剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました。

 今回はモル子日記です。

 ようやく腹ペコ即位まで漕ぎつけました。

 まあ、剣キチブリテン編の裏話なので、ガイドラインがあるのは少々楽かなと。

 こちらの方もボチボチ頑張りたいと思います。


【悲報】モル子日記【纏めたった】(4)

 

 ユーニウス 17の日

 

 

 オークニーの経済政策に一応の目途(めど)が付いた。

 

 以前より手を出していた塩の増産の為の新製法が、ようやく実用に耐えうる形になってきたのだ。

 

 (くだん)の新製法は従来の鍋で海水を蒸発させるのではなく、新たに浜辺に防水性の優れた布を敷き詰め、そこに海水を掛けて天日で乾かすというもの。

 

 これならば農地に適さない砂浜を有効活用することができ、燃料として使っていた(まき)も節約できる。

 

 幾度も試行錯誤を繰り返した結果、晴天時にしかできないという欠点はあるけれど、今までよりも倍近い量の塩が取れるようになったのだ。

 

 塩はオークニーの主要な輸出物であり、人々の生活に欠かせないものだ。

 

 その生産量が増えれば、多くの収益を見込めるようになるだろう。

 

 あとは塩害対策として、土壌から塩分を吸収して塩へと変換する礼装を開発してオークニーの各地への設置も始めている。

 

 いくら地理的に農業に適さないといっても、食料を輸入に頼るというのは好ましくない。

 

 食料自給率を上げるのは国として最優先事項であるといえよう。

 

 とりあえずは繁殖力の高いイモ類を植えて、収穫量や土地の回復具合を観察していっているところだ。

 

 また、この礼装は地脈へとアクセスや領土内の工房化に必要なものでもあるので、上記の事と合わせて早急に全土へ普及させたいものである。

 

 ある程度融通が利くように洗脳したとはいえ、こういった新しい試みを考える事はロット王には不可能だ。

 

 一応王妃として就業しているのだし、国をより良き方向に持っていくのは職務上の義務である。

 

 ちなみに、私は国庫はもちろん国王の生活費にあたる王族維持費にも一切手を付けていない。

 

 私とお母様の生活を支えているのはアルガの給金である。

 

 公務で身に着けているドレスや装飾品も、あくまで王妃という職業の制服として着ているだけだ。

 

 私物だとは一切思っていないし、王妃を退く時が来たらすべて返還できるように品質の維持にも余念はない。

 

 ガウェインとガヘリスの教育等々については、あの子達はこの国の王位継承者である為に王族維持費とは別に予算が組まれている。

 

 これにしたって、私が行った土壌改革と塩田で利益が出ればチャラだろう。

 

 アルガと一緒になる隠れ蓑としてロット王を使っているのだから、こういったケジメはしっかりしておかねばならないと思う。

 

 

 クィーンティーリス 23の日

 

 

 度重なる公務の日々で溜まったストレス解消に、アルガの元へと(おもむ)く事にした。

 

 三度目となると色々と手際もよくなるワケで、今回はお母様の助けは必要なかった。

 

 あと2度目のリベンジマッチの結果については聞かないでほしい。

 

 身体の相性が良いのは夫婦が長く続く必須条件らしいが、モノには限度があるとおもう。

 

 開始三分で一回目の轟沈とか、姉としての威厳も何もあったものじゃない。

 

 アルガは相変わらず容赦が無いし、この頃はいぢめられるのがクセに───ってそうじゃない。

 

 ともかく、このままあの子のいいようにされていてはいけないのである。

 

 案の定、三人目もできちゃったし。

 

 勘違いしないように言っておくが、子供ができたのはもちろん嬉しい。

 

 ただ、抱かれたら確実に子供ができるというのは、こちらとしても少々都合が悪いのだ。

 

 アルガは私の旦那様だ。

 

 今は寝込みにお邪魔をしている状態だが、当然子作りとは別に抱かれたいと思う時もある。

 

 それなのに抱かれる度に子供ができていては、あの子と肌を重ねるのは年一回の行事になってしまう。

 

 私だって女なのだから、愛しい殿方との情事がそんな回数ではさすがに耐えられない。

 

 それに産まれてくる子供たちは名目上オークニーの王族となるから、無計画に産んではそのツケは子供達に跳ね返るのも問題だ。

 

