剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 今回のモル子日記です。

 前半はアポ5話の分を纏めたので、新規は後半からとなります。

 紛らわしいとご迷惑をおかけしますが、何とぞご容赦のほどをよろしくお願いします。

 また、今回の小話には女性蔑視と取れるような表現もございます。

 話の都合上、止むを得なく書かせていただきましたが、不快に思われる方がいらっしゃいましたら、ご意見・ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。


【悲報】モル子日記【纏めたった】(2)

 セプテンベル 6の日

 

 

 ロット王の元に向かう日まで、あと数日にまで迫ってしまった。

 

 正直に言えば、あんな男の下など行きたくはない。

 

 ずっとここでアルガやお母様と暮らしたいというのが、私の本音だ。

 

 だが、彼の王とは婚姻の約定がある。

 

 ただの口約束ならばよかったのだが、王族同士の婚姻には宮廷魔術師の手によって魔術的強制力を施すのが慣わしになっている。

 

 私達の婚約証書を造ったのは言うまでも無く、マーリンだ。

 

 そして悔しいが、今の私ではあのクズが正式に認めた強制の呪詛を破る事はできない。

 

 とはいえ、この証書は結婚さえしてしまえば無害な物となる。

 

 対外的にとはいえ、アルガ以外の男の妻になるなど屈辱以外の何物でもないが、ここは涙を呑んで我慢するしかない。

 

 その代わり、あの男には私の髪の毛一本すら与えるつもりはない。

 

 私の全てはアルガの為に存在するのだから。

 

 

 セプテンベル 8の日 

 

 

 今日はお母様と遅くまで密議をしてしまった。

 

 議題はアルガの精霊化と私達の将来についてだ。

 

 アルガはこのまま行けばあと数年で完全な高位精霊となってしまうだろう。

 

 魔力を通して見れば分かるが、あの子はもう無意識の内に世界の全てから生命エネルギーを吸収し、体内でそれを循環させて呼気と共に世界へと戻している。

 

 平たく言えば、呼吸による要素が精霊と変わらなくなっているのだ。

 

 こうなってしまえば、肉体の維持に必要なものは呼吸と共に世界から取り入れるので、老いもしないし餓死することもなくなる。

 

 幻想種と同じく神秘の無い世界では生きることが難しくなるが、それでも不老長寿が約束されているのは変わりない。

 

 さて、前にも書いたが、あの子が十代後半の若々しい肉体で生き続けるのに、私が醜く老いるなんて真っ平ゴメンだ。

 

 どうにかしてあの子と同じ存在になりたいが、マーリンから教わった魔術では死徒と呼ばれる化け物になるくらいしか方法が無い。

 

 ……本当にあの男は使えない。

 

 というワケでお母様に相談を持ちかけたところ、驚くべき手段があることが判明した。

 

 お母様の家系に伝わる秘術で、簡単に言えば自分の起源に目覚めることで女神の分霊へと覚醒するというものだ。

 

 以前に上げたとおり、お母様の家系はこの島を統べていた女神の末裔である。

 

 故に、その家に生まれる女性は何がしかの女神を起源としているのだ。

 

 女神を起源とするということは、即ちその者は女神の末端、分霊であるといえる。

 

 それ故に、古代よりお母様の一族は必要な時は儀式によって起源に覚醒し、女神の分霊としてその権能を振るうことも在ったのだと言う。

 

 そしてその儀式の方法はお母様にもしっかりと受け継がれており、それを使えば私もアルガと共に生きられるというのだ。

 

 ただ、この儀式には神代と同じ環境が必要とされ、そして儀式を受ける者の他に導引役としてもう一名の参加が不可欠なのだ。

 

 などと重々しく書いてみたが、実はこの問題は既に解決済みだったりする。

 

 環境に関しては私達が住むネビス山の頂上付近で行えば問題なく、導引役はお母様が引き受けてくれるとの事。

 

 ただ、アルガにどう説明するかが問題だ。

 

 いきなり女神になりますなんて言ったら、あの子は絶対に反対するだろうし。

 

 ここを出るまでに言い訳を考えなければ……。

 

 

 セプテンベル 10の日

 

 

 今日、儀式を執り行った。

 

 結果は成功。

 

 私は起源である戦女神モリガンへ覚醒し、お母様も豊穣の神ティルテュの分霊へと自身を昇華させた。

 

