剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 久々にモル子日記を書きました。

 これって初期の裏話なので需要あるのかな? と思ったり。

 ニートリアINサバフェスはもう少しお待ちを。

 XX育成で種火周回していたら、サバフェスが全然進んでないよ!?

 まあ、これも真・女神転生のクローンにハマってたからですけどね!

 あと、水着BBはしっかり爆死しました。

 すり抜け召喚で理性蒸発の騎士とか、こんなん予測できんわ。


【悲報】モル子日記【纏めたった】(8)

 

 マーイウス 12の日

 

 

 ネビス山に戻ってからの日々は本当に充実している。

 

 アルガの妻として、そして子供達の母として過ごす事がこれほど素晴らしいとは思ってもみなかった。

 

 いまのところ、食料などは山の恵みを分けてもらい、生活必需品に関しては貯金を崩すことで(まかな)っている。

 

 アルガからはどこかに仕官しようか? と提案されているがそれについては首を横に振っている。

 

 あの子にはこれからブリテン島の管理者としての使命を果たしてもらわないといけないのだ、誰かに仕えていては支障が出てしまう。

 

 近頃は夕食の後に研修の時間を設けて、お母様と私で管理者に必要な知識を教えているのだが、あの子は思った以上に呑み込みが早い。

 

 武術家にしては珍しく椅子に座って物事を学ぶのを嫌がらないし、必要事項の他に関連情報を纏めた書も積極的に読んでいる。

 

 意外そうにしている私達を見て、アルガは苦笑いを浮かべながらこう言った。

 

『何かを学べる環境にいるのは、本当に恵まれた事なんだよ。世の中には知識を得たくても機会を与えられない者はごまんといる。そういったチャンスは活用しないと罰が当たるってもんさ』

 

 その言葉で、私はアルガが語ってくれたあの子の前世に付いて思い出した。

 

 他者を殺すための技術しか教えられず、役立たずと判断されれば即座に命を奪われる。

 

 そんな環境にいたからこそ、あの子は人一倍学ぶことの大切さを知っているのだろう。

 

 これから管理者としての責務を果たすには、魔術や神秘・帝王学などの雑学の知識を得なくてはならない。

 

 これ等は本来なら幼少期に触れる機会があったものだが、あの放逐劇の為にこの子は学ぶ権利を奪われてしまった。

 

 ……いや、過去の事を気にするのはやめよう。

 

 これからはお互い十分に時間が取れるのだ。

 

 あの子が学ぶ意志を見せるのなら、講師役くらい幾らでも引き受けよう。

 

 

 ユーニウス 6の日

 

 

 今日は珍しい来客があった。

 

 私の本霊であるモリガンの姉妹であるネヴァンとマハだ。

 

 モリガンも含めたダーナ神族は神秘の枯渇した現世に見切りを付けて、常若の国へと引っ込んだものと思っていたのだけれど。

 

 そう告げると、ネヴァンは少し人の悪い笑みを浮かべてこう返してきた。

 

 『姉様の分霊が夫を持ったと聞いて、どんな男か興味を持った』

 

 まあ、本霊であるモリガンは古代の神特有の奔放(ほんぽう)な性格で、ダグザやヌァザなどのダーナ神族の大物と交わったと伝承に残っている。

 

 他には『エリンの英雄』『クランの猛犬』と名高いクー・フーリンに執心だったとか。

 

 まあ、そういう事もあって一人の男に縛られるという選択をした私に興味が湧いたらしい。

 

 理由は理解したが、『はい、そうですか』とアルガを紹介する気は私には無かった。

 

 彼女たちはモリガンと同じく死と破壊、そして勝利を司る戦女神だ。

 

 当然、彼女たちが見定めるのは戦士であり、その方法もワタリガラスに化けて魔力を込めた鳴き声で心に恐慌を植え付ける。

 

 それを乗り越えた者には槍を手にその武を()って試しとするなど、物騒極まりない。

 

 アルガが負けるとは思っていないが、愛する夫が危険に晒されるのを良しとする程、私は甘くはないのだ。

 

 だがしかし、彼女たちの行動は私より先を行っていた。

 

 こちらに顔を出す前に、狩りに向かったアルガを試していたのだ。

 

