剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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お待たせしました、久々の本編剣キチです。

七章も全部配信されたのに、忙しくてやっている暇がねえ!

早く…早くORTたんに遭いたいよぉぉぉぉっ!!


剣キチが行く人理修復日記(29)NEW

 満天の星の下、カルデアに召喚されたアーチャーのサーヴァントである英霊エミヤは監視と火の番を受け持っていた。

 

 辺りを煌々と照らす焚火の傍らでは抜けるような白い肌と銀髪が特徴な10歳程度の少女と、彼のマスターである黒髪の幼女が寝袋の中で抱き合うように眠っている。

 

 そのあどけない笑顔にエミヤは口元を緩める。

 

 二人とも他人への気遣いができる優しい娘だ。

 

 睡眠が不要なサーヴァント相手に夜の見張りを代わると言ってくれるほどに。

 

「さて、明日の朝食は何にするかな」

 

 そう一人ごちながら主と共有する次元収納庫へと手を伸ばすエミヤ。

 

 しかしその手は宙に浮かぶ魔法陣の手前でピタリと止まる。

 

『アーチャーさん、来ましたよ』

 

「ああ、わかっている」

 

 白の少女の元から飛んできた星と白い羽が特徴的なステッキの言葉に、エミヤは留めた手に投影した黒塗りの洋弓を掴む。

 

 そこにつがえるのは北欧の英雄ベオウルフが振るったとされる魔剣、それを矢へと改造したものだ。

 

「子供たちが眠っているのでね」

 

 小さな呟きと共に引き絞った弓から矢を放つエミヤ。

 

 赤い閃光となった矢は闇を切り裂いて飛ぶ。

 

「無用な騒動は遠慮して貰おうか」

 

 そして射手の言葉に呼応するかのように、矢剣はビスケットで出来たゴーレムと虹色のワイバーンの頭を粉砕した。

 

 彼我の距離はアーチャーの視力でもなければ、豆粒ほどにしか見えない程に離れている。

 

 それ故に襲撃者の断末魔は二人の眠りを妨げる事は無い。

 

 そうして再びの静寂が戻ってきた夜闇の中、エミヤは周辺を赤く照らす焚火の火を見ながら今までの事を思い出す。 

 

 

 始まりは突然だった。

 

 今から二日ほど前、エミヤは気が付くと草原にいた。

 

「これはいったい……?」

 

 翌朝の食事の仕込みを終えた彼は割り当てられた自室で少しの休息を取っていたはずだった。

 

 それがどうして、こんな場所にいるのか?

 

「エミヤのお兄さん、ここどこだろうね?」

 

 突然の事に驚いていると、聖骸布からできた外套の袖を引く感触があった。

 

 視線を下げれば、傍らに部屋着を纏った黒髪の幼女が立っている。

 

 彼女は現在のマスターである神使のミユだった。

 

 周辺を興味深げにきょろきょろと見回すマスターに、エミヤは内心の動揺を鎮める。

 

 カルデアの外に赴く際には彼女のそばを離れない筈のマルタがいない。

 

 となれば、この状況が何らかの異常事態という事は容易に想像がついた。

 

 現状でマスターを守れるのは己一人である以上、混乱など意志力でねじ伏せずにして何がサーヴァントか。

 

「マスター、状況が分からない。すまないが旅装に着替えてくれるか」

 

「はーい!」

 

 彼がそう声をかけると元気よく服を脱ぎ始めるミユ。

 

 その姿を視界に納めないように背を向けつつも、エミヤは周辺を警戒する。

 

(突発的なレイシフトか? それとも何者かがマスターを狙って異界へ引きずり込んだか?)

