新型やら何やらで大変な日々が続いていますが、こちらは何とかやっております。
パリピも冥界の女神もギリシャ神話のモビルスーツパイロットも逃したけどな!!
年が明けてここまで☆5サーヴァントがゼロとは、やはり今年のガチャ運はよろしくないらしい。
どうも。
息子の魔王討伐宣言を受けて、やられる時は『ぬわーっ!?』と叫ばねばならないのかと悩んでいる剣キチです。
唐突ですが副業を始める事になりました。
というのも、この世界では冒険者とやらに登録してあらかじめ依頼を受けないと、魔物を討伐しても報酬がもらえないらしい。
なかなかに妙な縛りだがルールはルール、不満を言ったところで詮無いだけだ。
ここは郷に入っては郷に従うべきだろう。
登録料に関しては持ち合わせが無かったので、ラグネルちゃんから借りる事に。
とはいえ、義娘にただ借りるのも親の沽券に関わる。
なので、ヘソクリのルビーをあげたら『こんな高価なモノ、もらえません!』って恐縮していた。
相変わらず真面目な娘である。
そう難しく考えないで、お義父ちゃんからのお小遣いと思っておきなさい。
あと横で手で受け皿を作っていたアクア神よ、アンタにやる宝石は無い。
というか、何故もらえると思ったのか?
アクシズ教がどうのとか言ってたが、ウチは怪しい宗教の勧誘は受け付けておりません。
「ではまず、この冒険者カードについてご説明します」
料金の件が解決したので早速受付へと向かった俺達。
一番手のガウェインの依頼を受けた金髪の受付嬢は、古びた紙に見えるカードを手に受付から出て来た。
どうやらあれが冒険者カードになるらしい。
破損を想定して頑丈な素材で出来ていると思っていたんだが、意外や意外。
紙媒体だとは思わんかった。
そこから受付のお嬢さんが色々と冒険者カードの説明をしてくれた。
掻い摘んで言えば、あの紙切れは身分証明書兼実績書、あとはRPGゲームの自己ステータス画面のような働きがあるらしい。
まあ、一番重要なのはアレが無いと依頼を受けられない事だが。
ともかく古臭いデザインとは裏腹に高性能な代物のようだ。
これで位置情報の追尾ができれば完璧なんじゃなかろうか。
「スキルポイントは魔物を倒してレベルアップすれば増加します。頑張ってレベルを上げてください!」
しかしレベルねぇ……。
なんかゲームみたいなシステムだな、アルトリアを連れてきたら喜んだかもしれん。
何故か文字については読み書きが出来たので、4人各々が必要事項を埋めて受付嬢に提出。
すると今度は金の外殻に覆われた青い結晶体がカウンターに置かれた。
「まずはガウェイン様、こちらの水晶に手をかざしていただけますか?」
「わかりました」
列の先頭にいたガウェインは、自身の冒険者カードが置かれた水晶に手をかざす。
すると輝き始めた水晶に応じて外殻が起動し、下に置いていた冒険者カードに光を放った。
「すごいな、レーザープリント技術なんかあるのか」
「我々が使っているのとは似て非なるモノの様ですが」
俺とアグラヴェインが感心していると、印字されたデータを見て受付嬢が突拍子もない声を上げた。
「な……なんですか、これぇぇぇぇぇっ!?」
「レディ、何か問題でも?」
「いえ、失礼しました。ガウェインさんのステータスが平均値を大幅に超えていたので……」
まあ、アイツも円卓の騎士筆頭だった身だ。
常人より能力が優れているのは当然だろう。
「すごいですね、ガウェインお兄ちゃん!」
「この程度で天狗になってはいけませんよ、ガレス。真の強者とは心・技・体の全てが充実した者を指します。それを考えれば私はまだまだ未熟です」
うむうむ、良い心がけだ。
自分の能力が目で見える形で現されると、それが高いと驕ってしまう者が多い。
しかし戦いというのは、身体能力だけでやる物じゃない。
フィジカルに加えて知恵や経験・技量などが総合的に噛み合って初めて勝利をもぎ取る事ができるのだ。
ここで調子に乗る奴は3流、よくて2流止まりだろう。