 どうして分かったのかと問うてみると、返って来たのは私の情の臭いがあの子に残っていたという答え。

 

 それを聞いて思わず赤面してしまった私は悪くない。

 

 頬に籠った熱を冷ました私が『あの子に危害を加えたのか』と詰問したところ、二柱は苦笑いと共に穂先が綺麗に落とされた槍を見せて来た。

 

 なんでも神である事を隠して襲い掛かったところ、あっという間に斬り飛ばされてしまったらしい。

 

 質は中ほどとはいえ、彼女たちが振るう槍は鍛冶の神ゴブニュが鍛えた神造兵器である。

 

 それをこうも容易く斬り落とすとは、あの子の剣の腕はどうなっているのか?

 

 呆気に取られていた私はネヴァンからこう忠告を受けることになった。

 

 『貴女の夫が振るう剣は物質のみならず事象までをも斬る異能と化している。あの剣が更なる進化を遂げれば、何時かは世界に刃を届かせる事も不可能ではないだろう。世界は己を脅かすモノに容赦はしない。彼が大事ならば、そこに至る前に止めるべきだ』

 

 世界を斬る。

 

 少しでも魔道を齧った者であれば、大法螺だと一笑に付すような話だ。

 

 だがしかし、私はそれを笑うことができなかった。

 

 かつて、私はその一端を身を持って体験している。

 

 事象の因果を捉え、数打ちの剣を以って星の聖剣の一振りを両断する神技。

 

 よもや、未だに進化を続けているとは夢にも思わなかった。

 

 とはいえ、あの子の剣術への執着は前世から続く非常に根深いものだ。

 

 私が言葉を並べた程度ではきっと止まる事はないだろう。

 

 これは事と次第によっては、妖精郷への移住を早める必要があるかもしれない。

 

 

 ユーニウス 15の日

 

 

 ガウェインとガヘリスから、ブリテンへ仕官すると話を持ちかけられた。

 

 兄弟そろって武を以って身を起こそうとするとは、アルガの影響かそれとも女神に至った私の血が為せる技だろうか?

 

 あの子達は成人を迎えて数年が経つ。

 

 もう自分の道は自分で選ぶ歳であり、親だからと頭ごなしに意見を跳ね除けるべきではない。

 

 それは重々分かっているのだ。

 

 けれど、私としては危険と隣り合わせな職業に就いてほしくない。

 

 世界に残された伝承を見れば分かるが、古来より半神として生れ落ちた者は英雄としての道を選ぶものが多い。

 

 ギリシャのヘラクレスやアキレウス、この地ではクー・フーリンがそうだ。

 

 しかし、彼等の多くはその栄誉と引き換えに、若くして非業の死を遂げている。

 

 英雄と呼ばれた者の中で只人(ただびと)のように家の(とこ)で家族に囲まれて生を終えた者など、両手の指に満たないのではないだろうか。

 

 それを思うと、あの子達の選択に頷くことは出来なかった。

 

 栄誉なんていらない。

 

 英雄になどならなくていい。

 

 どうか、共に妖精郷へと旅立つその日まで心静かに暮らしてもらえないだろうか。

 

 そんな思いを抱えていた私は、子供達が寝静まった後でお母様に愚痴を漏らしてしまった。

 

 最初は軽い不満だけを聞いてもらおうと思っていたのだけれど親の包容力とは凄いもので、気が付けばアルガにも聞かせられないような不安や迷いをすべて吐き出して、最後にはお母様の胸に泣き付いていた。

 

 今思い出しても気恥ずかしいけれど、私だって人の子だ。

 

 たまには親に甘えたくなる時だってある。

 

 私を胸に抱いてお母様は言った。

 

 『同じ母親として貴女の気持ちはよく分かる。けれど、子供は何時かは親から巣立つものよ。たとえ愛情からだとしても、子供達を縛り付けて選ぶべき道を狭めてはいけないわ』

 

 お母様の言う事はもっともだと思う。

 

 でも、私は怖かったのだ。

 

 自分の家族が、近しい人が離れて行ってしまうのが。

 

 お父様のように私の知らない内に命を落としてしまうかもしれない。

 

 アルガは離れても戻って来てくれたけれど、あの子達はそのまま何処かへ去ってしまうかもしれない。

 