 

 ミユは現代では希少な本物の神使だ。

 

 しかもダーナ神族の大母ダヌーを後ろ盾に持つとなれば魔術的な価値は計り知れない。

 

 カルデアの職員に疑いを向けたくは無いが、魔術師というものは■■■■に至るためなら倫理観などゴミ箱へ放り込む人種だ。

 

 その可能性も心の中に留めておく必要がある。

 

 そうしてミユが着替え終わったころ、エミヤは少し離れた場所に小さな人影を見つけた。

 

 通常であれば外見的特徴など殆ど分からない距離だが、鷹の目ともいわれる彼の視力はそこに立つ人物のそれをしかと捉えている。

 

「……イリヤス…フィール」

 

 それはかつて自らの手から取りこぼしてしまった家族に瓜二つの少女だった。

 

 まだ未熟だった時に体験した様々な思い出と別れを思い出し、思わず目頭が熱くなるエミヤ。

 

 しかし涙も少女の傍らを飛ぶブツを見た瞬間、即座に引っ込んだ。

 

「なん…だと……?」

 

 それは摩耗した記憶ですらも消せない悪夢。

 

 トンチキ度では頭がおかしい妖精郷とドッコイであり、巻き起こした騒動の迷惑さは今思い出しても胃が軋むほど。

 

 そう、イリヤらしき少女と共にあったのは魔法少女の杖を自称する肥溜め礼装、カレイドステッキだったのだ。

 

「おのれ、イリヤに契約を迫るつもりかっ!? 貴様の思い通りにはさせんぞ、ナイトメアステッキ!!」  

  

「ひゃわっ!?」

 

 一瞬で頭に血が昇ったエミヤは着替えが終わったミユを抱き上げると、全力でイリヤらしき少女の元へ急ぐ。

 

 しかし、彼の心配はただの一人相撲で終わることになった。

 

「すでに契約していたとは……」

 

「えっと……この人どうしたの?」

 

「わかんない」

 

 姉に瓜二つの少女はすでにステッキと契約をして久しく、さらには中身はまったくの別人だったのだから。

 

 打ちひしがれる己がサーヴァントをよそに、ミユはイリヤスフィールとその隣で浮くステッキに興味津々だった。

 

「お姉ちゃん、魔法少女なの? 変身できるの!?」

 

 ガレスの薫陶でサブカルチャーに明るいミユにとって、魔法少女は英霊以上のヒーローだ。

 

 それが目の前にいるとなれば、目がキラキラと輝くのも無理はない。

 

「う…うん」

 

 一方、憧れの視線を向けられたイリヤスフィールは親友を数歳幼くしたような女の子を前に『もしかして美遊の親戚なのかな?』などと考えながら苦笑いを浮かべる。

 

「あ、そうだ! はじめまして、私ミユ! ダヌー様の神使やってます!」

 

 そして初対面であることを思い出したミユはピョコンとイリヤスフィールに頭を下げる。

 

「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。あなたも『みゆ』っていうんだね」

 

「私以外にミユって名前の人、いるの?」

 

「うん、私の親友がそうなの。顔なんかもミユちゃんにすっごく似てるんだ」

 

「へぇ~。もしかしたら朔月の人なのかも! その人に会えるかな、イリヤお姉ちゃん?」

 

 自分の生まれを知るミユはイリヤスフィールの語る親友に期待で表情を明るくする。

 

 しかしイリヤスフィールはそれどころではなかった。

 

「くぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 何故か頬を赤くして意味不明の上ずった声を上げていたのだ。

 

「み…ミユちゃん。もう一回! もう一回お姉ちゃんって言ってくれるかな!?」

 

「イリヤお姉ちゃーん!」

 

 元来の人懐っこさから、イリヤスフィールのリクエストに抱き着くというサービス付きで応えるミユ。

 

 いっぽう長年の末っ子生活に加えて自分の分身であるクロエにすら姉と認められない為に姉コンプレックスを拗らせていたイリヤスフィールにとって、そのサービスはたまったものではなかった。

 

「お…おおお…お姉ちゃん! しかもミユそっくりな女の子に!? もうクロなんていらない! 私の妹はこの子という事で!!」

 

 小学生が浮かべてはいけない表情で荒い息を吐きながら懐のミユを抱きしめるイリヤスフィール。

 

 よく見れば胸元にONになった謎のスイッチが見えるような気がする。

 

 今の彼女が醸し出す気配は控えめに言って犯罪臭プンプンだった。

 

 このまま放っておくと色々な意味でアウト確定なのだろうが、彼女と契約した魔法のステッキは人倫のK点越えを許さなかった。

 