 意外だったのはウチのペットであるブラックハウンドのコロまで儀式に参加したこと。

 

 舞台である洞窟奥までの護衛にと連れてきたのだが、まさか神犬になってしまうとは。

 

 まあ、この辺の事は誤差の範囲内という事にしておこう。

 

 因みに、アルガには『婚姻前の女性が、自身の純潔を神に証明する儀式』と説明しておいた。

 

 本当のところは全然違うのだが、このくらいは可愛い女のお茶目として広い心で受け止めてほしい。

 

 それと高位存在となったことで、私が望まない限り人間と交わることが出来なくなった。

 

 これならば、万が一にロット王に襲われた際も安心である。

 

 もっとも、もしそんな事になったならあの脂身が爆砕する事になるだろうが。

 

 ともかく、これでアルガと結ばれる条件は整った。

 

 今の私ならば婚姻のギアスだって解ける可能性が高い。

 

 だがしかし、油断は禁物だ。

 

 相手はあんなでもブリテン最高の魔術師、甘く見るにはリスクが大きすぎる。

 

 私の意志で名前を書き連ねている以上、ヘタに破ればどんなデメリットが返って来るか分かったものではないのだ。

 

 それならばロット王を傀儡に仕立て上げたうえで婚儀だけを挙げ、その後の生活はあの子と過ごす方がずっと確実な手だろう。

 

 こちらにも少々高めのリスクが付くが、大丈夫。

 

 私なら上手くやれる。

 

 

 オクトーベル 18の日

 

 

 ……お腹が熱い。

 

 昨日オークニーに付いた私達は、ロット王の歓迎を受けた。

 

 婚姻当初の予定より数ヶ月遅れての入国だったが、むこうはこれに関して取り立てて責めようとしなかった。

 

 あちらだってブリテンの崩壊は耳にしているだろうし、その中で王族が逃亡することが如何に困難かくらいは察してのことだろう。

 

 もっとも、度量を見せることで自分は器の大きい男だというアピールも含まれているのだろうが。

 

 殆ど身一つで現れた私達のことを考えて、正式な婚姻は2ヵ月後になるらしい。

 

 はっきり言ってこれはありがたい。

 

 2ヶ月あれば、あの男を人形にすることなぞ造作もないのだから。

 

 まあ、他の宮廷魔術師やアルガに気づかれないようにする為にも、時間をかけて慎重に行う必要があるけど。

 

 話し合いに関しては、私の輿入れの時期に続いてお母様の同居まではトントン拍子に話が進んだ。

 

 しかし、アルガの仕官に移るとロット王は急に難色を見せ始めたのだ。

 

 曰く『廃嫡された者を任官させるのは世間体が悪い』『6歳から浮浪者同然の生活をしていた者に、オークニーの精強な兵は務まるか?』『「剣魔」などと言われているが、本当かどうか眉唾物だ』

 

 イノシシの様な顔に嫌らしい笑みを浮かべながら言葉を並べるあの男は、どう見てもアルガに嫉妬しているとしか思えなかった。

 

 そのあまりの物言いに腹が立って、この場で人形にしてやろうかと思ったが、それを止めたのはアルガだった。

 

 あの子は不敵な笑みを浮かべながら、ロット王にこう提案した。

 

 『貴方の言う精強な戦士を百人集めてください。私はそれを一人で打ち倒して見せましょう。そして、それが叶った暁には、私をこの国の兵として取り立てていただきたい』と。

 

 慇懃無礼に言い放ったあの子に、表には出さないものの内心怒り心頭と丸分かりだったロット王は、その日の内に百人の兵士を集めてしまった。

 

 そして行われる百対一の決闘。

 

 相手は王の言うとおりの完全武装、対するアルガは普段着に木刀一振りという、かつての決闘を思い起こさせる姿だった。

 

 そして戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 矢を射掛ける者、斧やメイスを振り下ろす者、槍で穿とうとする者、そして剣で切り裂こうとする者。

 

 百の猛者が放つ攻撃をアルガは真っ向から捻じ伏せていった。

 

 ある者は木刀に得物を両断され、ある者は身を護る鎧ごと打ち抜かれ、またある者は剣の合間に放たれる体術によって意識を刈り取られた。

 

 そうして数十分に及ぶ乱戦は終わり、血と埃に塗れた闘技場に立っていたのは無傷のアルガだけだった。

 