 縛り付ける事があの子達にとって害になると分かっていても、そう思っただけで手を離すことができなくなる。

 

 涙ながらに心の内を吐き出す私を、お母様は幼子をあやす様に抱きしめてくれた。

 

 その事があったお蔭で心の内を整理することが出来た私は、次に顔を合わせた時にガウェインとガヘリスに騎士になる事を応援すると伝える事が出来た。

 

 未だ不安は拭えないし、ネビス山で農業をしながら暮らしてほしいと思う気持ちは消えない。

 

 けれど、子供とは何時かは親元を離れて自立するものだ。

 

 ならば、私も親として子供たちを見送る覚悟を持たなければならないだろう。

 

 

 クィーンティーリス 13の日

 

 

 今日からアルガは本格的に管理者として活動する。

 

 ブリテン島の管理者は時代の移り変わりに合わせて、この島の環境を時代に即した物へと調整する事を使命としている。

 

 この星のヘソであるブリテン島は、世界の影響が及ぶのが他と比べて遥かに遅い。

 

 古代ウルクの英雄王が神との決別を定めた事によって終わりを見せた神代。

 

 それから3000年近くが経ち、世界の他の地域から神秘が失せてもなお、このブリテンに神代に近しい環境が残っているのはその為だ。

 

 とはいえ、そんなブリテンにも世界の変革は確実に迫ってきている。

 

 欧州本土に近い海岸部からじわじわと、島の神秘は確実に消えつつあるのがその証拠と言えよう。

 

 このまま行けば、遠くない内にここも人理の時代へと塗り替えられていくだろう。

 

 しかし、それを良しとしないモノもこの島には存在している。

 

 それが竜や魔獣・妖精に代表される幻想種だ。

 

 彼等は神秘の濃い場所でなければ生きることが出来ない。

 

 それ故、食事等々によって蓄えた体力を神秘へと変えて対外に放出する事で、変化した環境への帳尻を合わせているのだ。

 

 これが移り変わろうとしているブリテン島に悪影響を及ぼしている。

 

 言うまでも無い事だが、幻想種の放出する神秘の量は世界の変化に及ぶものではない。

 

 しかし星のヘソというこの島の特性ゆえか、吐き出された神秘は完全に消え去ることなく大気や土壌に一定量残留してしまうのだ。

 

 結果、中途半端に残った神秘によって、神代・人理双方の作物の育成が阻害されてしまうという事例が各地で顔を覗かせ始めている。

 

 本来ならこうした事態に至る前に、管理者は彼等を星の内側にある妖精郷へと導く必要があるのだが、環境の変化が大詰めを迎えつつある中で先代であるお父様が落命した事。

 

 それによって30年近くも使命が放置されてしまった事が、この結果を(もたら)すことになってしまった。

 

 加えて欧州最後の神秘の島という事から、本土から生きる場所を求めて多くの幻想種が移り住んでいるのも痛い。

 

 幻想種の数が増えれば増えるほど、ブリテン島は時代の流れに抗う様に身に宿す神秘は色濃くなる。

 

 濃度を増した神秘は、次の時代に順応を始めた通常の動植物には害となってしまうのだ。

 

 本土からの亡命者を受け入れているヴォーティガーンにどのような意図があるかは知らないが、このままではブリテン島は神代と人理、どちらの時代にも属さない幻想種のみが生きる中途半端な世界となってしまうだろう。

 

 今から動いて間に合うかどうかは分からないが、アルガの力を信じることにしよう。

 

 そういうワケで、あの子が活動する前段としてアルトリアに書状を出しておいた。

 

 現在のブリテンはオークニーと卑王ヴォーティガーンの領土を除き、ブリテン島の大半を手中に収めている。

 

 となれば、管理者としての務めを果たすにしても領内を行き来することになるからだ。

 

 人里から離れているものの、私達が居を構えるネビス山も一応はブリテン国内なワケだし。

 

 税やら何やらにしても、色々とすり合わせが必要になるだろう。

 

 マーリン対策として管理者についての務めはボカしてはいるが、内容としてはだいたいこんなものだ。

 

 で書状を送って数日後、私達の家を訪れる者がいた。

 

 来客の名はサー・ケイ。

 