『イリヤさん、ステイステイ。そのまま行くと美々さんの言っていたセリフを体現することになりますよ』

 

 自らの相棒であるカレイドステッキ、ルビーの忠告にイリヤスフィールの脳裏に友人の言葉がよみがえる。

 

【男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの】

 

「はうぁっ!?」

 

 あの時の事を思い出した瞬間、頭に上っていた血がス~ッと引くイリヤスフィール。

 

「どうしたの?」

 

「な…なんでもない」

 

 不思議そうに首を傾げるミユから手を離すと、彼女は何とも言えない表情で青空を見上げた。

 

『さすがは【種絶の人類悪】が残した名言。バーサク状態のイリヤさんも一瞬で我にかえりましたね』

 

「人類悪だと? お前たちの世界にはそんなものがいるのか」

 

『ああ、実害は無いんでご心配なく。ウ=ス異本を量産して読んだ人間を腐海に沈めるくらいですから』

 

 険しい顔で心配するエミヤにステッキの羽を手のようにヒラヒラと振って返答を返すルビー。

 

 齢十歳で腐海の主と化したイリヤの友人Mが背負う業の深さは、時計塔の魔術師すらも追随を許さないだろう。

 

 その後、魔法少女の真似事をした際にミユが放った風の神通力が『マンイーター系魔法少女(笑)ケルト・ビッチ』を吹っ飛ばすなどのアクシデントはあったが、彼女の説明によってエミヤは自分達が何者かが生み出した魔法少女達の国という固有結界内にいる事を掴んだ。

 

 そしてここから現世に戻る為に旅を続けてきたのだ。

 

 『お菓子の国』、『竜と大海原の国』、『死せる書架の国』、そして『雪華とハチミツの国』を巡り、それぞれの国を統べる魔法少女達の試練を乗り越えてきた。

 

「次はこの固有結界の創造主たる始まりの魔法少女、ファーストレディの領域か」

 

 暗闇の中で揺らめく炎を見ながらエミヤは独り言ちる。

 

 これだけの巨大な固有結界を生成、維持できる魔術師だ。

 

 難敵である事は間違いないだろう。

 

 マスターとイリヤを現世に返す為なら、最悪ファーストレディと刺し違える覚悟を彼は固めている。

 

 背負った使命など関係なく、幼子を親元に返せなくて正義のミカタも英霊も名乗れはしないからだ。

 

 しかしそんな覚悟も次の瞬間には杞憂に終わることになる。

 

「あれ、エミヤじゃないか」

 

 背後から掛けられた聞き覚えのある声。

 

 英霊にすら気取られない隠形を使う生者など一人しかいない。

 

 振り返って予想通りの人物の姿を見たエミヤは再び星を見上げながら内心嘆くのだった。

 

 ファーストレディ、どうしてこの男を呼んでしまったのだ、と。

 

 

 人理修復記62日目

 

 えっちらおっちらと魔法少女世界を巡る事2日。

 

 意外な人間と出会うことになった。

 

 この世界に呼ばれたのは俺だけでなくミユちゃんも巻き込まれていたのだ。

 

 幸いエミヤが共に来てくれたから大事無かったが、俺のように単独で引きずり込まれていたかと思うとゾッとする。

 

 ミユちゃんの方は全然負担も無かったようで、分霊だが久々に会えた義母へ嬉しそうに甘えていた。

 

 まだまだあの子も七歳、母親が恋しいのは当然だ。

 

 あと、同行してくれていたイリヤスフィールという魔法少女には感謝の意を示しておいた。

 

 当人は俺達を見て『お父さんとお母さん? お兄さんじゃなくて?』と混乱していたが。

 

 それに加えてややこしかったのは、『我が生涯に一片の悔いなし少年』こと衛宮君とイリヤ嬢の関係だ。

 

 当初、衛宮君の姿を見たイリヤ嬢は彼の事を『お兄ちゃん』と呼んだ。

 

 衛宮君には妹がいる事を聞いていた俺達は感動の再会かと思っていたのだが、当の本人はまったくイリヤ嬢の事を知らないという。

 

 両者の話をすり合わせた結果、どうやら同姓同名で姿がそっくりな赤の他人という超レアケースだったらしい。

 

 あとエミヤの衛宮君を見る目が妙に鋭かったんだが、親族か何かだったりするのだろうか?