 ───そもそも、あのお腹トントンがいけないのだ。

 

 あれの所為で安全日なのに妊娠するし。

 

 避妊しようと思っても、あの子は寝てるはずなのに腰を押さえて逃げられないようにするし。

 

 というか、何度も刷り込まれてるせいで、今では下腹部を撫でられるだけでダメになりそうになってるんだけど。

 

 冷静に考えると、私ってものすごく順調に調教されているのではなかろうか……。

 

 ぐぬぬ……。

 

 これではあの子を虜にするどころの話ではない。

 

 むしろ、チョロい女と鼻で笑われかねない。

 

 またしても一年近く時間が空いてしまったことだし、そろそろ本腰を入れて対策を考えるべきだろう。

 

 あの子にちゃんと抱かれた時、何をされてもキャンキャン鳴いてしまうよわよわお姉ちゃんではダメなのだから。

 

 

 セプテンベル 8の日

 

 

 産休の傍らアルトリアの行方を追っているのだが、結果は芳しくない。

 

 先の一件からマーリンとアルトリアは、養育者のエクター一家と共にブリテン島から姿を消したのだ。

 

 術式看破や魔力検知を付与した使い魔を各地に送っているが、島の隅々まで探しても彼等を見つけることができなかった。

 

 ブリテン島を出た事も考えたが、半魔であるマーリンは神秘の消失した世界では生きられないことを思えば、その可能性は低いだろう。

 

 ならば、考えられるのは『妖精郷』だ。

 

 幻想種の血を引き、あれだけの魔術を行使できるあのクズならば、妖精郷への道を開けれても不思議ではない。

 

 だが、そうだとすれば現状ではお手上げと言わざるを得ない。

 

 使い魔のみを妖精郷に送ることはできないし、私自身が行くというのも身重の身体ではさすがに厳しい。

 

 かと言って、戦闘能力が低いお母様を行かせるなんてもっての外だし、アルガも管理者としての自覚がない為にまだ妖精郷の扉は開く事は出来ない。

 

 口惜しいが、お腹の子が生まれるまでは手出しするのは諦めるしかないようだ。

 

 ごめんね、アルトリア。

 

 もう少しだけ待っていてほしい。

 

 

 オクトーベル 29の日

 

 

 お母様の住む後宮で過ごしていると、驚いたことに遊びに来ていたアルガが曲者(くせもの)を捕まえていた。

 

 下手人は黒く染められたローブで顔を隠した男なのだが、見せられた時には両手足をへし折られて床に()いつくばっていたので、刺客かどうかわからなかった。

 

 あの子が押収した遅効性の毒が塗られたダガーナイフを見せてくれて、初めて実感したくらいだ。

 

 とりあえず誰の差し金かを確認する必要があったので、精神制御の魔術を掛けて洗いざらい吐いてもらった。

 

 刺客の証言で浮かび上がったのは、オークニーでも十指に入る力を持つ侯爵。

 

 さっそくロット王を操って捕らえたわけだが、狙った理由がまた(くだ)らない。

 

 ガウェインやガヘリスが教育に携わる諸侯に懐こうとせずにアルガやお母様にベッタリなのを見て、次代の権力闘争に外戚であるアルガ達が台頭する事を恐れたからなんだと。

 

 はっきり言ってバカである。

 

 まだガウェインは2歳、ガヘリスなんて1歳なのだ。

 

 誰とも知れないおっさんよりも、叔父や祖母の方に行くのは当たり前である。

 

 付け加えるならば、アルガが父親だと認識させる為にロット王を育児に参加させていないのだから、子供たちが父親代わりのあの子に懐くのも当然の帰結といえる。

 

 この証言も踏まえて、ロット王を通して私が被告人に下した判決は死刑。

 

 外戚とはいえ王の身内に手を出したのだから当たり前である。

 

 あと被告の一族郎党に関しては、オークニーの領土の中に小さな島があるので、そこに流刑と処した。

 

 本来ならば禍根を断つために連座で死刑に処するところなのだが、小さな子供もいるしそこまでする気は起きなかった。

 

 まあ、私たちに害を為そうとした瞬間に死の呪いが掛かるようにしてあるが。

 

 まったく権力だの何だのと、王宮はこれだから嫌いなのだ。

 

 王妃を退職したら、どこかの山奥でゆったりとしたスローライフを送りたいものである。

 