 この結果にオークニーの諸侯たちは騒然となり、まことしやかに囁かれていた『剣魔』の噂が事実であると、多くの者が口々に呟いていた。

 

 さらに軍部でも彼の者を取り立てぬ手は無いという事になり、アルガの仕官はその日の内に決定した。

 

 もっとも、あの子の意向とロット王の内密な反対によって、騎士ではなく一兵卒での採用となってしまったが。

 

 そうして私は、自分でも堪え難いほどに体の火照りを感じながらこの日記を書いている。

 

 ブリテンでの決闘の時、あの子に惹かれた理由が今なら分かる。

 

 あの鋼を断つ一撃に魅了されたのは私の根源、戦女神モリガンだったのだ。

 

 嘗ての伝承では、モリガンは大英雄クー・フーリンに心奪われたという。

 

 だからこそ、私もあの子の武を見た時に異性としてあの子を愛してしまっていたのだろう。

 

 ただ、あの時に私は幼すぎて兄弟愛と異性愛の区別が付かなかっただけなのだ。

 

 しかし、あの子も罪作りだ。

 

 これだけ愛していると思っていた私を、もう一度惚れさせるなんて……。

 

 これはもう、躊躇などする必要は無いだろう。

 

 私はあの子を手に入れる。

 

 必ず……。

 

 そう、必ず……。

 

 

 ノウェンベル 18の日

 

 

 オークニーに来て一ヶ月が経過した。

 

 私とロット王の結婚の準備は着々と進んでいる。

 

 お母様は外戚とはいえ元ブリテンの王妃だったし王の義理の母親となるので、かなりの高待遇で迎えられていて今は私と同じく後宮に住んでいる。

 

 アルガは一般兵士となった為に兵舎で一人暮らしだ。

 

 例の決闘が広く伝わった為に即戦力として見られているらしく、山賊狩りや魔獣退治と忙しなく働いている。

 

 本来ならあの子とも一緒に暮らしたいが、さすがに今は難しいだろう。

 

 まあ、直に解決する問題なので、今くらいは辛抱しよう。

 

 ロット王への洗脳のほうは順調といえる。 

 

 この国の宮廷魔術師はあのクズに比べたら未熟もいいところなので、こちらの術に気付かれる可能性は殆どない。

 

 とはいえ、洗脳後も国政を執らさなければならないので、完全な人形にするわけにはいかない。

 

 政を取るだけの思考と判断力を残すというのも、なかなかに匙加減が難しいのだ。

 

 あと、万が一術の深度を誤った場合に備えて、私も国政に関する資料なんかに目を通している。

 

 完全な人形にしてしまった場合、コレを傀儡に私が王として指示を出さないといけないのだから、事前予習はしておくべきだろう。

 

 多少の差異はあるものの、概ね現状は私の計画通りに進んでいる。

 

 お母様の協力も取り付ける事もできたし、やはり決行はあの日にするべきだ。

 

 これからの一ヶ月、楽しみで眠れなくなりそうだ。

 

 

 デクンベル 19の日

 

 

 昨日は散々だった。

 

 待ちに待った日のはずなのに、あんな事になるなんて……。

 

 これでは姉の威厳も何も有ったものじゃない。

 

 ここに来て二ヶ月、約定通りに私はロット王と婚儀を挙げた。

 

 もちろん数日前に洗脳は完了済みであり、これだって形だけの偽装結婚だ。

 

 これから夫役を務める労いとして、彼には新しい寝台を独りでじっくり堪能させてあげたのだから、文句は無いだろう。

 

 そして、私はようやくアルガと一つになることが出来た。

 

 慣れない式で疲れていたことや、お母様が焚いていた安眠効果の有る香のお蔭であの子を深い眠りに誘うことができた。

 

 本心を言えばあの子の意思で抱かれるのが一番なのだが、悲しい事にそれは難しい。

 

 今、優先されるのはあの子との繋がりを確かにすることだ。

 

 わ、私も初めてだし、あんな大きいのが入るのは……少し怖かったけど、その辺は姉の威厳で何とかリードするつもりだった。

 

 それなのに熟睡しているはずのアルガが私のことをいっぱいいぢめた所為で、む……無茶苦茶になっちゃった。

 

 ほんと、なんだったの、あれ?