「このステータスなら、最初から上位職は勿論のこと、どんな職業にだってなれますよ! アークプリースト、アークウィザード、クルセイダーだって……あれ、ナイトマスター?」
「どうされましたか?」
「いえ、見た事のない職業があったもので。どうしてこんな職業が……」
「ああ、以前私は某国で筆頭騎士の座に就いていたことがあります。もしかしたら、それが関係しているのかもしれませんね」
「筆頭騎士って……! どうしてそんな方が冒険者を!?」
「愛ゆえに、とだけ答えておきましょう。では職業に関してはナイトマスターを取らせてもらいますね」
「は……はい」
こんな感じで最初から波乱の登録作業になったのだが、その後も俺達のステータスを見る度に受付嬢が驚愕の声を上げるので、気付けば登録カウンターには同業者が人だかりを作っていた。
「ランサーはクルセイダーだったっけか」
「ガウェインお兄ちゃんにはかないませんが、これでも円卓第7席を担う者ですから!」
「で、アグラヴェインは剣豪と」
「道半ばの私には過ぎた職業だと思いますが、その名に恥じないように成長したいという思いから敢えて取らせてもらいました」
「で……では、アルガさん」
「連れが騒がせてしまってすみません。よろしくお願いします」
「は……はい。では、水晶に手をかざしてください」
俺の名前が書かれた冒険者カードに次々と刻まれていく文字。
「やっぱ純粋な身体能力だとガウェインに勝てんな」
「それでも十分すぎるほど優秀ですよ。職業の方にも見た事のない物がありますね。えっと剣聖と……剣魔?」
おやまあ、馴染みのある名前があるじゃないか。
ここでその名が出てくるのはおもわなかった。
これはもう選択肢は一つしかあるまい。
剣聖だなんてガラじゃないしな。
「それじゃ剣魔でお願いします」
「え……剣聖じゃないんですか?」
「俺には過ぎた代物ですよ。それにこっちの方が呼ばれ慣れてますから」
戸惑う受付嬢を笑顔で押し切って俺も登録完了。
「全員登録が済んだところで、スキルなどの確認をしてみましょう」
ガウェインの申し出を受けて、俺達は互いの冒険者カードを机に並べた。
「マジかよ。ガレスちゃんを除いた全員がステータスほぼアクア越えとか……」
「これだけのステータスなら、アクアの言っていた半神半人というのは本当かもしれないな」
「アルガさん以外の皆さんはなかなかの魔力ですね。どうでしょう、これを機に爆裂魔法を覚えると言うのは?」
「ダメよ、めぐみん! みんな、戦う時は真面目だから! ネタ魔法なんて覚えないから!!」
「ゆんゆん。私の愛する爆裂魔法のどの辺がネタなのか、詳しく聞こうじゃないか」
流れでサトウ君のパーティも見ているが、その辺は気にしなくていいだろう。
さて、四人のスキルに関してはあまり目新しい物は無い。
聖剣の担い手やら、美しい手のガレスやら、見知ったモノばかりだ。
個人的にはアグラヴェインの戴天流がレベル8と記載されているのは嬉しかった。
聞けば上限は10らしいので、このデータが正しければあの子の免許皆伝も近いという事だろう。
「ところで父上」
「どうした、アグラヴェイン」
「何故、父上のスキルに『バーサク』というモノがあるのでしょう?」
言われて机に目を落とせば……たしかにある。
説明の項目を見てみれば、そこにはこう書いてあった。
『心の自重を放り投げてはっちゃける』
これが狂化というのなら俺の本性は狂っているという事になるんだが……なんだ、間違ってないじゃないか。
「心配するな、アグラヴェイン。このスキルを使う事は無いから」
「そうですか」
使うと世界が滅んじゃうからね。
未遂とはいえ、前科二犯の俺が言うんだから間違いない。
◇
ラグネルちゃんとの再婚の為に魔王討伐を為すと定めた俺達は、一路魔王城へと進んでいた。
奴等の居城の場所については、サトウ君達の知り合いに元魔王軍幹部(バイト)がいたので教えてもらった。
今は道具屋の店主をしているウィズ女史(アンデッドの王リッチー・20歳)は、最初は守秘義務がと渋っていたのだがアクア神の浄化という名の暴力と、それを助けたサトウ君への義理によって口を割った。