 

 よそ様の事情は置いておくとして、ウチの娘が危険に晒された事は見過ごす訳にはいかん。

 

 父親としては遺憾の意を示すのも当然とだろう。

 

 なので次元斬を使ってファーストレディとやらの城の天井と左右の塔をハスってやった。

 

 本音を言えば遠回しな嫌がらせじゃなくて正面から真っ二つにしてやりたかったのだが、その辺はエミヤに止められてしまった。

 

 なんでもイリヤ嬢の知り合いがあそこにいる可能性が高いそうなのだ。

 

 というか、そういう大事なことは先に言ってくれ。

 

 お陰で娘の恩人にドン引きされてしまったではないか。

 

 怪我の功名と言うべきか、領域を覆っていた結界も消えたのでカチコミをかけようとしたら、それよりも早く俺達は城内に転移させられることに。

 

 果たして城の謁見の間にいたのは、イリヤ嬢によく似た桃色の髪に褐色の肌をしたエミヤのコスプレっぽい格好の女の子。

 

 そして謎の帯に囚われたミユちゃんを少し成長させたような魔法少女っぽい格好をした女の子だった。

 

 彼女達がイリヤ嬢の知人だそうなのだが、これまた複雑な人間関係が待っていた。

 

 まずイリヤ嬢2Pカラーはクロエ・フォン・アインツベルンといい、イリヤ嬢の双子のような存在らしい。

 

 でもって、クロエ嬢はこの世界の所有者であるファーストレディに憑依されている状態だった。

 

 次にミユちゃん似の女の子は美遊・エーデルフェルト。

 

 イリヤ嬢の親友かつ魔法少女で衛宮君の妹だそうな。

 

 というか、感じる気配からしてあの娘は朔月家の人間だろう。

 

 しかしウチの娘と出自も名前も一緒とはどんな偶然だろうか?

 

 そんなわけでこの世界の主である原初の魔法少女ファーストレディとの対面と相成ったのだが、むこうが口を開く前に妹の惨状に衛宮君は大激怒。

 

 今の状態で魔術使ったら割と高確率で死ぬって説明した魔術で妹を救い出そうとしたのだ。

 

 妹や娘を持つ身として彼の心情は痛いほど理解できたが、さすがに妹の前で兄が憤死する様は見せられない。

 

 ガレスがやっていた格ゲーに出てくる某聖人もいいました。

 

『命は投げ捨てるモノではない』と。 

 

 なので、彼が動く前に経穴を突いて動けないようにしておいた。

 

 そして妹さんに聞こえるように彼の現状について再度説明。

 

 衛宮君は妹さんとイリヤ嬢の涙目を食らって、自爆特攻を断念することになった。 

 

 その際にエミヤが吐き捨てるように『この馬鹿者め』と言っていた。

 

 ちなみに妹さんは俺の方でサクッと救出しておいた。

 

 それを見たファーストレディが礼装がどうのやら魔術回路がどうのと喚いていたが、そういうのは一切合切カットである。

 

 ちょっとしたアクシデントを挟んでのファーストレディとの邂逅だが、何故か彼女は俺達に激怒していた。

 

 最初は妹さんを救出したことが原因かと思っていたのだが、生憎とそうではなかった。

 

 『私の固有結界の中であ…あんないやらしい行為をッッ!?』と顔を真っ赤にして叫ぶ始まりの魔法少女に俺と姉御はある事を思い当たった。

 

 この旅路の中、久々に会った姉御と夫婦の営みを行ったのだ。

 

 本体が妊娠中だったりカルデアへの出張だったりでご無沙汰だったので、子供や母体に影響がないと誘われればヤるだろうさ。

 

 しかし、それが魔法少女の元締めにすれば大層気に入らないようだった。

 

『固有結界は術者の心の中を現実にするもの、だからここは私の心の中なの! その中であんな穢らわしい行為をするなんて……貴方達は盛りが付いた猿なの!?』

 

 怒りに任せてなのか、こんな暴言を言い放つファーストレディ。

 