 

 最初は痛くて動けなかったんだけど、あの子がお腹の下の方を押さえたら、痛みが引いてじんわり暖かくなって……。

 

 その後、おしりをグッて握られたら凄く気持ち良くて……。

 

 それから動きながら指でお腹の下をトントンってされたら、何も考えられなくなった……。

 

 そこから先はリードなんて全然無理。

 

 あの子が動きを止めるまでずっと攻められ続けて、出したこともないようないやらしい声を大声で出しちゃったし。

 

 あの時って、部屋のベッドでお母様が寝てたんだよね。

 

 聞こえてたら恥ずかしくて死んじゃうよぉ。

 

 あと、あの子の上でさ、三回もお……お漏らししちゃった……。

 

 だっ、だって! 仕方ないじゃない!!

 

 お姉ちゃんが何回も許してって言ったのに、アルガが意地悪して腰を掴んだまま外と内からお腹をトントンってするんだもんっ!

 

 あんなことされたら、誰だって漏らしちゃうってばっ!

 

 最初は『初めてだから記録を残そう』なんて思ってたけど、そんなの全然無理!

 

 全部終った後はもうヘロヘロだったから、意地と根性でひねり出した魔力を使って浄化と証拠の画像一枚を残すのが精一杯だった。

 

 お蔭で今でもまだ腰が抜けて立てないし、侍女も『王はお盛んだったようですね』とか頓珍漢なこと言って来る始末。

 

 あの子が純潔だって事は、始める前に魔術で確認したから間違いない。

 

 じゃあ、あの手管っていったいどこで憶えてきたんだろ?

 

 あの剣術の事もそうだけど、謎が一つふえちゃったじゃない。

 

 ともかく、記念に残る素敵な夜にしようと思ってたのに、もう台無し!

 

 アルガのバカ! エッチ!! きちくげどー!!!

 

 

 マルティウス 13の日

 

 

 体調に変化があったので魔術で診断してみると、なんと子供を身篭っていた。

 

 これは間違いなく結婚初夜が原因だろう。

 

 あの子との子供が出来た事はもちろん嬉しい。

 

 けど、どこか釈然としないのだ。

 

 アルガとの切れない繋がりを得る為にも子供が欲しいとは思っていた。

 

 でも、こちらの想定では授かるようにするのはもう少し後の予定だったのだ。

 

 初めてだから怖いという思いもあったし、お腹に子供がいればあの子と肌を交えることが出来なくなるもの。

 

 だから、月のモノの周期も計算に入れて後2,3回抱かれてから作るつもりだったのに……。

 

 たぶん、あの時に下腹部を刺激され続けた所為で周期が狂ったのだろう。

 

 予想外と言えば予想外だけど、考えようによっては良かったのかもしれない。

 

 正直なところ、アルガともう一度肌を重ねるのは少し時間を置きたいし。

 

 もちろん、あの子に抱かれるのが嫌だというワケではない。

 

 ただ、前みたいな激しいのはチョット辛いのだ。

 

 あの子が起きていれば優しくしてくれるのだろうけど、今のままでは眠っている時にしかできない。

 

 そして、この前の事が無意識に行っているのを思えば、待っているのはあの快楽の坩堝だ。

 

 あんなのを毎日味わっていたら溺れてダメになってしまうような気がするし、何よりあんな醜態を晒したままでいるのは気がすまない。

 

 今度こそ私がアルガをリードして、お姉ちゃんとしての威厳を取り戻すのだ。

 

 というワケで、今のうちにお母様に色々と教えを請わねばなるまい。

 

 ちょっと恥ずかしいけど、こんなこと聞けるのお母様だけだもの。

 

 ……教えてくれるかな?

 

 

 アプリーリス 9の日

 

 

 さて、身重の体ではあるけれど、この国の王妃である以上は私も働かなければならない。

 

 時間をかけてじっくりと調整した甲斐もあって、ロット王は洗脳下にありながらもある事柄に関して、自律思考と判断が可能となっている。

 

 その事柄というのはもちろん、執政に関してだ。

 

 オークニーはブリテン島の陸続きの土地の他に、飛び飛びになった島の領地を持つ。

 

 当然ながら人々の生活には船は切っても切れないものであり、漁業はこの国の主要産業に位置している。

 

 とはいえ、海産物というのは傷むのがとっても早い。

 

 生鮮魚を内陸部へ輸出するなど出来るわけもなく、魚と言えばブリテン島内では干物がメインだ。

 