 エクターの息子であり、アルトリアにとっては義兄というべき存在だ。

 

『こんな山小屋に暮らしているとはな。オークニーの王妃も落ちぶれたものだ』

 

 開口から皮肉を口にするサー・ケイ。

 

 今は平民なので無礼には当たらないけれど、これでも一応は王の血縁なのだが。

 

 憤る以前に、彼のコミュニケーション能力が心配になってしまった。

 

 きっとこちらに隔意があって、ワザとこういう態度を取っているのだろう。

 

 むしろ、そうであってほしい。

 

 その後、皮肉を交えながらも30分ほど会談する事となった。

 

 結果としては、アルガが領内を移動する許可は降り、税に関しては山暮らしである事を(かんが)みて狩猟や採集で得た物を納めればいいそうだ。

 

 それとアルガに兵役を掛けられそうになったが、これは断固拒否させてもらった。

 

 管理者の務めもあるけれど、それ以上に私達はあの子を『アーサー王』として扱うつもりはなかったからだ。

 

 私達にとってあの子は妹のアルトリアだ。

 

 断じて、マーリンたちが仕立て上げた虚構の理想『アーサー王』ではない。

 

 ガウェインやガヘリスも仕官の目的は家計と叔母の手助けになる為であって、他の騎士のように王へ忠義を捧げることではない。

 

 あの子達の意識はあくまで叔母の切り盛りしている職場に就職したというだけだ。

 

 あの子が如何なる偉業を成し遂げようと、例えブリテン中の人間が跪いたとしても、私達家族は絶対に傅くことはない。

 

 何故なら、それこそが私達があの子を『アーサー』ではなく『アルトリア』と見ている何よりの証拠だからだ。

 

 ブリテンがこの島を統一すれば、ここに住む全ての人があの子に『アーサー王』である事を強いるだろう。

 

 肥大化する虚像に潰されて苦しむ、アルトリアという女性の姿を気にする事無く。

 

 本当なら今すぐにでも代わってやりたいけれど、国がこうまで肥大化してしまえば禅譲など周りが認めないし、あの子自身それを望まないだろう。

 

 ならば、せめて私達は本当のあの子を見てあげよう。

 

 『男性であり、理想の王たるアーサー』ではなく、アルトリアという一人の女の子を。

 

 そうして、何時かはこの家があの子が王という重荷を降ろせる憩いの場になればいいと思う。

 

 

 

 セクスティーリス 18の日

 

 

 近頃、アルガはせわしなくブリテン国内を飛び回っている。

 

 ブリテン島に逃げて来た幻想種たちが、各地で生態系を狂わせたり人を襲ったりと次々に厄介事を起こすので、乗り物係のショウノスケも大忙しである。

 

 そんな日々の中、数日ぶりに家に帰って来たアルガは、思わず息を飲むほどの魔力と神々しさを宿した一振りの騎士剣を持っていた。

 

 なんでも湖の乙女の依頼で竜を狩った際、巣穴に貯めこんでいた財宝の中に紛れていたらしい。

 

 財宝を回収した乙女たちから『今後の務めに役立ててくれ』と譲られたそうだが、本人は乗り気ではない様子。

 

 (わけ)を問えば『こんな良い剣を使っていたら腕が鈍る』という答えが返って来た。

 

 なるほど。

 

 アルガが貰ってきた剣は太陽の加護が宿る聖剣『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)

 

 星が鍛えた一振りであり、この世界において十指に入るほどの強力な剣だ。

 

 たしかにこれを持っていれば、剣の性能を頼りにして腕は落ちるかもしれない。

 

 しかしである。

 

 数日前のネヴァンとマハの件があるように、あの子の剣の腕は神造兵器を容易く破壊するほどのレベルだ。

 

 これ以上引き上げる理由も目標も、私には皆目見当が付かないのだ。

 

 そんな事を思っているとこちらの呆れた視線を感じ取ったのか、アルガは言い聞かせてくるように言葉を紡いだ。

 

『内家の剣は深遠無縫。俺のいる位置なんて、まだまだ一里塚さ』

 

 不壊と言われる神造兵器を斬れるほどの腕が序の口とか、この子は一体何処を目指しているのだろうか?

