 

「ガウェイン様……」

 

 息を吐くように口説くガウェインの言葉に、ラグネルちゃんの顏に浮かぶのは嬉しさと戸惑いが半々といった表情だ。

 

「義姉上、何か気がかりがあるのですか?」

 

 アグラヴェインが促すと、ラグネルちゃんは意を決したように口を開き始める。

 

「えっと……今のお父さんとお話ししないといけないのと」

 

「それに付いてはしっかりケジメを付けるぞ。大丈夫なら俺達、最悪でもガウェインには挨拶に行かせるつもりだ。親に無断で年頃の娘さんを娶らせるなんて絶対にしません」

 

「それなら安心です。あともう一つ、私には勝たないといけないライバルがいるんです」

 

「ライバル、ですか?」

 

 これには俺も少々驚いた。

 

 前世のラグネルちゃんは老いた醜女になる呪いを掛けられた時でも、誰かと争おうと考えない心優しい娘だったのだ。

 

 そんな彼女から『倒したいライバル』などという俺達のようなセリフが飛び出すとは……

 

「今の私は紅魔族という魔法……ガウェイン様達の世界で言う魔術ですね。それに特化した種族に生を受けました。私達紅魔族は一部の例外を除いて魔法職に就くのですが、その為の学校の同年代に───」

 

「そのライバルがいるワケですね!」

 

 まるで騎士のようです! と目を輝かせるランサー。

 

 ラグネルちゃんは俺達と違って壊れ物だろうから、修行とかはしないぞ。

 

「ラグネルちゃん。そのライバルってもしかして、君の弁当を奪っていたちっちゃい子か?」

 

 俺の言葉に目をピカッと光らせるガウェイン。

 

 別にイジメとかじゃなさそうだったんだから、そんな目くじらを立てるんじゃないよ。

 

「ち……違うんです、お義父様! めぐみんのお家は本当に貧乏で、いつも野草とかセミを焼いて食べてたんです!! だからお弁当は取られたんじゃなくて……そのごちそうしただけで……」

 

「ほぉう。言ってくれるじゃないですか、ゆんゆん」

 

 声がした方に目を向ければ、例の映像よりほんの少し成長した女の子が仲間と思わしき男女を引き連れて立っている。

 

 というか、あの水色の髪の女は神霊じゃないか。

 

 まあ、これだけ神秘が濃い世界なら神霊がいてもおかしくないが……。

 

「め……めめめ、めぐみん! いつからそこに!?」

 

「そこのヤクザっぽい人が私の事を『ちっちゃい子』と言っていた辺りです。それよりもボッチの分際で随分とデカい口を叩いてくれるじゃないですか」

 

 ふむ。

 

 雰囲気から察するに、このめぐみんという子とラグネルちゃんの力関係は前者に軍配が上がるようだ。

 

 ここでラグネルちゃんに危害が加わるとウチの長男が暴走する可能性がある。

 

 そうなると死ぬほど面倒くさいだろうし、ここは俺が取りなしておくのが得策か。

 

「申し訳ない、お嬢さん。俺が妙な話をラグ……ゆんゆんちゃんに振ったのが原因なんだ。不快な思いをしたのなら謝るから許してくれないか?」

 

 アグラヴェインにガウェインを抑えるように目配せをした後、俺は席を立って頭を下げる。

 

 さすがにこの流れで第三者に頭を下げられるとは思っていなかったのか、途端に勢いを無くすめぐみんちゃん。

 

 それを見た彼等の中で黒一点の少年が、めぐみんちゃんの肩に手を置いた。

 

「ほら、行くぞめぐみん。そっちの人が謝ってくれたんだから気もすんだろ」

 

「待ってください、カズマ! ゆんゆんの失言についてはもういいですが、あのボッチがこれだけの人間を連れてるなんておかしいじゃないですか!?」

 

「いや、ゆんゆんだってパーティの一つくらい組むだろ」

 

「いいえ、あの娘は基本的にソロです! そんなゆんゆんに声を掛けるなんて、あの娘を都合のいいように使って易く報酬を手に入れようという、お金目当ての可能性があります!!」

 

 なんというか、エラい言われようである。

 

「ラグネル、貴女はそんな輩に狙われていたのですか?」

 

「そんな事ないですよ!? パーティを組んでくれたお礼にご飯代とか宿代を私が出したり、壊れた道具の修理費を持ったりしただけで……」

 

「それは完全にタカられてますよ、義姉……ゆんゆん殿」

 

 フォローのはずが完全に自爆してしまっているラグネルちゃんに、俺は思わず頭を抱えてしまった。

 

 おかしいな、ブリテンにいた頃はここまで騙されやすい子じゃなかったはずなのに……。

 

「心配してくれてありがとうな。けど、俺達は本当にゆんゆんちゃんの知り合いなんだ」    

 

「ほぉう、それはどういう知り合いですか? 紅魔の里では見ない顔ですが」

 

 うーむ、グイグイ来るな。

 

 よほどラグネルちゃんの事が心配なのだろうが、こうも絡まれては話が進まない。

 

 どうしたモノかと考えていると、後ろの神霊が更なる爆弾を投下しやがった。

 

「貴方達、どうやってここに来たの? 仙人に半神に英霊だなんて、いくらエリスでも転生させるのは無理なはずよ」

 

 ピタリと止まるめぐみんちゃんの追及。

 

「アクア。お前、人様に妙な言いがかりつけんなよ。確かにイケメンだけど、どっからどう見ても普通の人じゃんか」

 

「本当よ! ていうか、そこのヤクザ! アンタ、神殺しでしょ!? さては私を殺す為に魔王に雇われた殺し屋ね!!」

 

 なんか知らんがトンでもないレッテルを張られてしまった。

 

 つーか、俺はヤクザ呼びで確定なのか?