 それも獣肉を食べるのが主であるブリテン人にとっては主要食物にはならず、魚はもっぱら地位の高い者の嗜好品という位置づけである。

 

 沿岸部に位置し、潮風が巻き起こす塩害等で農作物に乏しいオークニーにとって、これはあまりよろしくない。

 

 輸入に頼らねば主要作物すら事欠く我が領は早急に海産物の輸出増加か、もしくはそれに代わる交易品を用意する必要があるのだ。

 

 とりあえず思いつくのは塩だが、家庭用鍋でチマチマ炊いている今の状態では、輸出に耐えうるほどの量は確保できないだろう。

 

 私が魔術で何とかするという手もあるが、体のことを考えると無茶はできない。

 

 なんとか大量生産の方法を考えられればいいが。

 

 まあ、この辺はロット王に丸投げしておこう。

 

 

 ユーニウス 12の日

 

 

 アルガがまたお土産を持ってきた。

 

 私の妊娠が発覚してから、野盗狩りやらなにやらで外に出るたびに、あの子は何かしら物を持って帰ってくるようになった。

 

 〆たイノシシだったり珍味のキノコや野草といった食べ物から、どこかのドルイドが手掛けた安産のお守りや護符など。

 

 珍しいところで言えば、湖の乙女の霊薬やドラゴンの肉まで。

 

 精をつけてくれ、とタンスと同じくらいのブロック肉を置かれたときにはどうしようかと思った。

 

 ともあれ、私やお腹の子を心配してくれるのはありがたい。

 

 ロット王が私達に関わらないようにしている分、甲斐甲斐しく世話を焼くアルガは城の人間に好意的に見られているし。

 

 まあ、中にはお腹の子の父親がアルガなのでは、なんてまことしやかに囁く輩もいて、思わず頭の中を覗いてしまったなんて事もあった。

 

 ともかく、あの子が頑張っているのなら、私も元気な子を産むためにしっかりしなければいけないと思う。

 

 

 オクト-ベル 30の日

 

 

 昨日、私達の子が誕生した。

 

 名はガウェイン。

 

 この島に伝わる太陽の加護を受けた、アルガによく似た男の子だ。

 

 出産する時は本当に苦しくて、お母様が傍にいてくれなかったら大泣きしていたと思う。

 

 部屋に入る事はできなかったけど、アルガも仕事を休んでずっと付いていてくれた。

 

 侍女の話では無事に生まれたことを聞いた時、あの子は飛び上がって喜んでいたそうだ。

 

 母子共にある程度落ち着いたので、今日始めてアルガはガウェインと対面した。

 

 お母様から手渡されたガウェインをおっかなびっくり抱くと、あの子は満面の笑みで『早く大きくなれ』や『叔父さんが剣を教えてやる』などと語りかけていた。

 

 それから話をしてみると、出産の時も産まれた後も顔を出さないロット王の事が不満なようで、真顔で『一発ブン殴ってやろうか』と憤っていた。

 

 まあ、それも腕の中のガウェインがぐずり始めると慌てて笑顔に戻ったワケだが。

 

 アルガ。

 

 貴方が本当に喜んでくれて、私も嬉しいわ。

 