 これに対して俺との愛の営みを大切にしている姉御こと魔法少女ロードレス・モリガンは怒りを露わにした。

 

『黙りなさい、小娘! 穢れただの何だの言ってるけど、貴方だってパパが出したシーツの染みにならなかったブツから生まれたのよ! 夫婦の愛の営みを否定するなら、ご両親に【生まれてきてごめんなさい】と土下座でもするがいいわ!!』

 

 未成年がいる前でシーツの染みとかブツとか、言ってはならない言葉の連打である。

 

 イリヤ嬢をはじめ聞いていた面々はミユちゃんを除いてドン引きだったが、彼女のある意味妹全否定な必殺技『ノーサンキュー・キャメロット』をぶっ放さなかっただけマシと思っていただきたい。

  

 でもって小娘扱いされたファーストレディが『私は何百年も固有結界の中で生きているの! 小娘は貴方の方よ!!』と反論するも、『こちとら1500年以上生きとるわ!』という一喝で完全沈黙。

 

 口舌の刃では勝てないと判断した彼女は、エミヤそっくりな中華刀を手に姉御へ襲い掛かって来た。

 

 もちろん分霊でも嫁さんに危害を加えられるのを見過ごす程、俺は甘くない。

 

 鞘に入ったままの段平で相手の二刀を叩き折ると、しりもちを付いたファーストレディの目の前に切っ先を突きつけた。

 

 霊体で他人の身体を奪う云々の対処はルーマニアの聖杯大戦で経験している。

 

 肉体の持ち主とファーストレディの魂も波長はそこまで合っていないようだし、寄生している方だけを斬るのは十分に可能だった。

 

 その娘を解放して俺達を元の世界に戻すか、魂を叩き切られるか好きな方を選べと突きつける俺に憎悪の目を向けるファーストレディ。

 

 正直、子供に剣を向けるのはいい気はしなかった。

 

 とはいえ他人の身体を奪う行為はアウトだし、人理修復はともかく身重の嫁さんや子供がいるのだ。

 

 俺達だって何時までもこの世界にいるわけにはいかん。

 

 このくらいの貧乏くじは引いてやるのが大人の役目だろう。

 

 なんて事を考えていると、イリヤ嬢がファーストレディにどうして自分達をこの世界へ呼んだのかを訊ねた。

 

 ファーストレディの目的は端的に言えば並行世界に無数にいるであろう魔法少女達を助けること。

 

 その為の戦力として魔法少女の軍団を築き上げるつもりだったそうだ。

 

 元は魔界に生まれ、人間界で育った魔法使いの娘である彼女は人類最初の魔法少女として人々を救う為に己の全てを捧げて戦い続けた。

 

 だが彼女は戦いの中で故郷を失い、人間の強欲さやエゴに振り回されて心が摩耗してしまう。 

 

 そんな彼女に追い打ちを掛けたのは唯一無二の友人にして相棒であった「ミラー」と敵対したことだ。

 

 ミラーはファーストレディをいい様に利用する世界を憎み、それを滅ぼすために世界の敵となってしまったらしい。

 

 その結果、彼女は魔法少女として世界を守る為に友を手に掛けてしまう。

 

 そして最後にはファーストレディは魔界からも人間界からも存在自体が消失してしまった。

 

 彼女が並行世界の魔法少女達を救うのは、自分のように擦り切れるまで世界に酷使される同胞を見ていられないのと、友を救えなかった後悔ゆえだそうな。

 

 それを聞いた俺の感想は『まあそうなるわな』だった。

 

 年端のいかない女の子がヒーローを張っていられるほど、世の中というのは甘くない。

 

 人間の悪意やエゴは超常の力を持った程度で抗えるようなぬるいモノではないのだ。

 

 個人的には家族や知人を人質に捕獲されてヤク漬けで洗脳されたり、解剖されたり、魔法兵士としてクローン培養の素材にされないだけマシだと思う。

 

 ポロっとそんな事を言ってしまった所為で、またしても全員から距離を取られてしまったが。

 