 

「父上、神を退けた事があるのですか?」

 

「あ~、お前らが英霊の座にいた時にな。姉御とお袋さんに手を出そうとした奴が何柱かいたんで、全員ぶった斬った」

 

 しかし、あれってどこの神霊だったのかなぁ……。

 

 口を開く前に首をカッ飛ばしたから分かんねえや。

 

「あの……もしかして、コイツの言ってる事って本当なんですか?」

 

 ふと気づくと例の少年がおそるおそるこちらに訊ねてくる。

 

「すまない、その辺も含めて少し説明させてくれるか。とりあえず、めぐみんちゃんの納得を得ないとこちらの話も進められそうにないし」

 

 

「つまり、そっちの皆さんはアーサー王伝説の登場人物本人だと。それで、ゆんゆんがガウェイン卿の奥さんの生まれ変わりだから会いに来たって事でいいですか?」

 

「まあ、だいたいそんな所かな」 

 

 顔を引きつらせる少年、サトウ・カズマ君に俺は頷いてみせる。

 

 改めて考えると、こんなのどう聞いたって与太話以外の何物でもないよなぁ。

 

「ゆんゆん、あなた……」

 

「ごめんね、めぐみん。隠すつもりは無かったの。でも前世の記憶を持っているなんて知られたら、みんなから嫌われると思って……」

 

 俯く友人に必死に謝るラグネルちゃん。

 

 どういう関係にしても隠し事というのは気まずいモノなのだから仕方がない。

 

 とはいえ、俺も過去世の記憶を持つ者なので、ラグネルちゃんの気持ちも痛いほど分かる。

 

 万が一拒絶された時はガウェインと二人でフォローしてやろうと思っていると───

 

「なんですか、そのナイスな設定は! 前世の記憶があって、それも王国最強の騎士の妻! そんなの女としても、紅魔族としてもおいしすぎるポジションじゃないですか!!」

 

「そうやって騒がれるのが嫌だから隠してたんじゃない! もうガウェイン様とは会えないと思ってたから、思い出として綺麗なままにしたかったのに!」

 

「またそうやって根暗な方向へ! これだからボッチは!!」

 

「痛い!? 胸を叩かないでぇぇぇっ!!」

 

 いきなり天井へと吼えると、ラグネルちゃんの胸をビンタし始めるめぐみんちゃん。

 

 斜め上すぎる行動に固まっていると、

     

「やめてください、レディ」

 

 ガウェインがめぐみんちゃんの手を取って止めに入った。

 

「ガウェイン様……」

 

「ラグネルのおっぱいは私のモノです。なので、たとえ同性でも触るのは許しません」

 

 あまりに残念過ぎる答えにドン引きするめぐみんちゃん。

 

「馬鹿言ってるんじゃない」

 

 さすがにこれは見過ごせないので、ガウェインの頭にゲンコツを落としておく。

 

「お前なぁ、本能直結の発言ばかりしてるとラグネルちゃんに愛想を尽かされるぞ」

 

 見ろ、彼女も泣きそうな顔をしてるじゃないか。

 

「申し訳ありません」

 

 ぐっと頭を下げる長男に思わずため息が漏れる。 

 

「それで、貴公たちはどうするつもりなのだ?」

 

「もちろん、再びラグネルを娶って帰りますよ。そして、こちらのお父上への挨拶も欠かすつもりもありません」

 

 軌道修正を掛けてくれたダクネス卿へ、さも当然のように答えるガウェイン。

 

 個人的にはラグネルちゃんの気持ちを確認しろと言いたいが、ここでそれを口にすると彼女に返答を迫る形になってしまう。

 

 そんなワケで込み入った話は後にしよう。

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 空気を読んで自重していると、今度はアクアという神霊が声を上げた。

 

「貴方達仙人とか英霊とかなんだから、帰るんなら魔王を倒して帰りなさいよ! そしたらこの女神アクア様の権限で、その子を連れて帰る事を許可してあげるわ」

 

 ほぼ関係ない人間のクセして無茶苦茶な事を言い出すアクア神。

 

 まあ神霊なんて大体ロクデナシばかりなので、この程度は驚くほどでもないんだが。

 

「なに言ってんだ、このダメ神は。つーか、お前にゆんゆんをどうこうする許可を出す権利なんて無いだろうが」

 

「なによ、ヒキニートのくせに!」

 

「アクアの事はそっとしておいてあげてください。ああいう仕様らしいので」

 

 カズマ君とアクア神の醜い争いを後ろに、こんな事を口にするめぐみんちゃん。

 

 何故か知らんが彼女は神霊だと信じられていないらしい。

 

 あれだけ神氣をだだ漏れにしてるのに気づかれないものかね。

 

「この世界には魔王とやらがいるのか?」

 

「うん。でも今のところは目立った被害はないみたい。何処かの国と小競り合いをしてるって聞くくらいだし」

 

 アグラヴェインの呟きにラグネルちゃんが苦笑いで答える。

 

 まあ、その魔王軍が本気で人類を害するつもりなら、駆け出し冒険者の街というアクセルが無事なわけがないからな。

 

 しかし魔王か…。

 

 魔術王と闘り合う前に景気づけで戦ってもいいかもしれん。

 

 そんな事を考えていると、先ほどまで沈黙していたウチの長男がスクリと立ち上がり

 

「ラグネルの事をモノ扱いするそこの神霊は気に入りませんが、言質は確かに取りました。功を以て妻を迎えるのは騎士たる者の常。不肖ガウェイン、この世界の不浄を焼き払ってみせましょう!」

 

 と高らかに宣言してしまった。

 

 たしかに魔王の首を持っていけば親御さんの反対は抑えられるかもだが、期間が一週間しかないの分かってんのか?


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