 

 噂に聞いた魔術の到達点『■■■■』も、アルガが進んでいる道に比べたら全然近いような気が……。

 

 ともかく、こうなっては私が何を言ってもアルガは太陽の聖剣を使うことはないだろう。

 

 だとしても、ウチの蔵で(ほこり)を被るのはもったいなさすぎる。

 

 どうにか活用する手立ては無いかと思案を重ねていると、唐突に天啓が舞い降りて来た。

 

 そうだ、ウチには太陽の加護を得た子供がいるではないか。

 

 親ならもっと早く気づけと思わなくもないが、蔵に放り込む前に閃いたから良しとしよう。

 

 アルガにこの事を打診すると、転輪する勝利の剣をガウェインに譲る事に賛成してくれた。

 

 昼間は三倍になるあの子のことだ、王城にある武器では自分に合うものが無いと落ち込んでいる事だろう。

 

 この剣を喜んでくれればいいけれど。

 

 

 オクトーベル 15の日

 

 

 アルトリアから手紙が来た。

 

 なんでも近衛騎士団が出来たからお披露目をするらしい。

 

 その中にはガウェインとガヘリスも名を連ねていたことから、私達もその会に出席する事となった。

 

 息子の晴れ舞台なのだから、失礼のない恰好をしようと気合を入れていたのだが、思わぬ形で水を差されることとなった。

 

 なんと、我が家には礼服が一着も無かったのだ。

 

 何とかせねばと思ったのだが、悲しい事に我が家には礼服を買う余裕などない。

 

 アルガのオークニー時代の預金を崩せば買えない事も無いが、それをすると今後金銭が入用になった時に対応できなくなる。

 

 男兄弟はまだしも、ウチには一人娘のガレスがいるのだ。

 

 あの子が結婚する時、花嫁道具も用意できないなんて親の沽券に関わる。

 

 かと言って、国家行事である近衛騎士団の出立式に普段着で行くわけにもいかない。

 

 ガウェイン達には申し訳ないが、諦めるほかなさそうだ。

 

 ごめんね、二人とも。

 

 

 オクトーベル 19の日

 

 

 礼服が間に合った。

 

 なんとアルガがこの三日間で金貨500枚を稼いできてくれたのだ。

 

 聞けば、管理者の仕事で討伐した幻想種に懸賞金が掛かっていたとか。

 

 なんともラッキーな話であるのだけれど、どうしてあの子は気まずそうに目を逸らしたのだろう?

 

 ともあれ、ギリギリのところで式典の準備が整った。

 

 ここからブリテン王城まではショウノスケに乗せてもらえば一日で着くし、明日はガウェイン達の晴れ姿をしっかりと見てあげることにしよう。

 

 

 オクトーベル 22の日

 

 

 ブリテンに出向いていたので、数日程日記が飛んでしまった。

 

 この数日は色濃い時間だったので、その整理の意味も込めて筆を執ることにする。

 

 まず近衛騎士団のお披露目だが、これは言う事が無い程に素晴らしいモノだった。

 

 島の大半を占めるようになった、新生ブリテン全土から集まった男衆の中から選ばれた勇者たち。

 

 その中に自分の息子がいるのは、なんだかこそばゆい気分だった。

 

 あの子達から仕官すると聞いた時は栄誉なんていらないと思ったけれど、壇上に立つ姿を見るとそれも悪くないと思ってしまうのは現金だろうか?

 

 まあ、ガウェインはともかくガヘリスはああいう雰囲気が苦手なのだろう。

 

 終始落ち着かない様子で、直立不動の姿勢を取っていても目線をキョロキョロと忙しなく動かしていたけど。

 

 褒められた事じゃないんだろうけど、あの子らしい一面を見れたのは逆に安心した。

 

 その後、サプライズ企画でアルガが演武の為に壇上に呼ばれた。

 

 当人も聞いていなかったのか終始困惑気味だったけど、そんな中でも人の悪い笑みを浮かべていたマーリンを催しに引き込んだのは流石だった。

 

 アルガが行ったのは、木剣を使ってマーリンの魔力弾を払い落とすというモノ。

 

 観客は気づかなったようだが、マーリンが繰り出した数十発にも及ぶ魔力の(れき)には金属鎧をも貫通するほどの威力が込められていた。

 

