ロボット大戦はもう少し時間をください。
ロボットバトルの描写って、超ムズイっす。
デケンベル 22の日
今日からアルガが長期遠征に出る。
目的は例の蛮族討伐。
私としてはそこまでしなくてもいいと思うのだが、アルガ曰く『十年以上国を騙してた上にケジメも付けないで逃げるんだから、このくらいしないと申し訳ない』だそうだ。
現在、この国の防備は半分以上がアルガに依存している状況だ。
このまま私達が国を出れば、蛮族達の手によってあっさりと滅びの道を辿るのは想像に難くない。
そういう事情は、軍の最前線にいたあの子の方が肌で感じているに違いない。
だからこそ、ブリテンと相互不干渉を取り決めた現在、残された脅威である蛮族連中を排除して『立つ鳥跡を濁さない』ようにしたいのだろう。
こちらとしても、いつも通りに単騎で出て行ったあの子の手助けをしたいのだが、魔術工房にした国土を元に戻したり地脈への干渉を取り除いたりで手一杯なのだ。
アルガの実力なら蛮族ごときに後れを取ることは無いと思うが、心配なことは変わりない。
蛮族や国の事などどうでもいいので、無事に帰ってきてもらいたい。
マルティウス 3の日
旧ブリテンでもそうだったが、宮廷スズメというのはどこの国でも口さがないものらしい。
今日の国務会議で、軍務を取り仕切る上級貴族達から意見書が出た。
書類の内容は『外戚の特権行為が及ぼす軍規の乱れとその悪影響について』
要するにアルガが単独行動で功績を上げるのが気に入らないという事のようだ。
こんなモノが出て来た背景には『アルガ一人でブリテン軍を追い返した』なんて噂が市井に広まっている事がある為だろう。
本人は気にも留めていないが、アルガはオークニーの民に英雄視されている。
派兵がままならない国境や辺境などでは蛮族が幅を利かせていることが多く、そういう場所に単身乗り込んで元凶を除いて行くあの子は住人にとって救いの主なのだ。
だがしかし、軍部としてはそういった風潮は面白くない。
基本的に上級将校に貴族の子弟の多い本隊は、蛮族の影響が少ない王都周辺を中心として活動している。
『箔を付けさせるために入れた軍役で、大事な跡取り息子に命を落とされては堪らない』という意図の下に振るわれている采配なのだろうが、王都から離れて暮らす民にとっては来ない軍隊など張子の虎以下の価値しかない。
そういう状況が数年前から続いているせいで辺境の民の声は王都にまで流れてきており、アルガの名声が上がれば上がるほど本隊の評価は下降の一途を辿るという悪循環が起こっている。
そこに来て追い打ちをかけるように今回の噂である。
軍に関わるものとしては
そこで悪評を返上して威信を取り戻す為にも、あの子の単独行動を禁止してどこかの隊に所属させようとの提案らしい。
この書類を見たとき、私は心底呆れてしまった。
そもそもアルガが単独行動をしているのは、軍内にあの子に追いつける人材がいない為である。
蛮族問題が浮上した初期の頃にそういって泣きついてきた挙句、こちらの反対を押し切ってあの子を単独行動させるように決めたのは軍部の老害達ではないか。
それを今更反故にしようなど、虫がいいにも程がある。
だいたい、アルガの剣の腕はあれからさらに増しているのだ。
今更部隊に組み入れて、どうやって運用するというのか?