 

 アプリーリス 22の日

 

 

 今日、新しい家族が生まれた。

 

 三人目の子供は前に続いて男の子。

 

 名前は『アグラヴェイン』

 

 前の二人のように体重3500g超えの超大型乳児ではなかったので、比較的産むのが楽だった。

 

 この子はあまり泣いたり動こうとしない代わりに、ジッとこちらを観察していることが多い。

 

 もしかすると、武より学問に向いているのかもしれない。

 

 ガウェインやガヘリスが絵に描いたようなヤンチャ坊主なので、三人目は少し大人しめでもいいと思う。

 

 それと上の二人と違って、この子には生まれ持った加護や特殊能力はないようだ。

 

 そのことに関して不安に思っていると、アルガが『そういう奴のほうが強くなるもんさ。俺だって特殊能力なんてなかっただろ』と子供達を三人まとめて抱っこしていた。

 

 言われてみればその通りだ。

 

 まあ、私としては強くならなくても元気に育ってくれれば十分だけど。

 

 アグラヴェイン。

 

 貴方のこれからの道に幸多からんことを。

 

 

 マーイウス 28の日

 

 

 産後の体調不良も収まったので、アルトリア捜索の為に妖精郷へと足を延ばすことにした。

 

 結果として以前の私が予想した通り、アルトリアがクズと共に妖精郷の中にいることを突き止めることができた。

 

 しかし問題は、マーリンの滞在している地域の結界に湖の精霊が加護を掛けているということだ。

 

 マーリンだけのモノなら何とかなるが、複数の精霊の守護が合わさったあの結界は破るには相応の準備が必要になる。

 

 しかもあれを破ることができても私は魔力の大半を費やすことになるので、アルトリアの奪還は不可能。

 

 アルガを連れてくれば何とかなるかもしれないが、あの子にはこれから管理者としての使命が待っている事を思えば、妖精郷の住人とコトを構えるのは避けたい。

 

 話を聞いていると、精霊たちもアルトリアの王器に期待しているようだ。

 

 彼女たちがマーリンの奴に本物の聖剣について(ほの)めかしているのが、その証拠だろう。

 

 悔しいが現状でアルトリアを助けるのは難しいようだ。

 

 こうなったら、現世に戻った時を狙うしかない。

 

 何とかして、あの子がウーサーの後継に即位する前に助け出さねば。

 

 

 オクト-ベル 30の日

 

 

 今日はガウェインの十歳の誕生日だった。

 

 あの子が生まれて十年、色々なことがあった。

 

 5年前に初の娘であるガレスも産まれてウチの家族は7人になり、三兄弟は本格的にアルガから剣術を学ぶようになった。

 

 当然だがガレスは不参加である。

 

 最初は『にぃにたちといっしょっ!!』と駄々をこねていたが、お母様と一緒に説得することで何とかなった。

 

 はっきり言って、この子は運動神経が絶望的なので剣術なんて無理だろう。

 

 小さい時から何もないところでポンポン転ぶし。

 

 今ではお母様主導の淑女教育で織物や絵画なんかを習っている。

 

 少々引っ込み思案な面はあっても優しい子なので、このままゆっくりと育ってほしいと思う。

 

 あと、この子は異様に動物に好かれやすい。

 

 赤ん坊の時から周りにはウチの番犬であるブラックハウンドやら、ワイバーンのショウノスケといった幻想種をはじめとして、猫やネズミ、リスに狐、果ては蛇やモグラまで。

 

 事あるごとにワラワラと寄ってくるのだ。

 

 自分で歩けるようになってからは、(たか)ってきたブラックハウンドの子犬達に埋もれて、泣きながら助けを求めるなんてザラだったし。

 

 他には、この子が傍にいると動物たちが物凄い勢いで繁殖したりするのだ。

 

 おかげで私と一緒にオークニーに来たブラックハウンド達は空前のベビーブームであり、常日頃から子犬に埋もれているあの子には『犬姫』というあだ名が付いてたりする。

 

 きっと、これがあの子の異能なのだろう。

 

 あと、二年ほど前にマーリンのクズがキャスパーリーグを(けしか)けてきた。

 

 あの野郎、こんな爆弾を投げつけてくるとは本気でこっちを消すつもりらしい。

 

 もっとも、最初に出会ったガレスにクルミを貰ったのが切っ掛けで、あの子に懐いて今ではただのペットと化しているけど。

 