 殺気が無かったところを見るに暗殺目的ではなかったようだが、私の夫にそんなものを向けた時点でギルティである。

 

 アルガには気づかれない様に、淋病を患う呪いを掛けた私を誰が責められようか。

 

 その後に行われたアルガとマーリンの一対一の面談。

 

 私も感覚共有で聴いたのだが、随分と厄介な事だった。

 

 奴は人が描き出す美しい物語、すなわちハッピーエンドを求めていると言っていた。

 

 だけど、私にはそれがどうしても信じられなかった。

 

 お父様を陥れて命を奪ったのも、お母様がウーサーに抱かれた事も、幼かったアルガの追放や赤子のアルトリアが得るべき親の愛情を与えられなかった事まで、全てがハッピーエンドとやらの布石だというのか?

 

 そんなもの、納得できるわけがない。

 

 人の心が理解できない半魔が描く幸福な結末など、普通とは遠くかけ離れた(おぞ)ましいモノに決まっている。

 

 ネビス山に移住からは幸せにかまけて警戒を怠っていたが、気持ちを入れ替える必要があるようだ。

 

 どのような考えでいるにせよ、あの男の思い通りにさせるわけにはいかないのだから。

 

 式典も一通り終わって王城を離れる際、アルトリアから要請があってアルガは週に一回ブリテンの騎士達に剣術指南をする事になった。

 

 その代価としてアルガが提示したのは、アルトリアは週一回休みを取る事とその休日をウチで過ごすこと。

 

 アルガ曰く『アルトリアみたいに仕事にハマった奴は、職場から引き離さないと休みを与えても勝手に仕事をするから』だそうだ。

 

 私としても、我が家があの子の憩いの場になる事に異論はない。

 

 これを機に今まで取れなかった家族の時間を楽しみたいと思う。

 

 王城を離れて一日、我が家に帰って来た私達を思わぬ客が待っていた。

 

 卑王ヴォーティガーン。

 

 海外からの異民族であるサクソン人を入植させ、大陸の覇権を狙う暗君。

 

 世間に流れる噂では屈強な老王はそうなっている。

 

 しかし真実は違った。

 

 世間に知られた暗愚な様は擬態であり、真実の彼は人ではなくまつろわぬ者達の王だった。

 

 神代から人理へと世界が移り変わる中で居場所を無くした妖精や巨人などの幻想種達、そんな彼等が過ごせる最後の楽園としてブリテン島を人の手から奪還する。

 

 それこそが彼の打ち立てた計画だった。

 

 彼は女神の分霊や神仙となった私達に協力するよう告げたが、アルガはこれを断った。

 

 ブリテンの王を務めるアルトリアの手前、ヴォーティガーンに協力できないのは当然なのだが、どうもそれだけではないような気がする。

 

 アルガの答えを聞いたヴォーティガーンは、憤ることなく会談の席を立った。

 

 王族自らのスカウトを断ったのだ。

 

 無礼と怒りを露にして剣を抜くものだと思っていたのだが、この反応は意外だった。

 

 去り際に『自分が倒れた際は、まつろわぬ者達を頼む』と言い残して我が家を出た彼。

 

 私はどこか気になったので、使い魔でこっそりと後をつけてみる事にした。

 

 家で飼育している鴉の一羽に感覚を繋げてみると、ヴォーティガーンは待機していた臣下の前でお母様と話をしていた。

 

 驚いたことに彼はお母様の知己であり、そして亡くなったお父様とは親友関係にあったらしい。

 

 二人の話では、お父様の管理者としての活動は主に説得がメインであり、話の通じない相手にはヴォーティガーンが対応していたとか。

 

 ヴォーティガーンは父を『貴族などより書生が似合う男だった』と評していた。

 

 そして『父が生きていたのなら、自分はこの地を幻想種の物にしようとはしなかった』と。

 

 寂し気に笑う老王の顔に、これ以上の盗み聞きは無粋と感じた私は使い魔とのリンクを切った。

 

 思えば、私は父の姿を朧気にしか知らない。

 

 記憶に残っているのは線の細い優しげな男性であったという事と、私を抱き上げた時に浮かべていたとても嬉しそうな笑顔だけ。

 

 ……今夜は父の思い出をお母様に聞いてみるのもいいかもしれない。


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