どう考えても、また置き去りにされた者達が全滅するのがオチではないか。
というか、こんな下らない書面を作る暇があったら内部改革でもして、あの子がいなくてもやっていけるようにするべきだろうに。
見当違いなところに力を入れてるから一向に評価が上がらないのである。
普段ならこんなモノは問答無用でゴミ箱行きなのだが、今の状況なら少々勝手が違う。
私達はじきにオークニーを離れる身だ。
ならば、これ以上の功績など無用の長物である。
ここでこの木っ端共の意見を採用すれば、蛮族狩りをしているアルガの危険も少しは下がるかもしれない。
やはり戦争は数なのだ。
例え戦力的に役に立たなくても『肉の盾』は多い方がいいだろう。
まあ、足手纏いとなってしまう可能性は否定できないが、その辺はあの子も上手く捌いてくれると思う。
とりあえずはアルガを呼び戻す事から始めようか。
アプリーリス 2の日
アルガが出発して約一月。
国土の原状復帰も一段落したので久々に感覚共有を行ったところ、トンデモナイ事になっていた。
アルガが無茶苦茶な勢いで蛮族を駆逐していたのだ。
いやまあ、討伐なので対象を排除するのは当たり前なのだが、その勢いというかテンションが明らかにおかしい。
案の定というかなんと言うか、組み入れられた部隊を置き去りにしたあの子は蛮族の集落に単身襲撃を掛けていた。
迎撃に現れたあちら側の戦士によって振るわれる数百数千の刃、濃密な殺意に身を晒しながらその
相手の攻撃を紙一重で肌の傍を通り過ぎる度、浮き上がった髪の先を斬り飛ばす度に、あの子の口元は弧を描く。
それは私達に向ける優しい笑みではなく、悪魔のように凄絶なそれだ。
そうして死線を潜り抜ける度にアルガの振るう剣は鋭さを増し、立ちはだかる蛮族達の首を次々と食い千切っていく。
最初は一振りで三つだった斬首も時間が経てば経つほどに犠牲者を増やし、集落の人数が半分になる頃には放たれる一閃で10の首が飛ぶようになっていた。
そんな殺戮劇が繰り広げられる中、ようやく置き去りを食らっていた部隊が合流するわけなのだが、何を思ったのか奴らは乱戦のドサクサでアルガに剣を向けたのである。
しかしボンクラぞろいの軍ではあの子の不意を付く事などできるはずがない。
振るわれる武器は片っ端から斬り落とされ、部隊の者達はアルガが振るう剣の錆となった。
いくらロット王に負い目があったとしても、命を狙う相手には容赦しないのはあの子らしいと思う。
しかし、あの宮廷スズメ共め。
私の可愛い旦那様を的に掛けようなど、随分といい度胸をしている。
下らない権力欲のツケがいかに高くつくか、教育してやることにしよう。
あと、アルガへ。
屍山血河を見下ろしながら、『パーフェクトワールド!!』と大嗤いするのは止めた方がいいと思います。
アプリ―リス 27の日
さて、オークニー周辺にはある伝説がある。
古の王がその強欲さによって民を苦しめていたところ、神々の呪いによって猪の魔獣『
聞けば誰もが御伽噺と断ずる埃を冠った伝説だが、これが事実であることが証明された。
蛮族討伐中のアルガが件の魔猪『トゥルッフ・トゥルウィス』と遭遇したのだ。
魔獣というだけあって、アルガの姿を捉えた途端に殺意を
対するアルガも太い木々を吹き飛ばす突進を見据えながら、手にした鈍らを鞘走らせる。
こうして始まった名も無い戦い。
魔獣を名乗るだけあり、トゥルッフ・トゥルウィスの力は凄まじいものだった。
剣も矢も通さぬ剛毛に護られた巨躯による突進は立ちはだかる物全てを薙ぎ倒し、その身体から染み出る猛毒の体液は自身の周辺を立ちどころに死の大地へと変える。
さらには自身には劣るものの、同じような特性を持つ七匹の息子を従えているのだ。
その脅威度はまさに天災級。
オークニーの国軍はもちろん、下手をすれば新生ブリテンの騎士達でも太刀打ちはできないかもしれない。
だがしかし、それだけの力をもってしてもアルガにはとどかなかった。
名工の鎧が如き毛皮はアルガの振るう剣の前に薄布よりも容易く切り裂かれ、毒液はその身を侵す前に因果を断たれて消え失せる。
そして渾身の突撃もまた、柳の枝のようにしなやかで羽毛のごとく軽やかなあの子の動きを捉えることはできない。
こうしてアルガの放った白刃がトゥルッフ・トゥルウィスの頭蓋を断ち割ったことで、勝負の幕は閉じた。
激闘を征したアルガは、彼の魔獣の事をこう言い表した。
『豚トロうめえ』
……お姉ちゃん、それは無いと思うの。
感覚共有してたから、ほっぺが落ちるかと思うほど美味しかったのは知ってるよ。
でもさ、もうちょっと他に言う事があるんじゃないかな?
あれだけの激しい戦いだったのに、アルガ的にはただの猪狩りだったって事なの?