 でもってこの世界に招いた理由だが、クロエ嬢は失った自身の肉体の補填材料、妹さんは魔法少女軍団を造るという願いを叶える願望機、イリヤ嬢とミユちゃんは魔法少女として保護と軍団の戦力としてらしい。

 

 ちなみに俺はミスというかミユちゃんの巻き添えだそうな。

 

 ここまで話すと謁見の間に新たな影が現れた。

 

 『死せる書架の国』の管理者を名乗る魔法少女マハトマ・エレナは、一体の亡霊をファーストレディに会わせた。

 

 なんとそれは彼女のかつての友人であるミラーだった。

 

 友人と再び巡り合えた事で改心したファーストレディは、固有結界の管理権をエレナに譲るとミラーと共に成仏した。

 

 これでイリヤ嬢たちは元の世界に帰る事になったわけだが問題が一つある。

 

 それは衛宮君の肉体についてだ。

 

 ここでは手の施しようが無いので、カルデアか妖精郷へ連れて行くつもりだと伝えると妹さんも付いてくると言い出した。

 

 するとイリヤ嬢やクロエ嬢もついていくと立候補したのだ。

 

 死人である英霊なら拉致するのも吝かではないが、さすがに未成年の女の子を親御さんの承諾なしに連れ帰るのは親としてできない。

 

 そんな訳で妹さんにガイドビーコン代わりの礼装を持ってもらい、治療が終わったら帰すと確約したうえで彼女達には元の世界へ帰ってもらった。

 

 ただイリヤ嬢が別れ際にミユちゃんへ『私の妹に…妹になって!』と謎のスカウトをしていたのは気になった。

 

 彼女の必死さにモードレッドに対するアタランテの執着っぽいモノを感じたのは気のせいと思いたい。 

 

 

人理修復記63日目

 

 魔法少女という俺とは最も縁遠い世界から帰還して一日が経った。

 

 どうも俺とミユちゃんが急にいなくなったことに関して、カルデアの中ではかなりの騒ぎになっていたらしい。

 

 これが俺だけなら放っておいても生きて帰ってくるだろうと心配などされなかったのだろうが、カルデアの中でも最年少の女の子が消えたとなれば話は別である。

 

 マルタ女史やブーディカ女史、さらにはモーさんまでもがカルデアの施設内を探し回り、アタランテに至ってはアキレウスのケツを蹴り上げる勢いで未だに接続している特異点を駆けずり回ったそうだ。

 

 でもってモードレッドは半泣きになるわ、アルトリアは家族の支援を得るべく鞘を使って妖精郷へ帰ろうとするわと混乱の極みだったとか。

 

 うん、不可抗力とはいえ各員には迷惑を掛けてしまった。

 

 心からお詫び申し上げる。

 

 さて、事件から帰って来た俺達だが問題は二つある。

 

 一つは何故かクロエ嬢がカルデアに付いてきていること。

 

 本人曰くカルデアに興味を示した結果、魔力が剥離してサーヴァントとして召喚されたらしい。

 

 ちなみに契約者はミユちゃん。

 

 本人はイリヤ嬢が世話になった事や、自分や妹さんを助けてもらった借りを返すと息巻いているがどうしたものやら……。

 

 もう一つの問題は衛宮君の事だ。

 

 カルデアに帰ってすぐに診察してもらったのだが、生憎と治療法は見つからなかった。

 

 ダヴィンチちゃんやドクターロマンもお手上げと言われては、こちらとしてもどうしようもない。

 

 そんな訳で延命の為には妖精郷行きが必須になったのだが、妹さんと出会ったことが上手く作用したのか、彼自身が生きる意思を持ったのは幸いだった。

 

 魔法少女結界から脱出する際に解除された分霊から姉御も事情を察しているだろうし、あとはニニューさん達が上手くやってくれる事を祈ろう。

 

 うん、できればサイボーグは無しにしてほしいなぁ。

 

 

人理修復記64日目

 

 第四特異点発見の報が届いたこともあり、戦力増強の為に英霊召喚を行うことになった。

 

 今回はカルデア内の設備修復が進んだ事で電力による魔力補助も充実したのでミユちゃんにモードレッド、あとは立香ちゃんが行うことになった。

 

 でもって最初はミユちゃん。

 