情報の入手方法には思うところもあるが、ともかく場所さえわかれば話は早い。
善は急げとばかりに俺達はサンライズ・ブレスターに乗り込んだワケだ。
「ところでガウェイン。ウィズ女史の言っていた結界はどうするんだ?」
「たしか幹部を倒して出力を弱めなければ破れないと言っていましたね」
俺とアグラヴェインの問いかけに、ガウェインはそりゃあもういい笑顔をこちらに向ける。
「何を言ってるんですか。世界最凶の対結界兵器である父上がいるじゃないですか」
父親に向かって何一つ悪びれる事無く言い切りおったわ、こ奴。
「駄目ですよ、ガウェイン様! お義父様をそんな風に言っては!」
「大丈夫です、ラグネル。父上は私達の恋路を応援してくれています。成就の為なら結界の一つや二つ断ち斬ってくれますとも!」
「……いいんですか、マスター」
「いいよ。息子と義娘の為ならそのくらいは苦じゃないし」
息子の俺に対する扱いはともかくとして、そろそろ後ろにいるサトウ君達に目を向けようか。
彼等はこの機に乗り込んでから、魂が抜けたように茫然としているからな。
「サトウ君、大丈夫か?」
「いやいやいやいやいやっ! なんでジェット機なんてあるんすか!? アンタ等、円卓の騎士時代の人間だろ!?」
「今住んでいるところが魔術と科学が融合した魔導科学が発展してるからなぁ。こいつもその恩恵の一つだよ」
「魔導科学ってなに!?」
それを話すと長くなるから割愛させていただこう。
「凄いですね、このアイテム! これっていくらで売ってるんですか?」
目をキラキラさせているところ悪いが非売品だ、めぐみん嬢よ。
「まさか、生きている内に空を飛ぶ事になろうとは……」
「ねぇ! 私、喉が渇いたんだけど。高級シュワシュワとか無いの?」
ダクネス卿はともかく、アクア神の態度は如何なものか。
まあ、神霊って奴は一部例外を除いてロクデナシ揃いだから、この程度は想定済みだ。
……とはいえ、そろそろ一発キャンと言わせておくべきかもしれん。
さて、そんなことを言っている間に俺達は目的地の上空に到着した。
投影ディスプレイには、いかにもという暗黒めいた土地の上に蒼い半円状の膜で覆われた古城が映し出されている。
「これが魔王城のようですね。では父上、お願いします」
「あいよ」
ガウェインの要請を受けてキャビンを後にした俺は、開いたコンテナの搬入口から宙へと身を躍らせた。
一瞬の浮遊感と共に目に見えない塵を足場に宙を駆ければ、眼前には魔王城の結界が飛び込んでくる。
すでに内勁は練り上げられ、振るう刃は因果を破断の高みへと達している。
「哈ッ!」
気合と共に抜き打ちで振るった横薙ぎの刃は、わずかな抵抗を残して魔王城の守りを一文字に両断した。
俺が刻んだ斬線を起点に全体へと亀裂が走り、ガラスが割れるのに似た音を残して砕け散る結界。
『武装合体! ファイヤー・ガウェイン!!』
そして次の瞬間、俺の横には白と赤を基調にした鋼の巨人が……ってオイ。
『ガラティーン・チャージアップ! 我が恋路を阻む悪しき不浄よ! 今こそ太陽の聖剣を以て焼き払わん!!』
トンボに構えたガラティーンを模した巨大な剣が、ガウェインの言葉と共に炎を纏って黄金に輝く。
「ヤベっ!?」
『エクスカリバー・ガラティーン・スペシャル!!』
それに身の危険を感じた俺は縮地で後方へ避難すると同時に、振り下ろされた剣が放った極光が魔王城を呑み込んだ。
一瞬の間を置いて大気を震わす轟音と天を衝く炎とキノコ雲。
粉塵が晴れた先には、地表が抉られ溶岩が噴き出す灼熱の地獄が広がっている。
……間違いなく魔王は死んだな。
つーか、これで生きていたらビックリだ。
『この馬鹿者ぉ!! 地上で対ORT用最終武装を使うとは、正気か貴様ぁ!?』
『無論正気ですとも。何故なら私は愛の為なら全力を尽くす男なのだから!!』
内部から聞こえる弟の声に、生身ならドヤ顔を浮かべているのが丸分かりなほどに胸を張るガウェインロボ。
とりあえず、俺の安全を確認する前にぶっ放した事については一発説教をくれてやろう。