 時折、こっちの様子を偵察に来たマーリンの使い魔を八つ裂きにしている姿を見るが、ガレスも『フォウくんつよーい!』と喜んでいるので問題ないだろう。

 

 一つ不思議なことがあるとすれば、キャスパーリーグはアルガを見ると唸りながら毛を逆立てて威嚇(いかく)することか。

 

 飼い主となったガレスが言うには、『フォウくんはね、おとうさまがこわいみたい』だそうだが、にわかに信じがたい話である。

 

 キャスパーリーグは人類悪の一つで比較の獣とされるビーストⅣの幼体であり、またの名を霊長の殺人者と呼ばれる化け物だ。

 

 霊長の殺人者、即ちヒトに対する絶対的な殺害権を持っているとされる、人類種にとって最悪の獣である。

 

 そんな奴が精霊へと昇華したとはいえ、人間だったアルガを恐れるものだろうか……。

 

 ……この辺の事を考えるのはよそう。

 

 今はキャスパーリーグがこっちに付いた事が分かれば十分だ。

 

 もっとも、ウチの家族に手を出すようなことがあれば、ビーストだろうが何だろうが生きたまま唐揚げにしてやるけどね。

 

 

 デケンベル 8の日

 

 

 今日、妙な噂を耳にした。

 

 なんでも、ロンドンにある教会には石に刺さった剣があり、それを抜いた者はブリテンの王となるという話なのだ。

 

 嫌な予感がしたので使い魔で様子を見に行ってみると、やはりマーリンが関わっていた。

 

 この茶番の目的はウーサーの子である事を秘されているアルトリアに、旧ブリテンの後継者の正当性を付ける事と思われる。

 

 ウーサーが他界し旧ブリテンが崩壊した事によって、あの子の王位継承権は証明できなくなった。

 

 だから選定の剣なんて物を用意して、あの子の王位継承をアピールするつもりなのだ。

 

 噂はともかく儀式に使われているのは、以前に奴が使っていたレプリカではなく本物の聖剣だった。

 

 よくもまあ、あんな物を用意したものである。

 

 あと使い魔の目を通して精査したところ、台座にも細工がしてあった。

 

 台座に掛けられた魔術は特定の人物が手にした時以外は薄い結界で刀身と台座を接合して、抜けないようにするというモノのようだ。

 

 出来レースでもここまであからさまならば、いっそ清々しく感じるモノである。

 

 とはいえ、奴の思惑通りに行かせるつもりはなかったので使い魔を通して術の解除を試みたが、剣に触れるよりも先にマーリンに撃ち落されてしまった。

 

 慌てて使い魔をもう一羽飛ばした時にはすでに遅く、二羽目が現地に付いた時にはアルトリアが抜いた剣を天に掲げてしまっていた。

 

 直後にマーリンの股間に使い魔を突撃させて、激突と同時に自爆させた私は悪くない。

 

 ともかく、拙い事態になった。

 

 海岸沿いのド田舎であるオークニーまで噂が届いているということは、選定の剣の話がブリテン島全体に広まっていると見ていいだろう。

 

 となれば、あの子はこれから否応なしにブリテン王として即位し、国の再興を宣言することになる。

 

 当然、ロット王をはじめとした現在ブリテンを収めている11の王達は、とうに滅んだ国の再興や再統一に伴う臣従も認めようとしないだろう。

 

 そうなれば、待っているのはブリテン全土を巻き込んだ戦争だ。

 

 11の王が優秀だとしても、聖剣を手にしたあの子のポテンシャルとマーリンがいることを思えば、アルトリアが敗北するとは考えにくい。

 

 ということは、このオークニーにあの子が攻め込むのも時間の問題ということになる。

 

 ロット王はどうでもいいとしても、アルガとあの子が殺しあうことになるなんて悪夢以外の何物でもない。

 

 というか、お母様に何と言えばいいのか?

 

 兎に角、まずはアルトリアにコンタクトを取るべきだ。

 

 あの子はきっとお母様の事も私たちの事も教えられていないはず。

 

 ならば、こちらの存在を知りさえすれば、オークニーへの侵攻を思い止まってくれるかもしれない。

 

 まずは使い魔に隠ぺいと気配遮断をかけて、手紙を送ってみるとしよう。

 


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