 例の召喚の歌を元気よく謡っていると、出てきたのはなんとイリヤ嬢と妹ちゃんだった。

 

 いやいや、君等英霊ちゃうやんと思ったがイリヤ嬢のステッキ曰くこちらと結んだ縁と二人の余剰魔力がサーヴァントとして召喚されたとか何とか。

 

 まあ、ミユちゃん本人は大喜びでイリヤ嬢にダイブしていたからいいとしよう。

 

 あとは妹さんは朔月の人間のようだから、ミユちゃんの事情について説明しておかねばなるまい。

 

 あれだけ似ているのだから、むこうもある程度察しはついているだろうしな。

 

 あと、ミユちゃんが笑顔で『クロエお姉ちゃんにちゅーされた!』と伝えるとイリヤ嬢とクロエ嬢の喧嘩になった。

 

 まあ、小さい女の子同士だし魔力供給の為っていうから気にせんが、父親としてハメは外さないようにお願いしたい。

 

 でもって次はモードレッド。

 

 現れたのはモードレッドより少し大きいくらいの青色の鎧に身を包んだ銀髪な女の子だった。

 

「サーヴァント、ランサー。妖精騎士ランスロット、召喚に応じ参上した。……まだ僕との縁はそうないようだね。まあ、おいおい知っていけばいいさ」

 

 ランスロットの名前に不機嫌になるモードレッド。

 

「えっと……何か悪い事をしたかな、マスター?」とその様子に戸惑う自称ランスロット。

 

 このままでは妙な誤解を生みそうだったので、彼女には俺達の事情を搔い摘んで説明しておいた。

 

 すると『ランスロット卿は最高の騎士って聞いていたのに!?』と何故か大ショックを受ける自称ランスロット。

 

 というか、やはり本人ではなかったようだ。

 

 その後、事情を察した彼女はメリュジーヌという本名を告げてくれた。

 

 聞けば異なる世界で姉御に仕えていた騎士というではないか。

 

 ランスロットではない事とそれを聞いたモードレッドは機嫌を取り戻し、メリュジーヌもまた異なる女王のご息女ならばと仕える事を了承してくれた。

 

 ただ当面はランスロットの名前で行くそうだ。

 

 まあ、モードレッドがすでに『メリュねーちゃん』と呼んでいるのであまり意味は無いと思うが。

 

 そして最後に召喚を行ったのは立香ちゃん。

 

 現れたのは黒いフードに奇怪なマスクで顔の下半分を覆った怪しい青年だった。

 

 「キャスター、アスクレピオスだ。診察を始めよう。……なに? どこも悪くない? だったら早く患者をつれてこい。患者の前にいない医者ほど無意味なものはないぞ」

 

 サーヴァントが開口一番にまくし立てたのはこんなセリフだった。

 

 立香が引き当てたのは医術の神と言われる名医アスクレピオスだったのだ。

 

 これも将来看護師を目指している彼女との相性なのだろうか?

 

 ちなみに第一印象は悪くないようで『看護師? 医師の補助を行う者のことか。ならば僕の助手についてもらおう。まずは現代医学について知っている限りの事を話してもらうぞ』などと会話が弾んでいた。

 

 主従が逆転しているような気がしないでもないが、その辺はおいおい何とかなるだろう。

 

 さて、これで第四特異点へ行く準備が整った。

 

 今回は俺、立香ちゃん、愚妹、モードレッド、ミユちゃんがメンバーになる。

 

 そろそろ家の事も心配になって来たし、サクッと終わらせることにしよう。

 

 




 衛宮士郎は度重なる未来の自分とのフュージョンによって命の危機に瀕していた。

 しかしフェアリーブレイバーの技術主任プロフェッサーRの手によってサイボーグ『鋼鉄シロー』として生まれ変わったのだ。

 彼は愛する妹を守る為、ついでに人理の平和の為に日夜戦い続けるのだ!!

鋼鉄シロー『体は鋼で出来ている……チェンジサイボーグ!!』

鋼鉄シロー『シローブリーカァァァァァッ! 死ねぇ!!』







妹様のコメント『重大な医療ミス。訴訟も辞さない』


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