残った七匹の息子も慣れた手つきで捌いて干し肉にしてたし。
そう言えば、土産という名目で送られてきた櫛と
管理者としての使命もあるし、そろそろ本気であの子に常識とか伝承なんかを教えていかなくてはならない気がする。
マーイウス 6の日
今日、ようやくアルガが帰ってきた。
軍内の裏切りに魔猪と不穏な事が重なったので心配だったが、元気な姿を見れて本当に安心した。
アルガから聞いた話では、この二か月余りの間にオークニー全土を回って目ぼしい蛮族の拠点を
この二か月余りであの子が駆逐したオークニーの蛮族は七割以上。
ここまで数を減らしてしまえば、奴らはここに居つく事はできないだろう。
あと、長い間殺伐とした生活をしていた所為か、帰ってきたばかりのアルガは私でも分かるくらいに濃密な殺気を
おかげでかつての『蛮族首塚事件』を思い出した諸侯も多く、下らない言いがかりをつけられることは無かった。
そんな海千山千を慄かせるモノも、ガレスが怖がって泣いた時点であっさりと霧散したんだけどね。
他にもくすんだ金髪に白い肌、そして黄金の瞳と、容姿の方も私達と同じ様に変わっていた。
これについては原因不明だが、健康上は特に問題はなかったので様子を見るようにしておけばいいだろう。
軍部の方だが、要職を牛耳っていた老害達に食中毒や事故などの不幸が相次いだ所為で、引き継ぎだの代役だので大わらわになっている。
その影響は他の政務にも波及しているようなので、このタイミングならばロット王に私へ離縁を突き付けても深く追及されることはあるまい。
アルガにはロット王の洗脳は解いたと説明しておいたが、万が一の場合を考えて深層心理の部分にはトリガーを残している。
もし私達の件で疑問に思ったりウチの家族に悪意を抱くようなことがあれば、行動に移す前に速やかに自害するように暗示もかけているのだ。
国家の権力者を敵に回す厄介さは、旧ブリテンで嫌というほど思い知っている。
この程度の備えは必須と言えるだろう。
マーイウス 25の日
今日は素晴らしい日だ。
十数年に及ぶ偽装結婚および王妃生活にようやっと終止符を打つことができた。
二週間ほど前、軍上層部が相次いで死亡するという変事によって王宮内が混乱する中、ロット王は私に離縁を言い渡した。
理由にあっては新たに市井から見初めた女を王妃に据える為。
ロット王が高齢なことに加え、後継者とされていたガウェインがすでに元服していることもあって、諸侯からは反対の声が多数挙げられた。
しかし、王には私と母上が旧ブリテンに関係が深い事やつい最近攻めて来たアルトリアとの血縁を示唆する事で、『ガウェインに王位を譲れば、ブリテンに帰順するかもしれない』という理由をでっち上げて離縁を押し通させた。
我ながら少々強引だとは思うが、せっかく用意したダミーを側室扱いにされてオークニーに縛られては堪らない。
こちらとしてはオークニーにも王妃の地位にもゴマ粒ほどの未練も無いのだ。
厄介事になる前に退散するのは当然と言えるだろう。
諸侯の多くは王と共に政に顔を出す私を疎ましく思っていたようで、ロット王の意思が固いと見るや、かつてない程の速度で手続きは終了。
王族として貸し出されていたものを全て返却して、一週間もかからずに城を出る事となった。
まあ、元々こちらの資産として計算に入れていたのはアルガの稼ぎだけなので、ドレスや宝石を返したところで痛くもかゆくもない。
アルガ自身も食事と生活必需品くらいしかお金を使ってないので、蓄えは並みの騎士や貴族以上にあるので懐具合も安心だ。
さて今後の新しい生活だが、以前滞在していたネビス山に居を移すことになっている。
あそこは自然豊かで自給自足も易く、そのうえ神秘も濃いので私達が生活するにはうってつけと言えるだろう。
当面の問題としてはアルトリアとの付き合い方とアルガに掛かっている管理者としての責務だが、アルトリアの方は誤解も解けているので問題は無いだろう。
ブリテン関係についてはマーリンに注意を払う必要があるけれど、私とお母様がいればその辺も十分に対処は可能だ。
最悪の事態になっても、アルガがいれば何とかなるだろうしね。
管理者についても、アルガが意欲的に勉強に取り組んでくれているので不安は無い。
なによりアルガが正式に夫婦と認めてくれたのだ!
こちらのやる気だって王妃職だった頃よりも三倍増しである。
妻として母として、その悉くを円満に解決して見せようではないか。