 …………その腕の中の子は貴方の息子なんだから。




【小話】


モル子『ところで、剣キチ』
剣キチ『なにかな、モル子』
モル子『初めての夜に物凄くヒドイ目に合わされたんだけど……』
剣キチ『いや、俺のほうが確実にヒドいとおもうんだが』
モル子『寝ながらでも楽しんでいた貴方より、あんなにいっぱいいぢめられたお姉ちゃんの方がかわいそうですー!!』
剣キチ『自分のやった所業を完全に棚に上げよったわ、この娘』
モル子『それはもういいのよ』
剣キチ『いいんかい』
モル子『それよりも、どこであんなテクニックを憶えてきたのかしら? 貴方があの時まで女性経験がないのは確認済みだけど、それだとあんな女性をいぢめる方法を知ってるのはおかしいわ』
剣キチ『つーか、俺のプライバシーは?』
モル子『愛のためよ』
剣キチ『愛ゆえに人は悲しまねばならぬッッ!!』
モル子『で、答えは?』
剣キチ『教えてもいいけど、あんまり気持ちのいい話じゃないぞ』
モル子『いいのよ。貴方の事はすべて知りたいから』
剣キチ『相変わらずヘヴィだなぁ……。だが了解した。姉御、昔話した俺の前世の話って憶えてるか?』
モル子『たしか、遠い未来の極東で暗殺者をしてたのよね。剣術もその時に憶えたって』
剣キチ『そう。それでさ、凶手ってのは刃物振り回して人を殺すだけが仕事じゃないんだわ。標的を始末するには、潜入や情報収集だって必要になってくる。そういった流れで、時には女性の相手もしなくちゃならん事もあるわけよ。俗に言うハニートラップって奴だな』
モル子『ハニートラップって男なのに?』
剣キチ『男も使うんだぞ。あの時代でも男娼ってのはしっかりあったし。で、そういう場面だと女性を情報を仕入れたり手駒にするのに、女性を骨抜きにする必要がある。話に聞く限りだと、俺が寝てるときに姉御に使ったのはその為の技術なんだよ』
モル子『う……。思った以上に出所がハードだわ』
剣キチ『基本的には房中術と氣功術の応用でな。秘部を触る事無く女性を堕とすって目的から、下腹部や臀部の経穴や浸透勁の応用で子宮に直接刺激を与える事に重きを置いてるんだ』
モル子『どうして触らないの? 普通はそっちを攻めるとおもうんだけど』
剣キチ『あの時代は脳以外はサイバネパーツに置き換えられるからな。ヘタに指を入れたらカッターや牙で落とされる危険があるんだよ』
モル子『カッター!?』
剣キチ『あの時代でも強姦事件ってのはけっこうあってな、その対策として色々と進んでるんだわ。強烈なのだと、強酸が出たりレーザー発振装置なんかを備えてるのもあったなぁ』
モル子『と、とんでもないわね……』
剣キチ『で、なんで子宮を狙うかというとな。サイバネパーツで身体の何処を機会に挿げ替えても、殆どの女性はそこだけは生身で残してるからなんだよ』
モル子『そうなの?』
剣キチ『ああ。どっかの偉い学者は、女性としての本能がそこを捨てることを拒否しているんだって言ってたっけ』
モル子『へぇー。けど、修行で憶えたって事は誰かで練習したってことよね。誰で練習したの?』
剣キチ『……また答え辛いことを』
モル子『もしかして、施設にいた憧れのお姉さんとか?』
剣キチ『そんないい話なんか無い。俺がいたのは上海の黒社会を牛耳る結社だったからな。当然、胸糞の悪くなる話だよ。聞きたいか?』
モル子『う……怖いけど、聞くわ』
剣キチ『技の実験台で用意されたのは、組織が運営する娼館で使い物にならなくなった商品』
モル子『商品って事は、女性よね?』
剣キチ『ああ。性病や薬物、精神病やら仕事中の受傷。そういった事情で商品として価値が無くなった者が送られて来るんだ』
モル子『価値が無くなったって……』
剣キチ『幇が取り仕切る娼館で働いてる奴なんて、大体が借金塗れか人身売買。もしくはどっかから拉致されてきた奴か、密入国等々で脛に傷を持つ輩だからな。組織を離れることなんて出来ないんだ』
モル子『酷いわね』
剣キチ『まったくだな。で、俺達はそういった女性を犠牲にしてやり方を憶えたってワケだ。これでいいか?』
モル子『うん』
剣キチ『正直、俺は姉御がまともなままでいてくれてホッとしてるんだぞ』
モル子『どういう事?』
剣キチ『あの技術は女性を完全に堕として依存させる為のもんなんだよ。慣れてる奴が本気で使ったら、そいつ無しじゃ生きていけなくなるくらいに強力な奴なんだ。断じて家族に使うモノじゃない』
モル子『う……』
剣キチ『やってた時は完全に無意識だったから、聞かされた時は本気で肝が冷えたんだぞ。姉御が完全にこっちに依存して、俺無しじゃ生きていけないって状態になってたらってよ』
モル子『それなら大丈夫よ』
剣キチ『なんで?』
モル子『私はそんな事がなくったって、貴方がいないと生きていけないんだもの。貴方に抱かれるずっと前から、私は貴方に堕とされてます』
剣キチ『あー、うん。知ってた』
モル子『というわけで、これからもよろしくね。旦那様』
剣キチ『了解だ、空前絶後のチョロイン様』
モル子『チョロイン!?』

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